表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「佐渡守」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/254

第八十一話 ~「過去」か「未来」か~

<天文七年(1538年)1月 越後国 蒲原郡 新潟城 評定の間>



(この童が、本間照詮……)


 揚北(あがきた)衆の中心、色部勝長(いろべかつなが)は心の中で(うな)った。


_____________


 昨年春の三分一原(さんぶいちはら)の戦では、この童が率いた軍により我ら上条・揚北連合軍は大敗退した。見た目は(きら)びやかな着物を着たごく普通の子どもだ。八つと聞いた。左の額に星形の傷があり、目つきは鋭い。笑ってはいるが、奥底が見えぬ。


平林(ひらばやし)城城主、色部勝長で御座る。『軍神』と呼ばれる佐渡守様にお目見えできて光栄に御座る」

「おお、其方(そなた)が勝長殿か。揚北衆の取りまとめをしておると聞いておる。よろしく頼むぞ」

「ははっ」


 儂の事は、知っておったか。調べてあるようだな。


「改築された新潟城はどうだ?」

「……」


 見るべきではなかった。

 この童、見せつけるつもりで我らをこの城に呼んだのだろう。簡素な作りだったはずの新潟城が、二か月見ないうちにとんでもなく堅固な城と変わっていた。


 虎口(こぐち)(出入口)の前には馬出し(城門を掩護するために、その前に設ける土塁や石塁)が作られ、その先には半月型の水堀りが作られている。これでは正面から門には近づけん。回り込んで入ろうとしても、無防備な半身を城に向けねばならん。そこを弓で撃たれれば蜂の巣じゃ。

 虎口をくぐっても(ます)形の部屋がいくつもあり、その都度足止めをされる。狙い撃ちする穴がいくつもあり、ここでも命を落とすであろう。堀切(ほりきり)竪堀(たてぼり)もしっかりしておる。侵入する経路は限られるであろう。

 極めつけは、噂に聞いた「大砲」や「鉄砲」という武器の数じゃ。三間(約5.4m)ほどの鉄の筒が、見えただけで五本。兵一人が持てる小さい筒は百はあろうか? 数知れずじゃ。『雷』の正体と聞いておるが、これほどまでの数があっては、二千~三千ほどの兵で攻めたとしても無駄じゃろう。侵入経路を限定され、あの妖のような『雷』で撃たれては命がいくつあっても足らぬ。『雷』の怖さは、味わった我らが(もっと)も知っておる。穴だらけになって死に絶えた者、命が助かっても二度と歩けなくなった者など多数…… 


「儂らに、見せつけるつもりで、お呼びされましたか?」

「そう思うか?」

「……どうでござろう」


 明言はしなかった。「示威(しい)的なつもりはない」「友好を深めるため」という建前のためか? ……こんなに冷や汗を掻く新年挨拶は初めてじゃ。


「まあ、これまで敵味方だった我らだ。『緊張するな』というのもおかしな話よな。本題に入るか」

そういうと、本間照詮は笑顔を捨て、真顔になった。


「揚北衆の皆に聞きたい。『過去』と『未来』、どちらが大切だと思う?」

「……両方、大切でござる。」

 娘婿の黒川清実(くろかわきよざね)が答えた。その通りだ。


「佐渡守殿は、我ら揚北衆の三百年の歴史をご存知かと存じます。昨日今日出てきたような長尾家には屈することはでき申さん。我らの先祖を否定することはでき申さん」

 竹俣昌綱(たけのまたまさつな)が答えた。


 本間照詮は、「これまでのことは『過去』として、長尾家に仕えて『未来』を取れ」と言いたいのだろう。だが、それだけはできん。儂らとて意地がある。



「俺は、『どちらが』、と聞いた」


 ゾっとするような声だった。とても八つの子ではない。

 だが、その後は意外なほどに寂し気な声を出した。


「三分一原の戦は、悲しい戦だった。俺は長尾家側につき、五十公野(いじみの)殿、鮎川殿、垂水(たるみ)殿、小川殿の首を獲った。戦は非情。立場が違えば、転がっていた首は俺の方だったかもしれん」

「いや、戦は互いの命のやり取りをするもの。悔やむ必要はござらぬ。むしろ、情けをかけられることこそ恥でござる」

「左様でござる」

「戦場で敵味方となれば、親子どもでも容赦はせぬ。それが世の習いにござる」


 本間照詮は、我らを取り込もうとしておる。それは間違いない。だからこそ四氏の首を獲ったことを詫びたのだ。それは仕方のないこと。我らが甘かっただけのことだ。


「お主らが長尾家を嫌う理由は分かる。これまで越後を治めていた上杉家を(ないがし)ろにし、度々お主らを(おびや)かした。急に『下につけ』と言われても、いいように使われて取り(つぶ)される可能性もある」

「左様」

「為景は、信用ならぬ。主を二度も弑逆(しいぎゃく)した者の下にはつけぬ」


 小僧の目が光った。


「……ならば、『()()()』ならどうだ?」

「なっ!!?」

「さっ、佐渡守殿は、長尾家と縁を切るおつもりかっ!?」


 とんでもないことを言う! 羽茂本間は、長尾家の尖兵(せんぺい)ではなかったのか? 

 この小僧は、長尾家に服従してはいないのか? 


「為景殿に言われたことは、『この地をお譲りする』ということのみ。『揚北衆を殲滅(せんめつ)せよ』『長尾家に服従させよ』とは言われておらぬ。よって、お主らを我が傘下(さんか)に入れようとも俺の勝手である」

「そ、そんな詭弁(きべん)! 為景は承知せぬぞ!?」

「いや、通る。為景殿は、そなた等が上杉・上条と手を組み、攻めてこなければよいとお考えだ。娘婿(むすめむこ)の俺が蒲原郡と岩船郡を持とうが、お主らが中立を保とうが我が羽茂本間家に付こうが、構わぬはずじゃ」

「……なるほど」

「おお、婚姻の話は誠であったか」


 本間照詮の話は、我らにとって都合がいい。我らは、長尾家には臣従(しんじゅう)できぬ。だが、羽茂本間につけば、長尾家から攻められることはない。そして、羽茂本間は長尾家の家臣ではない。


「だが、我らは歴史ある揚北衆。急に主を変えることなど、上杉様やご先祖様に顔向けができぬ」


「……その上杉殿は、お主らに何をしてくれた?」

また童に痛い所を突かれた。上杉様は越後守護(しゅご)職。我らの主と言える存在じゃ。だが、所領を増やしてもらったり、褒美をもらったりしたことは、我らが領主となってからは一度もない。


「しかし!」

「いい加減『過去』に(とら)われるのは止めぬか? 俺ならお主らに褒美も出せる。領地の民を富ますこともできる。戦に共に出て、所領を増やし、家の名を高めさせることもできる。『今』を見よ。『未来』を見よ」


「……」


 この話を断れば、羽茂本間軍は揚北衆を皆殺しにするじゃろう。我らとてむざむざと殺されはせぬ。だが、未知の武器をいくつも持つ羽茂本間には、逆立ちしても勝つことは難しかろう。民も田も連戦に次ぐ連戦で疲弊しておる。戦う力は弱い。


「……我らの処遇は?」

「何も? 所領はそのままに。必要であれば佐渡で作っている『石鹸』や『清酒』の作り方をお教えしよう。さらに『じゃがいも』という新たな野菜を分け与えよう。非常に作りやすく、腹持ちのいい食べ物じゃ」

「おお、『石鹸』に『清酒』……!?」

「所領は認めてもらえるのか。それは有難い」

 黒川、新発田は心が傾いたようだ。疲弊した民は、我らの懐にも直結しておる。魅力的な提案にぐぐっとくるのも無理もない。


「ああ、ただ譲ってもらいたいものがある」

「……何でござろう?」

「新潟三津は羽茂本間が管理させてもらう。揚北衆が使う分には()料(港湾や船着場を利用する人や物資に課した通行税)を半額まで減免しよう。それと、新発田家が所有する『粟島』、そして胎内や新津の『臭水(くそうず)』(原油)が出るという所、新発田や村上の『亜炭』『石炭』が露天掘りできるという所じゃ」


 沼垂津が思うように使えなくなるのは痛い。だが、湊の改修や維持管理をしてもらえるのだから、津料を減免してもらえば有難い話だ。粟島は、確かに我が新発田家の所有する島じゃ。だが、小さな漁村一つで事が丸く収まるのであれば安いものじゃ。『臭水』は使い道が分からん。どうとでもなる。『あたん』『せきたん』……? なんじゃろう。だが、問題はあるまい。


「手伝い戦などは、いかが致そう? 長尾家に攻め入ることは?」

 これだけは聞かねばならぬ。話がうますぎる。言質を取っておかねば。


「長尾家に攻め入ることは、為景殿がいる限りはない。それだけはハッキリしておる。手伝い戦に関しては、できれば参加してほしい。揚北衆の勇猛さは有名じゃからな。我らは『出羽国』に攻め入るつもりじゃ。攻め勝てば、所領や恩賞もたっぷりと渡すことができる。もちろん、参加しないのも構わぬ」

「……厚遇すぎますが、『今だけの話』、ではありませぬか?」

「書状も用意しておる。あとはお主らが署名するだけじゃ。問題はないぞ?」


 そう言うと、本間照詮は奥から人数分の書状を持ってきた。「所領安堵」「津料減免」「手伝い戦は参加の是非を問わず」「『石鹸』『清酒』の作り方伝授」と記されておる。ん? 「期限は天文十二年までとする」?


「一応、期限を区切らせていただいた。五年間じゃ。もちろん、更新してもらうつもりじゃ。だが何が起きるか分からん。そのための期限じゃ」

「念入りなことですな」

 

 何から何まで準備済みか。我らの懐事情や戦力状況も知っておるようじゃな。

 どうやら署名するしかなさそうじゃ。


「分かり申した。我ら揚北衆……」

「お待ちください!」


 (こうべ)を垂れようとしたその時に、(さえぎ)った者がいた。

 これまで沈黙を貫いてきた加地春綱(かじはるつな)だ! 


「佐渡守殿の軍門に下る前に、どうしても力試しをさせていただきとう御座います!」

揚北衆を取り込むまで、もう少しです。


引退して大学に通っている元女流棋士の竹俣紅さんは、揚北衆の竹俣氏の末裔なんだそうです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[気になる点] 第78話で、「マスケット銃もライフリング加工していないため曲がりやすい」と有りましたが、その後西洋ではマスケット銃の弾に改良を加えて、ライフリングを刻んだスラッグ弾と言う物を19世紀に…
[一言] 油田の原油を何に使うかはお考えがあるようですが、これを掘るには大変ですよ。 200mくらいの深さの手掘り油田を掘るのにだいたい200日掛かってます。 コスト抑えたいならば上総掘りの技術の開発…
[気になる点] 文中に出ていた村上は鮭でも有名だったと思います。 [一言] 揚北衆との対面、まさに飴と鞭を上手く使い分けているな照詮は(笑) あと一息で連中の心を掴むと思ったら・・・。 さてさて・…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ