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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「南佐渡の炎」

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第二十九話 ~命運~

<佐渡国 千手村入口 >


ガコーン! ガコーン!


「壊せ! 壊せ!!」


足軽達が手斧を振るい、建設中だった千手村入口の櫓の一つを叩き壊している。

悪の巣窟を破壊する勇者が如く、力自慢の男達が目を血走らせながら柱をなぎ倒している。これから始まる一方的な虐殺を頭に思い描く男達。現代人からすれば狂気の集団であろう。



羽茂本間の千手村に入る手前に、建設中だったであろう櫓が見えた。

我らが羽茂本間の軍勢を見るや否や、「て、敵襲だー!」と叫び声をあげて逃げ出しおった。あの脱兎の如き逃げ足の速さは見物だったな!


村の連中は馬鹿じゃな。領主様に逆らって生きていけるはずがなかろうに。千手村の命運は尽きたな。

二百名もの大軍じゃ。羽茂本間の本城や支城から、ほぼ全ての侍や供回りが集められている。相手は十人くらいの戦人(いくさびと)がいるようじゃが、多勢に無勢。これはあっという間に終わるじゃろう。その後の乱取りで少しでも旨い汁を啜るためにも、先陣を切らねばな! 

名も無き足軽の一人は、手に持つ槍を握りしめた。


「もう一つ、櫓が見えるぞ!! 上には弓を持っている者も見える! いけ! なぎ倒せ!」


輿に乗った、顔を布で覆った心の醜い小男が叫んだ。


・・・あ奴を信頼しておる者などいないが、逆らうと酷いことになる。まあ、どうあっても勝ち戦じゃ。櫓に向かうとするか。斧持ちどもが櫓を倒したら、上に乗った村人を殺そう。殺して首を取れば戦功になる。首が多すぎれば鼻そぎじゃ。いくつ集められるか、他の者共と勝負じゃな!!


「おおおおおッ!」


男達が櫓に殺到する。櫓から矢は飛んこない。我らのあまりの多さに恐れを為したか? 


儂の他二十名ほどの男達が一塊となって、櫓に到達し・・・



ドーンッ!!



「う? うわあああああああああ!?」


先頭の者が躓いた? いや? 落ちていく! 落とし穴だ!

暗くて深い! 底が見えぬほどだ! 止まれ! 止まれ!!


しかし、後ろから他の者が勢いづいて押してくる! いかん、見えておらん! 

「止まれ! 止まっ・・・」


先陣を切ろうと、二列目を走っていた名も無き男。後ろから押され、暗い穴の中へ落ちて行った。

底には竹を斜めに切った鋭い竹槍が、愚かな者達を待ち構えていた・・・



___________



「敵軍、穴へ落ちました!」

「うむ。では行くぞ!」


俺は合図の銅鑼を鳴らした!


ジャーン! ジャーン!


戦国時代の出陣合図なら法螺貝だろうが、肺活量の少ない子どもの俺には無理だ。タイミングをしっかり伝えるなら、大きく響く銅鑼の方がいい。

越後屋から仕入れた大きな銅鑼が響き渡るや否や、左右に伏せてあった五十ずつの兵達が姿を現し、羽茂本間軍に向けて一斉に矢を射かけた!


ヒュンヒュンヒュン! ズドドドッ!!!


横から弓矢が飛んでくるとは夢にも思わなかった足軽達。一方的に降り注ぐ矢の雨に対応できなかった。瞬く間に鋭く尖った死の矢が突き刺さっていく! 構えることもできずに左右の側頭部や胴に風穴が空き、耐えきれずに倒れていく。


「敵軍、崩れています! 倒れた者およそ三十!」


櫓の上から、弓隊長の捧正義が俺に叫ぶ。高所にいて遠目が利くので、双眼鏡のない戦場の目となっている。


「追い打ちが必要じゃな」

環塵叔父が冷静に俺に言う。頷く俺。さらに力いっぱい銅鑼をさらに鳴らす。


ジャーン! ジャーン!!


合わせるように、「構えッ! テェッ!!」と左右の伏兵の隊長達が号令を出す。

相手は大軍。とにかく撃てば戦果は得られる。少し小高くなった木陰からだ。反撃の手も届きにくい。一方的な攻撃となっている。


そのまま待っていれば全滅だ。そうなれば・・・



「敵軍! 倒れた者およそ五十! 戦意喪失した者数十! 残りの百ほどは、こちらへ向かってきます!!」


「予定通りだな。槍隊、行くぞ!!」


ジャジャジャーン! ジャジャジャーン!!


叩き方を変えた。


すると、俺の前50m先でしゃがんで待機していた男達が「応ッ!」と言って立ち上がった。

手に持つのは、三間(約5.8m)もの長さの朱色の槍。越後屋から届いた長柄槍だ。

重さは5kgほどもあるが、相手の3~4mほどの槍とは戦力の差は歴然だ。



「何じゃ!? あんな見掛け倒しの槍! 蹴散らせッ!」


最後列の斎藤が叫ぶ。射かけられて傷を負い、逃げ出そうとする者を(けしか)ける。


(小僧! 姑息な真似を! 思ったより人数がいたようじゃが、こちらの方が数は多いはず! 一気に踏みにじってくれるわ!)


混戦となっては、味方を誤射する危険性があるため射かけられない。それを狙って斎藤は全軍を突撃させる。考えていた通りだ。


左右の弓隊は弓をその場に置き、槍構えに装備を変える。そして歩調を揃えて村へ進む敵軍の退路を断つ。




正面では、千手村軍百五十名が長柄槍を構え、密集体形で待ち構えた。装備は黒く染めた陣笠、銅鎧、小手、脛当てとフル装備。対して、羽茂本間軍の主力、足軽農民兵は装備もまばら。陣笠すらないものもいる。侍はそれなりの装備はしているが、その数は少ない。


そして、装備の質。長柄槍がその恐ろしさを発揮した。


「叩けええええええ!!」

「おおおおおおッ!」


千手村の兵が三間槍を高く振りかぶると、強くしならせて相手の頭上目掛けて叩きつけた!


ガチン! ズバッ! ドゴッ!


目玉が飛び出し、頭蓋が割れ、防いだ腕ごと折られる。

槍は突くだけではない。むしろその長さを生かして鞭のようにしならせて叩きつけることで、強烈な凶器と化す。相手の3~4mの槍の間合いよりも遠く、さらにてこの原理で破壊力は2倍近くにもなる。加えて密集体形で隙がない。個ではなく、ファランクスのような集団として戦うのだ。バラバラと向かってくる足軽なぞ各個撃破していく!


「回れ! 回りこめ!」


正面の槍隊が手ごわいと見るや、一部の者達が回り込んで本隊の俺へ向かってこようとする。装備がほぼ無い分、機動力はある。


だが、


ドシュッ! ドシュドシュ!!


櫓にいる精鋭弓兵の的となり、先頭にいた者から順番に射抜かれていく。圧倒的高所からの、高精度の矢だ。十数人が骸と化していく。


「む、無理だぁ! 無理だあ!!」


叫ぶ槍構えの羽茂本間軍。整然と並び前進してくるお化け長槍の軍勢。こちらの槍はまったく届かず、先頭から瓜割りがごとく叩き潰され突かれていく。

後ろに下がろうにも、逃げ出せば味方の侍達が今度は背中から斬ってくる。どうにもならん!


(どうしてだ!? こんなはずではなかったのに!)


混乱し、絶望しながら、結局進まざるを得ない羽茂本間の足軽達。

せめて一刺し! と槍を構えて突っ込む。届け・・・ッ!

とど・・・ かない。長柄槍の前に、一人、また一人と血の塊となっていく。



「進めっ! 進めっ!!」


羽茂本間の侍は、戦の際に言おうとしてきたことを叫んでいた。

圧倒的な人数差。相手を蹂躙していく快感が待っている・・・はずだった。


「進め!」と叫ぶ自分が最前列になった時に初めて、羽茂本間家中の侍は、自分の置かれた状況がどういうものか知った。進んでくる黒い長槍部隊。目の前には血骸と化した味方の足軽達。横を見れば竹馬の友が長槍で叩かれ、潰れた所を串刺しにされていた。


「う、うわあああああああああああ!?」


慌てて後ろを振り返り、逃げ出そうとする侍。自らは兵を死地に追いやり、自分は逃げようと・・・


だが、足がもつれて転んでしまった。急いで起き上がるが、前の方からも長槍を構えた兵達が迫ってくるのが見えた。先ほど、左右から矢を射かけていた兵達か!? 動けない者達の止めをさしていっている。

絶望した侍。降参じゃ! 降・・・


叫ぼうとした侍目掛けて、無数の無情な槍の穂先が突き刺さった。




_____________________




輿を持った下男も弓矢に倒れ、骸に囲まれ、一人取り残された斎藤。眼前には黒揃えの軍が地獄の集団のように(そび)え立っている。


(何故じゃ?! 何故こんなことになった!? こんな兵、どこから来た!?)


両手で頭を抱え、そんな風に慌てる斎藤の様子が見えた。ハハ、可笑(おか)しいな。


俺は環塵叔父、弥太郎達に守られながら斎藤の目の前に来た。


「よく戻ってきたな。斎藤。どうだ? 今の気持ちは?」

「こ、小僧! よくも・・・ブッ!?」


長槍隊隊長の弥彦が、長柄の横で斎藤の横顔をブッ叩いた。喋らせないぞ?


「羽茂本間の手勢。無事全部片づけることができた。後片付けは大変だが、今だけの仕事だ。ここから南佐渡は平穏へと向かっていける」

「何をいう・・・グヘッ!?」


また弥彦が槍の硬い柄で斎藤を殴る。「喋りそうになったら殴れ」と言ってある。しっかりと役割を果たしてくれて嬉しい。


「今頃、椎名則秋達が羽茂城を制圧しているだろう。お前も連れてってやる。楽しい戦後処理になるな」

「なっ・・・ブヘッ、羽茂・・・ガハッ!」


懲りない男だ。もっとも、口先と虚勢のみで生きてきた男だ。急には、変われないか。


羽茂城は、西方城、清士岡城、岡田城、村山城、須川城、平城と支城があり、標高80mほどの高台にある堅い城だ。今回のように城を空にしてくれなければ、易々と手に入れることは難しかった。


「負傷者と警備の者、死体処理する者は千手村へ残れ! それ以外の者は全軍、これより羽茂城へ進軍する! 勝鬨をあげろ!!」

(えい)(えい)(おう)ッッ!!!」



「こ・・・ゴバッ! グヘッ! ガアッ!!」


一言でも喋ろうとした斎藤は、数人がかりで袋叩きにした。猿轡(さるぐつわ)などで口を無理やり閉じさせない。開ければ殴る。それだけだ。そうすることで、自発的な発言をしなくなる。


「・・・」


やっと黙ったか。喋ることを選択していいぞ? お前がこれまでしてきた、仮初(かりそめ)の権威で他人を黙らせてきた報いが返ってくるだけだがな。因果応報だ。簡単に死ねると思うな?



俺達の命運は、さらに輝きを増した。そして、羽茂本間氏の命運は尽きた。

戦国乱世に一つの歴史が、また一つ刻まれた。哀れみなどない。まだ通過点だ。

大規模戦闘、ようやく第一戦目(´;ω;`)ウゥゥ

一介の村人からだと、簡単ではありませんでした。


戦国物なのに戦場がここまでかかってる作品にお付き合いいただき、大感謝です。

挿絵(By みてみん)

表現力が足りないので、簡単な戦場図を書いてみました。


櫓(囮1)は、適当に建設途中だった的なもの。足の速い仲馬おじが見張り役で、すぐに逃げてもらいます。

櫓(囮2)が罠。櫓の上は着物とハリボテのみの無人。一度目が成功したら、二度目も成功すると思いますよね^^ 落とし穴で戦力を削り、弓隊の合図となります。


正面で槍隊の衝突。装備の質で圧倒します。

羽茂本間の別動隊は、櫓の弓隊で対応しました。


退路は伏兵組が塞ぎます。




戦国時代、戦はそこまで人は死ななかったという説があります。

適当に死なないように戦って、危なくなったら逃げる。


ですが、本作品では全滅作戦多いです。敗走なんて甘いこと、簡単にはさせませんよ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] まずは、きっちり撃破これから何処まで戦線を拡大シテどこで締めるのか?が愉しみ
[気になる点] 理科はあまり得意じゃないので 人が力点 槍の穂先が作用点 支点は?? もしかして支点なくても「てこの原理」?? ってちょっと気になりました
[一言] 江戸時代の文献である雑兵物語にも槍は振り下ろす物として書かれていました。そのリーチと重さで、てこの原理によって恐ろしい武器と槍は化していたのでしょうね。
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