第五十四話 ~風雲急告~
〈越後国 ???〉
ズバッッ!
「殺せ! 一人も逃がすな!」
夜陰に紛れて奇襲した軍団が、本庄実乃の居城である古志郡栃尾城に突如として入り込んだ。長尾家に親しい関係にあった本庄家を、上杉、上条両家は虎視眈々と狙っていたのだ。
春日山城からはかなりの距離が開いている。援軍は間に合わない。揚北衆の大群が浮塵子の如く城に襲い掛かった!
「殿! もう持ちませぬ!」
「ぐぬ!! 抜かったわ! まさかこんなにも早く我が城に夜襲をかけてくるとは! 秀綱! 実幸! お前達は春日山の為景様に事の顛末を報せてこい!」
「嫌です! 某は最後まで戦います!」
「某もです! 皆を置いて逃げることなど!」
「愚か者! 何が起きたか知らせねば、次の為景様の一手が遅れてしまうわ! それに、城にはかなりの兵が入り込んでおる。お主達も無事に切り抜けられることは難しい! その中の強行突破じゃ! 覚悟して行け!!」
「……父上 ……どうかご無事で!」
「援軍を必ず連れて参ります!」
涙ぐむ二人。
(今生の別れがこのように来るとはな。諸行無常とは言ったものだ)
実乃は、懐に忍ばせていた書を二人に手渡した。
「辞世の句じゃ。お主達の父で、儂は幸せじゃったぞ…… さあ、行け!」
「「はっ!」」
本庄実乃の二人の息子は夜陰に紛れた。
(どちらか片方でも残ってくれれぼよいのだがな……)
「思い残す事は無し!! 我が人生最後の仕事じゃ! 一人でも多く、死出の供としてくれん!」
歴戦の鎧を身に纏い、愛刀を引っ提げ、本庄実乃は旧臣達と共に敵に立ち向かっていった……
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〈佐渡国 羽茂郡 羽茂城 評定の間〉
長尾家の使者、中条藤資から聞かされた内容は、長尾家にとってかなり旗色の悪い話だった。
為景は戦に強かったが、主君を二度弑逆した悪い噂は、朝廷からもらった肩書きと官位では消せなかったようだ。強行な振舞いも、直江津から離れた下越の阿賀野川より北に位置する揚北衆と呼ばれる国衆達には不評だった。古来より越後を治めてきたのは自分達で、急に出張ってきた長尾家のような新参者を受け入れ難かったのも理由である。親族筋の上田長尾家の当主長尾房長からも反発を受け、房長は上条方に味方しているという。「房長様を長尾家当主に」などと唆されたのだという。
「こちらの想像していた以上に敵軍は盛況! 佐渡の羽茂本間照詮殿には長尾家との友誼がおありかと存じます! 是非とも出兵をお願いいたします!」
手伝い戦か。
こちらはまだ佐渡の統一には届いていない。兵を多く出せば、その隙に河原田から前回の西三川のように通告なしで攻められるやもしれん。越後は越後、佐渡は佐渡。それで問題はないはずだ。
「河原田本間、雑太本間にも書状を出しております! 両者にも手伝い戦の願い、それに加え、羽茂本間に手出しはしてはならぬと! 後顧の憂いは御座いませぬ! どうか色好いご返答を!」
中条藤資は頭を床に擦り付けた。為景の懐刀と呼ばれる切れ者がここまでするとは。思った以上に切羽詰まっているらしい。
「某は反対で御座る」
羽茂本間の重臣と呼んで差し支えない、越中国椎名家縁の椎名則秋は、太く響く声で意見を述べ始めた。
「我らが目指すは佐渡の統一。越後には関わりはあり申さぬ。旧羽茂本間と我らの戦、そして先日の西三川での戦において、長尾家は我らに助力をしておりますまい。こちらも長尾家に助力する義理は御座らん!」
助けてもらってないのに、自分たちがピンチの時は助けろと言う。確かに虫のいい話だ。
「よろしいですかな?」
財務担当の新発田収蔵が手を挙げた。出席者には等しく自分の意見を述べる権利を与えている。最終決定権は俺にあるが。
「もし参戦するとして、戦費や死傷者への見舞金は、長尾家から頂けるのでしょうな? 」
戦には金がかかる。怪我人に死者が出た際の補償は大事だ。
藤資は、額を上げて質問に答えた。
「長尾家から本間照詮様には、帝(後奈良天皇)、将軍足利義晴様、そして我が長尾家からの『三紋の御旗』をお預けしてあるかと存じます! 確かに兵は出してはおりませぬが、大義名分を与えたという点において、助力はしてあり申す! 補償に関しては……」
口淀んだ。懐事情が厳しいようだ。
無償で働けと言うのか。とんだお願いだな。
「……ですが! この戦勝利の暁には、越後の領地の一部をお譲り致します! また、先日お話にありました莉奈姫とのご婚約についても、前倒しさせて頂く所存でございます!」
「いや、嫁は要らんのだがな。領地に関しては魅力的な提案だ。……だが、藤資殿。その申し出、 為景殿には話を通しておありかな? そなたの一存かな?」
俺は、中条藤資の返答に一瞬、間があったのを見逃さなかった。
不信に思った尋ねることにした。
「……為景様からの話では御座らん。某の一存でございます。……ですが! 『佐渡のことに関しては某に一任する』と念書を頂いております! まず、間違い御座いませぬ!」
話にならない。金は出さない、領地が貰える確約もない。それに、勝たないと貰えない。
しかし、と思った最中、
「対馬守様」
隻眼の山本勘助が俺を呼んだ。
対馬守は先代の役職名で、勿論、対馬列島を治めているわけでもない。
でも、皆大和守、越前守などと勝手に付けている。もちろん、朝廷から直接、献金の御礼とかでもらえたりする正式なやつもある。為景の『信濃守』とかだ。不思議な制度だよな。
「某は、長尾家への助力、『天・地・人』の三点において、お受けになるのがよいと存じます」
おお?! 風林火山で有名な軍略家の策略が聞けるのか?
だが、「天地人」とはたまげるな。愛兜は多分、俺に敵対している者の養子だぞ。
「それはなぜじゃ?」
「はっ! まず、一点目の天に関しまして。長尾家は将軍家と朝廷から『従五位下」と『信濃守』として認められております。上条氏が担ぎ上げた御輿の越後上杉氏上杉定実様は傀儡としての位置にご立腹なのでしょうが、為景殿は一応、定実様をお助けしております。兵を出すのは筋違いというもの。名分においては長尾家に軍配が上がります」
権謀術数の世界ではあるが、戦に建前は大事。一応、筋は通しているというやつだ。
「二点目の地に関しまして。決戦地の三分一原は長尾家の本拠地、直江津から目と鼻の先。休息十分に迎え撃つことができます。一方、上杉軍と上条軍、それを支持する揚北衆たちは移動距離の長い強行軍。地の利に関しても、長尾家の方が有利に戦えます」
「『人』に関しては?」
「三点目の人に関しましては顕著で御座います。本庄氏を失ったとは言え、猛将の柿崎景家、柏崎の北条高広、信濃からは妹婿の高梨政頼らが、長尾為景様に強く臣従いたしております。兵の数、兵の練度に関しても長尾家に軍配が上がります。対して、上杉・上条軍は寄せ集め。宇佐美定満という者が厄介と聞いておりますが、大将を務める上条定憲は『功は自分、咎は他人』という性根で、将としての器が足りませぬ。以上の三点から、戦の勝勢は長尾家にあります。恩を売っておくのも上策かと」
うん。俺の見立てとほぼ同じだ。
白狼の調べでも、長尾家が虚を突かれたとは言え、まだ全体的には余裕があると聞く。俺の軍が入れば尚更だろう。乗るなら勝ち馬だ。
「うむ! 素晴らしい意見じゃ! 勘助の策を採用するぞ! 我が羽茂本間は五百の手勢を率いて長尾家に助力する!」
俺の言葉を聞いた藤資は再び深く平伏した。
「ありがとうございます! 補償と領地に関しましては、為景様に某の力で必ずやお伝え致します!」
勝てば領地をしっかりもらうぞ。石炭やら人手やら猪やら。欲しい物がまだまだある。佐渡に直接攻め込ませないための前哨基地としても、越後の本土に領地があるのはいいことだ。
この数か月で、佐渡国の未来を担う『礎』は築けた。まだ土台だけだが。
ここから柱を立て、壁を塗り、屋根をかけ、「佐渡」という揺るがない家を建てるまでには時間がかかる。
しかし、風雲急を告げた。いつまでも安寧の鐘は鳴り続かない。寧ろ鳴るのは、戦を告げる死神の鐘だ。
「則秋! 兵の取りまとめを行わせよ! 留守は任せる! くれぐれも油断するなよ!」
「はっ!」
「弥彦! 正義! 槍隊、弓隊の準備。一刻(2時間)以内にできるな!?」
「「ははっ! 以前に増して訓練を積み申した!」」
「いい返事だ!! 今回は二刻待つ! 船旅の先の大きな戦となる! 十二分に用意させよ!」
「はっ!!」
大砲部隊も連れていく。実戦だ!
「勘助! ヤルノ! 大砲部隊の威力、十二分に発揮せよ!」
「はっ! ご助言を元に、広域に有効な新弾を開発いたしました! 試射も済んでおります! 実戦にてお披露目致します!」
見せてやろう! 羽茂本間軍の精強さというものを!
「行くぞ! 羽茂本間対馬守照詮、自ら出る! 我に続けっ!!」
~第五章 「礎」 完~
これにて第五章終了となります。
内政パート、知識が足らずに四苦八苦しました。
自分で本を買って調べたり、ネット情報を見たり、詳しい方にアドバイスを頂いたりと、何とか終えることができました。感謝しかありません。ありがとうございました。
次から動乱の第六章となります。
本庄実乃は、本来であれば上杉謙信の有能なブレーンとなる人物なのですが狙い撃ちされました。
史実の軸からブレがかなり出てきております。自分なりに脚色しながら、前から書きたかった戦場編を気合入れて書いていきたいです(`・ω・´)キリッ
でも、ガス欠気味でガスガス
ブックマーク、評価まだの方は是非お願いいたします。オラにパワーを分けてくれ!!




