第百六十三話 ~グスクと艦長会~
<天文十二年(1544年)5月 琉球国 座喜味 佐渡鷹丸 船上>
グスクだ。
石壁、アーチ門、土道、旗、そして溢れかえる白い布の兵達。澄み切った南の空とはうって変わり、殺伐とした空気が船上からも感じられる。
…… 琉球王国が、俺達を決して歓迎していないことは明らかだ。
グスクというのは沖縄で言う城という意味らしい。百年ほど前に築城した者の名を取って護佐丸城とか、地名を取って座喜味城とか呼ばれているそうだ。
「殿、如何為されますか?」
望遠鏡を再び覗き終わった不無が、やれやれと言った感じで俺に問いかけてきた。
「知れたことよ。だが、『艦長会』を行う。皆を呼べ」
「ははっ」
一応、艦隊の意志を統一しておかんとな。
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俺の旗艦「佐渡鷹丸」にある広い豪華な船室。ここは「艦長会」のみが開かれる特別な部屋だ。防音性、安全性、機能性を兼ね備えた、大評定の間と同じ意義のある決定機関。ここで決まったことは佐渡水軍の方針として厳守される。
「集まったな。『鯨』新人」
「へいっ」
銭の模様を象った派手な着物。白髪が混じり始めたが、相変わらずジョ〇ーデップ似の海の猛者。
「『龍』上杉謙信」
「はっ!」
『殺戮兵器』の主。若干褐色肌になった『軍神』。
「『兎』宇佐美定満」
「居ります」
『今孔明』。思慮深い俺の参謀。焙烙頭巾は健在だ。
「『燕』三田舞也」
「ははっ」
高速疾風艦隊。速度に特化した伝令強襲艦長。体は小柄だが筋肉質。
「『鮫』島津尚久」
「ここに」
船の上では一騎当千。陸じゃ別人。坊津水軍の頭領。島津日新斎の三男。
「南西視察艦隊」の中核を担う者達だ。これに俺の護衛役を司る小島弥太郎、そして相談役の不無。「円卓会議」に匹敵する第一回の艦長会を催すことに相応しい顔ぶれだ。
「議題一、座喜味城をどうするか。議題二、琉球王国をどうするか。自由に意見を述べよ」
議長である俺が皆に意見を求める。元より結果が出ているものはあるが。
「…… 義兄上。何も悩む必要はありませぬ。『蹴散らしてこい』と一声言っていただければ、某が」
瞳を輝かせながら、戦闘狂らしく声を弾ませて謙信が答えた。
「あいや、待たれい」
「む? どうされました? 定満殿」
焙烙頭巾は首を捻りながら語りだした。
「これまで聞いていた話では、『琉球王国は我らに服従する』という線が濃厚だったはず。ここに来て急な方針転換は不可解で御座る。何か理由があるはず。まずは使者を出して様子を見るべきでは?」
「…… 使者なら戻ってきているぞ。『死体』でな」
伸びた前髪の隙間から目を光らせて、尚久が答えた。
「なっ!?」
「坊津水軍からの使者を殺した罪は償ってもらう。あちらに覚悟は出来ているようだ」
「…… 不無不無。この様なことは、以前にもおありかな?」
不無が片目のみを開いて尚久に問いかけた。
「いや、初めてだ。琉球にとって我ら坊津水軍は大事な『客』だ。揉めることはあっても直に手を下すなどということは、これまで聞いたことがない」
「不無不無、妙ですな」
「『誰かの差し金が入った』っていうことじゃないのかい? 海じゃよくある話だぜ」
「ほほう?」
「大方、明国に脅さられたんじゃねーのか? ま、ご苦労なこった」
新人が海の男らしくさらりと答えた。この「ご苦労」とは、「屍になれ」という意味だ。
「不無。もしくは幕府ですかな。なれば、敵対に至った道は尋ねるとして、この面前にいる琉球兵は打ち砕く、ということですな」
「よろしいでしょう」
「異議なし!」
「義兄上! どうぞ先陣は某に!!」
どうやら意見は固まったようだ。
いいだろう。浅慮な者はその愚かさを身をもって知るべきだ。
俺は皆の意志を確認するため、艦長会のまとめをするために口を開いた。
「皆、念の為確認しておくぞ。琉球は王国、つまり日ノ本ではなく他の国だ。その琉球を『焼け野原』にする覚悟はあるか?」
「「はっ!!」」
皆、腹から声を出した。決まりだ、戦だ!
「では第一! 座喜味城に集う琉球の兵を切り裂くぞ! 謙信!」
「ははっ!!」
「『蹴散らしてこい』」
「あ、ありがとうございまする!」
喜色満面と言った感じで謙信は答えた。陸の殺戮兵器、どれくらいの成果が出るか見せてもらおう。
「他の艦隊は砲撃支援で『龍』が上陸する道を開け! 開いた後は遠巻きに撃て! 決して第三艦隊の兵に当てるな!」
「畏まりました!」
「承知でさぁ!」
強襲揚陸作戦だ。相手も相応の準備はしているはず。上陸時はリスクが高い。援護射撃は極めて重要だ。
「城へは俺の主砲をぶち込む! 距離はあるが射程範囲内だ」
「援護砲撃、感謝致します!」
あの美しい城。前世であれば世界遺産級だろうが、今の俺達にとっては邪魔な石塊でしかない。遠慮なくやらせてもらうぞ。
「舞也!」
「は、ははっ!」
「予定とは少し違って『開戦』となった。対馬の『馬』宗将盛に事と次第を第一便で知らせよ! 続いて第二、第三便を各所へ伝えよ!」
「はっ!」
燕はいくつかの艦に分かれている。さながら親燕から子燕へ、縦横無尽に情報を伝える鳥だ。
「『初撃』が肝心だ! この一撃で琉球、倭寇、さらに明や他国の者達に『我が佐渡水軍』の精強さを伝える! 派手にやれ!」
「はっ!」
「ウェーイ!」
「承知いたしました!」
皆、思い思いの様子で自分の船へと戻っていった。久々の戦に血沸き躍っているようだ。
好き好んで殺す訳ではないが、流れる血は少ない方がいい。それと、無益な血を流させた張本人を見つけ出し、八つ裂きにせねばならんな。
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俺がそろそろ艦長室へ戻ろうとすると、奥の間から一人の黒づくめの男が入ってきた。
長身、面覆い、そして伝わってくる迫力。
思わず弥太郎が身構える。だが、相手は敵意をないことを示した。
「…… 俺の、出番は?」
「まだだ。定満など、お主に思う所がある者が多い」
「…… 分かった。早めに頼む」
戦うことが生き甲斐の男だ。フィリピンやベトナム辺りで活躍してもらおう。
「安心しろ。お主の死に場所は俺がしっかりと用意してやる」
俺がそう言うと、黒衣の男はフッと笑って下がっていった。
座喜味城は「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産となっております。
1420年頃、沖縄が戦乱に明け暮れていた頃に名将と呼ばれた護佐丸という将軍が築城したという城です。当時の築城技術の粋を集められた軍事特化した城として、今なお現存しています。
「おきなわ物語」様他色々なサイトから情報を得ることができました。
https://www.okinawastory.jp/feature/heritage/zakimijoato
琉球兵の衣装を白としたのは、琉球歴史ドラマ「尚巴志」を参考にさせて頂きました。十五世紀初頭、北山、中山、南山、の3つに分かれた「三山時代」に活躍した尚巴志を主人公にしたドラマです。ぜひ見てみたいですね(*'ω'*)!
本物語は時代的に百年後ですが、それほど変わりはないと考えての選択です。
https://www.rbc.co.jp/tv_program/shohashi2020/
体調イマイチです(*´Д`*) ゆるゆると書きます。




