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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第八章「代替わり」

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第九十五話 ~家督~

第八章「代替わり」

開幕いたします。

<天文八年(1539年)七月 佐渡国 羽茂郡 羽茂城 広場>



「ま…… まい゛っだ……」


 そう言って弥太郎が膝をついた。



 ……恐るべき強さだ。聞きしに勝るとはこのことか。

 生ける伝説、「剣聖(けんせい)上泉信綱(こういずみのぶつな)


 腕試しということで、羽茂城内の広場で立会いの場を開いていた。相手は羽茂本間最強の兵、小島弥太郎だ。

 「自由に選んでいい」と言った武器を、信綱は弥太郎と同じく脇差を選んだ。これは装備による有利不利を無くす為か。実力がはっきりした。


「どこからでも」

 と言って正眼に構えた信綱に、弥太郎は猛烈な速さで斬りかかった。だが、凄まじい斬撃は聖域に護られるが如く全て弾かれた。動体視力、先読み力は桁違い、的確な判断を体現していた。数多くの修羅場をくぐり抜けた鍛錬の厚みを感じる。


 そして弥太郎が息をついて止まった所に、目にも止まらぬ速さで喉元へ脇差を伸ばしていた。踏み込みの予備動作が一切無く相手に読ませず間合いを破った。「無拍子」という奴か。誰も全く反応できなかった。

 弥太郎の降参の合図を聞くと、礼をして剣を引いた信綱。数多(あまた)の師に教えを請い、各地を武者修行してきたという腕は流石だった。弥太郎が対人戦で負けた所を初めて見た。


 腕試しを終えた両者が、広間へ戻ってきた。


 観戦していたのは、俺の他に羽茂本間の重臣達。環塵叔父、椎名則秋、仲馬おじ、辻藤(つじどう)左衛門信俊(さえもんのぶとし)、長谷川海太郎、新発田(しばた)収蔵(しゅうぞう)、それに登用で加わった長野業正(なりまさ)ら。

 女性陣はレン、綾姫、ナーシャ、ターニャ、紫鹿、それに生まれて数か月の「杏」を抱っこしている妙恵おばさん。環塵叔父の子は女の子だった。


 剣聖は、勝っても全く驕ることなく弥太郎を気遣った。


「戦場とは違いますからな。弥太郎殿も本気ではなかったはず」

「いあ゛…… おれ゛のまげだ」


 弥太郎が負けた。

 今まで一対一では無敗だっただけに落胆しているようだ。俺の身辺警護を一手に引き受けているという自負もあるだろう。「役目を果たせなかった」と泣いている。


「失礼ですが、弥太郎殿。誰か師について学んだことは?」

「……な゛い」

「なんと! 我流で今の腕ですか!?」


 信綱が驚いた。

 椎名則秋の剣術修行は、弥太郎にとってみれば基礎体力訓練。覚えたのは対戦の前に礼をするくらいのことか。


「不肖ながら某、弥太郎殿の師匠をさせて頂けませぬか?」

「!?」

「資質は某を遥かに上回りまする。いかがでしょうか?」


 おお、それは有難い提案だ!

「それは是非に頼みたい!! 弥太郎のみならず、俺を含め羽茂本間全ての者の武術の師を務めてもらえぬか? 必要な道場や人員、資金は全て受け持とう!」

「! 願ってもないことで御座います。佐渡守様の仰せの通りに!」


 やった! 引き受けてもらえた!

 「剣聖」の道場を羽茂の町に作ることができるぞ!


 銃や大砲などの火器が戦局を左右しているが、まだまだ戦の中心は接近戦だ。近距離の強さはやはり欠かせない。

 師範が強ければ、それだけ師範代も強くなり、兵も強くなる。弥太郎は勿論の事、俺も少し鍛えてもらおうかな。先ほどの「鉄壁の守り」や「無拍子」などを覚えることができたら、刺客の不意打ちなどで命を脅かされることも少なくなるだろう。弥太郎はますます超人になりそうだな。


 上泉信綱にもたまには戦場に出てもらいたいが、剣聖の力を最大に発揮できるのはやはり道場だ。本人も顔が紅潮してる。最も望んでいたことなのだろう。

 宇佐美定満、山本勘助の右腕左腕に加えて、新たに長野業正(なりまさ)と上泉信綱で「羽茂本間四天王」みたいな呼び名も考えた。上泉信綱の軍の司令官としての能力は申し分ない。だが、剣聖はやはり剣聖。ここに加えるのはちと違いそうだ。もし俺が四天王として入れるとなれば、やはりアイツだろうな。


 喜ぶ俺に向かって、

「佐渡守様」

 長野業正が語り掛けてきた。


 ゲームじゃ爺さんのイメージが強いが、今の年の頃は四十後半と聞いている。確か、箕輪城を信玄から六度も退けた名将中の名将だ。円熟期はこれから。一千貫文でも安いくらいの人材だ。


「『北日本海制圧』を目指しているとお聞きしました。安東家の後は能登ですかな?」

「はは、流石だな」


 見えているな。出羽国制圧は目前。となれば次は越中国か能登国。越中国は長尾家に任せ、能登国を先に攻略する予定だ。


「能登国の畠山修理大夫(しゅりだいぶ)義総(よしふさ)様は非常に優れた御方と聞き及んでおります。また、居城の七尾城は名の通り七つの尾根筋を中心に多数の曲輪が作られた天下の名城。力押しは難しいかと存じます」

「その通りだ。故に、修理大夫殿には子の義続(よしつぐ)殿へ家督を譲って頂こうと思っておる」

「なっ!? 我とさほど年は違わぬはず。隠居はまだまだ先では……」

「『甘い毒』が効いたようでな。来月にでも起きるぞ、『代替わり』が、な」

「なんと……」


 黒蜘蛛から「仕上げは上々」との報告を受けている。青蜘蛛共々、褒美をやらねばな。茶器を集めているとのことだから、いい物を見繕ってやろう。



 安東家攻めには柏崎水軍に加え、イゴールを棟梁にして建造させた国産「キャラック」級の船を二隻加えた「佐渡水軍」の船も同行させている。武装として国産第一号の小型大砲「佐渡砲」を載せた。デミ・カルバリン砲までの性能はいかぬまでも、基本的な構造と威力を備えた大砲で、小型の基本の大砲として有名な「セーカー砲」クラスの射程と威力はある。今回の戦の結果で良好ならば量産し、さらに大型化を目指していくつもりだ。


 柏崎水軍の新人は定期的に明国へ佐渡の干海鼠・干鮑を運び、佐渡へ銅銭や硝石、生糸等を運んでくれている。硫黄は蔵王やら鳥海山やら国内で結構採れるから、ヤルノに命じて硝石と木炭と調合して火薬の量産体制も着々と進んでいる。銅銭や生糸の利益は莫大だ。ジャンジャン使わないと使いきれん。船の建造、火器・火薬の製造、領地に学舎を建てて無償で読み書き算術を教える、有能な人材の登用、主要道の整備、そして手狭になってきたこの羽茂城の増改築など。


 順調に勢力は拡大している。

 唯一の弱みは家督を継ぐ者がいないこと。俺が年若いのが何よりの弱さだ。

 一応、俺が死んだら環塵叔父が継ぐことになっている。そして、その次は生まれたばかりの杏だ。だが、環塵叔父に野望はないし、杏に継がせることなどしたくない。近くに死ぬつもりなどさらさら無いが、早く大人になりたい。


 レンはニコニコ見ている。綾は(たお)やかに微笑む。ナーシャは……何だか最近元気がない。俺が盛大に綾と祝言を挙げたことがショックだったようだ。でも、レンやナーシャと結婚式は互いに成人してからにしたい。俺はまだ九つか。あと五年は待たねば。


「では、安東攻めを再開するぞ! 柏崎水軍に連絡を取れ! 我が佐渡水軍と合わせて安東水軍を粉微塵に砕く、とな!」

「ははっ!」

「収蔵! 海太郎! 左衛門信俊! 治政、学舎、補給は頼むぞ!! 剣聖の道場の建設の手配も頼む!」

「「「お任せくだされ!」」」

「弥太郎! 業正! 船出の準備じゃ! 安東家の湊城を陥落させるぞ! ついて参れ!」

「はは。救って頂いた『上州(じょうしゅう)黄班(おうはん)』と呼ばれる力、お見せいたしましょう!」

「わがっだ!」

「則秋! 環塵叔父! 留守を頼む!」

「勿論!」

「気を付けるっちゃ」

「レン! 綾! ナーシャ! 行ってくる!」

「早く帰ってくるっちゃよー」

「行ってらっしゃいませ、殿」

「…… ウン」



________


<天文八年(1539年)八月 能登国 能登郡 七尾城 城主私室>



「精強として知られた出羽国の安東水軍が、佐渡の羽茂本間軍の圧倒的な戦力の前に崩壊。さらに土崎湊抑えの湊城、安東家居城の檜山城が力攻めで落城した、か。…… ううむ、やりおるわい」


 男が報告を受けたその日のことだった。


 見事な屏風や茶器、漆器に囲まれた一室で報告の文を読み返しながら一人静かに思案していたのは、能登国守護職従四位下(じゅしいげ)畠山修理大夫義総(よしふさ)だった。

 

「次のねらいは我らが能登かもしれん。その前に手を打たねば……」

 能登国を「北陸の都」と呼ばれるまで育てあげた聡明な義総は、増大する佐渡軍に対抗するため京や西国に使いを出そうとしていた。


 その義総の元へ、五・六人ほどの大きな足音が聞こえてきた。


 ガタガタッ


「ご無礼仕る」

 当主の間へ入ってきた温井(ぬくい)総貞(ふささだ)が声をあげた。同行するのは遊佐宗円(ゆさそうえん)長英連(ちょうひでつら)三宅総広(みやけふさひろ)ら。能登を束ねる重鎮達だった。


「揃いも揃って、何用か?!」

 名君畠山義総は、無礼を承知で入ってきた者達の顔を見回した。しかし、答えはない。義総の明哲な顔が曇った。


(皆、儂の目を見ようとしない……

 これは、ただ事ではない。もしや、恐れていた()()()()()が来てしまったか?!)


「……殿。何も言わずに家督を義続様へお譲り、御隠居くだされ!」

「能登国の混乱を鎮める方法は、それしかありませぬ!!」


 平伏する能登の重臣達。


「……砂糖が能登に入って二年近く。皆、あの痺れるような甘さに毒されたか……」

 能登国国主は溜め息をついた。当然のように、答えは帰ってこなかった。


(思えば()()()、意を決して止めておればよかった。空海屋の黒兵衛という者が持ち込んだ砂糖。初めは一斤(600g)二百文(二万円)と破格の安さだった。それが「注文が殺到した」だの「南蛮船がこなくなった」だのを理由に値を吊り上げていった。三百文が五百文、七百文から一貫文(十万円)、果ては十貫文(百万円)まで値を上げおった……



「豊かな能登の財が、みるみる間に消えていった。砂糖の甘さを求めるが故に、子を売り家を売り田を売り女房を売り、無一文になる者が多数出た。そして口々に『当主の義総()が悪い!』と言い出した。自分達の意志の弱さを儂の悪政の為と罵った。愚か者共め! 踊らされよって!」

「殿があの時、止めなかったことが原因で御座います!」

「どうか、御隠居を!」


 虫歯で穴だらけになった口で儂に隠居を迫る長英連、三宅総広ら。


「砂糖の甘露な甘さ欲しさ故に、国まで売りおったか!」

 義総は憤慨激怒した!


「儂は昨年『砂糖禁止令』を出した! 空海屋の出入りも禁止した! にも(かか)わらず裏で取引して財を失ったのは()()()ではないか! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


 (うつむ)く重臣達。


 砂糖を買う金が無い為、借用金で誤魔化す。そして空海屋の言いなりになる。


(儂を(なじ)る能登国の者の中には「義総の悪政のせいにすれば借用金を減免する」だの「砂糖を配る」だの唆されてやった者がおるはずじゃ。しかし、証拠はない。証拠をつかむ前に怪しい者は蜘蛛の子を散らすように消えていった。

 背後にいるのは、佐渡の小童じゃろう。何たる汚さか!)


「ええい! (らち)が明かん! ()()()! 佐渡へ攻め込むぞ!!」

「と、殿! ご再考を!」

「ならぬ! 全軍で佐渡ヶ島を蹂躙(じゅうりん)するぞ!!」

「そ、それが……」


 ぼそぼそと消え入るような声で話した遊佐。

 義総は愕然とした。事態は義総の考えの数倍以上に悪化していたのだ。


「……何ということだ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

「は、ははっ……」

「輪島漆器の手工業者も、輪島湊も、全て相手方に渡ってしまっているだと!?」

 

 冷静沈着で知られる名君の両手がワナワナと震えた。


「徒手空拳では戦えませぬ! どうかご再考を!」

「ならぬ! ならば越中を通り陸路を行くのじゃ!」

「殿! 陸から海は行けませぬ!」

「そんなことは分かっておる! 越後の為景に文を出せ! それも不調であれば泳いで海を渡るのじゃ!」


 畠山義総は自分でも何を言ってるか分からなくなった。しかし、悪臣温井(ぬくい)総貞(ふささだ)は聞き逃さなかった。


「と、殿が()()()()()()()! 殿を、気の静まる場所へお連れせよ!」

「お、応ッ!」

「待て! 儂は……っ!!」


 当主義総は抵抗虚しく、悪臣らの手により七尾城の一角にある小堂へ押し込められてしまった。


 暫しの後、悪臣達は今日を生きるが為に「殿は家督を嫡男義続に譲られ御隠居なされた」と能登国へ触れ回った。二十歳の新当主は訳が分からぬままに能登国二十万石を率いることとなった。苦労知らずの義続は家督を譲られ贅沢三昧。束の間の当主気分を味わうことになる。


 悪臣達は「今日」を見過ぎた故に「明日」を見てはいなかった。

 この愚かな「代替わり」により、能登国の更なる混乱が始まってしまったのだった。




________________



 能登国だけではない。

 甲斐国でも、陸奥国でも、そして越後国でも。各地で「代替わり」の機運が高まっていた。

先にあるのは、繁栄か、それとも滅亡か……?

熱で数日寝込んでいました(*´Д`*)

コロナじゃなければいいのですが。


「第七十九話 ~甘い毒~」で撒いた毒が、一年半ほどかけて回りました。攻めずとも、半年後には能登国は瓦解するはず。攻め入るのはその後です。


「代替わり」を中心に進んでいく第八章となりそうです。よろしくお願いいたします。


微熱と咳と痰がまだあるため、療養してきます(´;ω;`)ウッ…


※7/13追記 大病院で血液検査と尿検査とX線検査を受けてきました。「コロナである兆候は認められない」との診断を受けて一安心です。以前から飲んでいる咳止め等の薬に加えて、下熱作用と頭痛に効くカロナールを処方してもらいました。励ましのお言葉、ありがとうございます。ご心配をおかけして申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] お粥とネギを忘れずにな お大事に
2020/07/13 13:21 退会済み
管理
[良い点] 砂糖漬けの国盗りですか。 英国が清国にやったアヘン漬けよりはるかに人道的ですね。まだ血は流れていませんし。虫歯は…現代の歯磨き粉があれば虫歯にはなりにくいはずですが、ちょっと難しそうです…
[一言] この時期の熱は大変ですね。 健康第一ですので、お体ご自愛下さい。
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