第六十三話 ~静平の戦い「三」 黄昏~
<佐渡国 羽茂郡 西三川 静平>
大乱戦となった。
黒色長槍隊は前に進みながら、決死の覚悟で向かってくる敵を相手に優位に戦った。
だが、混戦となれば相手の猛者が繰り出した槍や、組み打ちの小刀で、命を落とす者が出た。
相手方の弓に、倒れる者もいた。
しかし、
相手方は二百弱、こちらは四百以上。
槍の長さ、防具の質、筋力、組織力の差が物を言った。
相手方の決死の覚悟に怯む場面も見られたが、多勢に無勢。次第にこちらが取り囲み、優勢がはっきりとしてきた。
一番大きかったのは、西三川の守備をしていた仲馬おじ、赤塚直宗達が城から討って出たことだった。戦の流れをしっかりと読み取り、「ここぞ」という時に門を開け、河原田本間軍の背後を突いた。
勝負ありだった。
河原田本間の手勢が二十を切ったとき、相手本陣に動きがあった。
・・・領主、河原田本間の貞兼が、腹を斬った。
「羽茂本間の小僧に、この首は獲らせぬ!」
とでも言ったのだろう。
その後、河原田の残った十数名が、脱兎の如く河原田方面へと散り散りになって駆け出した。
その内の一名が首を持ち、河原田本間の獅子ヶ城に運ぼうとしたのだろう。
逃げる河原田。
追う羽茂。
危うく首を領地に持ち帰られそうになったが、抜群の身体能力でそれを止めた者が2名いた。
弥太郎と、仲馬おじだ。
弥太郎は軽々と数名に追いつき、短刀で次々と首を刎ねた。仲馬おじは家老職とは思えない動きで相手にタックルをかけて止めた。
結果、仲馬おじが止めた者が、敵方大将河原田本間貞兼の首を持っていた。
俺は、ひたすらに叫んでいた。
叫んで叫んで、声が枯れて出なくなっていた。
思い返せば、俺はこの戦で何かを得たが、何かを失ってしまったのかもしれない。
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<佐渡国 羽茂郡 西三川 西三川城 領主の館>
「はい、照詮。お水だっちゃ」
「あり、が、とう。レン」
俺は擦れる声でレンが渡してくれた木の椀を受け取り、入った水をゴクゴクッと飲み干した。干からびた喉に、体内の隅々に、水分が行き渡るような感じがした。
・・・長かった。
三分一原の戦いは、あっという間だった。
大砲を打ち込み、襲い掛かってくる敵を迎え討ち、進軍して蹂躙。
だが、静平の戦いは、壮絶な乱戦だった。
こちらも二十数名ほどの犠牲者を出した。白兵戦なのだから、この程度で済んだと考えるべきか。相手方を二百弱も倒したのだ。大勝利と言っていい。
「うおるふと、宗勝が頑張ったっちゃ!」
「おお、そう、なのか」
「大砲の弾不足を砂利飛ばしで補って、攻めてくる相手方をこらしめたっちゃ! 宗勝も河原田をバーン! バーン! と撃ちまくっておったで!」
デミ・カルバリン砲を撃つ弾として、ぶどう弾ならぬ砂利弾を今回は用いた。
フレシェット弾は、樹木の生い茂った今回の西三川城の防衛戦には不向きだった。その点、砂利ならため込んでいたものがたくさんあるし、ばらけて広範囲に効率よくダメージを与えられる。質量的にも効果的だ。欠点は飛距離が伸びないことだが、城に肉薄する敵からの防衛戦であれば非常に有効だったようだ。
「おぶりがーど、ヴォルフ」
「アリガとうございます」
目立たない存在だった水越宗勝も、銃という新たな武器を手に入れて一皮剥けたようだ。南蛮船により、アルケブス銃、さらにその上を行く新式のマスケット銃を手に入れることが現実味を帯びてきている。まだ佐渡内で製造はできないが、その素地を作っていくためにも、宗勝の役割は特に大きなものとなりそうだ。
「よくや、ったぞ、宗勝」
「・・・はっ!」
「今回の活、躍、素晴らしかった、と聞いた。以後、鉄砲隊の、隊長を任ずる。励め」
「! ・・・恐悦至極に御座る」
息も絶え絶えな俺を見かねて、環塵叔父や仲馬おじが心配する。
「照詮。戦は終わったんじゃ。そろそろ羽茂城に行って休むっちゃ」
「おらも、この一両日は眠れなかったっちゃ! 戦とはこわいもんじゃのう・・・」
そうしたいところだが、俺は総司令官としての役割がある。しっかりと任を果たしてからでないと、休むに休めん。
「環塵、叔父。・・・此度の、西三川、静平の、戦。論功、第一は、だれじゃ?」
「ん、そりゃ仲馬じゃな。西三川城の城主として城をしっかりと守りぬき、最後には城から討って出て河原田の背後を突き、勝利を確実なものにした。そして締めには貞兼の首を奪取じゃ。間違いなかろう。第二は、副将の赤塚直宗じゃろうな。副将として的確な策を出したようじゃ」
「お、おお?! おらが第一じゃか! たはー! 照れるべ!」
「仲馬おじ・・・ いや、仲馬。大役、見事だった。褒賞として、『この城を預ける。』 西三川城主として、ここを治めてくれ。」
「え゛え゛っ!? おらがか!? おらが城持ち!?」
目を皿のようにして驚く仲馬おじ。ナイスリアクションだ。
きっといい領主となって、付近一帯を治めてくれるはずだ。
「直宗。策略、見事で、あった。以後、軍略方、次席を任ずる。軍略方筆頭の勘助と共に、俺を助けてくれ」
「・・・殿は誠に『報恩謝徳』の御方ですな。某、感服いたしました。非才ならがらも全力を尽くします。よろしくお願いいたしまする」
論功行賞は大事な大将の役割だ。
命を張って尽くしてくれた者へ、礼を尽くすのは当然だ。
慣れない仕事だが、慣れていくのだろうな。幾千の屍を乗り越えながら。
西の空を進んでいた太陽が、日本海へと沈んでゆく。
夕暮れ時。 ・・・黄昏時だ。
河原田本間は、この静平の戦いに、ほぼ全ての戦力を投入していた。
小出しではなく、持てる力の全てを用いて。そして、敵の主力がいない好機を狙って。
・・・だが、俺の敵ではなかった。
佐渡国の中で隆盛を誇った、河原田本間氏の黄昏だ。
陽はまた昇るが、河原田本間氏の陽は、二度と昇らない。
「・・・南無大師、遍照、金剛。」
俺は、失われた兵、農民、さらに敵だった河原田軍と、その当主河原田本間佐渡守貞兼のために短く経を唱えて、西三川静平の地を後にした。
静平の地は漸く、名の通りの静けさを取り戻したのだった。
河原田本間佐渡守貞兼、死去。
この一戦で、佐渡国のパワーバランスが、主人公へと一気に大きく傾きました。
残すは、惣領家の雑太本間氏です。




