第五十三話 ~世界への扉~
<佐渡国 羽茂郡 羽茂城 評定の間>
主だった者と南蛮人を、羽茂城の評定の間に集めた。
レイリッタ達、5人の南蛮人の顔からは緊張の色が窺える。
それもそうだろう。今日、彼らの処遇を決めると伝えてあるのだ。
奴隷か解放か。いかなる選択肢も俺の掌にある。
その中で、最も理のあると考えた選択肢を俺は選んだ。
「異国の地、日本での生活はどうだ? レイリッタ、ヤルノ、セシリア、ヴォルフハルト、ロブロイよ」
「xxx、xxxxx、xxxxx」
いつも通りに、俺の言葉をヴォルフハルトがポルトガル語に訳していく。こちらも長谷川海太郎の息子、長谷川海之進がポルトガル語を覚えようと頑張ってきた。しかし、日常会話くらいしか聞き取れていない。逆に、山本勘助は砲術家のヤルノといいコンビになっていた。ネーデルラント語(オランダ語)をちょいちょい使いこなしている。カッコイイな。
「とてもきょうみぶかいひびでした。ここまでわたしたちを、たいせつにしてくれて、かんしゃしています」
「うむ。『大切』と思ってもらえて嬉しい。俺は互いの利のために今日の場を用意した。ぜひ引き受けてもらいたい」
いよいよだ。固唾を飲む南蛮人達。
環塵叔父、弥太郎、椎名則秋、長谷川海太郎などには俺の考えを既に伝えてある。
「まず、デミ・カルバリン砲を6門、譲ってほしい。そしてそれを使いこなすためのヤルノ、通訳のヴォルフハルトの二名を、このまま日本で技術を伝えるために残ってもらいたい」
「・・・ほかのものは、どうですか?」
「レイリッタ、セシリア、ロブロイの3名は、ポルトガルに戻り、国王に『日本との交易許可をもらった』と伝えてきてほしい。書はここに認めてある。戻るために、キャラック船『スレイプニール号』、人員、交易品を十分な数を準備する」
「!? ・・・、xxxx」
「!」
俺の狙いは南蛮交易の開始だ。キャラック船一隻と3人の異国人のみでは利が少なすぎる。正式な交易の窓口を開き、他国とWIN-WINの関係を築く。それこそが俺の野望に一番メリットがあるはずだ。
「・・・ありがとうございます。こんなにはやく、ポルトガルにもどれるとはおもっていませんでした」
「ただ戻るのではないぞ。今度は船団を率いて、大量の交易品を持ってきてほしい。大砲、砲弾、火薬、硝石、ワイン、砂糖、野菜の苗など、欲しい物がたくさんあるのだからな」
「・・・ニホンからのこうえきひんは、なにをもらえますか?」
「既に用意済みだ。日本刀、最高級の着物、蒔絵の漆器、水墨画、仏像、清酒、和書物、竹細工、朱鷺のつがい4羽、干し黒ナマコ、干しアワビ、そして金塊だ。利益は次に来るときに返してくれればいい」
「さらに、干し柿、あんぽ柿もですな。船乗りの天敵、壊血病予防にもなる食品です」
上来知太郎が俺の声に合わせて言った。最近、豊富なアイディアを提供してくれる知恵者だ。
武具、美術品、雑貨、酒類、乾物、珍しい生物は、きっとポルトガルに持っていけばこちらの十倍、いや、百倍近い値段で取引されるかもしれん。それほどまでに大航海時代は異国への情熱は大きい。干し柿、あんぽ柿は結構保存が利くし、ビタミンCが豊富で壊血病予防に最適だ。ライムジュースより甘くて美味しい。世界中の船乗り達に流行るかもしれない。
干ナマコと干アワビは途中の澳門で売って反応を見てきてもらう用だ。柏崎水軍と一緒に向かってもらい、水夫を雇って南進。新人達は明から硝石、生糸、銅銭、仏教の経典などを運んで日本に戻ってきてもらう。
「いいおはなしです。うれしいです。サドにまたきたときは、オギのみなとでいいのでスか?」
「うむ。小木の港を交易港として開放しよう。関税は20%とする」
「・・・かんぜい、タカスギマス。5%くらいにしてほしいデス」
「ん、できて10%だな。代わりにキリスト教の布教を認める。こちらから斡旋はしないし、強引な勧誘、政治への介入があれば即刻打ち切るがな」
「! キリストきょう、うれしいです。よろこぶひと、おおいデス」
羽茂本間は宗教フリーだ。犯罪を犯さず、役目だけ果たせば信条の自由は保障する。それにキリスト教の布教OKとなれば、イエズス会とかが力を入れてくるはずだ。ただ、好き勝手は絶対にさせんがな。
「ゴアまでいけたら、シリアイのポルトガルじん、さどにむかわせます。ワタシタチ、こうえきなかま、おおいデス」
「大歓迎だ。どんどん来てほしい」
満面の笑みで答える。
彼らがポルトガルのリスボンに着いて、もう一度帰ってくるには少なくとも一年は見る必要がある。遅ければ2~3年、それ以上かもしれん。交易仲間に声をかけ、佐渡に南蛮船が来るルートを開いてもらえたら大きい。繰り返し何度も来るルートが開ければ、それだけ双方に利益が生まれる。そうなればヴォルフハルトには小木に常駐してもらって外交官の役割を担ってもらおう。ヤルノは山本勘助とタッグを組んで軍事力UPに貢献してもらう。
「それと、こちらから人員を大使として派遣したい。長谷川海之進、頼めるか?」
「ははっ! 父から聞き及んでおりました。ポルトガルを実際に見聞きし、見聞を広めて参ります!」
長谷川海太郎の息子、海之進は父に似て異国への興味関心が高い。一緒に剣術修行してきたから分るが、弁も書も立つから、東方見聞録ならぬ「西方見聞録」を書いてほしいな。きっとベストセラーになるぞ。
「照詮様! 某からお願いがあり申す!」
「ん? どうした則秋?」
「我が子、五郎太も異国へ行かせてくだされ!」
「! 五郎太もか?」
「ははっ! 照詮様の御厚遇により、父子の絆、十二分に得ることができ申した! ですが、いずれは別れる絆。ならば、他の者に引き裂かれるのではなく、自ら道を開きたいと存じました。これを機に五郎太は元服させ、広い地にて成長させたいと考え申した!」
則秋の息子、髪が茶色がかった五郎太は、俺のアニキ分として信頼していた者だ。いずれ大幹部として活躍してほしいと思っていた。腕も立つし心の芯もしっかりしている。リスボンに行かせるには適材適所だ。ただ、想像もできないほどの長旅となる。嵐に巻き込まれて二度と会えなくなるやもしれん。・・・もちろん、それを想定済みで頼み込んでいるのだろう。
「いいぞ、海外留学だ。言葉も文化も覚えてきてくれ。俺の照詮の『照』の一字を与える。今後は『椎名照秋』と名乗れ! そなたの父、則秋を超える者となるのだぞ!」
「ははっ! 勿体のう御座います! 畏まりました! 必ずや戻って参ります!」
「五郎太、いや、照秋。達者でな。待ってるぞ」
「はっ!」
別れだ。辛いが絶対に大きくなって戻ってきてくれる。
「xxxx、xxx! xxxx・・・xxx!」
ロブロイが小島妙恵おばさんに何か言っている。
「ヴォルフ、何と言ってるんだ?」
「えっと・・・」
「構わん。話してくれ。」
「『うつくしいひとよ。ひとめみたときから、わたしのこころは、あなたのものデス。かならずもどってキマス。それまでまってイテくだサイ。』だそうです」
「あらあら。嬉しいですわね。でも私には、こんなに大きな子どもがいますよ?」
言われた美女の妙恵おばさんは、実子の弥太郎の横に座った。
目がハートマークになってたロブロイは、その事実を聞くと口をだらしなく開け、絶望したような顔になった。残念だったな。
「xxx、xxxx」
「xxx」
ターニャがレイリッタに何事か話した。多分モスクワ国のことを聞いているのだろう。「モスクワ国の情報が分かったら教えてほしい」的な感じかな?
よし、最後だな。俺は立ち上がった。
「レイリッタ。俺はポルトガルが好きだ。共に世界を切り開こう。オブリガード」
「obrigada! xxx、xxxx!」
俺はレイリッタの傍まで来て、彼女を立たせ、堅く手を握った。
日葡、互いの為に。そして佐渡のために。
新武将の名は、柿のことを薦めてくれた方から取りました。




