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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
「天か魔か」

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第二十二話 ~三紋の御旗~

<越後国 直江津 春日山城城内 評定の間>


「なんじゃ? 晴景(はるかげ)?」

 そう呼ばれたのは、先ほど「一千貫文はあるか」と尋ねた、二十歳前後の若い侍だった。為景の嫡男か・・・


 ん?


「長尾晴景」

 何か聞いたことある。あれ・・・? 


 謙信の兄じゃなかったか? 病弱で、途中で隠居させられたとか?


 ・・・あと、何となく「そうかも?」と思ってたけど、「虎千代様」が「上杉謙信」じゃないか?

 だって、才気煥発だし、運動神経抜群だし。虎が付くし。越後の虎だし、謙信は。


「私は反対です。羽茂本間の対馬守(つしまのかみ)高季(たかすえ)様の嫡男、羽茂三河守(みかわのかみ)高信(たかのぶ)には私の妹が嫁いでおります。言わば私の義弟、そして高季様は私の義父。それを攻めるという者を、どうぞ、と許す訳にはいきませぬ」


 正論だ。ぐうの音も出ない。血の繋がりがある者がいたら、それは一族だ。

 ・・・これは失敗か・・・? 


「そなたの言葉、一理ある・・・ 他の者はどう思うか?」

「某は、放っておくという殿のお考えに賛成でございます」


 おお、援軍登場だ。


実乃(さねのり)。申してみよ」

「はは。さすれば申し上げます。現在の我が長尾家を取り巻く状況、手伝い戦に出かける余裕はあり申さぬ。上杉は我が軍と雌雄を決しようと、柏崎の上条城に兵を集めているとか。決戦の地は三分一ヶ原となる気配が濃厚。越後の天下を分ける戦になり申そう。ここで一敗地に(まみ)れますれば、我が長尾家の大事に関わりまする。幸い、この童は『味方に付いてほしい』とは申しておりませぬ。静観するだけで良いのであれば、それが重畳かと」


「あいや、待たれよ」

 今度は、別の奴が言い出した。


「問題は、国人衆の動きでございます。血の繋がりのある者に後詰めを出さぬとあれば、長尾家は薄情な一族と思われても仕方ありませぬ。上杉との戦で苦しいのは重々承知。ですが、失った信頼を取り戻すのは相当な骨となりますぞ!」


 ふむ、それは考えていた。尤もな意見だ。

 さらにそこへ、別の武将が声を上げた。


「まあ、大和守、晴景様の言うことも(もっと)もで御座います。ですが、本当にそれでよろしいのでしょうか? 今は戦国の世。力ある者こそが勝者で御座います。羽茂本間氏がこの童に負けるようなことがあれば、それまでのこと。一介の村人に負けたとあれば、言い訳はできますまい。加えて、近くに備えております戦。これに負ければ、いかに大義名分があろうとも我らの栄光は一握の砂と消え果てますぞ。各々方には、そのお覚悟はおありかな?」


 説得力のある言葉だ。いいぞ。その調子だ。


「ふむ・・・和泉守、お主はどう思う?」


 !?


 いたのか、柿崎景家(かきざきかげいえ)。いっぱいいたから分らんかった。奥の方にいるし、着物まで黒いし。


 長尾家の先陣を常に任される若き猛将、柿崎景家はこれまで守ってきた沈黙を破り、実直に、短く答えた。

「本間氏との縁は二十余年も昔。小僧は一千貫文を持ってきた。上杉との戦が近い。あと、こやつの目は確かだ。語るまでもない」


 その言葉を聞くと、城主為景は意外そうに尋ねた。

「ほほう? 和泉守、この童を存じておるのか?」

「いささか」


 周囲が再び(ざわ)めく。


「何と、和泉守様と懇意が・・?」

「どういった縁だ!?」

「長尾家の阿修羅との縁など、余程の者でも持てはせぬぞ・・・?」


 さすが猛将、影響力はかなりあるようだな。


「よし、皆の意見は聞いた。儂の意見をまとめよう」

為景は立ち上がった。


「本間照詮。その方からの一千貫文の寄進。受け入れよう」

「はは!」


 まずは、矢銭は受けてもらえたな。


「そして、佐渡の戦の件。長尾家の(あずか)り知らぬものとする。当面の目標は上杉家じゃ。佐渡本間への後詰めは不要じゃ」


「父上!」

 晴景は大いに不満そうだ。


「加えて、儂からは一千貫文の礼を、本間照詮。そなたに渡そうと思う。藤資(ふじすけ)!」

「はは!」


 為景は何事かその武者に伝えると、その恰幅のいい初老の武将は小走りで移動し、そしてすぐに高そうな木の箱を持ってきて、俺の前にゴトリと置かれた。


 何だ? 何がもらえるんだ?


「開けてみよ!」

「はっ!」


 恐る恐る開けてみる・・・ まさかビックリ箱ってことはないよな・・・


 コトリ


 ・・・


 白い旗地に、「九曜巴」の紋。これは長尾家の家紋だ。


 さらにその上には別の紋・・・

 知ってる。花札にあるわ。「桐」の紋だな。誰のだ?


 さらに一番上は・・・

 ・・・・日の丸? 紺地に日の丸だ。


 なんぞ?!


「殿! それは足利家と帝(後奈良天皇)からの!?」

 息を呑む長尾家の重臣。えっ?


「うむ、下に我が長尾家の『九曜巴』。そしてその上にあるのが足利第十二代将軍義晴様から頂いた『五三桐』紋。そして一番上にあるのが、帝から賜った『紺地に日の丸』紋。三つの紋がついた「三紋(みもん)錦旗(みはた)」じゃ。そなたの好きなように使うがよい!」


 !!?


「なんと!?」

「殿! この童をお認めになるので!?」


 長尾晴景や大和守と呼ばれた男からは、憤りの声すら聞こえる。

 環塵叔父は、何故か旗から顔を背けた。?


「うむ、いかように思ってもらっても構わぬ」

 為景は制止を簡単に振り払った。もしかして、最初から決めてたとか?


「それと童。もう一つ渡すものがある」

 ・・・嫌な予感がするぞ。


「我が娘、莉奈(りな)姫をそちにやろう。年はお主とそう変わらぬはず。ただし、お主が佐渡を平定したら、の話じゃがな!」


 で、で、でたー! 嫁候補!


「お主は御坊の言うように、天賦の才があると儂は見た。我らが目の前で見せたそなたの立ち振舞い、実に見事であった。そなたの様な男であれば、娘の一人や二人、全く惜しくはないわ。佐渡の平定、楽しみに待っておるぞ」


「は、ははー」

 いらない、と言える訳ないよな。もう二人も候補いるんだけど・・・


「これにて評定を終える! 解散!」

 そう言って為景はこちらに一瞥(いちべつ)をくれると、さっさと出て行ってしまった。


 晴景はこちらを見下しながら出て行った。何だよ。邪魔すんなよ?


 そこへ、ズシン、と重い音を立てて荒武者が近寄ってきた。

「童。命拾いをしたな」

 柿崎景家だ。一人だけ俺の様子を見て動じなかったな。


「お、おう。ありがとな。味方してくれて」

 俺がそう言うと、景家はフンと鼻先で笑った。


「長尾家の利となる、と思った事を言ったまでのこと。お主のためではないわ。・・・蟾蜍をうまく使うのだな。戦場で会えるのを楽しみにしておるぞ」


 そうか。自分の信念を曲げた訳じゃないのね。あと戦場では会いたくないぞ。


「さ、頑張りなされ。己の心に厳しく」

 天室光育和尚は冷や汗一つ掻いていない。こうなることは予想通り、だったのかな?



 長尾家の重鎮達に俺の顔見せをしてしまったな。マークがきつくなるかもしれん。


 ただ、今回の会談で得たものは大きい。本間氏との戦いに、長尾家が(くみ)することはない。そして、「好きなように使え!」と言われたが、天皇家と足利将軍家の紋付きの九曜巴、「三紋の御旗」だ。いざというときの切り札となるはずだ。嫁がついてきそうだが、な。


 俺は会談が上手くいったことにほっと胸をなでおろした。

 明日は柏崎だな・・・




___________


<越後国 直江津 春日山城城内 城主書院>


 中条藤資(なかじょう ふじすけ)は、領主長尾為景と共に書斎にいた。


御屋形(おやかた)様、あれでよろしかったのですか?」

「ん? うむ。大方は予定通りじゃ」


 為景はそう言うと、飾られていた宝刀の鞘に手をかけ、中から白刃を引き抜いた。


 ギラリ


 幾人もの生き血を啜った刀が(ざわ)めく。


「本間照詮。聞いてはいたが、聞いた以上の男じゃったわ。もう少し齢を重ねておれば、越後は危うかったやもしれぬ」


 為景は、軒猿からの情報を既に耳に入れていた。巨万の富を持ち、自家の商家を持ち、佐渡から戻ってきたばかり・・・ さらに監視を強めねばなるまい。


 白刃(はくじん)の波紋を見つめ、その美しさに見惚れながら、これからの事を考えた。


「錦の御旗、渡してもよろしかったのですか?」

「ふん。あんな布切れに価値はないわ。金子を贈った代わりに将軍家からもらった従五位下と信濃守という肩書だけで十分よ。大義名分は既に儂の手元にある。」


 越後の支配者として認められること。それは既に叶っている。上杉との戦に勝てば、国主として認められることは必定。それに、旗は旗。燃やせば一刻も立たずに灰になる代物よ。

 為景は薄ら笑いを浮かべる。いざとなれば、手の者を使って燃やしてしまえばよい。


「あの小僧が佐渡で(たお)れれば、それまでの男。だがもし万が一に、小僧が佐渡を平定すれば、儂はその義父じゃ。労せずして越後に加えて佐渡をも手中にすることになるわ」


「どちらに転んでも、御屋形様に利がある、ということで御座いますな」


 ビュン


 刃を袈裟懸けに撫で斬る。その鋭さに、触れてもいない床にサックリと傷が付いた。


「銭は入る、婿は入る・・・ ふふふ、運が向こうから寄せてきたわ!」


 ビュン!


 水平に撫でられた白刃が、中条藤資の頬を霞める。微動だにしない藤資。しかしその頬には鮮血が(にじ)む。


「藤資! 上杉との戦に備えるぞ! ついて参れ!」

「はは!」


 戦国の奸雄、越後の支配者、従五位下長尾信濃守為景。戦国の世の習いの通り、魔のような男であった。

家紋について(*'▽') 例によって「家紋と名字 (西東社)」などを参照。


天皇家の紋が「菊」なのは、皆さんご存知のことでしょう。菊紋の始まりは、鎌倉幕府が作られた頃の後鳥羽上皇が好んで使ったことから、とされています。「菊花」紋が天皇家の紋章として法律で制定されたのは明治2年(1869年)とのこと。思ったより最近なのですね。ちなみに、天皇のみが使えるのが、花弁が16枚の「十六葉八重表菊」。他の皇室とかパスポートの菊紋は、葉が十四枚だったり一重だったりとかで所々違うようです。「菊」紋が表紋で、平安時代の嵯峨天皇から使われている「桐」紋が裏紋です。


そして、お気に入りだったり、恩賞だったりして、家紋を配下に渡すのは当時のステータス。足利尊氏、豊臣秀吉は、花が五・七・五に開いている「五七桐」紋を、天皇から直接下賜されています。見栄っ張りの秀吉は、それをアレンジして現存する「太閤桐」を作ったとか。そして、足利氏などが家臣に贈ったのが、花が三・五・三と少な目な「五三桐」紋。今回の紋です。


最後は、天文4年(1535)に長尾為景が後奈良天皇より下賜された「紺地に日の丸」。山形県米沢市の謙信まつりなどで、今も使われているようです。一度は見に行きたいです。



それらを作者が、語呂よくくっつけちゃえ~(*´Д`*)と創作したのが「三紋の御旗」になります。後々、水戸〇門の印籠のような働きをしてくれることを期待しております。


作中、「実乃」こと「本庄実乃」や「大和守」こと「直江大和守実綱」等、実在の武将の名が出てきています。そのうちにまた出てくるかもしれませんので、ここでは割愛させて頂きます。



間違いなど多々あるかもしれません。教えていただけたらありがたいです。

誤字脱字なども直してくださる方ありがとうございます。



ご愛読、評価、ブックマークありがとうございます(*´ω`)感想、レビューも嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。

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