第五十七話 ~死戦の序曲~
お待たせしました(*´ω`)
<越後国 柏崎 上条城 評定の間>
「錚々たる面々ですな」
「いかにも」
上杉一門の上条定憲様が嬉しそうに呟かれ、御旗の越後上杉氏上杉定実様が満足そうに頷かれた。
揚北衆実力者の色部勝長様を中心として、中越下越の有力な国衆のほとんどが呼応して、この上条城の評定の間に集結している。
上田長尾房長様、竹俣昌綱様、鮎川清長様、垂水左衛門尉様、小川長資様、黒川清実様、安田長秀様、新発田綱貞様、五十公野弥三郎景家様ら。いずれも今回の反為景連合に加盟している国衆だ。
「そういえば、加地春綱の姿が見えんが」
「ああ。やつは為景から娘を正室にもらったとかで」
「ほっ、義理堅いの」
若いながらに勇将として名高い加地春綱はこの場にいない。揚北衆の中には、様々な理由から為景と共に上杉・上条に逆らった者も多い。しかし、今回は我らの味方じゃ。
「そろいましたな。ところで総大将ですが・・・どうやって決めましょうかな」
上条定憲様は自慢の長い顎髭をなぞり、芝居がかった言葉を口にされる。
「この度は、定憲様が皆に声をかけ申した。定憲様が務められるのが当然かと」
沼垂郡黒川城城主で揚北衆三浦党の一人、黒川清実が答えた。
「いやいやいや! 某など未熟者。ここは次期長尾家の棟梁として相応しい、長尾房長殿に務めていただくのが賢明かと」
「何をおっしゃいます!」
長尾家の親戚筋、上田長尾の房長様は大きくかぶりを振った。
「此度は、定憲様が『どうしても』と強く頼むので参陣してるのみで御座る! 為景に逆らうというよりは、圧力をかける程度のつもりで御座る! 総大将などもっての他で御座る!! 総大将は名門上杉家一門の定憲様をおいて他御座らぬ!」
「そうじゃそうじゃ」
「定憲様。お願い申す」
「そうですか。ならば致し方ありませぬな。某が総大将を務めさせていただきまする」
決まり切った総大将の座をもったいぶって決められた。「皆に担がれる」という手続きが好きな御方じゃ。
「先日の本庄氏への雷の如き夜襲! お見事でしたな。これで『為景に従う者は血祭になる』という思いが国衆の中に広がり申した」
「左様左様。某もあの夜襲の報が怖くて、参加したようなもの」
五十公野城城主の五十公野景家、安田城城主安田長秀がしみじみと話しかけた。
「いやはや、本庄実乃を討つ某の策。なかなかのものでしたでしょう! これにより我が軍の結束は固くなり申した。皆で一丸となり、増長する長尾為景を懲らしめましょうぞ!」
定憲様が鼻高々に仰られた。
・・・儂が進言した策じゃ。
定憲様は「そこまでしなくても」と二の足を踏んでらっしゃったではないか。本間の小僧の援助を受け、長尾家の力は急速に増しておる。「苛烈な策を取らねば我らの明日はない」と進言し、「失敗してもお主のせいじゃぞ」と仰られた。
「では、陣立てじゃ。上杉家伝統の『雁行の陣』を組み、我が軍の右翼から長尾家を打ち破って参りましょうぞ!」
なんと! それはいかぬ!
「お待ちくだされ! 長尾氏の戦の形は決まっております。魚鱗の陣を引き、柿崎景家を突撃させ、それに呼応して左右の兵を進めさせまする。ここは、鶴翼の陣を引き、突撃する柿崎景家を左右から押し込めば、猛将の景家を討ち取り、勢いを削ぐことが可能で御座います!」
「宇佐美定満・・・お主の頭の中では、そうなのじゃろうな」
定憲様は呆れ顔で儂を見た。重用されておらぬのは分かっておる。しかし!
「恐れながらッ!」
「聞け、定満。我らの右翼の敵、為景の左翼は、僅か七つの子が大将を務める羽茂本間の軍と聞く。そのような稚拙な軍を狙うのは必定じゃろう? それに奴を討てば、大層な額の金をくれるという者がおるでな」
「佐渡の羽茂本間照詮は油断ならぬ者です! 『てつはう』のような物を用意していると聞き及んでおります。軽く見るのはいかがなものかと! 加えて、軍が右翼に偏りすぎており、左翼への備えが薄すぎまする! このままでは左翼が崩され、右翼の横を突かれますぞ!」
ハァ
溜息じゃと!?
定憲様は大きく溜息をつかれた後、口を開かれた。
「定満。お主も年をとったのう。『てつはう』など音だけのこけ脅し。それに七つの子が率いる軍を、それほどまでに警戒するなど」
「いかにも」
「定満殿、お控えくだされ」
政実様、色部勝長様も同調された。儂が間違っておるのか?!
「揚北衆の垂水殿、小川殿。右翼の先陣をお願いいたしまする。五十公野殿、鮎川殿はそれに続いてくだされ。儂もその後ろを支えまする。羽茂本間の小僧の首を取ったあとは、ゆるゆるとお戦いなされ。定満。お主は柿崎景家と正面からぶつかるという名誉をやろう。そちらに集中しておれ」
「・・・柿崎軍の精強さは、越後国随一でしょう。某の軍、死にもの狂いで止めまする。ですが、某の軍のみでは堪えることは難しいかと存じます。何卒、兵をさらに五百ほどご支援を!」
「・・・定満。お主はこの期に及んでまだ儂の策を貶すというのか。見下げた者じゃのう。お主の軍のみで柿崎軍を止める。これは決定事項じゃ。下がれ」
「何と!?」
驚く儂を無視して、締めくくられるように、定憲様が言葉を発せられた。
「長い行軍で我らも疲れておる。我が軍の狙いは、為景に我ら越後上杉・上条家、加えて中越・下越の国人衆が反発していることを示すもの。三分一原は泥炭地で足場も悪い。佐渡の小僧の首のみを獲り、あとはゆるゆると戦えばよい。空も、我らの勝利を祝うかの如く快晴微風。勝ち戦となり申そう!」
「いかにも」
「では、皆様! 参りましょうぞ!」
ガヤガヤと話をされながら、一人、また一人と評定の間を出ていかれる。
戦を前に緊張感が足りない。
圧力をかけることが我が軍の主目的。じゃが、相手方は死に物狂いで討ちかかって来るやもしれん。いや、来るじゃろう。
我らは大軍ではあるが、長尾家の兵はそれを上回る大軍であるようだ。兵の多寡も見分けられぬとは!
一人俯き目を閉じ、評定の間に残された宇佐美駿河守定満。
主家を支え、自らの責を果たすことが武士の本分。柿崎とぶつかり、華々しく散る。それも良かろう。死に際こそが武士の華じゃ。小僧との三顧は果たせそうもないがな。
・・・だが、柿崎景家を孤軍で止めろと言われたことよりも、策を受け入れてもらえなかったことの方が大きい。最後の奉公と思い、何と思われようとも策を出したが・・・このままでは我が軍は大打撃を被るじゃろう。しかし、賽は投げられた。
・・・そして、小僧。
儂は全力で戦うのみ。敵味方じゃ。
お主の軍には、多くの兵が向かうこととなった。
お主が誠の『軍神』であるならば、この状況を打破して見せよ!
首を狙う、一千の敵を討ち果たして見せよ!!
目を見開き、焙烙頭巾をかぶり、宇佐美定満は立ち上がった。
その目には、一点の曇りもなかった。
<越後国 頚城郡 直江津郊外 三分一原>
「はじまりおったな」
環塵叔父が無精ひげをなぞりながら、のんびりと言う。
三分一原に長尾家、上杉家の両軍が集い、口合戦が始まった。
長尾為景と上条定憲が互いに前に出て、自軍の正当性を言い合っているようだ。まあ、戦に正しいも悪もない。勝った者が正義だ。
わあわあと互いに言い合ったあと、両軍の大将が下がっていった。終わったようだ。
お、俺に悪態をついた4人が「わあー」突っ込んでいったな。あ、矢が刺さった。死んだな。
こちらの長尾家側は平行陣に近い形で、中央の柿崎景家のみが少し前に出た形。ロマ〇ガ3なら「デザートランス」だ。為景は中央後ろの辺りに陣取った。
対する上杉側は、斜めに軍を敷いている。「雁行陣」ってやつか。ただ、中央の軍だけ柿崎軍と対峙するように孤立した形だ。「龍神」の陣形に近いな。旗の家紋は「三つ瓶子」。宇佐美定満か。大方、疎まれて柿崎のエサとされたか。辛い立場だな。
最左翼を任された俺の軍は、前に槍隊200、中央に弓隊200、後ろに本陣と大砲隊だ。俺の前には分厚い相手軍が一千ほども犇めきあっている。あれ、何か俺の軍だけ狙われてない?
「どうやら、我が軍の左翼狙いのようですな。勢い付いております。開戦と同時に動いてきましょう」
「来るか?」
「はっ」
山本勘助が断言した。どうやら、俺の軍狙いのようだ。七つの子が率いる軍として狙いやすかったか? もしくはボンクラが何かしら情報を漏らしたか? どっちでも構わんがな。
「隣の藤資様の軍に、もう少し我が方に近づいてもらうよう使いを出しましょう」
「頼む。ただ、『前に出るタイミングはこちらに任せてくれ』と言ってくれ」
「はっ!」
大砲の落ちる所に突っ込んでもらっては困るからな。
相手の陣形を見て、こちらも少しずつ微調整する。為景は俺の隣に腹心の中条藤資を寄せてくれた。身なりは小太りのおっさんだが、春日山城の門での振舞いから見て、かなりの人物だ。軍も統制が取れているように見える。心強い味方だ。
「中央の足場の悪い泥炭地を突っ切ってくるだろう。足を取られて行軍が遅れるはずだ。あそこに弾をぶち込むぞ! 大砲の仰角、二度上げッ!」
「はッ!」
およそ300mの地点。デミ・カルバリン砲ならば最大射程2km、有効射程は500mほどだが、今回用意した弾は飛距離が出ない。300mでギリギリだ。
「『フレシェット弾』、用意!」
「はっ! ふれしぇっと弾、用意!」
ぶどう弾の改良弾だ。
ぶどう弾と言っても、タップして飛行クリーチャーに一点飛ばしたり、ストームで数十点飛ばしたりする奴じゃない。ぶどう弾は、大きな砲弾1つを発射するのではなく、5cmほどの小砲弾を複数まとめて広範囲に飛ばすものだ。5cmと言っても卵くらいの高速弾だ。当たったら確実に頭は吹っ飛ぶ。
俺はぶどう弾よりもさらに対人殺傷力を上げるため、小砲弾の代わりに、3cmほどの「鉄の矢」を二百本ほどまとめて入れた砲弾~『フレシェット弾』を勘助に命じて開発させていた。
通常の直径15cmほどの砲弾は質量も勢いも強いが、限定的な範囲での成果しか見込めない。それがフレシェット弾であれば、砲弾の中心から広範囲を同時に攻撃できる。4門から斉射すれば、八百本ほどの鉄釘が天から降る矢のように飛んでいく。逃げ場はない。効果は絶大だ。
ただ、難点がある。貫通力が若干弱い所だ。
城門や城壁に打ち込んでも、砲弾のような質量エネルギーは得られず、細かい穴が開くだけ。木の枝や数枚の葉に当たるとそれだけで運動エネルギーは落ちていく。
だが、今回のように開けた地形。そして人体という的に対しては非常に高い効果が期待できる。鉄兜を易々と打ち抜くまでにはいかないが、矢羽のような尾翼もつけて、直進性を向上させている。目や肉、布製の着物や薄い防具は余裕で貫通できる。斜めになったり真横になったりしてぶつかったとしても、かなりの打撃力はある。
もう一つは、飛距離が落ちてしまうこと。
500mほどなら±10mの誤差で打ち抜くヤルノの腕でも、フレシェット弾は軌道が安定せず、狙いの中心から50mほどの誤差が出てしまう。そこで、300mほどまで引き付けなければいけなくなる。
デミ・カルバリン砲はライフリング加工がされていないため、ジャイロ効果による直進効果がない。故に現代の戦車から放たれる大砲のような勢いはなく、命中精度も落ちる。それでも火薬の爆発力を利用して、弓の20倍の直進効果がある。
K = 1/2mv だ。
運動エネルギーは質量に比例し速さの2乗に比例する。速い方が運動エネルギーが得られる。これくらいなら、高校物理の基礎だ。
今回想定しているのは300mほどの距離。
弓は最大射程は400mほどだが、有効射程は80mくらい。300mほどで撃てば相手からは反撃を受けることなく一方的に攻撃できる。殺せはしなくても、腕や内臓を打ち抜かれた敵は戦力も士気も大幅に下がるはずだ。
ブオォ~! ブオォ~~!!
両軍の本陣から、開戦を告げる法螺貝が鳴り響いた!
「うおおおおおッ!!!!」
「おおおおおッおおおおおおおおッ!!」
「いけえええええええぇぇッ!」
両軍の一部が一気に駆けだす。
こちらは予定通り、中央の柿崎景家軍700が、対峙する宇佐美軍400に襲い掛かった。いかに戦上手な定満とて、兵の数で劣った状態で景家を止められないだろう。馬は両軍共に使っていない。泥に足を取られたら意味ない為だ。
右翼の高梨政頼、北条高広の両軍は、400ほどの兵を率いて無人の相手左翼へ突き進む。反撃はない。泥炭地を難なく通過していく。
そして敵軍の先陣は、俺の軍に突撃してきた!
先陣はおよそ700。はぐれた所を狙われないように密集陣形だ。まだ弓の射程外と見て、泥炭地を突き進もうとしている。垂水氏と小川氏らしいな。恨みもないが俺へ向かってきたことが運の無さと知れ。
「機先を取るぞ! 大砲隊、用意! 反動制御準備! 水桶! 準備しておけ!」
「はっ!」
「槍隊! 弓隊! 伏せろ!」
ジャーン
俺は愛用の銅鑼を一度強く叩く。
「口を開けろ! 耳を塞げ!」
次は、二度続けて叩く。砲撃合図だ。鼓膜を守る所作だ!
三度目の三連続の銅鑼の音は、三途の川へと誘う、禁断の魔弾の合図だ!
国際法など知るか! 俺に刃を向けた者は、蜂の巣のように風穴の空いた屍となれ!!!
「デミ・カルバリン砲! フレシェット弾! 全門発射!!!!」
ドゴーーーーーーーーン!!!!
戦国時代の武将の勉強になればと思い、「戦国〇武」というスマホゲームをやり始めました。
面白いのですが、いつ相手から攻められるかと気になり、集中できず(*´Д`*)物書きするのに集中できないのは天敵ですね。しばらく封印です。
フレシェット弾と言えばヨルム〇ガンドが有名ですね。
内部起爆構造ができないため、撃ち放すだけですが。効果は次話で。




