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星は歌う、少女のために

(魔法陣……!)


単なる円でしかなかったそれは、眩い光りを放ちながら、目にも止まらぬ速さで、見えないペンによって書き込まれ、重ねられ、複雑な魔術式として生成されていく。


(そうだ……あれは……!)


 見覚えがある。

 地下室でモルガナがノートに書き溜めていた膨大な数の魔術式のうちの、ひとつだ。


 誰も見た事のないモルガナの魔術式が、今まさに目の前で展開されている。

 息をするのも忘れて、私はまるで完璧な音楽のように流れる魔法術式の出現に見入った。


『衛星より解放承認コードのダウンロードを開始します』


 口を開けたまま突っ立っている私とは正反対に、カーラの本体は一秒たりとも休んでいない。

『全係員は自動監視に切り替え後、速やかにモニター前より退避』

 滑らかな口調で指揮を執り続けている。


『元素拘束、解放開始……!』


 目が痛くなるような緑光の魔法陣の上で、メリッサは爪先を支点にするかのようにして浮いていた。


 その華奢な身体を包むコートもスカートもブラウスも、そして革靴も、全てがその輪郭を急速に淡くして、砂粒よりも小さな光の粒へと変わっていく。

黒々とした端末だけが、所在なさげに床の上に転がっている。


(元素拘束って……まさか、初めからメリッサの身体そのものがモルガナの拘束具として作られてたって事?)


 私は腕を噛まれている痛みも忘れて、まじまじと少女を見詰めていた。


(そんな事って……)

 

 中庭を封印するだけでは飽き足らず、法王庁はこの少女そのものを、魔女モルガナの拘束具として作り、使用しているのだ。


(それはつまり、法王庁は私達魔女なんかよりもずっと魔の力に近く……いや、もうそのものになってるって事じゃないの……)


 血の気が引く思いで、私は元素に還りゆくメリッサを見る。


 さらさら。

 さらさらさら。


 砂が零れ落ちていくような音が、微かに聞こえる。

 それは多分、気のせいなのだろう。


 だが、私にはそれが星々の弔歌うたのように聞こえて仕方なかった。

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