第二十七話 ~釣り糸~
瞬く間に、斎藤の手勢10名を手筈通り誅することができた。
あとは汚く尿をもらした小汚い老人一人。
だが、こいつの所業への報復にはまだまだ足りな過ぎる。そう、全く足りていない!
「こ、小僧! やめろ! 儂を殺すのか!? とんでもないことになるぞ!?」
斎藤は醜態を晒し、失禁までしたのにまだ口が動く。これは死んでも治らないだろうな。
「ああ。お前は殺す! だが、殺すだけでは飽き足りん・・・」
俺は悪魔的な笑顔でニヤリと笑う。1㎥ほどの布が被せられた木箱の傍に寄った。
「さて、斎藤。こいつを見てくれ」
俺は、覆いをめくった。木製の檻。そこにはミナが震えて入っていた。本家筋のクソ女。千手村を不幸のドン底に落とそうとした悪女。二度の食事、用を足す壺。一週間、それのみの檻の中で過ごしてもらった。
「さ、斎藤様!」
ミナは斎藤の姿を見ると、この世に仏を見たような顔をして叫んだ。
「斎藤様! ミナです! このクソガキに捕まってしまいました! 申し訳ありません! どうかお助けください! この狼藉者共を成敗してください! 斎藤様なら簡単でしょう?!」
実に不本意だ。こんな女の声をまた聞かなくてはならないとは。
「さて、斎藤。雑太本間様から、お前とこのキツネを処罰するよう、手紙が届いていたろう? キツネ女が助けてくれと言っておるぞ? 何とかしてやれ」
俺は冷酷に伝える。
(クソッ! やはりこの小僧が儂への嫌がらせをしたのじゃな!
身の程知らずが! 儂を誰だと思っておる! 羽茂の実力者、斎藤堯保じゃぞ!?)
自尊心の塊、斎藤は気を奮い立たせた。脇に差した刀の鞘を杖代わりに立て、よろけながら立ち上がった。そして、一歩、また一歩と木の檻へと近寄っていく・・・
俺は檻から離れ、遠巻きで様子を見守ることにした。
斎藤はよた付きながらも、檻まで近寄った。
「斎藤様! 檻を壊してください! 私を出してください!」
ミナは、敬愛する斎藤が近づいてきたのを見て歓喜した。斎藤様なら、こんな檻くらいすぐに壊してくれる。そして、無双の剣技で小汚い村人共を全て殺してくれる! 夜の枕元で言ってたもの! 百人を殺すのなど造作もなかったと!
「ああ、分かったぞ。今助けてやろう」
斎藤は腰から弱弱しく刀を引き抜いた。歓喜するミナ。
そして・・・斎藤は・・・刺した。
「え?」
ミナの額は、刃で貫かれていた。檻の隙間から。敬愛する斎藤の刃によって。
「どうし・・・て・・・? さ・い・・」
ミナは、何が起きたのか分からないまま目の前が暗くなっていった。
(私は大切にされる存在。尊い血筋。他の者に命令できる存在。他の者は奴隷。我儘は許される。斎藤様は私の全て。私を助けてくれる人。それなのに、な・・・ぜ・・・?)
ミナが絶望に顔を歪め、仰向けになって倒れるのを確認すると、斎藤は何事も無かったように周囲に告げた。
「この女なぞ、知らんな。見たこともないわ」
あ~、斎藤。こいつは現代ならいい政治家になれるわ。
そして、いつものように虚勢を張る。
「小僧! 勝ったと思ったか? 残念だったな! 儂を殺すか? 儂は領主のお気に入りじゃ! 儂を殺せば、羽茂本間様の手勢二百名の全てがこの村へ押し寄せるぞ!?」
斎藤は、自分の生きる策を考えたようだ。
「こんな村など、一溜りもないぞ? お主は、己のちっぽけな満足感の為に、大切な者共を危険に晒すぞ? 危険な奴じゃな! 極悪人じゃな! お主は!」
論点のすり替え野郎だ。藁人形論法を使うストローマンだ。
「黙れ。危険に晒しているのは誰だ!? お前のように村を脅かす小役人がいなければ、村は安全なんだ。お前がのさばるからこそ危険になってるんだ。元々の条件が違う。お前が危険を生み出しているんだ。そうであろう!?」
斎藤はギクっとした。
「加えて言おう。俺は羽茂本間の軍勢など恐れてはおらん! 羽茂本間の手勢が攻めてくる? そう! 俺はそれを待っているんだ!」
叫んだ! 俺の怒りはこんなもんじゃない!
時は来た!
俺は右手の指を四本、高々と頭上に掲げた!
即座に射出される、裁きの矢。
シュン!!
ドス! ドスドスドス!!!!
「ぐ、ぐ、・・・・グワァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
正確無比な鷲羽根矢は、斎藤の右手・左手・右足・左足を瞬時に貫いた。四肢封じの四本指だ。
激痛が全身を蝕み、力無く刀を落とし、斎藤は涎を垂らしながら体をだらしなく地面にめりこませた。
ドゴッ!
(口を、口を動かさねば。口で何でも動かすのじゃ・・・)
ジャリ・・・
(口から土の味がする・・・ おのれ! この儂に泥を食わせるとは! )
憤怒の形相で、斎藤は立ち上がろうとする。が、両腕には矢が突き刺さり、血が流れ、腕に力が入らない。激痛が止まらない。また地面を舐める。動こうにも這うようにしか動けない!
・・・斎藤を殺したい衝動に駆られる俺。村人達も同じだろう。刀を突き刺す。石を投げる。すぐにただの肉塊となる。気分は僅かながらに晴れるだろう・・・
だが! こいつのしてきたことは、死すら生温い!
俺は予定通りこう告げた。
「斎藤・・・ 今だけ命は助けてやる。ミミズのように沼田打ちながら、醜く高季の所へ戻れ! そして、命があれば言ってこい。『村人にやられました。倒しましょう。』、とな!」
殺すことは簡単だ。だが、ひと時の苦しみのみで殺すなど甘い。優しすぎる。
死んだ方がマシと思うくらいの絶望を、こいつには与えて与えて、与えまくった後に命を断ってやる!
「こ・・・小僧。儂を殺さなかったことを後悔するがいい。必ずやお前や、お前の大事な者や、村中の者を嬲り殺しにしてやるぞ! はは、可笑しいわ!」
斎藤は無様に倒れこみながらも、さらに減らず口を叩く。
血は四肢からとめどなく流れ出ている。失血死するかな? と思ったが、こいつのような図太い悪人が易々と死ぬはずがない。どうにかこうにか生き抜き、予定通り千手村へ戦力を向けてくるはずだ。
・・・だが、やはり気が収まらぬな。
俺は這いつくばる斎藤の近くに歩みを進めた。
そして、右の拳を固く握り、斎藤の側頭部目掛けて打ち付けた!
ゴンッ!!!
側頭葉が凹むくらい、憎しみの限りを込めて拳を振りぬいた。
あまりの衝撃に、殺虫剤をかけられたゴキブリのように、転げ回り痛がる斎藤。
・・・気は晴れない。だが、やらぬよりはマシか。
「ああ、それと約束の一か月後、あと十日ほどだったな。待っておるぞ? 自己弁護の上手い自己愛倒錯野郎」
俺は罵った。
レンを取りに来る? 阿呆か! キサマなんぞに指一本触れさせるものか!
「ぐが・・・儂は努力を重ね・・・小僧! お前ナゾ・・・」
まだ言うか。口を塞がねばならんな。
俺は、まだ言う汚い斎藤の口元に向けて、全力のインフロントキックをかました。
ガスッ!!
血が迸り、醜い厚い唇がますます捻じ曲がって歪んだ。いい感じだ。
斎藤はまだ口から毒を吐こうとした。が、口が物理的に開かず、諦めたようだ。
地を這いつくばりながら、のそり、のそりと元来た道を引き返していった。
「雑草は死なない」
また近日中に対峙するだろう。楽しみで仕方がない。
死体が九、気を失った侍が一か。後片付けが面倒だ。
命乞いをして生き残った佐藤何某には、たっぷりと役に立ってもらった後に、自分がしたことへの裁きを受けてもらおうか。
皆はよくやってくれた。最高級の性能を誇る四方竹弓を存分に用いて、俺の期待に応えてくれた射手達の腕前は素晴らしかった。今後さらに重宝していくことになるだろう。
則秋は体格を生かした剛剣だな。弥太郎は・・・うん、規格外だ。味方となってくれて本当に嬉しい。
初陣を完璧な勝利で迎えることができた。震えが止まらない。
しかし、これは終わりではない。寧ろ、佐渡平定への最初の一歩だ。
・・・羽茂本間からの手勢が近々村を襲ってくる。迎撃戦の準備だ。
空海屋の便は、真野港、赤泊港を離れ、また直江津に向かっている。三日後には注文した品を持って、さらなる手勢が村に到着する手筈だ。
羽茂の町で動いている、紫鹿おばちゃんからの報告も楽しみだ。羽茂本間家の弱みを握り、いい情報を届けてくれるだろう。
千手村へ来るのは、五日後から十日後くらいか。
この戦いで、斎藤にこちらが見せたのは十名ほどの精鋭と、櫓の射手だけだ。八十以上の戦力は見せてはいない。だが、自尊心糞野郎の斎藤のことだ。羽茂の持てる全ての兵を口八丁手八丁で呼びこみ、こちらに向けるはずだ。少数と思い侮ってくるが、こちらには今も八十名以上、三日後にはさらに大部隊となる。思うように迎撃できるはずだ。
そして俺には、柏崎水軍や、真野港から西三川に着いた別動隊も控えている。
千手村に全力を向けてこい。跡形もなく撃退してやる。そして逃げるがいい・・・
だが、空っぽになった城がどうなっているかな?
垂らした糸は、蜘蛛の糸などではない。斎藤と羽茂の息の根を止めるための釣り糸だ。
「すぐ殺すなんて、優しすぎる」
という感想を元に、かなりダークな展開にしてみました。
斎藤からの侵攻防衛のために策を練ります。
楽しくなってきました。
ご愛読、評価、ブックアークありがとうございます(*'ω'*)




