第六十八話 ~佐渡国統一~
<佐渡国 羽茂郡 羽茂城 評定の間>
もうすぐ稲の刈り入れの季節となろうとしている頃、京へ行っている環塵叔父から文が届いた。何と言うか、「凄い」としか言いようがない内容だった。
椎名則秋、山本勘助、弥太郎、長谷川海太郎など、要職の皆が並んで待っている。
「皆、聞いてくれ。環塵叔父からの手紙の内容じゃ。…… どうやら俺は、勅許を得て、正式に『佐渡守』になったみたいだ」
「「おおおお!?」」
皆が驚いてくれる。うん、嬉しい。何が嬉しいかって、皆が喜んでくれるのが嬉しい。まさかこんなに簡単に認めてくれるなんて思ってもみなかった。やってみるもんだな。だが、驚くのはまだ早い。もう一つの報告がある。
「加えての報告じゃ。『口宣案』と『宣旨』と『位記』ってのを後から環塵叔父が持ってくるようなんじゃが…… 俺はさらに『従五位下』にも任ぜされたようじゃ」
「「えええええええええ!?」」
まさかの叙位だ。
そりゃ、砂金も貢物も多めに持っていったが。まさかあっという間に名目上の「公家入り」を果たすとは思わなかった。まあ、紙切れ一枚のことだし、献金で大内氏が国主より上の大宰大弐に任ぜられたとか聞くし。犬でも猫でも金を積めばもらえる時代ってことよな。
「……何というか、驚天動地と言いますか。いや、言葉もありませぬ!」
「よがっだ」
「主殿、いや、佐渡守様。真に御目出度う御座いまする!」
「「御目出度う御座いまする!!」」
ああ、うん。恥ずかしい。いい男は何も肩書がないのがカッコイイと思うんだが。
レンはぼーっとしてる。よく分かっていないようだ。うん、俺もそうだ。
辻藤左衛門信俊は叔父の功績を称える。
「環塵様のご手腕、真に素晴らしいですな! 『佐渡守』だけでなく、『従五位下』の叙任までまとめてくるとは!」
「うんうん。環塵叔父は凄いわ。妙恵おばさん、ありがとうな」
「何をおっしゃられます。佐渡守様の叔父上が素晴らしいのですよ」
よし。これで「名」も「実」も条件は整った。もう正式に言ってもよかろう。
実質はそうなんだが、まだ言ってなかった。
「では、従五位下羽茂本間佐渡守照詮が宣言する!
……我! 佐渡国を統一したり!!」
「ははっ!!!」
成し遂げた!
転生しておよそ一年。荒れ狂う佐渡国を、俺のこの手で一つにまとめることができた!!
ブタに殴られ、斎藤に嵌められ、生死をさまよったこともある。だが、佐渡の地が俺を助けてくれた。内政に尽力した。環塵叔父、直江津の蔵田のおっさん、弥太郎、則秋、天室光育師、虎千代様、そして多くの者達との出会いが支えてくれた。『世の事を知り、地の広さを感じ、人の輪を広げる』という言葉通りだ!
……チンギス〇ンとかなら、「佐渡国統一イベント発生!」とかで能力値がピコンピコンと上がりそうなもんだけど。流石にそういうのはないな。
「もう一つ、文が届いておる。越後の長尾為景殿からじゃ」
「おお!? 何と?!」
これが曲者なんだよな。
「『先の戦の論功に報いるため、<宇佐美定満の身柄>と<西蒲原郡>の地をお譲り致す』と書いてある」
「おお! 西蒲原郡! 信濃川と阿賀野川に挟まれた、水利のよい場所で御座いますな!」
「そう。水利はいいんだ。稲作も盛んであろう。…… だが、『場所』が問題だ」
流石、奸雄為景。やってくれたな?
俺の頭痛の種を増やしてくれたわ。
「あと…… 『綾姫』と『莉奈姫』との祝言を前倒ししたいって書いてある・・・」
「おお、おめでとうございま」
バン!
「何だっちゃ!? 祝言!? どういうことだっちゃ!?」
「ショウセン…… 『しゅうげん』って?」
板間が割れんばかりに掌を叩きつけたレンは、今にも俺に飛び掛かってきそうだ。ナーシャは何かオドオドしてる。
これまた頭が痛い。胃も痛い。まだ十にもなってないのにハゲそうだ。ハゲ上がりそうだ。
佐渡国の統一。俺の野望の第一の目標であった悲願。ようやくこれを達成できた。だが、これで終わりではない。まだまだ先は続く。虎千代からの手紙も届いている。佐渡国の領内巡りもせねばならん。越後の領内の統治も進めねばならん。そして、天下も、世界も……
ああ、ビールが飲みたい。早く大きくなって、枝豆と一緒にビールを浴びるように飲みたい!!
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<越後 頸城郡 直江津 春日山城>
「納得いきませぬ! どうして姉様だけでなく私もですの?」
「莉奈姫様。お控えくださいませ・・・ 信濃守様の御言葉で御座いまする」
女中頭のお松は頭を抱えた。本当に、お転婆姫の莉奈様には手を焼く。確かにご母堂様は違えど同じ為景様の姫様。お二人を輿入れさせてまで縁を持たせたいとは。為景様にとって、そこまで価値があるものであろうか? あの照詮という子どもに。
「莉奈。戦乱の世の婚儀とは、家同士を結ぶもの。決して我儘は許されません。それに、羽茂本間照詮様はお若いながらにして『軍神』『弘法大師空海様の御生まれ変わり』と称される御方です。先日は佐渡国を御統べになられたとか。とても素晴らしい御方ですのよ?」
「佐渡なんて、流人の島ですわ! 私は絶対に行きませんわ!」
駄々をこねる莉奈。相変わらずの分からず屋だわ。
「あら、そうですか。なれば、私だけでも嫁ぎに行きますわ!」
「えええ?!」
お転婆姫のあんぐりと開けた口を見て、綾姫は嫋やかな笑顔をお見せになられた。
もうすぐ十になられる。見目麗しい御髪、すらりとした御姿。弟君の虎千代様と並び立てば、それは美しい錦絵となられるような御方。
果たして、どのようになりますことやら……
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<山城国 京の都 御所 ???>
まさか、またここに来ることになろうとはな。
堅苦しくて権威の塊のような場所じゃ。一刻も早く出たいが、そうも言ってられぬか。
案内されたのは香の匂いが立ち込める豪奢なとある一室。姿は見えぬ御簾の奥から、軽やかな声が響いた。
「…… 久しいな。岩倉宮」
「…… はて。どなたのことやら? 某、佐渡国の坊主、本間環塵で御座る」
ほほほ、と独特な笑い声が響く。御簾が上がった。青鳩色の袍。冠に飾太刀。菊花紋。中からはやはりという人物が現れた。
「ふっ。相変わらずじゃのう。尊忠義兄。同じ血を引く者同士、また『なぞだて』『歌合せ』などしてはくれぬのか?」
変わらない。いや、十数年以上昔に比べればさすがに互いに年をとったか。
「…… さてさて。いつになりますことやら」
「『紅の糸、腐りて虫となる』・・・これいかに?」
「…… 『虹』に御座います。お戯れが過ぎますぞ、知仁様。いや…… 帝」
~ 第六章 『轟襲滅進』 完 ~
これにて第六章、終えさせていただきます。
佐渡国統一、果たせました!! 読者の皆様に深く感謝申し上げます。
統一の余韻も束の間。第七章では、さらに世界が広がっていきそうです。
相変わらず知識も文章力も足りませんが、応援して下さる皆さまの為に、楽しんで書いていきたいと思います。今後とも「佐渡戦」をよろしくお願いいたします。




