第三十話 ~入城~
<佐渡国 羽茂郡 羽茂城内>
「行け! 領主、羽茂高季を捕らえろ!」
椎名則秋率いる別動隊が、羽茂城内に入り込んだ。その数五十。
小半時(30分)前。「羽茂本間にあんな軍いたのか?」と、町の者はポカンとしていた。西三川方面からやってきた黒揃えの男達。羽茂城へ急行している・・・
町民に構っている暇はない。一丸となり、城まで急行した。
城門の見張り2人を倒した後は、ほぼ非戦闘員。呆然と立ち尽くす女や爺。手向かわなければ無視していく。だが、少しでも抵抗の意志を見せた者は、刀や槍の錆とした。目指すは領主の身柄だ。
「見えたぞ! 本丸だ!」
本当に城に兵はほぼいない。紫鹿からの情報通りだ。攻められる危険性がそれほど無かったということだ。すんなりと城内まで入り込めた。戸や襖を蹴破り、領主を探す。どこだ!?
その時、
「いたぞ! 見つけたぞ!!」
声がした。副将の宗勝か? でかした! 手勢十名と共に急行する。
領主、羽茂本間高季は布団から起き出し、白い着物のまま正座している。世話をしていたであろう坊主と女は腰が砕け、口はあわわと開きっぱなしだ。
「何者だ? 河原田の者か?」
領主高季は、事情をまだ呑み込めていないようだ。だが、完全武装の男達を前に臆せず尋ねるのは流石というところか。
「千手村、本間照詮様が配下、椎名則秋と申す。城主、羽茂本間高季様であられますな。この城と貴殿の身柄、押さえさせていただき申す」
「千手村・・・ あぁ、一揆が起きて制圧に向かったという所か・・・ 空となった城を攻める辺り、指揮官は賢明であるな。手勢はほとんど出払っていたか。やられたわ」
高季は、どこか他人事のように分析している。
(この分だと、千手村に向かった手勢は、半壊、もしくは全滅したか。嫡男の高信はどうしたろう? 立ち向かって討ち死にしたろうか? まさかの展開じゃな・・・)
「相分かった。切腹いたす。介錯を願いたい」
武士の最後の華じゃ。病ではなく自刃できるなら武士の本懐を遂げることができよう。
「申し訳御座らぬ。我が主、本間照詮様から『生かしたまま捕らえておく』ように命じられて御座る。縛について頂き申す」
「ほっ。自らの手で誅したいということか。何とも面倒くさい者じゃな」
「直接、お会いしたいとのことで御座います。ささ、お立ち下さりませ」
(病に負け、大事な南佐渡の政を顧みることができなんだ。嫡男高信に期待したが、どうにもうまくいかなんだ・・・ これも戦国の定か。致し方ない・・・)
高季はゆっくりと立ち上がる。この身一つで済めばいいのだがな・・・
誰もが高季を注視していた。その時!
何者かが空白を切り裂いた!
「イヤアアアアアアアアアァ!!!」
・・・ドスッ
先ほどまで高季の傍にいた女がいつの間にか立ち上がっていた!手には護身用の短刀。音もなく則秋に近づき、鎧の隙間目掛け渾身の力をもって突き刺していた!
「ぐ、ぐぬっ!?」
ぬかったっ! 油断したわっ!
憤怒の形相をした女の両手首を掴み、尚も突き刺そうとする動きを止めた。そして、体を回転させて女を振りほどき、刀を抜いて一閃した。
ザンッ!
「ろ、狼藉者め・・・」
女は最後の言葉を呟きながら、額から則秋の剛剣を受け真っ二つになった。
討ち果たした則秋。しかし脇腹を抉られた。血がドクドクと流れ出る!
「じょ、城主をとどめおけ。他の者は手筈通り城の巡視、防衛。しょ・・・照詮様がくるまで待つのじゃ・・・」
「のっ、則秋様っ!」
「お気を確かに!」
何たる不覚。これから、これからじゃと言うのに・・・!
照詮様には儂が必要じゃ! 儂が力に成らねばならぬ。
あの方はお若い。まだまだお伝えせねばならぬことがある!
息子、五郎太の元服もまだじゃ。こ、ここで斃れる訳にはいかぬ・・・!
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<佐渡国 羽茂郡 羽茂の町 入口>
俺は二百の手勢を率いて、羽茂の町へと入った。
一頭だけ仕入れていた馬に、環塵叔父が後ろ、俺が前に乗っての凱旋だ。馬にはまだ一人で乗れない。
町の者達は、軍勢を笑顔で出迎えた。
しかし、異変に気づいたのであろう。すぐに絶望したような表情へと変わっていった。
今朝方、羽茂本間軍のほぼ全戦力が出陣した。戦力差は歴然。一揆勢を討ち果たしてきたと確信していた。乱取りしてきた物を買い取ろうと、銭が入った袋を重そうに抱えている者も見える。残念だったな。そいつらはもう三途の川を渡っておるぞ。
「う、うわああああああああ!?」
「て、て、て、敵襲だああああああああああ!?」
我先に逃げようとする者達。味方の軍が戻らず、見知らぬ軍が自分達の町へ入ってきたのだ。今度は自分達が乱取りされる番と思うのが当然だ。
「静まれえええええええいッ!」
馬上の俺は、あらん限りの声で叫んだ。
尚も逃げている者もいるが、立ち止まり、俺の方を見る者は多い。
(子ども?)
(先頭の子どもが叫んでいる?)
「俺は千手村の村長、本間照詮! 今日から羽茂郡の領主と相成った! これから本間高季殿に面会しに行く所じゃ! 乱暴・狼藉は一切ない! 安心して明日を待てい!」
嘘も方便だ。どうせ領主となるのだ。混乱させる必要はない。
『乱暴・狼藉は固く禁止』と既に全軍に伝えてある。羽茂の町で乱取りした者は死罪に処すと。本気の本気だ。
「これを見よ!」
「あいよ」
俺は弥太郎に旗の準備を促す。弥太郎は背負ってきた木箱から長尾家から譲り受けた旗を取り出し、供の者が持っていた旗棒に付けた。「三紋の御旗」の幟旗の完成だ。
「おおっ?」
「あの旗は・・・?」
「一番下の紋を知っているぞ! 越後の長尾家の『九曜巴』だぞ!」
「『九曜巴』が一番下?! じゃあその上の紋は・・・!?」
俺は多くを語らない。説明した所で俄かに信じがたいはずだ。将軍と天皇だぞ?
こういうのは人づてに伝わった方が効果が高い。
別に、長尾家、将軍家、天皇家の威光を振りかざすつもりは毛頭ない。俺は俺の力のみで進んでいるのだ。虎の威を借りる狐には決してならんぞ。だが、民衆がこれを見て安心できるのなら、使うことに躊躇いはしない。
「では、本間高季殿に挨拶に参る。全軍、進めッ!」
「応っ!」
先頭の馬に乗る俺、横に付き添う旗を掲げた弥太郎。その後ろを、黒揃えの軍隊百数十が整然と並んで進む。
羽茂の町の者達は、夢か幻かと戸惑った。今日二度目の口をポカンと開けて俺達が進むのを見守っていた。
乱暴狼藉は決してしない。金がないからやるのだ。
これから治める町を乱取りしてどうする?
好奇や懐疑、様々な目線が集まる中を、俺は一向に意に介さず、城門の前まで移動した。
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羽茂城の城門では、椎名則秋に任せた手勢の者が門番に立っていた。どうやら問題なく落城させたようだな。
「別動隊の者。大義であった。則秋は中か?」
「照詮様! お待ちしておりました! 既に羽茂城は我らが手に落ちてございます! ・・・しかし! 則秋様! 則秋様が!!」
!?
則秋がどうしたんだ!?
書き始めて一ヶ月。
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