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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「礎」

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第三十六話 ~「法」~

お待たせしました。第五章スタートです。

<羽茂郡 羽茂城 城主書斎>



 今日もお勉強だ。辛い。


「『御成敗式目』はもうご存知ですな。では、今日は『朝倉敏景十七箇条』と『大友義長条々』について学びましょう。いやはや楽しいですな!」


 やべー。辻藤、こいつ法律マニアだ。俺だって勉強は嫌いじゃないが、連日朝一番から一方的に喋られるのは苦痛でしかない。教え下手か。


「奥州の伊達稙宗殿は、百七十条にも及ぶ分国法を作成しておるとか! そして今年から発布するとか! いやはや、素晴らしいですな!」

 百七十条とか、作った本人も忘れてそうだが。法律ってもっと簡単でいいんじゃないのか?


 現代だったら、日本国憲法があって、民法とか教育基本法、刑事訴訟法とか地方自治法とか何とか色々あったよな。でも一字一句は覚えてはいないし、大体のことしか覚えていない。そもそも、法律は刑事罰だけじゃなくて、守ったり防いだりしてくれる要素もあったはずだよな。ただ、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義とかはとてもできない。この世界に合わせた法律が必要だ。


 教えてもらってる戦国の分国法とかも、家臣の統制方法、土地を巡るトラブルの解決法、年貢や恩賞に関する規定、勝手に婚姻させない法律、日常生活の戒めとかを子孫に関する家訓とか、内容によっても色々だ。一緒くたにするのもよくなかろう・・・


 聞いてただけじゃダメだ。考えながら聞かねば。先日に引き続き、メモを取りながら必死になって俺は学んだ。



 数刻後……


 …… ようやく終わった。


 真っ白になってぐったりしながらも、俺は全ての講義のメモを見て、これからの法についての考えをまとめていた。昼食後は、皆と相談しての法律決めだ。


「照詮、今日の昼ご飯、なんだと思うっちゃ? うちはぶりがいいっちゃ!」

 一緒に講義を聞いていたはずのレンは、ニコニコ顔で元気いっぱいだ。お前、全然聞いてなかったろ?




<羽茂郡 羽茂城 評定の間>



 一通りの講義を聞き終わったところで、皆を集めて法についての評定を開いた。


 参加者は、俺、辻藤(つじどう)左衛門信俊(さえもんのぶとし)、環塵叔父、椎名則秋(しいなのりあき)、小島弥太郎、小島妙恵おばさん、紫鹿おばちゃん、新発田(しばた)収蔵(しゅうぞう)、長谷川海太郎(うみたろう)、先日味方に引き入れた赤塚直宗(あかつかなおむね)、久保田仲馬(ちゅうま)おじ、レン。主だったメンバーを集めた。


「それでは羽茂郡の『法』について俺の考えを述べる」

 俺はコホンと咳払いをしてから話し始めた。

「我が新たな羽茂本間は『法』によって国を治めることとしたい。そのためには、まずは大本である『大法』を決めて、その下に細かな『小法』を決めたい。文言は簡素で分かりやすくしたい。法の文言を難しい言葉で誤魔化すのは嫌いだ。誰でも分かりやすく、誰でも覚えられるものにしたい。小難しくするのはそれからだ」


 まず、全体的な法律「大法」を作る。その下に細かな規定を含めた法律「小法」を作る。

 大法が大きな箱。小法が小さな箱。大きな箱があって、その中に小さな箱が入っているイメージだ。


「おお、さすがは殿。大きなとらえですな。分かりやすいというのは学のない儂にはありがたいこっちゃ」

 仲馬おじは肯定的だ。皆も受け入れてくれているようだ。


「『大法』では、俺は『人種、信条、性別、社会的身分、門地で差別されない』という文言を入れたい。あと『決めるときは知恵を出し合って決めて、決めたことは皆で頑張る』っていう決め方も好きだ。これについて意見を求める」


 生まれや血筋、親の職業とかで偉さが決まる世の中なんて嫌いだ。人種は、日本人が99%以上を占めてる今はあまり意味無いが、世界を目指すためには差別をなくすことが大事だ。物事の決め方は、あまり相談ばかりしているとスピード感がなくて進まないのは分かる。だが、横暴な専制者が何でも勝手に決めることによって、破綻した国が山ほどあることを歴史が証明している。


 六尺の巨漢、則秋は頷きながら聞きつつも、こう話した。

「殿のお考え、とても素晴らしきことと存じます。ですが、人の命が軽いこの世で『皆が同じ』ということはとても難しいもの。さらに、『専制』を嫌う殿のお考えも大事ですが、この世のことを皆が決めていけば良くなる、という訳では御座いませぬ。力ある者の荒縄を断ち切るがごとき決断力が肝要となる場合もあると存じます」


「『信条』が何でもいいってのは面白いっちゃ。真言宗でも一向宗でも神道でも、南蛮の異国の神を信じていても差別はなしか。好き嫌いはあってもいいが、虐げる理由にはならんちゅーこっちゃな。筋は通っちょる・・・じゃが、大変じゃぞ?」

 環塵叔父も無精ひげをなぞりながら話す。「信仰は〇〇に限る」とかいう国の法律を聞いたことがあるが、そんなことはしない。宗教対立はいつの時代も終わりはない。どちらも自分が信じる物が正しいのだから、平行線が続いて妥協点はない。要はどう行動しているかで判断するということだ。


「男と女、どちらも助け合うのは素敵ですわ。この頃は戦続きで男が地位が高く、女が地位が低いような流れがあります。『どちらも大事』と最初に伝えてくださると私達女は助かりますわ」

 妙恵おばさんと紫鹿おばちゃんは顔を合わせて頷きあっている。もちろん、性別による仕事や動きの向き不向きはある。だが、虐げる理由にはならない。


「『皆が同じ』と勘違いする者がないようにしないといけませぬな。『差別』され『虐げられる』ことはなくとも、身分の違いや働きの違いはありまする。『何もしない者、怠け者も大事にされる』など誤ったとらえ方をされては国が立ち行きませぬ。あくまで『広く人を集める。法を守る限り大切にされる』ということを前面に押し出した方が賢明かと」

 法治国家を目指す辻藤左衛門信俊は相変わらず厳しいな。「法を守る限り」という限定される言葉を強調している。あーそうか、「能力に応じて等しく学び働き、益を享受する」というのもあったか。


「弥太郎とレンはどう思う?」

 俺は二人に話を振った。


「…… みてくれではんだんは、だめだ。おれはそれでいい」

「んーうちはあほだから、わかんないっちゃ! 楽しければそれでいいっちゃ!」


 弥太郎は先天的な疾患か何かだったのだろう。見た目は蟾蜍のよう。しかし、素晴らしい才能がある。片腕が無く生まれようが、両目が見えなかろうが、そんなことはどうでもいい。皆が才能を発揮できる国を作りたいな。

 レンは~、うん。頭はよくない。さっきも法の勉強中、ぼーっと外を見て「あの雲、魚みたい!」とか言ってたもん。だが、動きは素晴らしい。そうだな、皆が楽しく幸せに過ごせる国にしたいものだ。


「では、国を治めるに当たり、大法を定める。

 『一つ、法によって治める』

 『二つ、人種、信条、性別、容姿、門地によって差別せず』

 『三つ、働き、能によって国を富ます』

 とするぞ」

「ははっ」

 皆が納得してくれたようだ。では次だ。


「その下に来る『小法』の概案について、意見はないか?」


「はっ!」

 財政に明るい新発田(しばた)収蔵(しゅうぞう)は張り切って話を切り出した。


「農民への年貢(基本の税、米や銭で支払う)、私段銭(したんせん)(農地の広さによる臨時税)、公事(くじ)(年貢以外の税。特注品の売り上げや雑穀、労働等)、伝馬役(人や馬を徴収しての輸送の従事)、普請役(土木作業の労働)、陣夫役(兵役)。町民への矢銭(軍事の臨時税)、倉役(高利貸しへの税)、棟別銭(商人、職人の家屋の税)、有徳銭(裕福な者からの税)、市場銭(市場の商人の税)、地子銭(宅地に課せられた税)などは『小法』に入ると存じます。さしずめ『税法』とでも言いましょうか。国を富ますために、こちらの方はお任せください!」


 税金ばかり高くとってリターンがない国は、反発を招く。いざという時に守ってくれる国だからこそ、手に入れた財の一部を喜んで差し出すのだ。不平等な税制は愚かだ。やるべき大切なことがあるのに、効果の薄いことに大金を費やす国はダメだ。優先順位をつける。効果的に使う。そのためには……


「人材を育てること、ですな。いずれ、南佐渡の全ての民が学ぶことができる学び舎を作り学べば、国力は極めて上がりましょう。『民に学はいらぬ』という国は、立ち行かなくなると思いまする。『学法』を定めること、お任せくだされ」


 長谷川海太郎(うみたろう)の言う通りだ。金塊はいずれなくなるが、人が育てば金以上の価値となり続いていく。さっそく地域ごとに学舎を建てて読み書きなどを進めてみるか・・・


 新参の赤塚直宗(あかつかなおむね)も声をあげる。


「さらに『小法』には、刑罰の規定を定めることが必要かと。先日、罪を犯した者を金玉潰しにしたこと、河原田でも聞き及んでおります。至極妥当な判断でございました。遠く明国では十悪(謀反、謀大逆、謀叛、悪逆、不道、大不敬、不孝、不睦、不義、内乱)、罰に関しては五刑(笞刑、杖刑、徒刑、流刑、死刑)が決められておると聞いております。これらを元に『こうしたらこうなる』という法を明確にしておけば、誰もが規範意識を持って行動できまする」

「『刑法』だな。確かに大事だが、あまり細かく決めすぎるなよ。法には弾力性も大事だと思う」

「はっ」

 俺は少し釘を刺しておく。悪臣や悪人を断罪するための刑法は必須だ。厳しく取り締まることは抑止的な効果もあるし大事。だが、罰によって人を動かすのは、あまりいい動かし方じゃない。できれば恩賞や褒美などで動かすことの方が能動的だ。そして、情状酌量というのもある。


「さすれば、烏合の衆とならぬためにも『軍法』もお願いいたし申す。統制のとれた精強な軍とするには、徴兵、軍事指揮、武具管理、戦闘規律、恩賞の配分などを決めておかなくてはなりませぬ。戦に大方の取り決めはあるものの、ほとんどが口伝。軍が広がればその地によっても変わっていき申す」


 則秋からは軍事面の法律の案だ。これは必要だな。戦はこれからも続いていく。しっかり決めておけば揉め事を減らす事が出来る。則秋には軍の規範を乱した者がいないか、恩賞に虚偽や誇張がないかを見張る目付(めつけ)の役割も担ってほしいな。


「それなら、どのように暮らしていけばいいかっていうのも大事ね~。揉め事が起きたとき、家を誰が継ぐのか、婚姻は勝手にしていいのか、商売はどんどんやっていいのか、訴えを起こしていいのかとか。大体、それなりに決まってるのはあるけど、必要ならまとめておけば~?」

「紫鹿おばちゃんの言ってるのは『民法』かな。そうだな。緩くていいかと思っているが、ちょっと決めておこうか」


 揉め事が起きたら、自分達で解決できるならそれでいい。解決できないなら、訴訟は起こしていいけど。家を長男が継ぐとこちらから決める必要もなくね? 勝手にすればいい。あと婚姻か。自由にすればいいけど、この時代は親が勝手に決めるものだからな。そういや、徳川家康は大名同士の婚姻による力の結束を恐れて厳しく取り締まっていたな。他の分国法にもあったが・・・悩む所だな。


「じゃ、『小法」はとりあえず『税法』『学法』『刑法』『軍法』『民法』の五つとするぞ。細かい所はおいおい決めておこう。決めたからと言ってそれが終わりじゃなくて、意見を出し合って皆が納得しやすいものにしていこう。また、法に一文加えるか削るかできた者には報奨を授けるとして広く世に知らせていく。七日後にもう一度意見を聞くからそれまで考えておいてくれ」

「ははっ!」


 新しく世界を作るというのは楽じゃないな。

 これだけ決めても、武力によって全てが無になることもあるし、全てが平等なんてできる訳もない。法は人を幸せにもするが不幸にもする。だが、差別の無い世づくり、皆が力を出しやすい国作りを目指すことはきっと無駄じゃない。俺は努力する。後世の人々にも努力してほしい。これが不断の努力ってやつだな。



<羽茂郡 羽茂城 殿屋敷 城主私室>


 ふぅ~疲れた疲れた。

 もうすぐ夕飯時かな?


「照詮、肩揉んであげるっちゃ!」

 今日決めたことを筆でまとめているところに、レンが俺の苦労を察してマッサージしてくれる。生き返る~ 助かるわ~


 環塵叔父はお経の本を読み、弥太郎は筋トレ、妙恵おばさんはチクチクと縫物をしている。自由時間ってやつだな。


 そこへ、


ドタドタドタ!


 おや、足音がする。誰だろう?



 ガララッ!


「殿! お寛ぎの所申し訳ありませぬ!」

 弓隊長の捧正義だ。血相を変えている。小比叡の船の調査に行かせたが、一大事か?


「どうした?」

「はっ! 小比叡に漂着していた船、この国の物ではございませんでした! そして中からは面妖な者が数名! 村の者達が『奇怪な者を追い払え!』と武装し、一触即発でござる! いかがいたしましょう!?」

「なんだって!?」

「イラストでみる戦国時代の暮らし図鑑」(宝島社新書)などを参考に、内政について考えてきました。考えすぎて疲れて、後書きに書く気力も沸いてきません。


法律も調べれば調べるほど奥が深いです。

とりあえず前に進んでいきます(/・ω・)/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 足利政権が安定しなかった要因の一つは相続問題の不備です。相続問題は碌に財産が無い庶民でも揉める問題ですし、その辺りをしっかりやらないと駄目でしょう。 [一言] 実際、主人公に玉潰しの際…
[一言] 法で治めるには民の教育が不可欠かな 法を民が細かく覚える必要はないがやって良いことと悪いことくらい理解しなければ守るに守れない
[良い点] 早速私がリクエストしたことを登用いたこと、感謝します。 [一言] 新章待ってました!!! 佐渡を法で統治することが決まったことも束の間、幕間での異国人が漂流してきて佐渡は大騒ぎ。主人公は…
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