第四十三話 ~思惑 二 「天下布武」~
<尾張国 那古屋城 家老屋敷 書斎>
静かに書を読んで居る所に、注進が入った。
「佐渡国の羽茂本間照詮という領主の使者、久保田仲馬という者が『織田家の御嫡男に』と親書と貢物を有してきております。いかがなさりましょう?」
「何ッ? 佐渡!? 御嫡男?!」
理が分からん。
何故佐渡から使者が届く。しかも大殿ではなく吉法師様に!?
「会おう。書斎に通せ」
「はっ!」
______________
「久保田仲馬だっちゃ。御目通り感謝するっちゃ」
? 何という不思議な方言じゃ。
しかも何とも粗野な使者じゃ。まるで昨日一昨日まで農民だったような者じゃ。佐渡は辺鄙な場所と聞いておるが誠であるな・・・
「織田弾正忠家が次席家老、平手五郎左衛門政秀で御座る。遠路はるばるからの御挨拶、痛み入ります」
「へっ? 別の織田家もあるっちゃ?」
「・・・ ご用件をお伺いいたしましょう」
(なんじゃ、この反応は。貰う者だけさっさと貰って、とっととご退出願おう)
「あー、儂もよう分かちょらんが、こちらに『吉法師様』と言う御嫡男はおられるっちゃ?」
「・・・いかにも。吉法師様の居城である。文をお持ちとか。出していただこう」
(無礼極まる。何という粗忽者じゃ。どうせ碌な貢物では・・・)
「はいはい。こちらだっちゃ」
ドン
書に加えて絹袋に入った重そうな荷を、佐渡からの使者の供の者が置いた。まさか、これは?
「拝見仕る・・・」
供を制して自分で開ける。
・・・キラリ
中からは金色の輝きが! 金か!? 輝きと重さからして間違いない!
これは十両や二十両では利かんぞ!? 挨拶の貢物としては多すぎる!
「それと、干し柿と『日本地図ぱずる』だっちゃ。吉法師様にお渡しくだされ」
「なに!? かき!?」
ダダダッ
乱入してくる者がおる。
・・・幼子? き、吉法師様!? まだ毒見も済んでおりませぬ!
ガッ、ムシャムシャッ!
「うまい!」
「うまかろうて! 吾作やキョウが丹精込めて作った干し柿じゃ! 頬っぺたを落とさぬようにな!」
「うむ! じつにびみじゃ! たまらぬ!」
制止を振り切り、佐渡からの干し柿を頬張る吉法師様。ああ、もし御嫡男様に何かあれば、儂は腹を斬らねばならぬのに・・・
「ところで、そちらのつみきは なんじゃ?」
吉法師様は干し柿を両手にお持ちになられ、味わいながらももう一つの貢物にも興味をお持ちになられた。
「おお、これか? これは儂の主の本間照詮様が木兵衛に作らせた、日本地図を描いて切った『ぱずる』という玩具じゃ。ばらばらにして組みなおせば、ほれ、この通り日本に戻るぞ」
「ほほう、これがにほんのちずか。さどはどこじゃ?」
「ここだっちゃ。この尾張からはだいぶ離れておる。じゃが、照詮様は吉法師様と『仲良くなりたい。一緒に相撲を取りたい』と言っておったぞ」
「おお! すもう! いいのう!」
・・・何ということじゃ。
吉法師様の傳役、次席家老の儂をそっちのけで話を進められておる。
「この『ぱずる』。裏には絵柄と『天下布武』という字が書いてあるっちゃ。日本の地図とどちらでも遊べるっちゃ」
「てんか・・・ふぶ?」
吉法師様は、柿を食べ終わった両手を袴で拭い、『ぱずる』という玩具に手を伸ばされた。暴れ馬のような吉法師様がこのような玩具など・・・ !? 取り組んでおられる!?
しかも、大人でも半時はかかろうかというこの難解な木の玩具を、いとも容易く並べられておる!? なんという大局観、洞察力、発想力じゃ!? しかも黙々と取り組んでおられる! 一時すら静かになることはないお方なのに!
「・・・できた。」
見事に『天下布武』の文字が組みあがった。小半時すらかからなかった。儂は吉法師様の力を見誤っておったのか?
「たいぎであった。そちのぬしの ほんましょうせんというもの、なかよくしたい。いっしょにすもうを とろうぞ。じい! そのようにとりはからえ!」
「え? はっ! ははー!」
「ありがたいっちゃ。じゃ、またの」
「うむ!」
用が済むと、羽茂本間の久保田仲馬という者はさっさと帰ってしまった。
次席家老平手政秀は困惑から立ち直れなかった。
佐渡からの使者? 砂金の貢物? 吉法師様の御力?
だが、得た物は大きい。吉法師様はうつけ者などでは決してない。寧ろその真逆!
羽茂本間照詮。感謝するぞ! 文をしたため、尾張の名物を贈ろう。これから忙しくなりそうじゃ!
書き途中であげてしまい、失礼しました。
信長と友誼を結びました。
主人公は、信長を超絶的な傑物ととらえています。故に、『百年に一度の天才』レベルとして扱っていきます。先行投資は必須です。
信長は焼き味噌など、味の濃い物を好んだそうです。干し柿も大好物だったとか。そちらのエピソードを交えて書きました。




