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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第十四章「生命」

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第二百三十三話 ~最上義守~

<天文十六年(1547年)十月 佐渡国 雑太(さわだ)郡 山田村 >



 二人の嫁の共同戦線にも勝利した俺は、しばらく領地を見回ってくることをお願いされた。何故だ。「やりすぎ」とか「色魔」とか言いすぎじゃないか。全力を出しただけなのに。



 まあ、元々俺は佐渡の領内を視察する予定だった。足元を見ずして先は見えない。羽茂の町からから海岸線に沿って西周りに小木、西三川、真野港と周り、今日はここ山田村で一泊することになっている。河原田本間、雑太本間を滅ぼしてから国仲平野にはそんなに顔を出せてはいなかった。丁寧に佐渡の皆と親密な関係を築いていきたいと思っている。


「おおおっ! 大殿様ッ! ようこそお見えになられました!!」

「うむ。世話になるぞ、義守(よしもり)太郎右衛門(たろうえもん)

「心得まして御座います! ささっ、どうぞ!!」


 出迎えてくれたのは、佐渡郡国仲平野にある山田村で名主を務めている太郎右衛門(たろうえもん)。そして、七年前に出羽国から国替えで入植している最上(もがみ)家当主最上義守(もがみよしもり)だ。



 聞けば、二人は村人と力を合わせて荒れ地の整備や新田開発に力を入れて、米の生産量を増やしてくれたそうだ。様子を直に見せてもらったが、実に素晴らしい成果だった。


 だが実は、一月前まではひと悶着(もんちゃく)があったのだ。二人が行った新田開発は税を軽減されるはずだったのだが、私利私欲に走ったけしからん代官が税の二重取りをしていたのだ。書類に目を通すと二人の方が正しかった。俺はその悪代官の私財を没収して罷免した。やはり二年間も領主不在ではどうしても穴が出てしまうな。

 

 俺は領主として当たり前のことをしただけなのだが、領民からは物凄く感謝された。名産のおけさ柿、真野湾の(かれい)岩牡蠣(いわがき)などの旨い食べ物で歓待してもらった。山田村の皆には迷惑をかけたことを詫びねばならないのだが、皆の喜びようを見るに「当たり前のことを当たり前にする」ことが最上の喜びに繋がるらしい。これは心に留め置かねばならんな。


 と、俺が歓待を受けながら一人で考えている所へ、


「だぁ、だあ」

「こ、これ! 白寿丸(はくじゅまる)!」


 気が付けば最上義守の子がハイハイをして俺の傍へとやってきた。一歳と少しくらいだろうか、赤ん坊だがなかなか利発そうな様子だ。


「よいよい。これくらい元気のある方が赤子はよいと言うものだ。よ~しよし。お主の父はこれから陸奥国へ行くと聞いておるぞ。お主も己が力を十二分に発揮するのだぞ」

「だぁ!」

「おぉ! 返事をしたぞ! 凄いな!!」


 俺は俺の話を聞いてニコニコ笑っている義守の子白寿丸(はくじゅまる)が気に入ってしまった。

 だが、父親の最上義守は恐縮しっぱなしだ。


「と、殿。大変なご無礼を……」

「いやいや。義守殿は慣れぬ佐渡の暮らしの中でとてもよく働いてくれている。先の『佐越の戦い』(長尾晴景と佐渡軍との戦)の際には沢根本間の動向を察してよく動いてくれた。七年もの間、領民と力を合わせて佐渡を豊かにしてくれた。これからは陸奥国で山本勘助の養子になると聞いておる。もう過去のしこりは忘れ、かの地で存分に力を発揮されよ」

「…… 本来ならば家の断絶の所、救っていただいた命。孫子の代までも力を尽くさせていただきまする」


 そう言うと最上義守は俺に深々と礼をした。義守の妻であろう女性も、生まれたばかりであろう女児を抱きながら丁寧に礼をした。

 今から七年前。出羽国の山形盆地で、俺は伊達稙宗率いる軍と須川で激突した。最上家は伊達家と共に俺へと立ち塞がり、散々悪態をついてきたので本来は根切(ねぎり)予定だった。だが、あの時は何故かその気になれず、最上家は佐渡国内で様子見することにしたのだった。


 結果としては、良い方に転がったと思われる。今日はそれをただ素直に喜ぼう。

 


_________________



<天文十六年(1547年)十月 佐渡国 加茂(かも)郡 加茂湖(かもこ) 湖畔>

 

 

 最近、自分がとても性欲が強いことを自覚している。二人を相手にしても全然萎える感じがしないのは若さからか、それとも……

 だが、それにしても子が出来ない。やり方は間違ってはいないと思うのだが、自分が不妊症なのかと疑ってしまう。もしそうだとしたら、今の医学ではそれを解消する手段は無い。我が子に「我が子だから」国を譲るつもりは全く無いが、それでも最上義守の子の利発そうな瞳を見るとやはり欲しくなるのは仕方ないことだろう。だが、なかなかうまくはいかないものだ。ううむ。


 俺がしょぼくれて馬に揺られていると、俺の領地視察に付き添っている連れの一人、紫苑(しおん)色の小素襖(こすおう)(袖の短い武士の常服と足首までの短い(はかま))を身に纏う近習弥三郎(やさぶろう)が、驚いたような声を出した。


「と、殿! (けもの)です!」

「ん?」

「虎です! 二頭の大きな!!」

「あぁ、あれか」


 黄色と黒の斑模様をつけた二頭の獣が矢のように駆けてくる。初めて見た者が怖れを抱かないのは無理と言うものだ。美しい身形から姫和子(ひめわこ)揶揄(やゆ)されることもある弥三郎が、震えながらも鞘に手を掛けながら声を振り絞った。


「と、殿! ここは、こ、この弥三郎にお任せを!!」

「大丈夫だ、弥三郎。アムとシキテだ」

「え、あむ? しきて?」


 すると弾丸のように突っ込んできた二頭は、俺の傍まで近寄ると嬉しそうにグルルと喉を鳴らした。野生動物のヒョウなので心配だったが、幼い頃にしばらく共にいた俺のことは覚えてくれていたようだ。まるで猫のように俺の足元にまとわりついてきた。


 しかも、アムとシキテの後ろから……


「ミーミー!」

「ニャア~!」


 真ん丸瞳と豹柄の可愛い二つの塊がやってきた。これは完全に猫に見えるが、おそらくアムとシキテの子だろう。ミーミーニャーニャーと親の後を追ってきたみたいだ。新たな生命がここでも育まれていたんだな。


 そして、そこへ……


「…… ニㇱパ?」


 加茂湖湖畔の樹木の影から、俺を待つ愛しく懐かしい姿がそこに現れた。

作品資料の為に子ヒョウの動画を見たらメロメロになりました(*´ω`)カワユス


最上義守は、最上氏三代当主最上満直みつなおが山形県中野を治めたことを始祖とする最上家庶流の中野家の生まれで、最上氏第十代当主です。当時最上家は北の巨人伊達稙宗に事実上服属しており、最上義守は稙宗の傀儡として僅か二歳で最上家を継ぐことになりました。


本話に出てきた義守の子は、最上義光(よしあき)だと推測されます。そして生まれたばかりの赤子は義姫でしょうか。本来であれば「東北随一の名将」と呼ばれるが父義守と対峙する子義光(よしあき)、伊達政宗の母となる義姫ですが、本物語では?


山田村の太郎右衛門(たろうえもん)は、実在の人物を模して書いています。

「寛延二年(1749年)~たびかさなる増米に加えて凶作続きで、農民は米を食べることもできないほどであった。その上、奉行所役人のモラルは乱れに乱れ、賄賂などは公然と行われていた。この時太郎右衛門・弥三右衛門が首謀者となって立ち上がった。元禄以来の悪政二十八か条を書いた訴状を、江戸に上り幕府に出した。」(かくれた佐渡の史跡 山本修巳著から抜粋)

他の史料によれば、本間太郎右衛門はその後一揆の首謀者として相川で斬首されたそうです。

本物語では、主人公のよき佐渡の治政により幸せに生きてほしいと思うところです。


次話は……

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ赤子の鮭様と鬼姫、今後照詮とどう関わる事やら。 子供が出来ないのはこの当時では問題だよねぇ・・・。
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