第五十話 ~温泉、石鹸、ビール、澄み酒、羽布団~
読者の皆様のおかげで、節目の五十話を迎えることが出来ました。
百話、二百話と続けていきたいと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。
<佐渡国 羽茂郡 千手村 羽茂温泉>
くはあああああぁぁ!
最高だ! 最高な気分だ!!
佐渡にも温泉があった! 現代でもあるし、地元の人もちょくちょく利用してるみたいだ。あとは岩を並べて湯場を広げて、着替えの小屋を作れば、羽茂温泉の出来上がり!
山の中なので海は見えないが、鳥の鳴き声と山の自然に囲まれて、たっぷりのお湯にどっぷりの浸かって疲れを癒す温泉! いいじゃないか!
南佐渡には温泉がここに加えて、赤泊、小木にもある。北佐渡の相川、加茂にもあるそうだ。絶景の日本海のオーシャンビューを眺めながら浸かる温泉とかもいいな! 各地に温泉文化を広めていこう!
そして、石鹸!
現代のものには流石に劣るが、正月羽根つきの無患子の果皮よりも断然汚れが落ちる。しかも椿のエキスとかも入っていて香りもいい! モスクワ国のターニャは芸達者だなぁ。
ターニャに頼まれた牛とかを渡したのは三か月ほど前。材料は、牛脂、草木・海藻の灰、貝殻、笹、椿油など。海藻は何でもいい訳ではなくて、アカモクとか決まった種類じゃないとダメみたいだ。草木・海藻を焼いた灰を水に溶かせた上澄みと、貝殻を高温で焼いた物を混ぜた物を、牛脂に混ぜてかき混ぜる。それに椿油、笹とかを入れて、ドロドロになったものを、一か月以上乾燥させたそうだ。
調合とか安全面とか結構大変なんだろうけど、その辺は専用の小屋を作っておいてカスタマイズしていたようだ。「ちかよらないでください」と、イントネーションも日本語に合わせてくるあたりかなり有能なんだろうな。
「くはあああああああああ、この『澄み酒』! たまらん! 何と澄んで切れがいいのじゃ!」
環塵叔父、長谷川海太郎は、温泉に浸かりながら、ターニャが作った「清酒」の飲みごたえに打ち震えていた。
現代でも佐渡は酒蔵がいくつもあった。エールフランスのファーストクラスで出されている「真野鶴」の大吟醸や、YK35の「北雪」、さらに「天領杯」や「真陵」なんかも有名だ。
戦国の佐渡でも米、米麹、水で酒を造っている。真野の酒蔵から買った酒樽の濁り酒を、「加熱して、上澄みを濾せ」ば、澄み酒の完成。なんてことはない。ただ、その一手間を知ってるか知らないかだけだったのか。
「澄んだ酒がこんなに旨いとは! 濁り酒も果実のような風味があるが、この澄み酒は別物じゃ! 水のようでいてカーっと身体が火照る! よし! 儂が題字を書こう! 照詮! 酒の名前を決めるっちゃ!」
「え?」
その時、夕暮れの空を朱鷺が群れをなして飛び立った。季節は春か。
「 ・・・んじゃ、『春朱鷺』」
「ほほ。めでたい春と、朱鷺を組み合わせたか! これはめでたい酒じゃ! 佐渡の名産品の完成じゃ! はっはっは!」
「まさに! めでたい『晴れの時』ですな!」
環塵叔父とスラヴ語通訳の海太郎は、上機嫌になって温泉からあがって着替え小屋に入っていった。まあ、いい気分みたいだからいいか。
「あー、照詮。まだ入ってたっちゃ?」
え!?
何と、女湯の方からレンがこっちを覗いていた! 妙恵おばさん、ターニャ、そしてナーシャも!?
この時代は混浴。特に男女を分け隔てることはしていない。でもそれはいかんだろうと、ひょうたん型の湯場を作り、湯は同じでも男女で分かれている施設にしたんだけど!
「ちょっ! 俺と弥太郎いるんだけど!」
「気にすることないっちゃ! そっちいくっちゃ~」
ええ~!
連れられて、妙恵おばさんとターニャも。ナーシャも横を向いて恥じらいながらこっちにやってきた。綺麗だ。まるで神話に出てくる妖精のようだ・・・
「ああっ! ナーシャばっかり見てるっちゃ! 照詮のばか! すけべぇ! レンだけみるっちゃ!」
バシャ~~!!
レンの馬鹿力で飛ばされたお湯は、まるで大津波のように俺に降りかかった。
うわ~~~
ドバシャ!
大量のお湯を頭からかぶり、俺はずぶ濡れ。それを見てアハハと皆が笑う。
なんてこったい。
<佐渡国 羽茂郡 千手村 領主屋敷>
「では、乾杯!」
「かんぱーい!」
上機嫌だ。
千手村の領主屋敷で、皆を招いて夕食を食べることになった。吾作おじ、キョウおばをはじめ、環塵叔父、弥太郎、妙恵おばさん、長谷川海太郎、レン、それにモスクワ国のナーシャ、ターニャ、イゴール。佐渡で獲れた山海の御馳走を頂いている。
ナーシャが俺のために「羽布団」を用意してくれているらしい。綺麗に洗って乾かした羽毛を布に入れた『羽布団』。気持ちいいだろうな。使った羽が「朱鷺の羽」だと聞かされた時は、腰を抜かしそうになった。サンド〇ィッチマンのネタに「百万円じゃ安い」「作ったら怒られる」というのがあったが、まさかそれが現実になったとは!?
まぁ、この時期なら結構いっぱいいるし。いっぱいいすぎて害鳥扱いな所もあるし。
ただ、乱獲して絶滅という現代の二の足を踏まないようにせねばならん。他の水鳥や、朱鷺にしてもあくまで大人のはぐれ鳥を狙うくらいにしよう。それこそ繁殖の手伝いをしてもいい。
乾杯の飲み物は、大人は澄み酒、子どもは「冷やしあめ」だ。
ターニャは、大麦を発芽させて「大麦もやし」を作って乾燥させて、砕いた『大麦麦芽』をたくさん作っていた。発酵しやすくなるらしい。
その『大麦麦芽』を、茹でた「もち米」に入れれば・・・「水あめ」の完成だ。これがとっても甘い! 美味しい! 戦国時代で食べた物の中で一番甘い!
その「水あめ」を生姜と一緒に水に溶かしたものが、この「冷やしあめ」だ。うん! うまい!! 風呂上りに最高だ!
食べ物も、佐渡で採れた野菜、山菜。佐渡沖で獲れた新鮮な魚介類。粗食が続いていたから、このご馳走は大歓迎だ。
「おお、この切り身の脂の乗り様といったら! これはブリだろ。そして、え? この赤身は!?」
「おう、照詮。お主でも『鮪』は知らなんだ? ものすごく大きくて、矢のように泳ぐ魚だっちゃ。すぐ腐るんで滅多に食べられないっちゃ」
「マグロ~~~!! マグロだ!」
佐渡沖はマグロが獲れる! 赤身! 中トロ! 大トロ! 全部うまい!!
「ははっ。脂がくどくて痛みやすい下魚と呼ばれる鮪じゃが、お主には口に合うようじゃな。また届けてもらうとしよう」
「もったいない! 全部くれ! 日本酒にも滅茶苦茶合うぞ!」
「ほほ? 日本酒? この澄み酒のことかな? どれどれ・・・」
環塵叔父は、マグロの切り身を一口。そして日本酒を一口・・・
「!!!? あう! 凄く合うぞ! 鮪の脂のくどさが澄み酒の爽やかさでかき消され、混然一体となってとても旨い! 絶品じゃ!」
「だろ! ぐおお! 俺にも酒くれええ!」
前世は酒飲みだった俺。子どもの身体にアルコールが悪いのは知っているが、舐めるだけ! 舐めるだけだから!
大騒ぎの俺達コンビを、皆が嬉しそうに笑う。そして皆も美味しそうだ。
ゴクッ
んー日本酒。上善如水だ。久〇田の万寿みたいにうまいなあ。
再び、食べ物に目を移す。
「この黒い物・・・なんだ? ブニョブニョして見た目が悪いけど・・・」
「ああ、こりゃ海鼠じゃ。コリコリしてうまいぞ」
「うへぇ、ナマコか。触られると黄色い内臓を出すやつじゃん」
「お、知っておるか。佐渡の海ではこいつが山ほど獲れるでの。食っても食っても追いつかん」
ナマコねぇ。好みじゃないんだけど・・・
!?
「干しナマコ!」
思わず叫んで立ち上がってしまった。皆が驚いてこっちを見た。
ナマコを干したものが中国じゃ「黒いダイヤ」って言われてたっけ!?
500gで12万円くらい・・・?
中国の宮廷料理「満漢全席」でも出る高級食材! しかも日本産の黒い「マナマコ」は「海參」(海の高麗人参)と呼ばれて、最高級品扱いだったはず! それがうようよ!? 金が泳いでいるようなもんじゃないか!
その干しナマコを、鎖国状態の明に運べば・・・ゴクリ。
赤泊の七左衛門に、干し魚と一緒に作らせよう!
そこへ、ふと、ターニャが立ち上がった。
「みなさま、きんいろさけを、よういしました。ごたんのうください」
え? きんいろさけ? も、もしや・・・
ターニャが奥へ下がって、そのあと器にもってきたのは・・・
「ビール!!」
シュワシュワする白い泡! 時折見える金色の酒! ビール!
そうか! 大麦麦芽を使えば、ビールだってできるんだ!
「びーる? 何やら泡が出ておるぞ。大丈夫なのか?」
訝しがる環塵叔父や海太郎。
「Birra!!」
イゴールはそれを見ると目を輝かせて、脱兎のばかりターニャに駆け寄り、器をもぎ取るように奪い取ると、ビールを一気に流し込んだ!
ゴキュッ! ゴキュッ! ゴキュッッ!!
「Buonooooooo!!!」
ビールを飲みほした髭おっさんのイゴールが、口ひげに白い泡まみれにしながら叫んだ。ボーノって聞こえたぞ。イゴールって、もしかしてイタリア人か?
「ほほう、どれどれ。儂もやってみるかのう」
「それでは、某も・・・」
環塵叔父と海太郎の酒飲みコンビもそれを見て続いた。はじめは泡や金色にビビッていたようだが、一口飲み、そして、もう一口。直後にカッと目開くと、あとは一気に喉奥へ流し込んだ!
「う、うまい! びーるとやら、澄み酒と違った飲みごたえ! このぱちぱちと弾ける感覚は初めてじゃ! それにこの麦の味! 信じられん! この世の飲み物なのか!?」
「黄金色とは縁起の良い! やめられぬ!」
『初めてビールを飲んだ日本人』と後世の教科書に載りそうな二人だ。美味そうに飲むなあ。
ターニャは樽に作っていたビールを次々と3人に勧める。席に戻らずにそれをドンドンと飲み干す3人。しまいには肩を組んで歌いだした。酒飲みに国境はないってか。
「あらあら、それじゃ私もいただこうかしら」
と言って妙恵おばさんも参戦。
「まあ、黄金色がとても綺麗。金塊で私達を解放してくださった照詮様にぴったりですわ。ささ、主様もどうぞ」
ええ~!
俺はビールが大好きだった。飲みたい! でも子どもだし。
でも日本酒も舐めちゃったし、ビールも舐めるだけね。舐めるだけ。
ゴキュ
「う、うめえええええ~~!!」
独特な苦み、その後に来る旨味! 飲みごたえ! ビールやっぱうめええええええええ!
大麦最高! 二毛作最高! ターニャ最高!
「ありがとうな、ターニャ。さいこうだっ!」
「おほめいただき、ありがとうございます」
冷静沈着なターニャだったが、褒められて心なしか嬉しそうにした。もうグッジョブだよ。GJ過ぎるよ。
旨い山海の御馳走、美味しい飲み物、楽しい仲間。最高だっ!
・・・
ああ、楽しい時間は最高だ。最高過ぎてなんか眠くなってきた。ろれつもまわらなくなってきた。
酒に酔ったようだ。ほんの少しだったけど、この身体、相当酒に弱いようだ。
んー眠い。ナーシャが布団を用意してくれたし、寝心地を確かめたいな。
皆はまだ楽しくやりたそうだ。領主の俺が途中で抜けるのも悪いかもしれない。
んーでも俺は領主だし。わがまま言ってもいいはずだ。
お願いとか、だめだ。しっかりいげんをもっていわなくちゃ。
「うむ! そろそろおれは寝所にむかうぞ! レン! ナーシャ! 供をせい!」
ええ?! と皆が俺を向いた。ん? 変なこと言ったか?
レンもナーシャも言われた途端に下を向いたぞ。
「ねごこちをたしかめる! はようせい!」
「「は、はい!」」
二人は立ち上がって、フラフラする俺の手を引いて立ち上がらせた。右手はレン。左手はナーシャ。
何故かドキドキしている二人に手を引かれて、俺は千鳥足で寝所へ向かう~ 月がきれいだな~
節目の楽しい回となりました(*´ω`*)
ぷにぷに様のご感想から、干ナマコを思い出しました。
鎖国状態の明に極上干ナマコを運べば、物凄いことになりそうです。アワビも運びます~
裏作の大麦を書いた頃から、「ビール」「水あめ」については温めてきました。「大麦麦芽」を使えば、と妄想がドンドンと広がりました。さらに広げていきたいと思っています。
寝心地は、どうだったのでしょうね(*´ω`)?




