第二十四話 ~大海~
<越後国 直江津港 沖合>
歓迎のドンチャン騒ぎをした鯨波砦を離れ、俺たちは柏崎水軍の船で直江津港へ戻ってきている。
従属を受け入れた新人たち柏崎水軍だが、表立って俺たちの手足となって動くことはない。
この時代の水軍は、自由気ままだ。やりたいようにやる。昨日まで協力していた勢力と、次の日には殺しあうことも厭わない。とりあえずの所は、俺たちの依頼を最優先で引き受けてくれる、といったところか。
「とりあえずは、越後屋の蔵田のおっさんの所へ行って、人の集まり具合を聞いてみよう」
「ほっ。越後屋の蔵田と言ったら、蔵田五郎佐か? おいおい、直江津港の大御所じゃねえか。大したもんだな!」
新人はヒューと口笛を吹いた。同じ海を舞台にしている者同士だ。顔は合わせたことはなくとも名前はよく知っている、というところだな。もちろん、敵・味方だろうが。
・・・その大御所が、義祖父になりそうな事は黙っておこう。
<越後国 直江津港 越後屋 本店 店奥部屋>
「おお小鬼はん! 人手、集まっておりまっせ!」
直江津の港、豪商の越後屋蔵田五郎佐は、トレードマークの大きなオデコを撫でながら商売人としての腕をアピールした。嬉しいな。どれくらい集まったのかな?
「ざっと百人! 付近の農村の次男坊三男坊なども含められちょります。どこも食うことがやっとのご時世、戦働きで一山当てようと皆やる気十分ですわ! 手料を含めて百貫文と言いたいとこですが、小鬼はんですよって、九十貫文にまけますよって!」
おお! さらに百人!
戦に関して素人も多かろうが、誰だって初めは素人だ。それに、やる気があるのが一番だ。やる気がなければどんなに素質があろうとも伸びは少ない。やる気があれば訓練だって真面目にやるし、目的があれば強くなる。
「ありがとうよ、蔵田のおっさん。明日には皆、船で佐渡に連れていこう。食料や武具などの手配もしてあるかな?」
「もちろんでんがな! 出羽の方が今年は豊作でしたよって、土崎港から十二分に仕入れておるよって! 武具は美濃伝鍛冶の関物が出回っておりましたよって、買い占めておりますがな! こちらは合わせて二百貫文になりますよって!」
目を金塊マークにして答える豪商。縦横無尽に商売ができて楽しそうだな。
「全部買おう。あと弓と矢は最高素材のものがすぐに欲しい。これはあるだけもらえないか?」
「でしたら、四方竹弓の良品が手持ちにあるよって、十張りほどお持ちになってくださりよって! 矢も狂いの極めて少ない最高級の鷲の羽を使った矢! あるだけお渡しいたします! 鷹や雉などでも十分高級ですが、鷲の羽の精度はとんでもないですよって!」
装備の質は、そのまま戦力に反映される。
相手との戦い。戦力は「兵の数」x「兵の質」x「兵の装備」だ。
「兵の数」はそのまま手数の差となる。ランチェスター戦略では、兵力差の戦力は接近戦では掛け算、遠距離戦では二乗となる、だったかな。どちらにせよ多い方がいいに決まっている。
「兵の質」は、技量と士気だ。鍛錬を重ねた戦士、弥太郎のような飛びぬけた身体能力のある者は五人・十人分の働きをすることも可能だ。大義名分や食料事情、疲労度、心理的なファクターも重要だ。
「兵の数」、「兵の質」が同じであれば、「兵の装備」が勝敗を分ける。戦力を上げるためには、装備への投資を怠ってはいけない。俺たちはまだ少数精鋭。『気持ちで戦う』というのも質的には重要だが、それよりもまずは装備だ。「たけやり」では「はがねのつるぎ」に勝てない。金で何とかなるなら、ジャンジャン使うべきだ。
「槍は、柄の長い『長柄槍』で揃えたい。金はかかってもいい。十二分な数を用意してほしい」
「お任せくだされよって! 人が増えることを見越して三百ほど注文しておきまひょ! 小鬼はんは金払いが素敵ですよって!」
自衛のため、とは言え、人殺しの道具ではある。若干の憂慮はある。
しかし、戦国の世を生き抜くためには、四の五の言ってはいられない。
もちろん、「おうじゃのつるぎ」だって、装備しなければ意味がない。装備をしてても使い方が悪ければ意味がない。
つまり、俺の戦略、戦術、采配が最終的な勝敗を分ける。弱者が強者に勝つのは素晴らしい。しかし、戦いの前に力の差を埋めておくことができるのであれば、できる限り埋めておくに限る。
「でもなぁ・・・鉄砲があればなあ・・・」
俺は口を滑らせた。
鉄砲伝来は、『以後(15)、予算(43)が増える鉄砲伝来』、だから1543年。
謙信らしき虎千代様が7つということは、たぶん、まだそこまで行ってない。種子島に鉄砲は伝来していないはずだ。戦国の世を変えた近代兵器。予算はあるんだ、できれば大量に仕入れて戦力を増強させたい。ただ、作るのとか硝石とか、メッチャ金かかりそうだよな。足りるかなあ・・・
「鉄砲? 『てつはう』のことか? それならあるぞ?」
!?
環塵叔父が何事もないように話す。
え? あるの?! 鉄砲あるの?
「『てつはう』か? 俺も持ってるぜ。一丁だけだけどな。明の密売商人のヘマを見逃してやった時に、お礼にって言ってくれたぞ」
!?!?
柏崎砦の海賊、新人が更なる爆弾発言。
何だって?! 明の商人?! 密売?
「でも、ありゃ使いモンにならないぜ? 撃つのに時間はかかるし、当たらねえし。音で脅かすくらいじゃねえか?」
「い、いや! 鉄砲は戦国の世を変える超兵器だぞ! 明の密売商人!? いつ!? どこ?! どこで会える?」
「どうしたどうした取り乱して? 『天か魔か』と呼ばれるほどの照詮にしては珍しいのう?」
そりゃ慌てるさ。種子島に鉄砲伝来する以前から鉄砲が来てたなんて。そのルートを拡充すれば、いち早く鉄砲を揃えられる可能性がある。でも、明から鉄砲が来てたとか聞いたことないぞ。もしかして質が悪かった? それでスペインからの種子島が良質だった?!
ドキドキが止まらない。
鉄砲伝来より早く鉄砲を、超兵器を仕入れるルートがあるやもしれない。
佐渡の平定、その先の未来だって手に入れられるかもしれない。
「明の密売船は、定期的にやってきて、取引している。こっちからは昆布や刀、硫黄や漆器とか。あっちからは生糸や銅銭、陶磁器、珍しいものじゃ赤い酒とか、さっき言ってた『てつはう』とかだな」
「新人! 明との密貿易できるのか?! 次はいつだ?!」
「はは、慌てんなって。あれは~確か、三か月ほど後だな。輪島湊の沖合でやる予定だ。尖がった岩礁が目印だ」
「新人! 明へは行けるか?! 船は!?」
「おいおい・・・どうしちまったぜ? 大将? 俺たちの船じゃ、明へ行くのは難しいな。俺たちの船は沿岸専用だ。波の高い海じゃ、あっという間にひっくり返っちまってお陀仏よ」
明との密貿易のルートはある。しかし、明へは船ではいけない。
博多などが中継地点として機能しているだろうが、間に人を挟むより、自前のルートがあった方が安全性からも金銭的にも有利だ。
金はある。明は確かジャンク船か? それなら航行距離も船倉もかなりあるはずだ。明から船を買って、船に乗って交易、もしくはポルトガルやイスパニアと交易できれば・・・
胸が高鳴る。
日本は戦国時代だが、世界は大航海時代だ。
兵器・文化・芸術・技術・知識・農作物等。どれも海外の方が格段に進んでいる。
俺には知識や技術はない。硝石の作り方も知らない。トマトやトウモロコシの苗だってない。
だったら、海外から仕入れてくればいいじゃないか?!
「やるぞ! 海だ! 世界だ!」
一人でテンションMAXになって、立ち上がってしまった俺。
「こ、小鬼はん。どうしましたよって・・・?」
焦る豪商。ニヤつく環塵叔父。何のことやらサッパリな弥太郎。「面倒なことになったぜ」と頭を抱えながら、ちょっと楽しそうな新人。
「新人! 三千貫文預ける! 明から鉄砲をあるだけ買ってくれ! 次の取引はもっと買うと言ってくれ! それと、外洋航海できる船を譲ってもらえるよう交渉してくれ! 足りなければもっと出すぞ!」
「ははッ! 一気に取引の桁が上がるわ、こりゃ・・・参ったね。『日本海一』と言われた俺様も形無しじゃねえか・・・」
(こんなに頼りにされるのは始めてだぜ。どこへ行っても爪弾き。半端モンの俺をここまで買ってくれるとはな。・・・手ごわい明の奴らだが・・・何とかしてやろうじゃねぇか!)
「いいぜ。やってやるよ。楽しみに待っててくんな!」
髭面で色黒の海賊は、「大きな仕事になる」という言葉通りだと嬉しそうだ。
「あ、あの・・・・小鬼はん? この色黒の方は・・・ 『日本海一』とか『新人』とかお聞きしましたよって・・・まさか・・・?」
「ああ。俺の子分の柏崎水軍の新人だ。仕事を手伝ってもらうことになった。よろしく頼むな!」
俺は晴れやかに蔵田のおっさんに紹介した。気持ちは既に海の向こうへ飛び立っている。
「越後屋の大旦那。お初にお目見えいたしたしやす。柏崎水軍の新人でさぁ。越後屋さんにはだいぶ『商売』させてもらってます。今後ともよろしゅうに」
新人がニヤッと笑うと、蔵田のおっさんは、
「か、か、柏崎の、すすす、すい軍・・・!? しかも、くっ、『鯨の新人』・・・!?」
と言うなり、ウーンと唸って倒れてしまった。
どうやら新人は、だいぶ手を焼いていた水軍の主だったようだ。そりゃ、泡も吹いて倒れるわ。
でも、これからは荷代などを払わなくても済むようになると思うぞ。多分な。
明日、空海屋の船5隻で100人の人員を佐渡へ輸送する。
5隻とも二見港から入港すれば、さすがに大仰すぎる。三隻は羽茂から東の赤泊の港に寄港しよう。大きな港ではないが、出入りはできるはずだ。羽茂本間への口止めは必要だが。
食料や武具も千手村へ大量に運ぶ。急に100人も増えたら大変だろうが、空地はまだまだあるし。赤泊への三隻には建材も運ぶ。住む家も必要だ。急ピッチで建てなくてはならない。あれだな、現代の平屋のアパートみたいな家ができないか相談してみよう。
椎名則秋たちの、村の防備作りはどこまで行っただろう。
訓練もしているはずだ。大いに褒めてやらないとな。
あぁ、レンへの土産を忘れてた。蔵田のおっさんから譲ってもらった関物の短刀にしよう。
運動神経が良くて、「見込みあり」と則秋に言われていたからな。護身用も兼ねて、いいのをプレゼントしよう。
装備、海、佐渡ヶ島。色々なことが頭の中をよぎる。
だが、長尾家の評定の間から、色々なことが見えてきた気がする。
身体の傷も、心の傷もだいぶ癒えた。まずは羽茂本間への侵攻開始だ・・・
そこへ、トコトコと軽い足音が。
「照詮来てたの!? うれし・・・ うわっ!? おじい、どないしたん!?」
サチが頬を紅潮させて嬉しそうに来たと思ったら、泡を吹いて倒れている祖父を見つけて吃驚といった様子。アハハと笑う身内の面々。
介抱されて「大丈夫や」と笑顔を取り戻した蔵田五郎佐。俺の方を向いた。
「佐渡での戦。応援してまっせ! 気張りや!」
「おう! そっちも頼む!」
親子ほどはおろか、祖父と孫ほどの年の差がある。が、非常に頼れるパートナーだ。
「この人の孫になら、なってもいいな」と感じた冬の一幕となった。
ガレオン船、チョウジ、カルバリン砲・・・
『まだ見ぬ大海』、しかし、『見知った大海』。
俺には、佐渡と世界の海とが繋がる橋が見えた。
第三章「天か魔か」 ~ 完 ~
私は、そもそも歴史(文芸)ジャンルが好きでメチャメチャ読んでました。
そんな中で、「なるほど~ 硝石作るのか~」とか「何かを持ち込めば、確かにいいよな~」と、設定や知識に関心を持ち、のめり込んでいきました。
ですが、歴史物を書くことは、やってみて分かりましたが非常に知識が必要で時間がかかる! 楽しみにしていてもなかなか更新されないもどかしさから、自分で書き始めてしまったという訳です(*´Д`*) 敬愛する歴史(文芸)ジャンルの先生方の作品の更新をいつも楽しみにしております!!
さて、今回は「鉄砲が1543年以前から存在している」という話がありました。
『北条五代記』に、1510年(永正7年)に唐(中国)から渡来して、実際に使用したという記述が残っています。さらに『三河物語』では、1530年頃に徳川家康の祖父である松平清康が鉄砲を使用した旨が記されています。
鉄砲が堺で1530年頃に作られていたとか、明智光秀が鉄砲の技量が高いのは予め練習していたからとか、様々な説が残っています。
そもそも、1543年の種子島の鉄砲伝来も、南蛮船が来たのではなく、明からの密貿易船に乗ってた南蛮人から~などの説もあるくらい。
1200年頃の「元寇」より300年。中国で開発された火薬を用いた兵器が日本に伝わっていなかったというのも考え物です。
私は、「明から、中国製(粗悪、重い、精度の悪い)銃は日本に入ってきていた。そして、南蛮人からより精度の高いアルケブス銃が伝わった」という説をこの物語では採用しようと思っております。
1498年には、ヴァスコ・ダ・ガマがインドを発見(という名の銃と大砲を用いて脅しての制圧)をしていたので、火器は十分開発されています。
澳門、フィリピン、マラッカなどから、いち早く最新式の火器や文化を手にいられるのか!?
主人公のこれからの展開にご期待ください(/・ω・)/
第三章はここまで。
次話からは、佐渡平定に向けた第四章です!
ご愛読、評価、ブックマーク等ありがとうございます(*'▽')今後ともよろしくお願いします。




