第二十話 ~第二回 『城郭落とし』~
越後屋を後にした俺と環塵叔父、弥太郎の3人は、その足で林泉寺に向かった。
<越後国 直江津 林泉寺>
「ほほ、相当な苦労をしてきよったな。それもよかろう・・・ だが、小ざっぱりとしすぎじゃな。華美な着物は身を腐らせるぞ。身を飾るよりも己の心を磨け」
林泉寺の住職、天室光育師は俺の傷の様子を見て、何があったか把握したようだ。けれども、服装チェックで俺をバッサリと切った。生徒指導の先生もしているのかな・・・ 普段着用だけど、越後布の最高品を使っているからな。華美なのは間違いない。
「おっしゃる通りでございます。肝に銘じておきます」
化け物みたいな傑物だ。事の本質を非常によく見極めている。御坊からの一瞬一瞬が学びだ。
「して、今日は何用じゃ?」
「はは。実は・・・」
俺が答えようとしたその時、後ろから殺気!?
バシッ!
木の棒の打ち込みだ!
しかし、前回と違い、弥太郎が持っていた杖で防いでくれた。ありがとうよ。頼れる護衛だ。
相手は、やはりの人物だった。
「ふん。いい供を連れるようになったな」
虎千代様だ。眉目秀麗、才気煥発。自信の塊のような7歳児。
「ご無沙汰しております。照詮でございます」
「よし、やるぞ!」
何をって・・・ あれですよね。
引きずられるようにして、俺はあの一室に連れられていった。
『城郭落とし』
一間四方の枠の中、城を中心としたジオラマを舞台として、攻め手・守り手に分かれて城攻めを行うシミュレーションゲームだ。3日間、朝・昼・夕・夜のターンで行われる。攻め手は1500名、守り手は500名。3日間で攻め手が落とせれば勝ち。守り切れば守り手の勝ちだ。
前回、俺は守り手側で、虎千代様の攻め手段を読み切って封殺。圧勝した。あの泣きべそはなかなかだったな。
「今回は、お主が攻め手じゃ! 守り手の修行をここ数日、寝るまで続けてきたぞ!」
ああ、やっぱり。
この負けず嫌い、修行さぼってずっとこれやってたな。相手は天室様か、家中の侍か。本来、籤引きで攻め手・守り手は決めるのに。勝手に決めるあたり、相当守りに自信をつけてきたようだ。麒麟児がさらに努力したら、どうするんだ? 今のうちに叩いておかねば。
「分かりました。攻め手でよろしいです。お相手仕ります」
「よし、かかってこい! 俺の鉄壁の防御を見せてやる!」
天室様が再び行司役だ。環塵叔父は、「また面白いものが見られそうじゃ」と青髭をポリポリ。弥太郎は様子をじっと見定めている。
・・・守り手の自信を深めてきている。これは、色々なシチュエーションを学んできたということだ。正面突破、裏門突破、崖からの奇襲。それらをインプットしてきたということは、正攻法ではなかなか攻略しにくい。
籠城に基本、奇襲は必要ない。教科書をなぞるように、正しい兵の運用を粛々と行うことが正道だ。地味でも何でも亀のように硬く守ってくるのだろう。ここは、アレでいくか・・・
虎千代様が守り手の兵の配置と動きを和尚に伝えた。俺も和尚に伝える。
「なぬ?!」
天室和尚は、思わず声を出した。意外でしょう?
「初日、朝」
御坊が告げる。兵を示す駒の配置をお互い行う。
ふむ、やはり虎千代様はバランスよく守ってきた。500名の兵を、正門に300名、裏門に150名、崖に50名に分けた。全て絶対防衛の指示。これならどこを重点的に攻められても対応できる。
俺の配置は・・・
「1500名全軍で、梯子と破城槌、攻城櫓を製作、じゃ」
「なんだと? 梯子と破城槌、攻城櫓!? そんなのありか?」
そう。俺は城攻めのために攻城兵器の製作をする。1500名が城から離れて製作だ。近くに森もあって材料はバッチリだ。
「それは、すぐにできるのか?」
虎千代様は心配そうに審判役の和尚に尋ねる。
「いや、1500名を用いたとしても、しばらくはできんじゃろう。そうじゃな、昼、夕も用いれば十分な数は作れるかの」
「ぬぬ」
守り手は、門や城壁で城が守られているから非常に有利だ。ならば、その有利な状況を覆す手段があればいい。兵の質は同等という条件だ。攻城兵器を用いて兵が城に入れば、兵力差で押し切れる。
「では、昼の動きを決めるのじゃ」
天室和尚に、俺たちは動きを伝える。
「初日、昼。守り手は同じ配分で防衛。攻め手も変わらず工作じゃ」
「む。工作は瞞しで、一転して攻めてくると読んだが・・・外れたか」
虎千代様はよく読んでいるな。確かにその戦法は考えた。工作を放棄して、油断した守り手に対して一転全軍突撃をするという戦法もある。だが、俺の狙いは別だ。
守り手側が城から出て、工作をしている兵に突撃するという手段もある。寡兵でも、戦準備をしていない工作兵に突撃すれば、戦果は得やすい。だが、城から離れた場所で行っているのだ。そうそう槍の穂先は届かない。
初日の夕も同じ行動。これで攻め手に梯子、破城槌、攻城櫓が十分な数、完成したことになる。
俺はサチにもらった阿弥陀如来様の仏像を「ドン」と置いた。
「なんじゃ、それは?」
「攻城兵器を示す目印ですぞ。分かりやすいでしょう?」
戦の神様じゃないのに、済まないな。
「初日、夜。守り手は同じ配分で防衛。攻め手は見張りが百名、千四百が休息、じゃ」
「はは、戦なのに休息を入れるとは。のんびりした攻め手じゃのう!」
虎千代様は笑った。まだまだ分かってないな。
一刻(2時間)でも死守命令が出たら兵は相当疲れる。さらにそれを一日中? さすがに兵は疲れすぎるだろう。シミュレーションゲームで疲れない駒を使いすぎてきた弊害だな。まだその辺の加減は身に付けていないようだ。
攻め手は100の見張りだけ立てて睡眠。休息をばっちりとった。虎千代様は相変わらずバランスのいい鉄壁守備のまま全軍死守の構えを崩さない。和尚が審判役だ。兵の士気の差ははっきりと評価されているはずだ。
二日目に入った。俺は攻城兵器に見立てた阿弥陀様の仏像と兵を、正門の近くに移動させる。虎千代様の兵は相変わらずの配分だ。何も無ければ、昼からは攻城兵器を使って城攻めが可能となる。
・・・しかし、変化があった。虎千代様の視線は、阿弥陀様を注視している。気になって仕方がなかろう。
これは、昼に動くな・・・勝負所だ!!
「二日目、昼。これは動いたのう」
和尚は思わず声に出した。
「守り手は正門を開き、四百五十名で攻城兵器を狙って突撃。五十名で裏手門を防衛」
「ふふ、お主が熱心に作った兵器、悪いが壊させてもらうぞ!」
虎千代様は、したり顔で俺が置いた阿弥陀如来像を盤から除く。
狙いを達成できて満足かな? 俺はニヤリと笑った。
「攻め手は二百名で攻城兵器を防衛。千名で梯子を使って裏手門を攻撃。三百名で崖から攻撃じゃ」
「な、なんだと!?」
俺の狙いは別にあった。裏手門と崖を強襲だ。このタイミングで兵が少ない場所を攻めれば、いくら硬い門であろうと打ち破れる。
「せっかく作った攻城兵器を使わぬのか!?」
虎千代様はビックリだ。
思い通りに作戦が運んだ。
相手に武器をしっかり見せて印象付けて、それを落とさせることに気を向けさせる。真の狙いは相手の本丸。マス〇ーキー〇ンにそんな場面があったな。
「戦果は・・・そうじゃのう。正門では、守り手が攻城兵器を破壊して二百名残る。裏門は破られて攻め手が八百名残る。崖では、攻め手三百名が中腹まで登る、といった所かの」
「なん、と・・・」
虎千代様は呆然自失状態だ。
「やられた。完全にワシの負けじゃ・・・・」
虎千代様は、自軍の劣勢を受け入れたようだ。
城内には800名が既に入り込み、自軍はすべて門外で200名しかいない。崖からは300名が入り込んできている。加えて一日を通して戦闘態勢を取ったことで、兵は疲れて士気も駄々下がりだろう。戦う力は残っていないはずだ。
「勝負あったな。勝者、照詮じゃ」
天室光育師は勝敗を告げた。前回同様、天狗の鼻が折れて嬉しそうにしているが、何か俺を見る目が変わったような気がする。え、何だろう?
環塵叔父はウンウンと頷いている。
弥太郎は、
「お゛れが、うらもんまもってだら、千どころか、倍でも、ぜんぶだおしてる」
と不思議そうに呟いた。本当にそうかもしれないから怖い。
虎千代様は、前回に引き続き二度目の敗北。またしても涙目だ。
「お主・・・ワシを二度も続けて破るとは! 誰じゃ? 誰に戦を仕込んでもらった?!」
んー、「浦沢〇樹先生です」とか「コー〇ーテク〇です」とかは言えないな。
戦国時代の城攻めについて調べてみました。今回は攻め側の攻城兵器について。
梯子と破城槌は、昔からあったようです。梯子は塀を登るため、破城槌は門を打ち破るため。どちらも力攻めの基本戦略です。
攻城櫓に関しては、日本ではあまり一般的ではなかったようです。これは、日本の地形が起伏に富んでおり、人力で押していくのは難しかったためと考えられています。
櫓としては、お祭りの盆踊りの時に組まれるような動かない櫓を組んで、そこから弓や鉄砲で攻撃していました。可動式のものは「走り櫓」と呼んでいたようです。やはりこれも持っていくのは大変なため、今回主人公が行ったように現地で作成していたと考えられています。チンギス〇ーンⅣでは城攻めに有効でしたが、足が遅くて(*´Д`*)騎兵に追いつかない
同様に、投石器も起伏がありすぎて移動が面倒。また、門を壊せるほど構造がそれほど洗練されていなかったため、効果が薄かったようです。そして、日本の城は山城が主流。平な土地の城なら一部を壊してそこから攻め入れますが、高さで二重三重の構えの山城は一部を壊しても意味がなく、同様に効果が薄かったのかもしれません。火のついた藁や死骸、汚物などを飛ばして別の効果を狙うもあるかもしれませんが(*´Д`*)
火砲が早く欲しいですね~
「接近戦の場合、自分の武器を十分、敵に印象づけた後……、故意に武器を捨てることで、敵の攻撃パターンを操作することができる。北米イロコイインディアンのナイフ術の奥義だ」(MASTERキートン様より)
色々なことに使えそうな教訓ですね。もう一度全巻読みたいと思います(^^♪
アニメ化されており、YOUTUBEで全話見れるようです~
調べるうちに賢くなるけど、無駄に風呂敷を広げて自分の首を絞める作者でした(*´Д`)
ご愛読、評価、ブックマークありがとうございます(*´ω`)今後ともよろしくお願いいたします。




