第六十一話 ~静平の戦い「一」 凸凹~
<佐渡国 羽茂郡 西三川城>
~三分一原の戦いと同日~
領主羽茂本間照詮と、守将椎名則秋の命を受けた四名、久保田仲馬、赤塚直宗、水越宗勝、ヴォルフハルトは、百数十名の手勢と共に西三川城で待ち構えていた。
「本当に来るかのう? 河原田本間は?」
「黒蜘蛛の手の者が知らせに参った。半時(1時間)以内には見えてくるはずで御座る」
「デミカルバリンほう、じゅんびできてマス」
現在、羽茂城は家老の椎名則秋が、僅かな手勢十数名のみで守っている。
それ以外のほぼ全ての戦力が、ここ西三川の城へ集められていた。
「『二日間。二日間だけ耐えてくれ』と言われちょる。『でみかるばりんほう』を二本と、『あるけぶすじゅう』を五本、あずけられてあるっちゃが。・・・ほんに、大丈夫かのう?」
西三川城の総大将を任されたのは、数か月前まで農民だった久保田仲馬である。
娘のレンが城主の奥方候補筆頭ということで、あれよあれよという間に羽茂本間の家老職になってしまっていた。身体能力は素晴らしいが、学も無ければ刀の使い方もほとんど分からない。戦略の戦の字も分からない。そもそも、読み書きすら危うい、というよりできなかった。
「戦に関しては、某にお任せくだされ。河原田本間については、羽茂本間の中では某が一番詳しいと存じます」
それを補う副将として任ぜられたのが、先日の同じ西三川の戦において捕虜となり、羽茂本間の軍門に下った赤塚直宗である。幼少期から故事学問を身に付け、実戦経験は浅いものの、軍略については明るい人物だった。
「そ、そうだっちゃな。頼むっちゃ! お主がいれば千人力じゃ!」
「はは! 承知仕った」
仲馬の魅力は、自分の学の無さ、力の無さを隠そうとしないこと。そして、人好きさせる純朴な性根のよさだった。直宗も、はじめは「なぜ自分が副将」と訝しんだが、一両日共にいる中で、その心地よさを感じていた。これは、主君、羽茂本間照詮にもない魅力だった。
「河原田本間の貞兼様は、『有言実行』『一意専心』の御方で御座る。一度思ったことは、何が何でもやり通す御方。西三川の城を狙ったからには、意地でも落とそうとされることでしょう。備えは必要で御座います」
「そ、そうか! 戦は怖いが、頼まれたから仕方ないっちゃ・・・ お主と儂で力を合わせ、河原田軍を打ち破るっちゃ!!」
「ははっ! 総大将の仰せのままに!」
仲馬はビクビク震えながらも、さらに二人の侍大将格にも声をかけた。
「うおるふ、宗勝も頼むっちゃ!」
「おまかせくだサイ」
「あるけぶす銃の修練は十分。お任せあれ」
「うおるふ」と呼ばれたポルトガル人の通訳ヴォルフハルトは、デミ・カルバリン砲2門の射手として十名の兵を任されていた。剣の腕は全く駄目であるが、元軍人のヤルノには及ばないものの大砲に関して言えば、海賊相手に洋上で何度も撃ってきた経験がある。砲弾の数が若干心もとないが、秘策は有している。
椎名則秋の副将、水越宗勝は、数丁しかないアルケブス銃隊の隊長を命ぜられていた。適性が危ぶまれたが、冷静沈着な性格と鋭い眼力で、驚くほどの銃の才能を発揮してきていた。
敵を待ち構えている時に、仲馬はふと、昔を思い返していた。
「あの、泣き虫だった照詮が・・・ ここまでになるとはのう」
生まれたときから照詮を見てきた仲馬。
生活は苦しかった。死に物狂いで働きながらも、懐には残らず、二日間食べないのは当たり前。毎日を生きるので精いっぱいだった。
余裕のない日々。働けど働けど楽にならず。共に本家の奴らにいびられ、気づいたときには、照詮の両親は亡くなっていた・・・
「・・・わしらは、しがない分家の農民。どうすることもできん、と、諦めちょったんじゃ・・・」
暴行を受けて、生きるか死ぬかの瀬戸際となった照詮。
力になりたかった。両親を救えなかった罪滅ぼしに、世話になった家へのせめてもの償いに。
・・・息を吹き返した照詮は、そこから急に人が変わったように動き出した。
あれから半年。あれよあれよと言う間に、照詮は羽茂本間の領主に。わしは侍じゃ。
「わしはな、照詮。おんしの役に立ててうれしいんじゃ・・・」
優しくてどことなく品のある僧だった、おんしのじい様を覚えちょる。まだ裕福で念願の男子の環塵を、京へ修行に行かせられる家じゃったのに・・・
「戦は怖い。じゃが、本当に怖いのは人じゃ! かかってこい! 河原田め!」
「応ッ!」
凸凹コンビの城主と副将に加え、二軍のような戦力。しかし、仲馬を中心に、思いもよらぬほどの結束力が見られる西三川城だった。
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約四半時(30分)後・・・
「見えた。敵です」
遠目の利く宗勝が一早く発見した。
「どどど! どないするっちゃ!? 直宗!? すぐ撃つべか?」
「落ち着きくだされ。『心慌意乱』では、功少なくなり申す。一町(≒110m)まで引き付けてから、ヴォルフの大砲による強襲。その後、宗勝と兵達による銃と弓の攻撃が有効かと存じます。機先を取りましょうぞ」
「な・・・に? しんこ、いらん? 儂はつけもの好きじゃが・・・?」
「来ましたぞ!」
宗勝が叫ぶ。敵はもう二町ほどまで近寄ってきておる。大軍じゃ! 二百は越すじゃろう!
白刃を抜き梯子、攻城槌を用意して、一気に攻め落とすつもりじゃ!
嫌じゃ! まだ死ねぬ! レンの花嫁姿を見るまでは!
「う、う、撃つっちゃ! 直宗の言う通りに撃つっちゃ!」
「ハイ」
「承知」
総大将、仲馬の命を受け、デミ・カルバリン砲、アルケブス銃に火が入った。
うっかり耳を塞ぐのを忘れ、至近距離でその轟音を聞いてしまい、その後しばし卒倒する仲馬だった・・・
かくして、西三川城、その付近に広がる静平での戦の火蓋が切って落とされた。
宗勝に名字がないと不便なので、椎名則秋と同様に越中国神保家家臣、水越勝重の一族としました。
「心慌意乱」
あわてて心が乱れて、何がなんだか分からない状態のこと。
「心慌ただしく意乱る」と訓読する。そうです。
(四字熟語に関するWebサイトより抜粋)
書いていて自分で読み返していたら、
「あれ・・・私の物語、一話分が・・・長すぎ(;゜艸゜)??」
と思って、短く区切ってみました。
どんなもんでしょう?




