第四十七話 ~デミ・カルバリン砲~
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<佐渡国 羽茂郡 赤泊港沖>
ドーン!!!
青銅製の長い砲身から、腹の底に響くような大音響が轟く。
波の上に放物線を描くその凶悪な鉄塊は、数百mの距離を瞬く間に飛び去った。
目標とする空の小舟には当たらなかったものの、その近くに落ちた。波飛沫がズバーン!と跳ねた。
「な、なんという轟音! 雷でも落ちたかのようじゃ!」
「鉄の玉があそこまで飛ぶとは・・・物凄い筒じゃ!!」
キャラック船に乗っていた日本人の皆は驚きを隠せなかった。隠そうともしなかった。
初めて見る大砲の性能だ。もちろん、俺も実際に見るのは初めてだが、知っているのと知らないのでは雲泥の差だ。やはり凄まじいな。戦場で直撃すれば、容易く人の命を奪うことができるだろう。
俺はレイリッタ達ポルトガルの一行に、キャラック船に乗せてあったデミ・カルバリン砲の試射を命じていた。彼らはオレンジ色の髪をした元軍人らしきヤルノという男を中心に、手際よく準備して発射させた。もちろん、火器を扱うことになるので、監視はつけているが。
俺は、力を付けねばならん。まだ南佐渡の平定が済んだばかりだ。河原田本間との戦は不可避であろうし、雑太本間の仲居義徳には、死の恐怖を与えられた借りを返さねばならん。そして、何より長尾家の動きが怪しい。「佐渡の戦に手出しはしない」と約を取り付けてあるが、直江実綱が実際に手出しをしてきた痕跡がある。長尾家全体の総意ではないだろうが、俺のことを煙たがっている者がいるのは確実だ。
強くなりたい。強くならねば生き延びられん。
そのためには、このデミ・カルバリン砲は大きな戦力だ。実際に見て良かった。
鈍色に光る青銅製の砲身は3~4mほど。その長い砲身で、一貫目(3.75㎏)ほどの鉄の丸い弾に加速をつけて飛ばす。用いるのは黒色火薬。「デミ」というのは「半分」って意味だ。確かフランス語だったかな? 本来のカルバリン砲はもうちょっと重い玉を飛ばす大砲だが、こっちの方が玉が小さい分遠くまで届く。キャラック船「スレイプニール号」には船首と船尾に一門ずつ、側舷に四門ずつの計十門が備え付けられていた。どれも新品同様。砲身の重さは2tくらいはありそうだが、取り外せば野戦でも使えるかな?
「xxxx、xxx、xxx?」
「イカガデシタカ?」
レイリッタと呼ばれた金髪碧眼の女リーダーの言葉を、ヴォルフという黒髪の男が訳す。皆の驚きに鼻が高そうだ。これだけの兵器を見せつければ、自分達への待遇が良くなると思ってのことだろう。
彼らの連れてきていた乗組員は、明の密売商人の元に連れていかれたか、殺されたか、元々明側の人間だったかで、一人も残っていない。つまり、5人だけが元々のキャラック船の乗組員だ。今回は柏崎水軍の手下を自由に使ってもらって船を動かしている。はるばる日本まで来る技術がある船乗り達だけに、帆の張り方、船の動かし方など的確に指示を出していた。言葉が通じなくても、船乗り故に意図は伝わっているらしい。
「素晴らしかった! もっとデミ・カルバリン砲について知りたい! 仰角は何度までいける? 最大射程は? 有効射程は? 水平射撃は可能か? 耐久性は? 連射速度は? 火薬の消費量は? 資材はどれくらい残ってる? 雨の中の運用は? 陸上での運用は??」
・・・メッチャ早口になってしまった。
しかし、兵器の特徴を掴まねば。性能を知らない兵器を有難がっても、いざという時に足を引っ張られる。これらは最低限の知識だ。
まさかの質問に面食らったようなヴォルフ。俺はうまく訳しにくい言葉は身体言語を使って説明した。ヴォルフからそれを聞いたレイリッタ、ロブロイ、ヤルノ、セシリアの4人は驚きの表情だ。
(「凄かった」とかいう感想かと思ったが、まさか有効射程や水平射撃、耐久性について聞いてくるって?! どうなってるんだい?)
(陸上運用も考えてるみたいね。取り外しは大変だけど、できなくはないわ)
(・・・このショウセンが並の子どもではないことは、改めてよく分かったわ。兵器の重要性を認識していることから、とりあえず、私達を無下に扱うことはないでしょう。力を貸していけばいいわ)
俺は聞いた話をメモしていく。最大射程は2kmで、狙いが定まる有効射程は500mまで。それ以上火薬を込めると砲身が壊れる可能性があるようだ。雨の中では火薬が湿気ってうまく使えない。傾きは、台座を工夫すれば水平射撃も何とかなるかもしれない。連射速度は5分に一発くらい。連続で4発使うと熱くなりすぎてこれまた破損の可能性大。なかなか運用するハードルは高い。もう少し性能を見たいな。
「もう3発撃ってくれ。小舟に命中させるつもりで」
と命じた。すると、一発目は手前に、二発目では僅かに飛び越したが、三発目で見事に命中。小舟にどデカイ穴がズドンと開いて、沈んでいった。ヤルノという男、すごい腕だな。
『デミ・カルバリン砲』、素晴らしい兵器だ。
重さがネックだが、船に乗せていればそのまま運べるし、城に取り付ければ相手の攻撃を鈍らせることができる。陸上運搬は骨になりそうだが、野戦では音と破壊力で相手の戦意を挫くことが可能だ。直撃させられればもちろん必殺。複数の砲があればさらに脅威度は増す。ただ、問題は・・・
「誰に任せるか、じゃな?」
「環塵叔父の言う通りじゃ。滅多な者に、これを扱わせられん」
しばらくはヤルノを中心に砲の運用をすることもできるが、彼は南蛮人だ。言葉の壁もあれば、そのうちいなくなってしまう人材だ。指揮系統をはっきりさせる為にも、自前の将軍に運用を任せて扱わせることが望ましい。
「俺が直接扱うか。それか、環塵叔父に任せるか、か」
しかし、毎回俺が傍にいないと使えない兵器は使い勝手が悪い。環塵叔父も傍にいてくれないと困る。
「そう言うと思って、任せてもええ人材を紹介するっちゃ」
「え?」
ニヤリと笑った環塵叔父は、傍に控えていた一人の男を俺の前に連れ出した。
「三河の生まれで、駿河の今川氏にいたそうじゃ。儂ら羽茂本間の噂を聞きつけ、仕官しにきおった者じゃ」
「御坊に紹介いただきました、山本と申す。見てくれはこんな形ですが、軍略、策略には自信があり申す。この『でみかるばりんほう』という兵器。玉が丸玉ですが、これが鉄屑が飛び散るように改良すれば野戦などでより効果をより発揮すると見ました。雨除けなどを作れば雨天時にも用いることが可能となり申そう。ぜひ私にお任せください!」
!?
転生者でもないのに、この大砲を一目見て改良点に気づくとは? 何者だ?
確かに、見てくれは悪い。
肌は浅黒く、左目に眼帯をしている。隻眼だ。片足を引きずっていて、指も何本か欠けている。髯面に、渋面。これでは他国で重用されるのは難しかろう。だが、俺は違うぞ!
「うむ、お主の才、見込みありと見たぞ! 環塵叔父の薦めもあるとは、滅多にいない傑物じゃ。知っての通り、我が羽茂本間にとって容姿なぞ、犬の小便ほどに意味を為さぬ。そなたのような才のある人物が来てくれたのは心強い。南蛮人と融和を図り、思い通りに砲を飛ばせるよう修練せよ!」
「・・・我が事、為せり。新参者の私なぞに重要な責をお任せいただけたこと、真に感謝申し上げます。我が軍才を用いて、必ずや力になり申す!」
一気に悩みが解決した。山本という者、非常に思慮深そうだし、能力も高そうだ。足が不自由でも大砲隊であれば問題ないし。
生まれて初めて乗ったキャラックの甲板の上で、俺は上機嫌となった。
洋船は、和船と違って喫水が高くて視界が違う。三角帆と四角帆の複合帆も見ていて飽きない。外洋向けの船だ。風をうまくつかんで進んでいく操船技術も楽しい。
この戦国の日本ではチート並の兵器である大砲があれば、覇道を大いに進めることができる。
問題は、三十発ほどしか弾と火薬が持たないことだ。
早いうちにレイリッタ達に命じてさらに調達してきてもらわねばならん。南蛮船の建造はまだまだ技術的に難しい。新人達、柏崎水軍に明の密売商人から買ったジャンク船を使わせて交易と同時に仕入れさせるか・・・悩みは尽きないな。
だが、道は開けている。
着実に軍事力を高めていけるぞ。
風もいい。赤泊の港へ戻るのもすぐできそうだ。
・・・ん?
俺は先ほどの隻眼の男のことが気になった。見てくれ悪い、隻眼、軍略・・・?
「山本? お主、名は?」
「ははっ! 勘助晴幸と申します!」
・・・山本、勘助!?
おいおい!!
『風林火山』だ! 『キツツキ戦法』だ!
とんでもない武将が味方になってくれたぞ!?
『容姿で判断しない』という大法が早速功を為した。
山本勘助が率いる大砲隊! 更なる楽しみが増えた。
カルバリン砲は、1614年、家康が大阪城にブチ込んで淀殿を怯えさせたことで有名です。
その後、1615年の大坂夏の陣で豊臣家は滅亡。時代を変えた兵器です。
それより7~80年前に導入された本作のデミ・カルバリン砲。運用次第で天下も狙えます。
問題はやはり火薬の調達でしょうね。主人公は糞尿とかヨモギとか知りません。海外との交易がカギです。
大河ドラマにもなった山本勘助を知らない方は少ないでしょう。
見てくれは悪いですが、主人公にとってはどうでもいいことです。
戦略面、砲撃部隊の隊長として活躍してくれそうです。




