表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「佐渡守」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/254

第七十四話 ~黒小灰蝶~

<越後国 頸城郡 直江津郊外 館>



 宇佐美定満から「蟻」と問われた。


 「蟻のように戦え」という(たと)えであれば、地道にコツコツと努力を重ねろということだ。しかし、蟻のように真面目に働いていても、ひっくり返されることがある。なるべくならそれを避けたい。逆を言えば、「蟻のようになるな」「蟻を使って戦え」ということも想像できる。「蟻」を使って、いや、「蟻」と共存共栄(きょうぞんきょうえい)して利益を得るモノ・・・? 共利共生(きょうりきょうせい)・・・


黒小灰蝶(クロシジミ)、か?」

「・・・もしくは油虫(アブラムシ)、ですな。お見事です」

「おお!」


 クロシジミという蝶は、幼虫の時にクロオオアリと似た匂いを出し蟻の巣へと運ばれる。そして、天敵の鳥や虫から守ってもらいながら蟻から食べ物を貰って成長する。代わりに、クロオオアリのために尻から甘い蜜を出す。(さなぎ)になっても匂いが残っているため襲われず、最後には成虫となって蟻の巣から飛び立つ。


 イソギンチャクとクマノミ、ナイルワニとナイルチドリ。互いのリスクを補い合う共存関係を築くか。国語の教科書か何かで読んだことがあるな。


「俺が出せる甘い蜜と言えば、銭か酒か干物とかか。『蟻』にあたる国には他国をどんどん攻めてもらう。そして最後には俺が羽ばたく、か」

「好みが分かれるところですが。安全に力を蓄えられましょう」

「嫌いではない」

「では、黒小灰蝶の幼虫となられますか?」

「・・・そうだな。それが良さそうだ」


 虚ろな瞳だった宇佐美定満だったが、俺の答えを聞くと急に魂が吹き込まれたかのように目の輝きを取り戻した。まるで、蛹が蝶へと羽化するかのように。


「儂にも、まだやれることがありそうです。これまでの御無礼、お許しくだされ! この宇佐美駿河守定満。これより佐渡守様の忠実な僕となり申す!」

「おおっ、そうか!」

 どうやら定満のメガネに適ったようだ。これで、右に宇佐美定満、左に山本勘助。「車懸(くるまがか)かり」に「風林火山」だ! これは凄いぜ!?


「具体的な話をしよう。俺の『(しょく)』はどこになる?」

「どこと言えば『海』と答えましょう。『三津七湊(さんしんしちそう)』と呼ばれる港の日本海側を抑え、日本海の利を十二分に得ることができれば、力は(おの)ずと貯まりましょう」

「ならば『能登国(のとのくに)』の『輪島湊(わじまみなと)』を落とすか?」

「よろしいですな」

「さらに、『出羽国(でわのくに)』の『土崎湊(つちざきみなと)』、『陸奥国(むつのくに)』の『十三湊(とさみなと)』もか?」

「よろしいでしょう」

「これではまるで、海賊だな?」

「似たようなものでしょう。陸か海かの違いに御座る」


 日本海側の、主要港を抑える。十三湊を抑えれば北の昆布や鮭、(にしん)(あわび)といった魚介類に加え、熊皮、熊胆、鷹、ラッコの皮、オットセイの皮、白鳥、鶴、真珠なども手に入るだろう。

この時代の主な交易ルートである日本海を抑えれば京や南の国々は干上がる。向こうが折れて嫌でも力は手に入る。


「佐渡はそれらの湊の中心。管理するにも便利だ。だが、湊は落としても、それを維持するには周辺の陸地が必要だろう?」

「維持するためにも必要ですな。故に、能登国、出羽国、陸奥国の北西部を取りましょう。」

「京は、当面は目指さぬ、でよいな?」

「我らは黒小灰蝶。京は、働き者の蟻に任せましょう。京を取ればあまりに目立ちすぎます。諸国から狙われ、翼を折られましょう」

「『魏』と『呉』となる国に任せるか」

「ですな」


 戦国大名は、皆、京を目指した。信長が抑えて脚光を浴びたのは有名だし、今川義元が桶狭間で討たれたのは上洛の途中だったと言われている。武田信玄も、上杉謙信も京の都を目指した。

それは、京こそが文化の中心で、将軍家や朝廷を護ることに繋がる為だ。お墨付きをもらい、他大名を賊軍とすることができる。また近隣の近江の米市場・塩市場、淀港の魚介市場などを吸収でき利益も大きい。建築や造船、鋳造技術なんかも今の日本では突出しているが、これは南蛮人の力を迎え入れている俺の方が数段、いや、十数段上だ。


「外交を通じて、有力な『蟻』と友誼を固く結ぼう。そして『蟻』に俺の力の及ばぬ地域で覇を唱えてもらい。俺は俺の目指す土地を得ることにしよう」

「佐渡守様は『蟻』の目星はついておありですか?」

「ああ。『織田弾正忠家』と『武田家』だ。それと『毛利家』かな?」

「・・・千里眼ですな。これから大きく育ちそうな『蟻』ばかりですな」


 大きくなる戦国大名は、大体分かる。

 ゲームじゃ1560年の桶狭間からスタートが多かったからそれ以前はあまり自信はない。

 だが、織田信長と武田信玄、毛利元就と組めば、俺の天下統一の仕事は1/4くらいまで減るだろう。うんと甘い蜜をやらねばなるまい。だが、与えすぎては喰われることに繋がりかねん。程々という匙加減が必要だな。北条家や三好家、長曾我部家や島津家も視野に入れる必要がある。


「攻めるための大義名分はどうする?」

「『欲しいから取る』でよろしいでしょう。ですが、後から『悪政に苦しむ民を救うため』『誹謗中傷をされた』など、如何様にもでき申そう。まずは文などを出してはいかがですかな?」

「『属国になれ。さもなくば攻め込むぞ』か。沢山やったなあ」

「ほほ? 経験がおありで?」

「ん? んん、独り言じゃ。ごほごほ」


俺はわざとらしく空咳をした。面倒なことになるからな。

 能登を治めているのは畠山家か? 出羽の北は安東家だったか?

 悪いが乱世の習いだな。早速、白狼や黒蜘蛛を使って情報収集をしよう。攻めるときは柏崎水軍の力も必要だな。新人に声をかけておこう。


 すっかり目を見開き、天下の(はかりごと)を考える楽しみに打ち震えているような様子の宇佐美定満。三顧の礼を尽くした者だ。大切にしていこう。


「揚北衆への対応の策もあろうな?」

「ははっ。幾重にも策を練りましょう」

「うむ! ではこれより、お主の命、俺が貰い受ける。よいな?」

「ははっ! 一度捨てた命、惜しくはありませぬ。存分にお使いくだされ!」


 孫と祖父ほどに年の離れた定満と手を繋いだ。

 俺の孔明のおかげで、ここ数年の道筋は立った。俺は、芋虫になる覚悟ができた。だが、(いず)れは蝶となろう。日本中を包み込むような、大きな羽を持った蝶へと。

三津七湊

挿絵(By みてみん)

wiki様より抜粋。

佐渡を中心として、各方面へ力を伸ばしていきます。


今川義元の上洛について

「今川義元が桶狭間で討たれたのは上洛の途中だった」と言う説は昔の定説ですが、最近では普通に尾張に攻め入ったのではないかという説が有力のようです。ですが、本作では上洛途中とさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。安芸・備後・石見の盟主という地位を手に入れていたということで、既に大内傘下の中ではかなりの成長株ということですか。それなら、定満が諸国の情報を集めていれば、おかしくない反応ですね。…
[良い点] いかにも海洋勢力志向で楽しみな展開です。ありがちな信長をなぞるのとは違うルートが見られそうです。 さすがに七湊すべてを一気に制することは出来ないでしょうから、どこから手を付けるかが見どこ…
[一言] 水軍で日本海側どこにでも短時間で兵運べるから距離はあまり関係ないからね 戦国時代は日本海側の港の方が交易も盛んで発展してるからそこを抑えたら莫大な利益だよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ