第百九十六話 ~土佐の虎~
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いいたします
<天文十三年(1547年) 二月 土佐国 安芸郡 安芸城 評定の間 >
「お断りさせちょったがだきゆう(お断りさせていただきます)」
「不無不無…… 左様でございますか」
数年前に死別した父安芸元泰から安芸国を継いだ安芸備後守国虎は、羽茂本間家からの使者にして軍略家と名高い高僧の不無からの申し出を明確に拒否した。
「土佐一条氏の醜態は土佐七雄の一人として見逃せん汚点。兵を収めるつもりはないがで。お引き取りしとおせ」
「この不無が頭を下げても…… ですかな?」
「その通りちや」
鮮やかな黄蘗色(ミカン科の落葉高木キハダ樹皮の内皮を用いた明るい黄色)の着物に奇抜な髷結。大きな丸顔。尖った歯。齢十七にして「安芸五千貫」を領有する大豪族。安芸郡ばかりでなく香美郡の東部にまで進出して、土佐国東部で最大の勢力を誇る安芸氏の当主国虎の意志は一貫していた。
「佐渡の左大弁殿の御噂は聞き及きおるがで。某とそればあ(それほど)変わらぬ御年にしてまっこと優れた御方であられるらぁ(あられるとか)」
「如何にも。俊才にして篤厚く、けれども一度怒れば通った後に残るは消し炭のみ。相対するのはお控えになられた方がよろしいかと……」
「……我らは左大弁殿と敵対するつもりはないがで(御座らぬ)。ただ、『土佐のことは土佐のもき(者で)』という筋を通しておるがやきす(おるのです)。ここで左大弁殿が我武者羅に兵を動かすことこそ、筋が通らぬがや(筋が通らぬのでは)?!」
「不無……」
もっともな物言いである。
不無はこの若き当主の竹を割ったような真っ直ぐな物言いを清々しく感じた。
(まるで虎。若虎だ。恐れる者を知らぬ勇猛かつ大胆な男。十年待てば翼が生えるやもしれぬ。…… 我らがこの虎を屠るのは容易い。では……)
「備後守殿。仰られることはご理解申し上げました。ですが! 土佐一条氏と我ら羽茂本間家は深く友誼を結び申した。土佐一条氏に手を出すことは我らに歯向かうことになりまする。それでもよろしいですか?」
「はん! その時は戦やか! 死して名を残すのみやか! 虎は死して皮を残すとゆうが、儂は曲がったことを嫌って筋を通したという名を残すぜよ!」
「…… 承知仕りました」
脅しにも首尾一貫、頑として筋を通そうとする。国虎の意志の強さに不無は舌を巻いた。そして考えてきた十の案のうちの一策を講じることにした。
「ではこれで…… の前に、備後守殿」
「なんじゃ?」
「一つだけお願いごとが御座います」
「?」
不無は深く息を吸い、穏やかに言葉を発した。
「安芸は米の旨い土地と聞いております。ぜひ食してみたいと思うので、一俵をお譲りいただけますかな? 御礼は致します故」
「? なんちゃじゃない(どうってことない)ことを。すんぐに用意するぜよ」
「有難うございまする」
引き下がる前の一計である。そのまま不無は安芸氏の居城安芸城を後にした。
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「不無様。よろしかったのでしょうか?」
「何がじゃ?」
「それが、その…… 安芸氏への調略が不首尾に終わったことが……」
副将の本庄秀綱が言うように、確かに不無は安芸氏に「敵対しないよう」「手を出さないよう」に約を取り付けることはできなかった。
だが不無は、秀綱の一人の不安気な顔を一笑した。
「目的は果たしておる。首尾は上々じゃ。後は焙烙頭巾殿に任せることにしよう」
「は、はぁ」
田植えを待つ土佐の田を横目に眺めながら、不無はこれから待つ戦を前に軽く伸びをした。
土佐の英傑「長宗我部元親」の影に隠れていますが、「安芸国虎」は土佐東部を治めた力ある武将だったようです。
国虎は一条房基の娘を妻に迎えていますが、房基の長子兼定が生まれたのは1543年。国虎の嫡男・千寿丸が生まれたのは1557年なので、この頃(1547年)はまだ娶っていません。
兄の泰親が早世した為、母の父与松元盛らの後見を受けて安芸氏を継いで数年、といった所でしょうか。
安芸氏については「安芸氏歴史民俗資料館」などを参考にさせていただきました。
土佐の方言についてはド素人なので、四国のコトバ (四国の方言変換)様などを参考に変換させていただいております。
今年の干支の虎に因んだ訳では……(*´ω`)
区切りの関係で短い話となりました。次話は明日更新です。




