表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「礎」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/254

第三十九話 ~製塩~

<佐渡国 羽茂郡 小比叡村 素浜海岸>


「此度は、真に申し訳ありませんでした!!」


昨日の海岸に着いた途端、村人総出で土下座された。どうしたどうした?

村長らしき白髭の御爺がひれ伏しながら代表して、俺に謝ってきた。


「村長の吾平で御座います! 異国の者を受け入れず、ましてや追い払おうとして、ご領主様のお怒りを買ってしまったこと。誠に申し訳御座いませぬ! どうか、どうか儂の白髪首の一つでお許しくだされ!! 村の皆を殺さないでくだされ!!」


震えながら謝る御爺。村人達もブルブル震えて縮こまっている。そうか・・・ 領主の不興を買うと、この頃の力関係はこれくらいに違うものなのか。話に聞いた、悪臣斎藤達の「御上に逆らうと酷い目に遭う。良くて乱暴狼藉。悪ければ村人全て奴隷落ち」なんてのも、嘘ではなかったようだ。


「船には触れておらんだろうな?」

「ははっ! 赤子の指一本触れておりませぬ」


聞けばこの海岸は素浜海岸というようだ。遠浅の渚が約一里(4km)ほども続いている、波も穏やかで素晴らしい砂浜だ。海水浴とかバーベキューに絶好の場所だろうな。その中にナーシャ達が乗ってきたジャンク船らしき船が横たわっている。


「では、そなたらに命ずる」


ゴクリ


固唾をのむ村長と村の者達。


「俺からの願いは三つ。一つ目、あの船が波に攫われぬように村人達で陸地に揚げてほしい」

「ははっ!」

「二つ目、この地に伝わる製塩法を見せてほしい」

「喜んで!」


村人達は二つ目まで聞くと、さらに戦々恐々とした。余りの怖さに目を固く閉ざす者、土下座しながらも恐ろしくて目を爛々に開く者、必死に両手を合わせて拝む者など。皆寒空の下、滝のような汗を掻いていた。


(二つ目までは軽いものじゃ。これは三つ目、飛んでもなく重い沙汰が下るぞ・・・)

(良くて七公三民じゃ・・・この村もおしまいじゃ・・・)

(こんなことなら、あの娘に胸の内を話しておくべきだった・・・)


「三つ目、今日、俺達を泊めてほしい。広めの家を一軒貸してくれればそれでいい」


「? ・・・酒と女を用意致しまする・・・」

「あー、そういうの要らない。食べ物も持参してきた。家だけでいい」

「いえいえ!! そうおっしゃらずに!!」

「いや。本当に結構だ。俺は斎藤じゃない。権威を傘に悪どいことは決してせんぞ」


昨日、罪を問わないと言った。約束は守るぞ。


・・・


平伏していた村の者達は顔を上げ、互いの顔を見た。そして、誰かれ構わずに抱き付いた!!


「おおおお!! 何という寛大なご領主様じゃ!?」

「船を動かすだけ!? そんなの朝飯前じゃ!」

「菩薩様のようなお方じゃ・・・ありがたやありがたや・・・」


・・・至極当たり前のことなんだが。これは酷いな。世の中が狂ってる。民を人として扱わぬ国に未来はない。大事にせねばなるまい。


船にはナーシャ達の荷物がまだ残っているようだし、船の構造の教材としても最適だ。まずは陸地に揚げて荷物を運び出し、その後、直江津から連れてきた船大工仕事のできる大吉を中心に研究させよう。



その夜、俺は何故か糸のような何かがチリチリと絡みあう夢を見た。


______________



翌朝


船は既に砂浜から草むらの辺りまで移動されていた。供の者にナーシャ達の荷物を取りに行かせ、俺達は製塩しているという場所まで案内してもらった。


「ささ、こちらでございます! 製塩はこの辺りで行っております!」


村長の吾平に紹介された場所は、何とも小さな製塩場だった。正直がっかりだ。

逆円錐形の素焼きの壺が十数個。「製塩土器」ってやつかな。そしてその近くに掘っ立て小屋が数軒。薪がちょこちょこ。んーここで作っているのか。


「この壺に海水を入れて天日干しすれば、数日経てば塩が取れまする。また、壺の下から火をくべれば、さらに水が早く無くなり、塩が早く取れまする」

「ふむー。しかし、これはかなり時間がかかるのう」


海水があればほぼ無限に採れる塩だが、調味料としても、塩鮭、塩イカ、漬物のような保存食づくり、味噌づくりにも使う。生きる上で欠かすことができない生活必需品だ。信濃や甲斐などは海がなくて塩が自前で手に入れられず、困ったというエピソードがあったな。謙信の「敵に塩を送る」が有名だ。塩が効率的に手に入れられれば、それだけでかなりの稼ぎになる。


「もう少し大きくできないのかな?」

「何せ貧しい村でして。人手も足りず、細々と行っております。村では十分に賄えておりますので」

副業的な感じでやってるのかもしれん。また、身近にありすぎて、塩の有難さが分からんかもな。


んー。製塩を特産にしようと思ったが、これは思ったより大変そうだ。土器を百個とか千個とかに増やしてやることもできるが・・・ 海水に含まれる塩分濃度は僅か3%。残り97%を蒸発させねばならん。そのまま蒸発させるのはかなり効率が悪い。佐渡の豊富な森林すら禿山になってしまいそうだ。

辺りを見渡せば、広い砂浜。波に打ち上げられた海藻が、寒風で乾燥してモジャモジャッとなっている。もうちょっと効率良く塩って手に入らなかったっけ? 何だっけ・・・


チリチリ・・・モジャモジャ・・・


!?


「北海道のスターだ!」

閃いたぞ!


皆、キョトンとしている。

「?! 何でしょう? すたあ?」

「なんか、畳の目を数えてた! 塩の田んぼだ! 塩田(えんでん)だよ!」

「塩・・・田・・・?」


そうだ。思い出した。朝ドラで何か砂浜に海水撒いてた!


「照詮、塩の田んぼとはなんだっちゃ?」

環塵叔父は興味深そうに俺に尋ねた。


「砂浜に塩水を撒いて、天日干しするんだ。そしたら砂に塩がついて、結晶になる。海水でそれを集めれば塩分の濃い水ができて、煮詰めて塩がいっぱい採れる!」

「ふむ・・・ しかし、照詮。砂に海水をかけたところで、すぐ染み込んでしまって塩水は逃げてしまい塩は残らんぞ? また、砂に塩が付いたとしても、どうやって塩と砂を分けるのじゃ?」


「んー、砂の下に水を通さない物を敷き詰めておく。粘土とか。木枠などで囲えば塩水は逃げにくいじゃろ。砂と水を分けるためには、(むしろ)などを入れた箱に流してろ過するか・・・ もしくは大きな樽を作ってそこに塩がいっぱいついた砂と海水を入れてかき混ぜて、しばらくしたら上澄みを取るとか、かな? 使った砂はまた撒けば繰り返し使える」


「・・・にがり、は、どうする?」

弥太郎は物知りだな。確かに海水を煮詰めたら苦汁が出る。そのままでは美味しくない。


「集めて一度煮詰めたら、上澄みを取るのかな? または濾すのかな? 炭とかを通した樽とかに通せばいいのかも?」

苦汁があれば、豆腐作りもできるかもしれないな。んー、でも知識不足だ。この辺は試行錯誤してもらうしかないな。


「問題は水運びが大変な所だ・・・ 人力でもいいけど、そのうち『潮の満ち引き』も使えるようになれば楽になりそうだな。場所の選定とか堤防作ったりしなくちゃいけないかもだから、すぐにはできなそうだけど・・・」


「まぁ、面白い試みじゃ。支度にちと金はかかりそうじゃが・・・だんだん良くしていけばええんじゃ。やってみてもええじゃろ。先の戦で怪我をして手の筋を痛めた者、歩くのがきつくなった者など戦働きできんようになった者にも役割がありそうじゃしな」


初期の設備投資が大変だから、そこまで大きな塩田は他国ではできていないはず。資金はある。安全性を確保して設備投資をケチらず行えば、大量生産により質の高い『佐渡の塩』を特産品化できるかもしれん。


「金は出す。小比叡村の村長、吾平。頼めるか?」


白髪の御爺は、目を見開き、その後大きく頷いた。

「是非やらせていただきます! 細々とやっていた塩作りですが、ご領主様のお知恵を使えば山のような塩が作れそうですわい」

喜ぶ吾平御爺と俺。嬉しいな! 戦国の世に来て、初めての名産品が作れそうだぞ!


「ちょい待ち!」

環塵叔父は急に厳しい顔をした。珍しいな。


「叔父? どうした?」

「小比叡の村を、照詮。お主の直轄地とした方がええ。兵も配置した方がええっちゃ!」


何だって?!

佐渡ヶ島で製塩は古くから行われてきました。延暦3年(西暦803年)には30石の塩を越後へ輸出したという資料も書かれていました。(「古代の塩づくり」新潟市歴史博物館小林隆幸様)

「揚げ浜式製塩法」は千年ほど前から開発されていますが、佐渡ヶ島では1650年頃に能登から伝わったようです。時代を百年ほど飛び越えました。朝ドラは見ておくものですね。


大規模な塩田開発により塩の自給率が飽和し、余った塩をさらに特産品として売りにできるようになるのは大きな利点となると思います。

生産者を戦場から切り離し、豊富な資金を元に初期投資をして専門的に製塩を行うことで、安定した生産量を確保します。入り浜式などを見越して、さらに改良を重ねていきます。

イオン交換膜法は、残念ながら・・・><

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 製塩はよく採鹹工程が技術チートで取り上げられますが、実際に問題になるのは燃料だったりします。 江戸時代にはシェアの8割以上を担っていた瀬戸内でも燃料費の高騰で、作れば作るほど赤字になる製塩…
[良い点] 面白いです、更新楽しみにしてます。一気に更新して祭にしてもええんやで?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ