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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第八章「代替わり」

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第九十六話 ~巨人の足音~

山形盆地の略図

挿絵(By みてみん)

wiki様の「山形盆地」の地図を元に編集。


<天文八年(1539年)十月 佐渡国 羽茂郡 羽茂城 評定の間>



 米の収穫を終え、四公六民の年貢の取り立てが一段落した十月。

 漁獲量も順調。おかげで、蒲鉾に青のりをかけて揚げた好物の「磯部揚げ」を山ほど食べることができた。干し魚、塩、清酒、ビール、石鹸、干海鼠、羽布団などの特産品の産出も順調。水車式高炉製鉄も、石炭や鉄鉱石が手に入ることで少しずつ軌道に乗り出している。


 国産初の大砲である『佐渡砲』は、若干の狂いや暴発が見られた。やはりまだまだ精度や鋳造練度が足りていない。暴発を怖がらせないために、暴発した際に怪我を負った者へ十分な補償や命の危険のない内勤への配置転換などを行った。おかげでわざと失敗するのを監視しなくてはならないほどだが、いざという時に使用を躊躇させないようイメージ作りは大事だ。


 南蛮船が来た時のための日本刀、竹細工、あと直接仕入れることができるようになった輪島の漆器、和書物などの工芸品の貯蔵も順調。長谷川海之進(うみのしん)、椎名照秋を送り出して二年半。もしかしたらそろそろ戻ってくる頃かもしれん。


 剣聖の道場もできた。「佐渡は豊かな地」として農民や技術者、兵の流入も顕著だ。相川の鉱山は、だいぶ目星がついてきているようだ。


「いい一年だった。さて、冬を越す準備をしようか」と、考えていた頃だった。



「戻りまして御座ります」


 知らせもなく、出羽国南部の抑えを任せている宇佐美定満が羽茂城に戻ってきた。

 順調に治政も勢力拡大も行っていると聞いていた。どうしたことだろう。冷静沈着な定満が取り乱しているようにも見える。何があった?


「炮烙頭巾。酒田湊と出羽国南部の抑え、大義である。今日は如何した? まさか好きな女でもできたか?」

「笑い事ではありませぬぞ、殿。 ・・・奥州の伊達稙宗(だてたねむね)()()()()()()()()()()!」

「なんとっ!」

「誠かっ!?」


 (ざわ)めく評定の間の諸将たち。

 遂に動いたか! 『奥州の巨人』伊達稙宗!


「詳しく話せ」

「はっ。某は先日まで、臣従した国人衆寒河江広種(さがえひろしげ)の居城寒河江(さがえ)城に居りました。中立を守る天童(てんどう)家に、羽茂本間の軍門に降るよう説得する為に御座ります」

「なるほど。あの元坊主の広重の所でか」


 広重と言えば、尾浦城攻めで見た饅頭みたいな顔をした寒河江氏の当主だな。寒河江城は山形盆地の最西部。東部の天童城から見て近い場所に位置している。対最上(もがみ)家の急先鋒だ。


「出羽国南部に残る対抗勢力最上(もがみ)家攻略の為に御座います。加えて天童家は、力押しするにはちと骨な相手に御座いました」

「当主の天童頼長(てんどうよりなが)は、我らにも最上家にもつかず、ひたすら領地安堵をめざしておったな。主城の天童城は出羽国南部では最大級の山城。東西南北に広く堅い城。力押ししなかったのは的確な判断だ」

天童頼長(よりなが)は、なかなかに強情だった。まあ中立であればいいかと放っておいたが。


「・・・我らと度々会合を開いていることを、『羽茂本間に付く』と勘繰られたのでしょう。稙宗率いる軍に天童家、()()()()()()()()()!」

「なんと!!」


 あの面倒な天童城を落としたのか!? 響動(どよ)めく評定の間。


「い、いかがしてであるか!?」

 家老職の椎名則秋が尋ねた。


「伊達家と最上家合わせて二千以上の兵が四方から強襲し、僅か三日で」

「ぬう。」


 『疑わしきは罰せよ』とばかりに、()()()()()()()()か。

 これ見よがしに力を行使したか、従四位下(じゅしいげ)伊達左京大夫(さきょうのだいぶ)稙宗(たねむね)。天童家は、長いものに巻かれることなく独立を貫きたかったのだろうが、それが仇となったか。この時代、他家と隔絶して中立を守りきるというのは難しいものだな。


「その翌日、寒河江城に伊達家から使者が参りました。天童頼長の首と共に、『来春六月に()()()で寒河江城、尾浦城、酒田湊を貰いにくる』、と」

「なっ?!」

「い、一万!?」

「そんな大軍を出せるというのか!? 伊達家は!?」


ブルッ


 震えた。武者震いというやつだ。

 我が羽茂本間が勢力を拡大して兵を増やしてきているとはいえ、一か所に集められる兵は三千ほど。その三倍以上を稙宗は集めることができると言うのか!


「は、発足(はったり)じゃ! 出鱈目(でたらめ)じゃ! そんな数、嘘じゃ! 根拠はあるのか!?」

 西三川から足を運んできた仲馬おじが叫んだ。勿論俺もそう思いたい。だが、噂を聞くに奴はそんな手を使う男ではない。


「定満。お主のことだ、調べておろう。内訳を示せ」

俺が促すと、定満は白狼に手伝ってもらったであろう数値を語り出した。


「・・・伊達が二千五百、最上が千、南部が二千、蘆名が千五百、あとは相馬、二階堂、大崎、田村、佐竹、葛西、その辺でござる。場合によっては一万をさらに越える可能性もあり申す」

「奥州、稙宗の血縁の奴らか」

「誠であるか」

「一万・・・」


 皆、目を丸くしている。桁が違う。流石の俺でも想像がつかん。

 血縁に声をかけ、一門で潰しに来るか。『事務所総出でお礼参り』という所だ。酒田湊の利は確かにそれくらいの価値はある。事前通告とは、余程の自信があるようだ。俺たちが力を集めて守るのを誘っている。それを粉砕して力の差を見せつけるつもりか。


 蘆名(あしな)家は蘆名盛舜(もりきよ)が当主。息子の蘆名盛氏(もりうじ)は昨年伊達稙宗の三女を正室に迎えたと聞く。稙宗の影響力から察するに必ず来るであろう。相馬顕胤(そうまあきたね)は稙宗の長女を嫁にしている。実の息子以上に可愛がられていると聞くから、こいつも当然攻めてくる。俺達の攻略目標、最上家の最上義守(もがみよしもり)は伊達家に臣従している。南部家は南部安信(なんぶやすのぶ)が当主と聞く。他の所は調べはまだついていない。急いで情報を集めねばならぬ。


 定満は本題を告げる。

「某の一存では手に負えぬため、留守を副将の秀綱に任せ、殿に下知を伺いに参った所存で御座います」


 本来ならば、来春はこちらが最上家を潰す予定だった。機先をとられた。

 六月と日を決めているのは、こちらが引くことを促しているのか。頭を垂れることを狙っているのか。もしくは、周辺の家との連携を確実にするためか。いずれにしても、八か月先は天国か地獄かを決める大戦となる。


「殿。ここは朝廷を動かして、出羽国の支配を認めてもらうべきでしょう。大義名分が成り立ちまする。是が非でも行うべきかと」

「ふむ。『出羽守』の武家官位は確かに大きそうですな」

宇佐美定満の言葉に、俺の兵糧方筆頭新発田収蔵(しばたしゅうぞう)が大きく頷く。まあ、縁があると分かったもので度々あちらから文を貰っている。今は「出羽守」を最上家が世襲で担っているが、朝廷に寄進を多めに送り奪い取るのもありか。


「よし、それは行おう。環塵叔父! 頼むぞ!」

「なっ。わ、儂は杏の世話があるっちゃで・・・」


 『岩倉宮』を継いでいるのに、相変わらずの朝廷嫌いだな、叔父は。だが、帝とも面識があるみたいだし、叔父が行ったら今の所失敗はない。うってつけの朝廷への橋渡し役だ。


「そこを曲げて、頼む」

「行ってもいいが・・・次は照詮。お主、直接参内せねばならんぞ?」

「・・・本当か?」

「御礼に伺うのは常識だっちゃ」

「・・・分かった」


面倒なことだが、後の苦労より先の楽だ。この戦が有利になることであれば、広場で三回周ってワンとでも吠えるぞ。


「殿。某から」

「信綱か。申せ」


『剣聖』上泉信綱様からの御言葉だ。何だろう?


「伊達稙宗、『嫡男の晴宗との仲に溝が入っている』と弟子の一人から聞き及びました。うまく動かせば『代替わり』を進めることができるやもしれませぬ。心の片隅にでも入れておいていただけますれば」

「おおっ! 有難い情報じゃ、うまく溝を広げれば・・・ 紫鹿! 黒蜘蛛!」

「あいよん」

「はいで御座ります」


俺は二名の忍び頭を動かし、「溝についての真偽を確かめさせること」と「溝を広げること」、さらにある可能性について動くよう指示を出した。二名はにやりと笑うとさささっと評定の間を出ていった。


あとは・・・


「定満! 山形盆地の地図はあるか?」

「はっ。ここに!」


 緊急の作戦会議だ。土地のことを知らねばならん。



____________________



 山形盆地の地図を、俺、環塵叔父、椎名則秋、久保田仲馬、宇佐美定満、長野業正、上泉信綱、赤塚直宗、新発田収蔵らが取り囲んだ。羽茂本間の中心たる面々だ。山本勘助は蒲原郡の抑えに精を出してもらっている。


 地図を睨みつつ、俺が端を発した。

「最上家の居城山形城は、ここか。伊達家が有している米沢城はここから南」

「いかにも」

「ならば敵軍は、寒河江城に近い山形城を拠点に攻め入ろうとしてくるであろう。どう思う?」

「なるほど」

 伊達家、蘆名家が攻め入りやすい場所だ。


「加えて、北の南部家、葛西家あたりは北東方面より、潰した天童城にも兵を配置するやもしれませぬな」

 長野業正が付け加えた。なるほど、一万もの兵だ。少し手を広げるのかもしれぬな。


「この山形城南西の支城は?」

「これは、長谷堂城(はせどうじょう)に御座います」


 いい場所にある城だ。四方を見回すことのできる要害と言える。ここを取れば山形城を脅かすこともできる。伊達家への牽制にもなる。俺が山形城を落とすなら、ここを拠点とする。


「こういう手はどうだろう・・・・」

「ほほう! なるほど!」

「いや、しかし・・・」

「やはり兵の数が足りぬので・・・」


 軍議は尽きない。しかし、選りすぐりの人材が集まり行う軍議は不謹慎な言い方かもしれないが楽しいものだ。これが現実でなくゲームであればどれほどに楽しいことか。



________________________



 ある程度の戦での方針は固まった。


「売られた喧嘩だ。逃げることはせぬ!」

「ははっ!」


 俺の言葉に皆が頭を下げた。一万の軍勢、何とかしてみせる。勝利を確実なものにする。その為には・・・

 やらねばなるまい。俺は、今まで言わなかった算段を伝えた。


「大戦となる! 戦力は多い方がよい。加えて『舅殿』に助力を頼みに行きたい!」

「何と!」

 

 俺の言葉に皆の目が点になる。


()()()()にもで御座いますか!?」

「『使える者は親でも使え』と言うではないか」


 「立ってる者」、だったかな?


「・・・果たして動きますかな。為景殿が」

「尻の毛まで抜かれるやも・・・」


 乱世の奸雄長尾為景。先々月には武力を背景に山内上杉家へ強引に迫り、上野国の大半をもぎ取ってきたと聞く。俺には『出羽国征服祝いをする』とも聞いている。互いの祝勝を賛辞しながらのタフな交渉となるだろう。


 やはり怖さはある。どんな無理難題を吹っ掛けられるやもしれぬ。領地や金を大量に奪い取られるやもしれぬ。

 だが、幾千もの将兵の命には換えられぬ!


「『奥州の巨人』を倒すが為、皆の力が必要じゃ。この半年間が勝負じゃ! 心せよ!」

「はっ!!」

大戦フラグが立ちました。

しばらく先に、山形盆地にて出羽国の行く末を左右する戦となりそうです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奥州の巨人が腰を上げたか! 強敵を前にまともに戦っても苦戦は必至。 得意の搦め手で行こうとする照詮だけど、相手も海千山千だしねぇ・・・。
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