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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第十章「蛹」

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第百五十一話 ~「あくまき」~

<天文十二年(1543年)八月三十日 大隅国  肝属郡南大隅 漁村>



「ちょ、ちょっ! 左近衛(さこんえの)中将(ちゅうじょう)殿!!」

「んぁ?」

「こんな処で『あくまき』なぞを食べていて、本当によろしいのですか? ねっ、禰寝(ねじめ)氏に戦用意をさせる隙を与えてしまいますぞ?」

「ん、そうだな。旨い」

「どど、どう為されるおつもりですか!?」


 俺は坊津水軍(ぼうづすいぐん)を束ねる島津尚久(なおひさ)に驚かれながら、漁村の婆やが震えながら出してきた『あくまき』を頬張っていた。

 

 「あくまき」のことは知らなかったが、どうやらもち米を灰汁汁(あくじる)に漬けて煮て竹皮で包んだものらしい。(ちまき)によく似ている。独特の味だが保存が利くらしい。

 …… ふむ、灰汁の強アルカリによって澱粉(でんぷん)の糊化と殺菌作用、さらに竹の皮で包むことで追加の殺菌作用が期待できる、か。火を使わずにそのまま食べることができることも優れている。なるほど、保存食として使えるかもしれないな。


「そうだな、醤油とか砂糖とかきな粉とかを使えば、かなりいいものになりそうだ」

「『あくまき』の話をしているのではありませぬ! 敵が近くに潜んでいるやもしれませんぞ!!」

「そうかもな」

「そうかもなって?!」


 島津尚久、初見の船上では堂々とした男だったんだがな。船の上と違って、陸の上だと若干ビビリか? というか、相当なポンコツになったな。


 考えてもみろ、こんだけ訳の分からぬ「大砲」という兵器をドンパチと威嚇射撃しまくってる相手に奇襲をかける奴なぞ、いる訳がない。いたとしたら蛮勇の大馬鹿者で、逃げる前に戦いそうなもんだぞ。

 それにこの漁村は船員達が交代で休みながら見張りを続けている。襲ってくるなら来てみろってもんだ。


「まあまあ、尚久殿。殿にはお考えがあるご様子。まずはじっくりと、腹ごしらえを致しましょうぞ」

「……そう゛だ……」

「ですが! ここは大隅国を束ねる肝付氏の膝元! も、も、もしかすれば、逃げた村人は禰寝氏だけでなく『大隅の黒鶴(くろづる)』こと肝付(きもつき)氏当主、肝付兼続(かねつぐ)にも知らせに行ったやも!?」

「ほほう、それは好都合だ」

「ええ゛ー!!?」


 俺は一緒に出された干された赤い海藻にも手を伸ばす。鶏のとさかのように赤く、食べるとプルンとした触感が。これはこれでアリだ。


「おばば、これは何という食べ物か?」

「ヒ、ヒェ! と、()()()()()と呼んでおります! どうか! どうか、命だけはお助けを!!」

「安心せよ。危害は加えぬ」


 『剣聖』上泉信綱がおばばを落ち着かせるようにゆっくりと言った。

 だが、先ほど大砲をバンバン撃ち込んで威嚇してきた者達(というか俺達)に警戒するな、というのは酷なことだ。

 老婆は奥の扉を開けて指さした。そこには人影があった。


「ま、ま、孫娘を好きにしてくだされ! 代わりに、どうか! どうか命だけは!!」

「おおっ?」


 尚久が興味を示した。

 奥にいたのは、確かに美しい村娘だった。海で生まれ育った小麦色の肌が健康的だ。


「ほほうっ、これは美しい!!」


 尚久は感嘆の息を漏らしながら、ルパン〇世のように目をハートマークにしてガタッと立った。こいつ、陸じゃ好色でもあるのか。

 というか、これは許されない。


「待て、尚久」

「えっ!?」

()()()()()()()()()()

「な、何ですと!!?」


 目を丸くした島津日新斎の三男坊。倭寇のまとめ役だから、そういうこともなくはなかろう。だが、


「我ら佐渡水軍では、命令なく乱暴狼藉をした者、特に強姦した者はどんな者でも『()()』と決めておる」

「なっ?! ですが我は今は坊津水軍にて……」

「おばばや娘にそんな違いは分からぬ。『実は違う軍でした』、なぞ通用せん」

「ということは……」

「不無不無、指一本触れたら、()()ですな」


 不無が坊主頭を撫でながらニヤリと笑った。そしてガックリと肩を落とす坊津水軍の頭領。この辺は厳しく行かねば示しが付かん。


 長居は無用だ。俺は船に戻ることにした。


「おばば、娘。怖い思いをさせて済まなかった。俺達はこれから、家臣の種子島時尭に仇なす禰寝清年を成敗するために北を目指す。肝付の軍が来たら『酷い事をされた』と言ってくれ。これは礼だ、くれぐれも用心して使ってくれ」

「は、はぁ……  !?」


 おばばは弥太郎から手渡された光り輝く金貨銀貨を見て、目を皿のように丸くした。


「あ、あ、ありがとうございま……」

「礼なぞいらん。俺の頭の中では悪どい事が蜷局(とぐろ)を巻くが如く渦巻いている、言うなれば『あくまき』だ」


 俺は礼をしておばばの家を後にする。皆もそれに続く。


「あ、くぅ~、さらばっ!」

 後ろ髪を引かれる思いだろう尚久は、首を梟のように後ろに曲げ、娘を見つめながら民家を出た。




______________



<天文十二年(1543年)九月 大隅国  肝属(きもつき)郡 禰寝(ねじめ)湊 洋上>



 それから俺達の艦隊はゆっくりと北上を続けながら、途中の漁村や城に威嚇射撃した。

「我が家臣、種子島時尭に仇為す、禰寝清年(ねじめきよとし)を征伐しに行く!」と言い触らしながら。


 おかげで禰寝氏の居城大隅富田(おおすみとみた)城はガチガチに武装しているようだ。


 それどころか禰寝氏当主禰寝清年は恥も外聞もなく大隅国の肝付(きもつき)河内守(かわちのかみ)兼続(かねつぐ)、国人衆の伊地知重武(いぢちしげたけ)などに泣きつき声を掛けまくり、居城手前の野間城、水流城、禰寝湊を守る瀬脇城なんかも所狭しと兵でいっぱいにして俺達を待ち構えているとか。旗指物のはためき具合で大よその見当はつく。



「おー、集まってるな」

「…… 左近衛(さこんえの)中将(ちゅうじょう)殿。如何(いかが)するおつもりで?」


 陸の上とはうって変わって真面目顔の、坊津水軍を束ねる島津尚久。皆と共に俺の龍王丸で作戦会議中だ。


()()()()

「…… ですが、およそ大隅国の腕利きの武士()()が集まっていると聞きますぞ。たとえ我が島津家が総力を挙げたとしても、勝つか負けるかの大勝負となり申そう。それを『叩き潰す』、誠ですか?」


 尚久は眉を(しか)める。そうだな、これだけチンドン屋をすれば嫌でも集まるだろう。

 禰寝清年の首だけを取るならば、速攻強襲して攻め込めばよかっただろう。だが、それでは意味がない。


「弾も火薬もタダではないのでな。()()()()()()状況を作ったまでよ」

「…… 勝算がおありと?」

「むしろ、勝算しかないわ」


 ゴクリ


 尚久が唾を飲み込んだ。薩摩国の(ゆう)島津日新斎(じっしんさい)の子とはいえ、これほどの大戦は経験がなかろう。緊張するのも当然だ。


「某の坊津水軍は案内役の一隻のみ。戦力になはなりませぬぞ?」

「無論、勘定には入れてはおらぬ。ゆっくりと見ていてもらおう」

「…… それでは申し訳ありませぬ。この戦に左近衛(さこんえの)中将(ちゅうじょう)殿が勝つようなことがあれば、我が島津家は大隅国を難なく取り返すことができましょうぞ」

「では、俺が勝ったら、『坊津水軍』と『尚久殿』、どちらも俺が頂く、というのは如何(いかが)かな?」


 俺は不敵な笑みを浮かべて尚久を見つめた。

 尚久はざんばら髪を掻き上げ、俺に負けないくらいの笑みを浮かべて答えた。


「よろしいでしょう。このような大軍に対し佐渡水軍のみで勝てるのならば、元より自ら頭を垂れるべきでしょうな。()()()()()()()


 なかなか言うじゃないか。


「そうだな」

「ですが、張ったりであるなら話は別です。種子島家の臣従、取り消していただきとう存じます」


 凛とした表情の尚久。陸にいる時とは全くの別物だな。


「いいだろう、問題はない」

 

 これだけ「種子島家は羽茂本間家の家臣」と言いふらしまくってるのだから難しかろうがな。無論、負けるつもりは()()ないが。


「北の地で『軍神』と崇められた力、大隅国の者共に見せつけてやろう」


 互いに納得の取引だ。

 話は決まった。


「では、総攻撃開始だ。…… 皆の者、()()()()()()! ()()()()()()!!」

「ハハッ!!」



 「あくまき」は、「島津義弘が関ケ原の合戦において兵糧食にしたのが起源ではないか」、という説がありますが、文禄・慶長の役(1592~1593年、1597~1598年)の朝鮮侵攻の際、食糧難にて次々と飢え死にしていく武士達の中、島津兵だけはこの「あくまき」を食べることで生き長らえた、という説もあります。さらには平安時代には既に農家の保存食として存在していたという説もあります。

 いずれにせよ、作中にあるように保存性が高い兵糧食として有効であると思われます。缶詰の実用化が難しい中、貴重な食糧として改良を続けていくことでしょう。



 南大隅町について調べる中「あくまき」と「とさかのり」について知ることができ、作中に登場させていただきました。今でも名産品だとか、ぜひ食べてみたいものです(*'ω'*)


 肝付家当主の肝付兼続は中々の武将だったようです。黒鶴は、肝付氏の家紋の鶴と芋焼酎からつけた創作渾名です(*´ω`)

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― 新着の感想 ―
[一言] >>「あくまき」(笑) どうみてもちまきのパクリです 本当にありがとうございました。
[一言] 更新お疲れ様です。 女性への性暴力御法度!!<`ヘ´> 三田提督も居る事だし、ワザと札付きの乗組員を泳がせて婦女暴行未遂で『縛り首』(銃殺は弾薬がもったいないしw)を公開でやるとか今後有り…
[一言] 今回登場した娘、どう関わるのやら(笑) それはともかく敵にどんな派手な立ち回りをするのか見物です。
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