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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「南佐渡の炎」

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第三十二話 ~二顧~

<佐渡国 羽茂郡 羽茂の町>



「聞いた? 領主様が代替わりしたそうよ」

「聞いた聞いた。えらく若い領主様みたい。確か六つだとか」

「ええっ? たったの六つ? うちの又吉と一つしか違わないじゃないか?」

「でも、えらく聡明なんだそうよ。北の千手村にいたんだって。高季様の隠し子だったのかしら?」

「世継ぎは高信様だと思ったのにね~。でも、あの方、いつも酒に酔ってて、こっちをやらしい目つきで見てきてたから、感じ悪かったのよね」

「へっ! こーんな乳してたら、だれでも見るわ! ほれっ!」

「あ、やったな~?」


 井戸端会議が、羽茂の町の中で繰り広げられていた。


 領主が代替わりしたことを役人達が知らせに来てから七日。ようやく羽茂の町に日常の落ち着きが戻ってきていた。羽茂本間前当主の本間高季は、病気療養を兼ねて出家。羽茂本間氏の菩提寺である大蓮寺に移ったと噂された。


 少し前には、家老の白井や侍大将の斎藤達が市中に引き回された。佐藤とかいう荒縄で縛られた男が、家老の白井や侍大将の斎藤達が、いかに悪どい事をしていたか叫んでいた。

 言われなくても気づいていた者も多かったが、佐藤何某という男の証言により事実として裏付けされたことになった。白井達はその場で打ち首。特に南佐渡を混乱に陥れた斎藤は、金の玉を潰され、指を一本ずつ斬られ、惨たらしい死に様だったようだ。


 佐藤とかいう男は小木や西三川、赤泊などにも連れまわされた。そのあと、村の女達を手籠めにした罪で、やはり金の玉をゆっくりと潰された後、気が触れて波に飛び込んで死んだそうだ。「南佐渡じゃ、私利私欲の輩、無法者、狼藉者は金の玉を潰される」と広がり、野盗までも縮こまっているとされる……



___


<佐渡国 羽茂の町 『秋鹿笛』>



 特徴的な白い頭巾を被り旅人のなりをした()()男は、羽茂の町で最近始まったという賑やかな酒場の中で、聞き耳を立てていた。


___


 新たな羽茂郡の領主。悪人にはとんでもなく厳しいらしいが、意外なほど悪い噂を聞かない。


 まずは、年貢の軽減。ここ三年間、年貢は四公六民とするそうだ。河原田や雑太、越後でも五公五民、六公四民が普通。自分の作った物が手元に残れば、それだけ食うのに困らない。余った分は米問屋に持ち込めば、炭や味噌、塩などの生活必需品と交換できる。


 さらに、不作や病気などで年貢を納めることができない場合でも、申請すれば待ってもらえたり、軽減してもらえたりするらしい。娘を売って冬を越すこともなくなるであろう。しかし、この申請を悪用してわざと少なく申告したり誤魔化したりする者には、きつい処罰があるらしい。金の玉を潰されてはならない。そんな者がいるとは思えない。さらに女でも容赦なく締め上げている。厳しさは男女を問わないことでも有名だ。

 また、「こせき」という物を作るようじゃ。誰がいるか分かるようにするらしいが、どういう利点があるのかのう?


 次に、兵役の免除。戦とあれば働き手の男が駆り出されることになっていたが、これからは志願する者以外は無理に出る必要はないとのこと。実際に今度の領主は、自分の兵を何百人も抱えておるようだ。しかも、戦の修行のみしており、農作業や漁業などはほとんどしておらぬ。専業の兵であれば、その分強くなる。戦が苦手な者は、自分の仕事にゆっくりと携われる。無理に戦に出る必要がない心理的安心感は大きい。生産性は向上しよう。


 さらに、精力的に領地を回り、その土地の特徴や風土を見て覚えているようだ。

村長には必ず会い、村の自治を認めること、困ったことがあったら言いにくること、特産品になりそうなものがあったら伝えることなどを話しているようだ。会ったことがあるのと無いのでは、親しみやすさは雲泥の差だ。領地を大事にしているという信頼感につながる。この点においても優秀だ。


 人材面でも先見の明がある。財務に明るい者、公明正大な裁きができる者を城内に引き入れ、内政面でも改善が著しい。小木や赤泊の港との友誼も十二分。これで物流も滞りなく行き渡る。物流が止まるのは血が止まるのも同然。一早く抑えたのは大きいな。また、大工や漁師、僧侶や医師、山師などを越後や越中、信濃などに送り出している。各地で学んだ優れた技術を、戻ってきた者から佐渡へ取り入れることが狙いか。人材も広く募集を始めておる。住みやすい土地であれば、国を追われた者も集まりやすかろう……



「はいよ」


 ドン


 薄青色の陶器に注がれた酒が届いた。女盛りの酒場の女将~着物の襟元を大胆にはだけさせている~からだ。


「いや、頼んではおらんぞ?」

 かぶりをふる。注文違いか。だが女将は酒を置いたまま、片目をつぶりさっと奥へと帰っていった。


 すると後ろから声が聞こえた。


「それは、俺からだ。()()()()

「……まさかっ!?」


 慌てて振り返った。そのまさかのまさかだった!

 河原田の町で、小汚い着物を着て狼藉者から暴行を受けていた小僧だ! それが今ではどうだ?!  豪奢な着物を着て供の者を引き連れ、底なしの笑顔で儂を見つめているッ!!


「おおお!? 新領主様じゃ!」

「何じゃと!!?」

照詮(しょうせん)様!? 誠か!?」

 酒場の中が一気に騒がしくなった!


「いやいやいや、皆の者! お(くつろ)ぎの中、申し訳ない! 羽茂で評判の店と聞き、酒好きの叔父が『どうしても行きたい』と駄々をこねおってな! 邪魔はせぬ! ゆっくりとやってくれい」


 小僧の芝居がかった言葉と所作に目が点になる男たち。だが次の瞬間、


「それと、振舞(ふるま)い酒じゃ! 今日の払いは()()()()()!!」


 ザワッッ!!

  

「何だって!?」

「ぬぉお!? 何というお大尽(だいじん)!? ありがてぇ、ありがてぇ!」

「そうと聞けば!! おおい、女将! 酒だ! 酒をくれ!!」


 酒場内は一気に火が付いたようなお祭り騒ぎと化した!!

 大盛況の酒場内。その様子を楽しそうに眺めた後、噂の新領主が俺の隣の席に座った。



「これで『二顧(にこ)』だな。宇佐美(うさみ)駿河守(するがのかみ)定満(さだみつ)よ」

「どうして、と聞くのも可笑しな話、だな」

 先ほど、酒を持ってきた女将がにこりと笑う。話が伝わっていたらしい。いい情報網を持っているようだ。この店も小僧の紐付きか。


「敵情視察、と言った所か? どうじゃ? 新たな羽茂本間は?」

「『甲乙丙丁(こうおつへいちょう)』で言えば、甲。『松竹梅』で言えば、松。実にお見事で御座います」

「ふふん、世辞はいらぬぞ」


 新領主はそう言って、女将が出してきた桃汁を薄めた飲み物を一口飲んだ。


「ならば聞こう。我が羽茂本間に足りぬものは何か?」


 ……試されておるのか。それとも単なる好奇心か……?

 まあよい。尋ねられたのなら答えようか。


「大きく三つ。一つ目は、敵が多すぎる事。特に、佐渡にいる雑太本間、河原田本間との敵対関係はそのままで、いつ攻められてもおかしくない。二つ目、兵数、石高、共に足りぬ事。三つ目は、新領主の齢が六つ。どれほどの実力があるか分からぬ事」

「…… 的確な指摘じゃ。流石は天下の名将、宇佐美定満じゃ」


 天下の名将? 儂がか?

 買い被り過ぎだ。(上杉)定実(さだざね)様の元で働く、()()()()()()()()()()()()()の男だぞ。天下の名将なぞ、よく言えたものだな。


「『三分一ヶ原の戦』、まもなく始まろう。上杉方は旗色が悪いと見えるぞ? どうじゃ、今すぐ俺の配下につかぬか。『軍師(ぐんし)』として迎える準備があるぞ」


 軍師!? 

 実質の軍目付(主将の両目となり働く者)ではないか!! そこまで儂を買っているのか?! 


 この小僧は嘘を言わぬ。誠のことであろう。

 ……楽しいであろうな。聡明な君主の元で、天下の軍配を思う存分に振るえることは。


 ……だが、()()()


()()()()()()()()。上杉家には、これまでの義理があり申す。ましてや大戦(おおいくさ)の前。ここで上杉家から去れば天下の笑い者となりましょう」

「うん、だろうな。知ってた。だが、()()()()()


 ふふっ。

 知っているのにわざわざ尋ねるとはな。外堀を一つ、二つと埋められていくわ。

 もし、仮に三分一ヶ原の戦の後、仮に命が残っていたのであれば、小僧に仕えるのも悪くはないであろう、な。


「ご厚恩、感謝致す。それと儂から老婆心ながら…… 『河原田本間の軍勢。既に動いておりますぞ』」

「うん、()()()()()。二日後、西三川でぶつかるだろう。備えはしてある」


 やはり知っておったか。蛇足であったな。天を駆ける龍に、地を這う足は要らぬか。

 …… とらえどころのない小僧だ。愚かかと思えば文殊のような知恵がある。無力かと思えば毘沙門天のような力を感じる。


 小僧は、矢庭に真顔になった。


「俺は、()()()()()()。お前の力があれば、俺はもっと遠くまで行ける。…… 死ぬなよ」

「…… 人の生き死には、天のみぞ知ること。縁があればまた会うこともあるでしょう」


 口説き文句も中々堂にいったものだな。大した童…… いや、男だ。

 小僧は桃汁をぐいと飲み干した。そろそろ時間か。


「ではな。焙烙頭巾はかぶってた方がよいぞ。()()()()()()()()

「なっ! そ、それだけは言われとうない!」


 悪態をついて小僧は去っていった! おのれ、気にしておることを!

 しかし、「ご領主!」「お大尽!」「若様!」と凄い人気ぶりじゃ。これは一過性のものに留まらぬだろう。一気に佐渡国が収まるやもしれぬ。


 だが、それはそれ。

 儂は儂の役割を果たさねばならぬ。柏崎に戻り、上条様に佐渡の報告をした後、最期となるやもしれぬ戦に備えねば。

当面の内政パート。

税、兵、地、人の見直しからスタートです。

資金はフル活用。


宇佐美定満について。1489年生まれ。

1514年頃に枇杷島城主の父宇佐美弥七郎房忠が為景に殺され、その際に逃げ落ちたと言われています。


その後20~40歳くらいの働き盛りの頃の記述はほぼ見つかりませんでした(*´Д`*)

この物語では、守護上杉家一門の上条定憲に拾われ、元いた枇杷島城を任されるもそれほど重用はされていないという立場です。佐渡の様子見に出されるくらい。


父の死から約20年後の1536年の「三分一ヶ原」で上杉側の軍で参戦していることは間違いなさそうです。その後、なんやかんやして10年後に謙信が長尾家の家督を継ぐと軍門に下ります。そして川中島の戦いで活躍する所がメインです。


そもそも、優れた軍師という資料がほとんど見つからず、琵琶島城城主・宇佐美定行のことなんじゃない? とか、活躍は創作ではないか? と言われることも。


某ゲームでは統率90近くある有能なイメージ。

三顧の礼は実現するのでしょうか(*´Д`*)?

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