第七十話 ~誓い~
お待たせしました(*´ω`)
第七章「佐渡守」開幕いたします。
<越後国 頸城郡 直江津 越後屋本店>
「小鬼はん・・・ いや、佐渡守様! ご立派になられて!」
「蔵田のおっさん、こそばゆいぞ。いつも通り『小鬼』でいいぞ?」
「いえいえいえ! あきまへん!」
大きなおでこをブルブルと振る越後屋の主人蔵田五郎佐。初めて会ってから一年ほど経っていた。最初は村長、次は領主、そしてあれよあれよで佐渡国国主で佐渡守だ。「人を見る目がある」と自分で言っちゃうおっさんだったが、本当だな。それを裏付けるような俺の出世よな。
「度々、弓やら槍やら人やら送らさせていただきましたよって! いかがでしたでっしゃろ?!」
「言葉にできないな。『感謝』という二文字では」
「おお!?」
「特にこの『銅鑼』は戦場で愛用させてもらっている」
俺が戦場で采配を伝えるための銅鑼は、今じゃ羽茂本間軍のトレードマークだ。法螺貝のブオォ~という日本人なら誰しも出撃したくなるような響きほどカッコよくはないが、肺活量も力も無くてもよく響く。今、これがなくなったら大変だ。
「またいい出物が入りましたら、お届けいたしますよって!」
「助かる。それと、清酒、ビール、石鹸、干し柿などの売れ行きはどうだ?」
「そらもう! 飛ぶように売れまくってますよって!」
「ほう!」
販路の広い越後屋には、佐渡の新交易品を広げるのを手伝ってもらっている。朝廷からのお墨付きのおかげもあり、口コミでその良さが広まっている。
「『ビール』はまだ慣れへん者が多いようでっしゃろが、これは流行りまっせ! 『せっけん』も国主や大商人などに絶賛されちょります! どうでっしゃろ? 我が越後屋でも作るのをお手伝いさせてもらえまへんか?」
「ん、それはまだだな」
「でっしゃろな! まぁ、待ってますよって!」
堺の商人には、佐渡の交易品は一蹴された。あそこはかなり特権階級意識が高いらしい。クソッ、見てろよ? 堺など比べ物にならんくらいの世界的交易港として、佐渡を発展させてやるぞ!
「塩作りも順調みたいですよって? 塩干し魚も信濃や甲斐などで大評判ですよって!」
「乾燥のいい方法ができたからな。イカ干しなんかも作ってる。佐渡の消費量を遥かに上回る数が作れているのでな。空海屋を使ってもさばき切れん。今後とも頼むぞ」
「承知しましたよって!」
「代わりに、武具や人、米、技術などをどんどん佐渡へ回してくれ!」
「そらもう!」
港町をドライブした頃に見た、魚とかイカとかを干している回ってるやつ(名前は分からない)をヒントに、俺は戦国の世でも風力でクルクル回る干し機を開発していた。ハエも付かないし、効率よく乾燥できる。丸い洗濯バサミみたいな構造だが、思いのほか役に立っている。
佐渡の農業開発も同時進行中だ。
佐渡の中心に位置する国仲平野は、高い山から流れる国府川の豊富な水量により、非常に優れた稲作地帯だ。食糧自給率の確保を目指す農地開発のため、人はいくらいても足りない。東側の加茂湖ではエビやフナ、鴨などを取る人が足りていなかった。加茂湖は「牡蠣が獲れる」と思ったら獲れなかった。完全な淡水湖で、冬には凍結もするし意外だった。あれ? 汽水湖じゃなかったけ?
それと、世界有数の金銀の埋蔵量を誇る相川の金銀山の開発にも着手したい。灰吹き法や採掘法の入手、実用化も急務だ。
「今日は信濃守様への御挨拶ですよって? えらく大勢おりますな?」
「ああ、そうだ。先の三分一原の戦いの褒賞をようやくもらいにな」
「おおお! それも聞きましよって! 大活躍でしたよってな! 武名も越後中に轟きまくりですよって! この越後屋蔵田五郎佐、佐渡守様との末代までの付き合いを誓いますよって!」
「さすが、あいの照詮はん。あ、佐渡守はんやった!」
いつの間にかサチも奥からやってきてた。派手な真っ赤な小袖を着て、白い頬に紅を差し、まるで嫁入りだ。
それを目ざとく見つけ、指を突き立てた娘が一人。
「あぁ!! ついにでたな、どろぼう猫! 照詮はうちのもんだっちゃ!」
「えっ? どなたですやろ? 初対面なのに無遠慮ですやわ~」
遂にレンとサチが出会ってしまった。レスリング選手のような野獣の眼差しのレンに対し、サチは良家のお嬢様らしく上品に対応している。しかし、片手で口元を押さえた微笑みとは裏腹に、サチからはギラリと光る敵意の眼光が発せられている! 見えない火花がバチバチと音を立てる!
「う゛・・・」
見なかったことにしよう。気にしない気にしない。平常心、平常心。
「・・・そういや越後屋。環塵叔父が着物の仕立てを頼んでいたようじゃが?」
「はいはい! 出来てますよって! お着換えくだされ!」
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俺はガルルと吠えるレンとオホホと笑うサチを放っといて、奥の間で手伝ってもらいながら、国主っぽい重厚な着物に着替えた。
明から取り寄せた紺地の絹布地を用いて、金糸で紋を縫い付けた「紺地金糸大紋直垂」だ。これまた息を吹きかけるのも躊躇われるような着物だ。烏帽子も一緒で何とも荘厳だ。冬の入りかけだが、厚着のため思いのほか暖かい。
縫い付けてある紋はかなりカッコいい。真ん中に星が光ってるような感じで、四方は草かな? ギザギザになってる。
「環塵叔父。この紋は?」
「ああ、我が家の家紋だっちゃ」
「見たことなかったが?」
「隠しておったからな」
環塵叔父が京から戻ってきてから、何だかおかしい。
飄々とした感じが少なくなり、代わりに思いつめたように考え込むことが増えた。それに、いつもの無精髭を、最近はすっかり綺麗に剃っている。
あれかな? 美人の妙恵おばさんを奥さんにしたからかな?
「何という紋だ?」
「『抱葉菊』だっちゃ。男子の儂が、一応の本家じゃ」
「ふうん?」
どっかで見た気がしたが、まあいいか。
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支度を終えて店の表に出ると、レンとサチがまだガルガルとやっていた。
「ウチは、生まれた時から照詮と一緒だったっちゃ! 一緒に住んでるっちゃ!」
「あらあら。『近すぎると良さが見えぬ』と言いますえ。お可哀そうに。 ・・・レンはんは、照詮はんと文を交わしたことはあります?」
「・・・ないっちゃ」
「ほほ、それはそれは! あいはもう十も文を交わしておりますえ? これはもう恋人ですえ?」
「キー!! う、う、うちなんてもう、照詮と同衾したっちゃ!」
「な! 何ですって!!?」
……タイミングは最悪だ。
しかし、そんなことは気にしてられない。俺は国主の正装姿で女の戦場に割って入った。
キッ! と両方に睨まれたが、俺のいで立ちを見て二人とも止まってくれた。流石にそれくらいの分別は二人ともあるよな。
「照詮、素敵!」
「照詮はん……凛々しさを通り越して、神々しく見えますえ」
俺は今日、あることを決意していた。気恥ずかしいが、長尾家との面談の前に、これだけは聞かなくてはならない。しなくてはならん。
「レン、サチ。二人に聞きたいことがある」
「なんだっちゃ?」
「何ですやろ?」
「・・・二人とも、俺を好きか?」
恥ずかしくて言えない言葉だが、敢えて聞く。
二人はキツネにつままれたような顔をしたが、真剣な俺の表情から、俺の決意を読み取ったようだ。
「当たり前だっちゃ・・・」
「あい」
二人から返事が聞けた。あとは俺の方だ。
レンに身体を向ける。
「レン。幸せな時も困難な時も、健やかなるときも病める時も、俺と一緒に歩んでくれるか?」
「も、もちろんだっちゃ!」
「・・・分かった。俺もレンに誓おう。共に歩んでいこう。世界の果てまでも」
「う、うん」
俺はサチの方に身体を向けた。
「サチ・・・ 俺はお前の細やかな気配りが好きだ。だが、二番でもいいか?」
「・・・あい。照詮はんの傍にいれるなら、二番でも三番でも」
「ありがとう。俺も好きだ、サチ」
誓いは終わった。俺は春日山城へ向かうぞ。
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<越後国 頸城郡 直江津 春日山城 評定の間>
春日山城の評定の間では、長尾家の重臣達の中、国主、武官位、叙位、祝勝という祝賀友好ムード一色だ。今までは入れてもらえなかった弥太郎も、環塵叔父と一緒に参加させてもらえている。
「いやはや! 『佐渡守』の武官位だけでなく、『従五位下』の叙位とはな! 四十も離れておる儂と肩を並べるとは! これはゆくゆくは従一位か関白か?!」
「はは。買いかぶり過ぎで御座いましょう。為景殿こそ、関東管領職がお近いのでは?」
「まあ、順当に行けば山内上杉じゃろうがな。朝廷への働き次第ではその動きもあろう。だが、重要なのは肩書ではない。そうであろう?」
「全く、その通りで御座います」
乱世の奸雄、従五位下長尾信濃守為景。肩書に囚われず、実を取ることの重要性をしっかりと把握している。この者がいる限り、越後は長尾家の天下であることは間違いない。
「所望しておった、宇佐美駿河守定満。直江津郊外の屋敷で蟄居中じゃ。佐渡守殿のお好きにするがよい」
「はっ」
「更に先日、揚北衆に急襲され討ち死にした本庄実乃の嫡男、本庄 秀綱を佐渡守殿にお任せしたい。有能な若者じゃ」
「はっ」
「それと、蒲原郡の西部。佐渡守にお譲りいたす。信濃川左岸の微高地にある砦を改修した新潟城が主城となろう。受け取っていただけますかな?」
「はは。謹んで」
為景はダンディーな髭をなぞりながら、ニヤリと笑った。
サクサクと事務手続きが終了していく。
宇佐美定満へは、この話が終わったら直接向かおう。三顧の礼となるな。
本庄秀綱か。ゲームじゃあまり記憶にないが、有用な人物だといいな。
蒲原郡西部。情報は少しは聞いているが、大変な所だ。
何せ、西南に長尾家、北東に揚北衆。間に挟まれた完全なる緩衝地だ。敵対心を燃やす二つの勢力の間にボンと放り込まれた。長尾家からすれば防波堤。揚北衆からすれば、鉄砲玉が飛んできたようなモンだ。早急に手を打たねばならん。
「ところで、じゃ」
いよいよか。為景は間を十二分にとって重要案件を切り出そうとしている。
俺も意図することは分かっている。答えも用意してある。そして、その後にどうなるかは分かっているつもりだ。
「佐渡守殿。伸び伸びになって申し訳ない。前々から話はさせていただいていたが、本日ようやく正式な願いをすることになる」
長尾家家臣団の柿崎景家、直江実綱、中条藤資ら重臣達、それに長尾家嫡男の長尾晴景。それらを前にしての正式な言葉だ。
「羽茂本間佐渡守照詮殿。佐渡国を統一されたご手腕、お見事でござった。我らの手で越後と佐渡を共に安寧に導きましょうぞ。そこで、長尾家と羽茂本間家の絆を深く結びつけるため、我が娘、綾姫と莉奈姫を、娶ってはいただけぬだろうか?」
スゥーっと息を吐いた。
「……為景殿。御申出、身に余る光栄に御座います」
ホッとした評定の間の空気。融和モードが継続される。
だが、俺はD〇Ⅴだとビア〇カ派だ。青髪で金持ちの娘の「フロー〇」もいいなと思ったこともあるが、三回やって三回とも幼馴染を裏切れなかった!
「綾姫、莉奈姫との婚礼の儀。謹んで『お断り』させて頂こうと思っております」
のっけから大事になりそうです。
国仲平野については、「図説佐渡島歴史散歩(児玉信雄ほか)」より抜粋。いい稲作地帯です。
加茂湖は今では汽水湖として牡蠣の養殖が盛んですが、水害予防と船溜まりのために湖口を開き、両津湾とつながったのは1904年(明治37年)と思ったより最近でした。詳細については「佐渡広場」様のHPを参照させていただきました。そのうちお茶栽培をしようかな。
資料となる本の取り寄せをしているのですが、コロナ禍のためかなかなか届きません。ですから手持ちの物だけで進めさせていただきます。後からコソっと訂正するかもしれませんが、ご理解いただけますと幸いです。




