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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第十三章「蝶」

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第二百十二話 ~三好長慶~

<天文十六年(1547年) 三月 摂津国 堺湊 天王寺屋本店 大茶庵>



「いやはや。我らは他意があって軍を率いているのでは御座らぬ。遥か南方で仕入れた名品珍品を帝に御献上致す所存につき……」

「それは帝に伝わっておいでか?」


 宇佐美定満の緩やかな口説きに鋭い指摘を入れた三好(みよし)筑前守(ちくぜんのかみ)長慶(ながよし)。頂辺を高くした烏帽子(えぼし)立鳥帽子(たてえぼし)と呼ばれる~を一分の隙も無くピシッと被っている。


「勿論に御座いまする。そして大殿の正妻であられます向日葵姫(ひまりひめ)をお迎えする所存にて……」

「聞いている話とまるで違うな。のう? 天王寺屋?」

「へ、へぇ」


 重厚な青色~紺碧こんぺきと言うべきか~の直垂を優美に着こなした男は堺商人の元締めに同意を(うなが)した。胸には金糸で象った「三つ合わさった菱型(ひしがた)の下に五つの穴あき菱型」の家紋が光っている。「三階菱(さんかいびし)五つ釘抜(いつつくぎぬき)」と言うのだったかな。


「どう違うか、教えてもらえるか?」

 俺が直接、帝に向けて文を書いたんだ。長谷川海太郎の手本を見ながら懇切丁寧にこれ以上なく。違う筈がない。


「聞けば、『左大弁殿が親王殿下の想い人であり京御所で高い向日葵姫(ひまりひめ)を我が物にしようと、横恋慕(よこれんぼ)した』と畿内では噂されております。恐れ多くも……」

「はっ! 筑前守(ちくぜんのかみ)殿ともあろう男がそんな根も葉もない噂を信じるとは!」

「ぬっ……?」

「海太郎!」

「ははっ!!」


 俺は一等書記官である長谷川海太郎を呼んだ。海太郎は「心得ました」とばかりに桐の小箱に入れておいた一通の文を取り出した。


「ここにあろう。『向日葵姫は佐渡にいる頃からの私の妻である。道中の安全確保の為、軍を率いていく』と。俺はこの手本を元に帝に文を書いたぞ? 間違いがある訳はない」

「…… 拝見させて頂いても?」

「あぁ、いいぞ。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「はははは。()()()()()()()()


 先ほどから続く剣呑(けんのん)な空気の中を更にビリビリとした緊張が走った。

 皆は顔を強張(こわば)らせるが俺達は極めてニコニコと笑い合っている。互いに笑みを絶やさぬ中、文の受け渡しが行われた。


 要は、俺が『軍を率いて京へ行く大義名分』が「ある」か「ない」かについての問答だ。

 足利将軍家、細下氏綱、晴元の両細川家、堺町衆のまとめ役の天王寺屋、本願寺にだって事前通告をしてある。当然、三好宗家当主であるこの三好長慶(カタブツ)にだって。


 だから、三好長慶(カタブツ)が俺達の行く手を阻むとは()()意外だった。


 数名がかりで海太郎の書の粗を探そうと目を皿のようにして眺めていたが、

「拝見仕りました。先ほどの非礼、お詫び申し上げます」

 ときた。どうやら見つからなかったようだ。


「いやいやいや。分かっていただけたのであればそれで結構」

「やはり『人伝(ひとづて)』というものは信用なりませぬな」

「正に正に」


 ハハハッ


 三好長慶が頭を下げた。俺の主張は受け入れられたということだ。

 だが「さあお通りください」とは問屋が(おろ)すまい?


 すると俺の思った通り、交渉相手の立鳥帽子(たてえぼし)は別方面から噛みついてきた。


「さりとて、他国の軍を通らせる道理はありませぬ」

「ほほう? この左代弁が頭を下げても?」

「他国の軍が行きすがら、村々に蛮行を強いることも無くはない」


 ピキピキッ


 言ってくれるじゃないか三好長慶。俺の佐渡軍は世界一規律の厳しい軍だ。無抵抗の村人に乱暴狼藉を働こうものなら()()()だぞ。


筑前守(ちくぜんのかみ)殿? 某の軍は軍規厳しくてな。『てつはつ』一つ持ち出そうものなら親兄弟共々首と胴が分かれます。狼藉など()()()()()()()?」

「見ていないので分かりかねますな」

「不無不無。筑前守(ちくぜんのかみ)は『我ら佐渡国の噂を聞いてはおらぬ』、そう聞こえますが?」


 元能登国の名君畠山義総(はたけやまよしふさ)、入道した不無も加勢した。知らぬとあれば「疎い」、知っていると言えばなら「大丈夫だろう?」という話だが……


「『人伝はあてにならぬ』と先ほど学びました。それに『豹変(ひょうへん)』という言葉もあります」


 また三好長慶(カタブツ)は即座に反論してきた。

 どうやら俺達を京へと通すつもりは無いようだ。


 ……いや。

 無いように()()()()()? 何か別のねらいがあるのか? 譲歩を引き出し狙った方向へと引きずり込むつもりか?

長くなってしまったので、数話に分けて掲載いたします(/・ω・)/


三好長慶は三好宗家の三好元長の嫡男として生まれ、「日本の副王」と呼ばれるほどとなった大人物です。昔は「ちょうけい」と呼んでいましたが、これは当時の文化人を尊称して音読みしたためらしいのですが、本物語では「ながよし」と読むことに致します。

僅か十歳の時に父元長が細川晴元・三好政長の策謀によって起きた一揆勢に追い込まれ自刃。ですが十二歳となった時に一向一揆と晴元の和睦を取りもち、次第に認められる人物となっていきます。

元服後は利長、範長と名乗っていましたが本願寺から1544年頃に「長慶」の名を贈られたとか。


三好長慶は、上司である細川晴元の副将格である三好政長とは仲が非常に悪かったようです。長慶は戦功をあげた際に、「分家の出でありなが宗家より上の立場にある三好政長を退けるよう」何度も晴元に迫りますが聞き入れられません。そして遂に……


これまた後述することになる三好政長については、様々なところから知見を得ております。

主人公の愛刀「宗三左文字」は、元は1537年に今川義元が武田信玄から贈られたものですが、それより前は三好政長(宗三)の所有する打刀だったとか。縁が深いですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 『三好長慶』 同じなろうの歴史作では機内の好敵手&主人公の理解者と、手強い&懐の深い所を見せましたが、こちらでは照詮の行く手を遮る『壁』となるのか? 次回も楽しみにし…
[一言] 照詮の京入り、立ちはだかるのがあの史実の天下の副王とは一筋縄ではいかなそう・・・。 三好長慶の背後にどんな魔物が蠢いているのやら・・・。
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