第百四十五話 ~宗将盛と第八艦隊~
<天文十二年(1543年)六月 対馬国 金石城 評定の間>
「お主のおかげで朝鮮との関係もうまくいきそうじゃ。礼を言うぞ、将盛」
「い、いえ。わ、わ、私こそ助けていただき、あ、あ、ありがとうございます」
対馬国を攻め取った俺に心配事があった。朝鮮との関係づくりだ。
何せあの天下人の豊臣秀吉が国の威信をかけて攻め込んでも手にいれることができなかった朝鮮半島だ。倭寇との確執、これまで宗氏のみに偏重した交易、それに言語の壁。ゼロからのスタートでは相当苦労するに違いない、と悩んでいた。
しかし、それを解決できる人物が対馬国にいた。
先代の対馬国国主、宗家第十五代当主宗将盛だった。
年齢もまだ三十四。船の扱いにも長け、朝鮮語を使いこなす将盛が朝鮮の者達と話すと相手の反応がすこぶるよかった。かなり友好的な関係を築いていたのだろう。
将盛は倭寇による統治を嫌い、交易を中心とした国づくりを押し進めようとした若き君主だった。だが「手ぬるい」と指摘された統治を度々咎められ四年前に失脚。豊館に蟄居を命ぜられ暗澹たる思いで一生を過ごすはずだった。
俺が将盛と話すと、その聡明さと理知的な思考力に驚いた。
将盛の『倭寇への後押しを止め、対馬から朝鮮、隠岐、九州、琉球、さらには明との友好的な交易圏を広げよう』とする考え方は、俺の考えと完全に一致していた。越後船襲撃事件を「誤りだ」と咎め、使者となった三田舞也の命を救った人物も将盛だった。
将盛は俺達の対馬上陸を聞いたが、船がなくて逃げることができなかった。というより、逃げるつもりもなかったのかもしれない。落ち着いて俺達に投降し、知っていることを包み隠さず話してくれた。
証言通り、襲撃された足助達が乗っていたキャラック船が対馬中西部の佐須奈湊で見つかった。交易品も見つかり証拠は十二分。白狼の調べとも合致した。旧対馬国の宗家嫡流一族の罪はこれで露見した。俺達の戦いの正統性は保障されたのだ。
越後屋の奉公人であった足助達は助からなかった。越後から足助達の親族を対馬に呼び、丁重に供養した。
将盛が周囲からの反発を招いたのは、平和的な考え方に加えて吃音(話し言葉が滑らかに出ない発話障害のひとつ)が強いことが原因でもあったようだ。言葉が流暢に出てこないことに不信感を抱かれたのかもしれない。
だが、俺にとってはそれが人物の評価を落とすことには全く繋がらない。本人の努力とは無関係のことだし、流暢性形成法、吃音変容法、認知行動療法などの支援方法や練習プログラムだってあったはずだ。何より、その人の考えや能力は問題ない、それどころか素晴らしいのだ。批判したり馬鹿にしたりするのは明らかに間違いだ。
「ひ、ひ、久しぶりにう、うみに出ることができて、うー、嬉しく思いました」
「お主の操船技術、艦隊指揮、言語能力、そして理知的な考え方。非常に素晴らしいと俺は思ったぞ!」
「あ、あ、ありがとうございます!」
俺は不無や上泉信綱、白狼、鯨波新人らと相談した将盛の今後について話すことにした。
「将盛」
「ははっ!」
「お主を我が羽茂本間水軍の『第八艦隊』提督に任命するぞ!」
「え? ええっ!?」
「共に世を変えていこう! 対馬から! 日本から! 世界を!!」
「! よ、よ、よろしくお願いします!」
宗氏の持つ朝鮮との「牙符(正式な使者の証である印章)」も将盛が受け継いでいた。これにより朝鮮から「白磁」「青磁」などの陶磁器、朝鮮人参、綿、虎皮などを取り入れることがスムーズになるはずだ。加えて、陶工を日本に連れてきて陶磁器を作れるようになれば、特産品としてヨーロッパに輸出することが可能かもしれん。
だが、朝鮮侵攻や統治、必要以上の深入りをするつもりはさらさらない。歴史がその無意味さを証明している。まあ、交易くらいはよかろう。
あぁ、百年草や覆盆子、揚州栗とかもあるかも!? 海のゲームでは何度も何度も運んで巨万の利益を出た特産品だ! うおぉ、胸熱だ!!
俺が一人両手を握って嬉しさを噛みしめているところに、上泉信綱から報告があった。
「殿、対馬早田水軍の棟梁、早田左衛門四郎、我らに帰順を申し出ております」
「うむ。倭寇の親玉だな。予定通り佐渡水軍へ編入せよ!」
「畏まりました!」
俺は倭寇に対して苛烈な政策を打ち出した。「倭寇は直ちに武装を解き投降すること。さもなくば粉微塵に打ち砕く」とのおふれを広めまくったのだ。
「何を戯けたことを」と思ったらしい何某水軍とかいうのがいたが、御望みの通りに人、船、本拠地、全てを粉微塵に爆砕した。
俺は春日山城ですら灰にする男だ。敵対する倭寇なぞにかける温情は一欠けらもない。海軍力で佐渡水軍は時代を百年ほど先を行っている。戦って負ける要素なぞありはしない。取り締まりは徹底的にやった。悪即斬だ。
その結果、対馬付近の倭寇は我先にと帰順を申し出てきている。一部では『倭寇より怖い佐渡水軍』という言葉も出てきたとか何とか。
水軍に入れば訓練や命令、義務が発生するが、食事や給金にありつけるし、何より明日の心配をしなくていい。朝鮮からも『倭寇殲滅』に動き出す俺に早速感謝状が贈られてきた。いい感じだ。
「では新人! 謙信! 舞也! 将盛! 次は壱岐島へ向かうぞ!!」
「は、はは!」
「松浦党にも顔出しだ。ご近所への『挨拶回り』は大事だからな!!」
「ですな!!」
国は、攻めとるだけでは終わらない。攻め取った後が大変だ。
あれからまだ二か月。まだまだ忙しいな。
宗将盛の子には、宗茂尚、宗義純、宗調国、宗義智がいます。対馬の戦国武将として活躍した彼らは、物語の後半には活躍するのでしょうか?
百年草、覆盆子、揚州栗はゲームに登場していましたが、調べてみたけれどもこの時代にあったのか不明(*´Д`*)
百年草はリュウゼツランの仲間、サボテンの実。清熱解毒作用、消炎鎮痛効果があり、胃腸にもいいそうです。現在ではジャムやチョコレートに混ぜた済州島のものが有名なんだそうです。
覆盆子はイチゴと呼んでいました。中国語でもイチゴと読むとか?
揚州栗はゲームの情報が多くて( ;∀;) 私のブログでも度々扱ったので検索上位にきました。
ご存知の方がいらっしゃいましたら、情報をお寄せいただけると助かりますm(__)m




