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手のひらサイズの騎士を拾いました  作者: 山下さん
大きくなった騎士と彼女とその家族のおはなし
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38 無数の光の道

 ふわりと宙に投げ出された感覚に、美雨はぎゅっと目を閉じ、無意識に手足をバタつかせた。

 唯一の荷物であるキャリーバッグを引っ張り寄せたが、次に予想した落下がなくてそっと目を開いた。


 美雨は、青く優しく光る場所に浮かんでいた。

 目の前には、出航の時のリボンのように大量の金色の光の道が美雨の前にあった。


 渡れそうなものはいくつもあったが、その中でもすごく幅が広いものが二本あった。

 

 一本は優しく、温かい光を放っているもの。

 もう一本はさらに幅が広く、眩いほどに輝いており…………なんだか、目が潰れそうになる。


『道を間違えないで』


 大輝の声が脳裏によぎる。彼には大きな道が二つ、提示されることが予め予測できていたかのようだ。

 これだけ道があったら、転移先が安定しないのも無理はないかもと美雨は納得する。

 そして、大輝は自分の希望するものの近くへはだいたい行けると言っていた。

 

 私の行きたいところは、彼の所。


 深い菫色の瞳に、太陽の光を編んだような髪の毛。身長が高いから、美雨にキスをするときには背を少しかがめる、大切なひと。


 さんざん悩んだが、美雨は結局は二番目に幅が広い、優しい光を放つ道を選んだ。

 一番広い道はなんだか光が強すぎて、怖かったのもある。


 美雨が道を決めると、後方から強い風が吹いてきた。

 浮遊したままの美雨はその風に押されて、優しい光の道へと進む。

 キャリーバッグをぎゅっと抱きしめた。


 道の上を歩いていくものだとばかり思っていたが、そうではなかった。

 暖かな光の中を泳ぐように進んでいく。イルミネーションなんて比較にならないくらいの光の洪水だ。


 視界の端にあった、美雨が元居た青く優しく光る場所はいつの間にか見えなくなり…………真っ白な光の中へと、美雨は飲み込まれていった。眩しすぎて、もう目は開けていられない。キャリーバッグにしがみつくように、そのまま落下していくのを感じた。


***


 次に、美雨が目を開いた時。そこには心配そうに顔を覗き込む、大好きな菫色の瞳があった。

 体の下には柔らかなクッションが敷いてある。どうやらソファに寝かされているようだ。上体を起してしっかりとアルフレドに抱き着いた。

 

「お待たせ、アルフ。私、やっと来れたね」

「ミュウ、良かった。……目を覚まさないかと心配した」


 力強い手が美雨の体をぎゅっと体を抱きしめる。少し苦しいけれど構わない。


「心配かけちゃったみたいで、ごめんね。アルフにずっと会いたかったよ。私、道をちゃんと選べたみたい」

「ああ。本当に良かった。後から現れるはずだったダイキが先に戻ってきたときは肝が冷えた」


 美雨の右肩の上に乗せられていたアルフレドの頭。そこから深く安堵の溜息が漏れた。


「時間のズレがあるのかな? ああ、でも道を間違えないようにってよく観察してたからかな」

「話には聞いていたが、そんなに道があったのか」

「うん。船の出航テープくらい。あ、出航テープ分かるかな」


 アルフレドは頷いた。この世界にも出航のテープはあるらしい。


「オレが帰ってきた時は、大きな一本道だったから選択肢が無かったな」

「え。一本だったの? それは分かりやすくてうらやましいなあ」


 ゴホン。


 と、わざとらしい咳払いが聞こえて美雨は飛び上がる。

 慌ててアルフレドから離れて周りを観察すると、応接室のような部屋にいることが分かった。

 そして自分がやたら高そうなソファの上にいることにも気づく。靴を履いたままだったことに真っ青になり、そして咳払いの元を見て今度は真っ赤になる。


 重厚な扉にダルそうにもたれかかる大輝の姿があった。


「えーっと、感動の再会中、大変申し訳ないデスケド。陛下が面会を望んでるんでー、そんくらいにしてもらっていいですかー?」


 わざとらしく天井を見ている大輝。もちろん、美雨には弟の前でいちゃつくような趣味はない。

 これは事故、事故なんだと自分に言い聞かせ、アルフレドからそっと体を離そうとしたが、何故だか離れない。

 あれ? おかしいなと思って力を入れると、がっちりと腰に回されていたアルフレドの腕がぐいっと美雨を引き寄せた。


「アルフ! 恥ずかしいから、離して!」

「しかし、美雨。貴女は先程まで気を失っていたのだ。城内は広いし疲れるだろうから、オレが運んでやろう」

「いい、いいから! 自分で歩けるよう」


 両手を突っ張って美雨はアルフレドをぐいぐいと押すが、圧倒的な力の差でひょいっと引き寄せられて、再び美雨はアルフレドの腕の中に戻されてしまう。


 いけない。これではただのバカップルではないかと。

 このままお城を歩く? そういうことは抱っことかそういう感じなのだろうか。そんなことしたら恥ずかし死してしまうと、美雨の額から汗が流れ始めた頃、大輝が口を開いた。


「あー……どっちでもいいけど、早く行こうよ。陛下待ってるし。お土産も渡さないといけないし」


 大輝は面倒臭そうに、ふわふわの黒い髪の毛を掻く。心底どっちでも良さそうだ。


「そうだよ、アルフ。私は歩けるから、もし具合が悪くなったらその時はお願いするから、ねっ?」

「そうか。なら良いが……具合が悪くなったら、すぐに言ってくれ」


 美雨は首を縦にぶんぶんと振り、アルフレドは渋々と離してくれた。

 ソファの横に置いてあった、美雨のキャリーバッグを軽々と持ち上げる。

 閉まらないくらいにパンパンに詰め込んでいたから、かなりの重量のはずなのだが、アルフレドは涼しい顔をしている。


「んじゃ、行くよー。オレの後から付いてきてね、みゅーちゃん」


 大輝がもたれていた扉を開ける。

 美雨はソファから立ち上がり、ワンピースの裾を軽く整えた。

 王様に会うって分かっていたのなら、結婚式用とかの服を着てきたほうが良かったのかなとも思うが、それでもたぶん、見劣りするだろうし、なるようになるかと諦めた。

別離していた一か月の間に、アルフレドのリミッターが振り切れたようです。がんばれ美雨。


次話、陛下へのお土産

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