第八十六話 ~大宝寺攻め~
<天文七年(1538年)3月 出羽国 田川郡 水沢平>
「我に策あり!」
大宝寺家の侍大将、若木松助は対羽茂本間戦に勝算があった。
越後の命運を決めた昨年五月の「三分一原の戦い」において、羽茂本間照詮は音と光の技を用いて揚北衆を崩したらしい。その証拠に、「雷が光る前に銅鑼の音が鳴り、相手方は皆伏せた」と聞く。ということは、相手軍と同じことをすれば破るのは容易い!
「儂が『伏せろ!』と言ったら伏せて耳を塞ぐのじゃ! あとは儂の指示に従うのじゃ!」
「はっ!」
副将の米沢秀久が答えた。
ふふふ。いつでも来い!
ほくそ笑む若木松助。その刹那!
ジャーン!
鳴りおった!
「今じゃ! 伏せろ!!」
一斉に伏せる配下の兵三百。よし、これで勝った!
ドン! ドドドッ! ドドドドン!
聞いたこともない破裂音が戦場に鳴り響く。だが見切った! 音も光も防ぎ切ったぞ!
羽茂本間の妖術! 破れたりッ!!
「起き上がれ! これで・・・!」
と言いかけて止まった。自分の頭の上を何かがヒュンヒュンと飛んでいった。石? 鳥?
次の瞬間!
ドゴオオオッ! ドゴオオオオオン!!
「ウアアアアアアアアアアッ!!」
「アアア! ウオオァッ!」
後方彼方の本陣から叫び声が聞こえる! 砂ぼこりが舞っておる!
羽茂本間軍から四町(約400m)ほども離れておると言うのに!?
「何じゃ!? 何が起こった!?」
「本陣に何かが起きたようです!」
「お、恐ろしや・・・」
「羽茂本間照詮。妖術を使うとは誠であったか!」
騒ぎ出す配下の兵達! 松助の足が諤々と竦む。
「う、狼狽えるな!」
若木松助は侍大将としての立場を思い出した。だが足はぶるぶると震えて止まらない。
「立て! 立つのじゃ!」
「若木様! 皆立ちました!」
米沢秀久が青ざめた顔で答える。
「狼狽えるな!」
「進みましょうか? 本陣まで戻りましょうか!?」
「ええい! 今考えておる所じゃ! 狼狽えるでない!」
まだ敵軍から二町は離れておる。弓矢は届かん。どうする!?
・・・ジャーン
遠くからまた銅鑼の音が聞こえた! 何!? こんなに早く次が来るのか!?
「伏せ・・・」
ろ、と言いかけた途端!
バン!! ババババババ! ババババン!!
相手軍左右から何か猛烈な勢いで飛んできた!! 石? 虫!?
「グワアアアアアアアッ!」
気づけば兵達が血を流して倒れておる! 何があった!? 立て! 立つのじゃ!
「グフォッ・・・ 若木様・・・お下知を・・・!」
の声がする。振り向くと、
「ヒイィ!」
血反吐を吐く秀久。胸から口から血が流れだしておる! 目玉も片方垂れ下がっておる! こ、こ奴めッ! 儂の思考の邪魔をしおって!
「ええい! 狼狽えるなと言っておるのに!」
こ奴はもう持たぬ! ならば最後に軍紀の厳しさを示すために役立てる!
腰の刀を抜くと、一刀の元に斬りつけた!
ザンッ!!
「グ、グフッ・・・ お、おの・・・」
グシャッ
秀久が大地に倒れ込み骸になった。
「軍を混乱させる者は許さぬ! 狼狽えるなッ!」
しかし次の瞬間。また遠くから銅鑼の音が聞こえてきた・・・
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「崩れましたな」
軍略方の宇佐美定満が冷静に分析した。
「本陣は混乱。マスケット銃の威力は十分」
砲兵隊隊長の山本勘助も呼応する。何とも贅沢な右腕左腕だ。
「うむ! 攻めるぞ! 定満! 陣貝を鳴らせ!」
「承知致しました!」
歩兵隊への号令は陣貝だ!
ブォォ~! ブオォォ~~!!
法螺貝の音色に合わせて「轟襲滅進」の旗が旖いた!
「すううううううううぅすめえええええええええッッ!!!」
俺は右手に握りしめた銅鑼の撥を敵陣に目掛けて号令した! 全軍突撃だ!
左翼の黒槍隊を先頭に羽茂本間軍が崩れている相手先陣目掛けて突き進む! 右翼の揚北衆も突進だ!
相手本陣は想定外の距離からの未知の攻撃に大混乱。相手先陣の歩兵達は右往左往。司令官が死んだか? それとも無能か? どちらにせよ我らの勢いは止められぬ!!
大宝寺晴時の首を獲れ!
フランキ砲に関しては、「電羊齋雑記」様の「第一章 清代の火器とその運用」を参照させていただいております。射程(約四、五百歩(約666m~833m)との記述があります。
https://talkiyanhoninjai.net/archives/7015
大友宗麟が使ったと言われる「国崩し」のフランキ砲よりは小型軽量版です。
緊急事態宣言開けで忙しくなってきました。
土日メインの更新になるやも(´;ω;`)ウゥゥ
でも頑張りたいです。




