第八十四話 ~甲斐の若虎~
拙著「佐渡ヶ島から始まる戦国乱世」
執筆開始から三か月。1,000,000pvと総合評価10,000ポイントを頂きました。処女作でこれほど支持頂けるとは驚天動地でございます(;゜Д゜)
今後とも頑張りたいと思います。ご愛読、応援をよろしくお願いいたします。
<天文七年(1538年)二月 越後国 蒲原郡 新潟城 城主私室>
「誠かッ!!?」
「はっ」
驚いた。変な声が出た。
武田晴信が、この城へやってくるというのだ!
言わずと知れた後の武田信玄。今は、甲斐国守護職武田信虎の嫡男だ。
戦の少ない冬、山内上杉家の上杉憲政の関東管領就任祝いのために上野国の平井城に出向いた晴信。次に蘆名家嫡男蘆名盛氏の婚姻祝いのため黒川城へと向かった。新潟城に来たのは、そのついでのようだ。白狼から聞いた。
蘆名盛氏が娶るのは、陸奥国の巨人伊達稙宗の娘だ。「十男五女」という猛烈な種馬の稙宗。さらに今年二人生まれるらしい。とんでもないな。生まれた男子を他家の養子に出して乗っ取り、女子は有力な所へ嫁がせて勢力をドンドンと伸ばしている。この時代の子だくさんは、まさに武器だ。
晴信は、俺が新潟城にいることを知っていた。
甲斐の忍びの「透波」からか、もしくは俺も参考にして使っている『歩き巫女」(旅芸人や遊女を兼ねた巫女。くノ一)からか。どうやら越後、あるいは佐渡にも間諜の手を広げているようだ。
黒小灰蝶の俺からすると、武田家は甲斐、信濃、駿河、相模あたりを食べる「中原の蟻」と見込んでいる。仲良くはなりたい。だが、相手の目的は何だ・・・?!
<天文七年(1538年)2月 越後国 蒲原郡 新潟城 評定の間>
優男。
一言で言えば、そんな風体だった。
「風林火山」の旗の元、荒々しく赤備えで突撃するイメージの武田信玄。だが、齢はまだ18。若武者と言っていい年頃だ。中〇貴一が大河で主人公をしていたが、それに近い。
だが、やはり後世で「甲斐の虎」と言われただけある。鋭い眼光、精悍な顔立ち、引き締まった体格。一挙一動に得も言われぬ人物の大きさを感じる。言わば「甲斐の若虎」か。
「はるばるお越しいただき、誠に恐縮でござる。某が佐渡国国主、羽茂本間佐渡守照詮にござる」
俺の言葉に答えず、じっと俺の目を見ている。品定めか?
頭痛はしない。あれではなさそうだ。
「・・・失礼。思いのほかお若くて驚きましてございます」
晴信は一礼してから言葉を続けた。
「甲斐国守護職武田左京大夫信虎が嫡男、武田大膳大夫晴信でござる」
太く、腹の底にズンと響く声だ。バリトン歌手になったら世界を獲れるやもしれん。
「突然のご訪問につき、かようなさもしい場にての会談、誠に申し訳ござらぬ」
「いえいえ、とんでもござらぬ。・・・かくの如く堅牢な城とは、某が聞いていたのはだいぶ古い話でござったようじゃ」
「いやいや。堅牢になったのはここ最近でござるよ。ここにいる山本勘助が縄張りをしてな」
「ほほう。素晴らしい人材をお持ちですな」
勘助が一礼する。本来であれば主従の絆で結ばれた二人だ。だが、勘助は今は俺の家臣。少しの優越感が脳を過ぎる。
「して、此度の急な訪問の理由をお聞かせ願えますかな?」
「はは。恥ずかしい話、『佐渡守殿にお会いしたかった』というのが本当の理由でござる」
「左様。佐渡守殿から贈られてくる海魚の塩干物の礼を致したく。某、武田家家老、甘利備前守虎泰と申します。今後とも何卒覚えめでたく願えれば幸いでござる」
「おお、甘利殿か! 名は聞き覚えがある。塩干物、気に入っていただけて何よりでござる! 引き続き贈らせていただきますぞ」
柔和な笑顔を見せる甘利虎泰。だが、凄みは隠せていない。上辺の薄皮を一枚脱げば、人食い虎のような本性が見える人物だろうな。
「是非に! あの海魚は格別の味じゃ!」
あどけない少年のような表情を見せる晴信。人を惹きつける魅力がある。
「代わりにと言っては何じゃが、御所望していた山師を連れて参った。甲斐に戻さずともよい男三名じゃ。どうか受け取ってほしい」
「それは有難い。・・・甲斐との縁は切れてもよい男、誠でござるか?」
「仮に金が出たら、隠しておきたいものでござろう?」
「ははは! 確かに!」
鋭い。
笑って誤魔化したが、俺の金について何かしら探りを入れていることは明白だ。
世界的な金銀山である「相川金山」を開発するために必要な人材。喉から手が出るほどに欲しかった。甲斐との縁が切れる人物ならば機密が漏れることはない。・・・その言葉は確かだろうが、念のために監視は必要だな。
「佐渡国は、佐渡守殿が統べるようになられてから、驚くほどに伸びていらっしゃいますな。『石鹸』『清酒』『びーる』『羽布団』『海産物』など産業も豊富。是非とも懇意になりとう御座る」
「それはこちらも同じこと。甲斐国を統一された武田家。そして大器と言われる御嫡男の大膳大夫殿との友誼は願って止まないことにござる。ここ新潟城にも佐渡の特産物の在庫が若干御座います故、是非とも甲斐へお持ち帰りください」
「おお! 有難い! 長い旅の何よりの収穫じゃ!」
どうやら、本当に仲良くなりにきたという感じかな?
「長旅でお疲れで御座いましょう。何もございませぬが、今夜は是非に本城にてお寛ぎくだされ」
「忝い。 ・・・佐渡守殿」
おや?
「佐渡守殿は、誠に八つですかな?」
ギクッ
「はは。いくつに見えますかな?」
「いえ。とても某から十も下とは思えぬ故の戯言でござる。周囲から『大器』と呼ばれ天狗になっていた自分の身が恥ずかしくなったまでのこと。お許しくだされ」
「何をおっしゃられます!」
「いえ。佐渡守殿の光が眩しすぎての本心でござる。妻一人の愛想もとれず、父からは勘当の憂き目に遭いそうになっておる自分が情けのうなってきました」
そうか。三条の方と仲が悪く、信虎からも廃嫡されそうになってるという話は本当だったのか。
「とんでもない。某からアドバイス・・・おっと、ご助言をさせていただければ」
「おお? 是非に」
晴信が前のめりになった。
「三条の方は公家出身の御方。気位が高くて仲良くなれないのでござろう?」
「・・・お見通しですな」
「ですが、実際は心細いのだと思いまする。大膳大夫殿と仲良くなりたくても、うまく言えない。育ちが許さない。ならば、その仮面を剥がせばよろしい」
「ふむふむ?」
「思った通り言いなされ。『もっと仲良くしたい』『ツンツンしないでほしい』『デートしよう』と」
「で、でーと?!」
「あ、出居戸と申して、館の戸から出ることにござる。ははは」
デートとか通じないわな。
「上辺を飾るのは悪手。本心を曝け出しなされ。遠慮は要りませぬ。喧嘩もしなされ」
「・・・しかし、喧嘩など乳臭い・・・」
「いやいや、『雨降って地固まる』と申します。喧嘩の後には贈り物をして機嫌を取ること。その繰り返しでござる」
「なるほど。確かに、建前のみの付き合い方をして参った。もっと己を出していくべきか・・・」
横山先生の漫画も、大河も、小説も、三条の方が悪く書かれていたのを覚えている。でも、俺から言わせてもらえば、三条の方はツンデレもいいところだ。晴信がうまく立ち回れば嫡男義信の立場が良くなり、御家騒動も起こらず、武田家はさらに強くなれるはずだ。
「それと、左京大夫(武田信虎)殿とのことは・・・甘利殿の方がお気づきかと存じます」
「・・・はてさて?」
甘利虎泰が、武田信虎を放逐する中心人物だったはずだ。雷〇太さんが頑張ってた。とぼけているが、これだけ言えば分かるはずだ。
「では、佐渡守殿は! その意図故に、父ではなく俺に贈り物を?」
「如何にも」
得心がいったようだ。『代替わり』は何年だったか覚えていないが、そろそろのはずだ。これから伸びていく武田家、そして武田信玄と友誼を結ぶのは非常に大きい。
「故に、某は大膳大夫殿の御力により、甲斐武田家の『武田菱』が中原を席巻することを確信しております。蒲原や佐渡へ透波を出すよりも、信濃南部を抑え国力を高め、駿河、相模などまで進出することを願っております」
「・・・佐渡守殿は、やはり遥か遠くを見ていらっしゃいますな」
「ですかな?」
「・・・恐ろしいまでに。敵とならぬことを願って止みませぬ」
見つめ合う瞳と瞳。
生涯の友となるか、果てはまた生涯の好敵手となるか。
まだその時の俺には分からなかった。
___________________
武田晴信は、佐渡の海の幸、山の幸を山ほど食べ、酒を飲み、羽布団で大いびきをかいてリラックスしたようだった。随伴した甘利虎泰も何だか血色がよくなった感じだった。石鹸と風呂がよかったのかな?
俺は晴信と、密約を結んだ。
信濃南部から南は武田家。信濃北部から北は羽茂本間。トリデシリャス条約もびっくりの内容だ。決行は晴信が信虎を追放してから。友誼が、それ以上の同盟へと発展した。
新潟の地は、現代と同じように思いのほか雪が積もらない。冬が明けるのも近い。
出羽国侵攻の準備は、着々と進んでいる。
甲斐の若虎、次に会う時は真の「虎」となっていよう。
彼に負けぬよう、細長い「龍」の如き北日本海の覇者を、俺は目指そう。
南は任せて、海と北へ行きます。
そして、リスボンに向かった一行は・・・
☆☆☆☆☆評価、ブックマーク等いただけましたら励みになります。
モチベーションアップになりまする\( 'ω')/




