第百三十一話 ~他力本願~
第十章「蛹」開幕いたします(*´ω`)
章題の意味することは?
行きつく先は!?
ご一緒していただけると嬉しいです。
<天文十年(1541年)三月末 佐渡国 羽茂郡 羽茂城 城主私室>
「佐越の戦い」から一か月が経った。
俺はあれから数週間、越後の実質的な支配者として新たな国づくりの指針を建てるために戦後処理に追われていた。その大半は越後国内の東奔西走だ。その為、自分の居城でゆっくり過ごすことができたのはつい数日前からだった。
越後国抑えの直江津は俺が直轄地として治めることにした。
壮絶な民虐めがあった地を安心させなくてはならん。俺は至る所に顔を出し、挨拶をし、陳情を聞き入れ、見舞金を出した。越後国をまとめるために越後国各地へ出向いた。まるで選挙対策の演説行脚だわ。「ドブ板選挙」だ。金を出したら公職選挙法で捕まるが、な。
だが、効果は大きい。
噂を聞く、目で見る、会って話す、握手をするの四つならば、明らかに前者よりも後者の方が信頼感の高まりが期待できる。直接顔を合わせ、触れ合い、共に汗を流し、飯を食べることで仲間意識が芽生え心の繋がりを感じ好感度は飛躍的に高まる。
決して下心だけではない。だが俺を信頼してくれることに繋がるのであれば、単純接触効果を使うことは好ましいはずだ。心理的な効果は既に実証されている……
「おい、照詮」
そんな時に、朗々とよく響く声が後ろから俺を呼んだ。
「んあ?」
意外だった俺はボケた声を出してしまった。
佐渡ヶ島で俺を呼び捨てにする男と言えば、環塵叔父だろう。俺は首だけ後ろにグイと倒した。予想通り叔父の坊主頭と無精髭が逆さまに見えた。
「仕事熱心もいいが、少しは休めっちゃ」
「ん゛ー、ちょい頑張りどころかなっと思って」
「おんしはいつも頑張りすぎじゃ。もっと休んでいいっちゃ、『頑張るな』」
叔父はそう言うとどかっと座った。
面白い事を言うおっさんだ。
佐渡国、出羽国、陸奥国、越後国を束ねる大国主の俺に『頑張るな』と言う。俺の働きが何千、何万の民の命を左右するんだ。おちおち休んでなんて……
「『人を信じ、人に頼る、人に任せる』ことも大事だっちゃ。『他力本願』という言葉もあるっちゃ」
「あぁ『人は一人では生きられない。阿弥陀様や他の人の力を借りて、自分の本当の願い、本願を果たす』ことが大事ってやつか」
「お、流石は空海様だっちゃ」
「茶化すなよ」
前世で誤用が甚だしかった言葉だ。他人任せで主体性がないとかの、な。
親鸞が開祖の浄土真宗の教えが元だったな。「本願」と言えば一向宗石山本願寺か。
「でも、そうだな。休むこと、人に任せることは大事だ」
「その通りだっちゃ! だから儂は妙恵に杏の世話を任せて遊んでおるっちゃ」
「……それって、本当に本願か?」
「はは!」
叔父はだいぶ調子が良さそうだ。飄々とした面持ちの中に心の余裕が見える。一時期は悩んでいる感じも見えたが、この分ならまた色々任せてもいいかもしれんな。よし、ここは他力に色々と頼るとするか。
「越中の神保攻め、越後の地盤固めを、人に任せてみるとするよ」
「ほうほう」
「越中国神保家当主の神保長職は長尾家滅亡の報を聞いて戦にはかなり及び腰と聞く。真田幸綱に調略をかけさせ降伏させる。その後は真田と保科中心に任せてみようと思う。」
「ふむふむ」
「越後は今回軍監として兵を統制した長野業正に任せる。中条のおっさん、北条のおじさんを与力につけて安定を図る。信濃川と阿賀野川水域の治水、開墾も担ってもらう。しばらくは敵国の侵攻はなさそうだからな」
「いいぞいいぞ」
「そして、宇都宮尚綱が治める下野国は、則秋と勘助にゆるゆると攻めさせる。一年、いや、二年かけてもいい。国力を安定させつつ、ゆっくりと」
「なるほどなるほど。椎名殿と山本殿なら適任じゃ」
俺は話す、叔父は相槌を打つ。そうする間にどんどんと戦略が練られていく。
叔父は聞くだけでなく、質問もしてくる。
「一向宗はどうするっちゃ?」
「難しいな。越中国の瑞泉寺土山御坊門徒など、佐渡に明確な敵意がある勢力とは対峙するが」
「全てとは戦わぬ、か」
「できれば救いたい」
「ほほ、『真言宗』ならぬ『照詮宗』でも開くっちゃか?」
「それはないない。だが一揆で荒れる門徒のほとんどは、元々弾圧されて飢えた民だ。国仲平野にいる者達と同じだ」
「おお、弘法大師様の御慈悲は偉大だっちゃな」
「おいおい」
おどけて拝む叔父を見て、俺は呆れた。
しかし、確かに『他力本願』だな。一人で悶々と悩んでいたことが次々と解決していく。悩みや苦しみは一人ではなかなか解決できず、人を頼ることで道が開けるということは世の摂理の一つかもしれん。
「あとは、朝廷への越後国統一の報告だが」
「うんうん、って……」
「環塵叔父、頼むぞ!」
「ええっ!? あ、いや、それは、儂はサボテンの手入れが……」
「『人を頼れ』って言ったのは叔父だよな?」
「うっ、これは一本とられたっちゃ」
そう言うと叔父は頭を掻いて笑った。
朝廷とは仲良くやっていきたい、「岩倉宮」の名を継ぎ朝廷とも交友のある叔父はその架け橋に最適な人材だ。朝廷から今度も何か言われるかもしれんが、まあ叔父なら大丈夫だろう。
「『能登国を頼む』と言われてたっちゃ。越後国のことがあったから仕方がないと思うっちゃが、考えておいてくれっちゃ」
「そうだな」
叔父はよいしょと立ち上がった。何だかんだで動いてくれる頼もしい叔父だ、何でもしっかりと考えてくれる……
「ああ、そうそう。『ぽるとがるの船団』が小木に着いたそうだっちゃ」
「なっ! それを早く言えよ!!」
「済まん済まん。忘れてたっちゃ」
訂正。頼もしいが抜けている所がある叔父、だ。
三月と約束していたポルトガルの定期船団がようやく来た!
大砲や硝石、砂糖、ルソン壺などを満載にしてきてくれるだろう! 今回の戦で火薬も戦費も大量消費したから補充したいところだった。対価の日本酒、日本刀、日本画、和書物、干し柿なんかも揃えてある。更に、海外の話も聞きたい! 海外進出も急がねば!!
「それじゃ俺は小木に行くぞ! 環塵叔父、京の方は任せたぞ!」
駆け出し始めた俺の肩を、環塵叔父はパシっと掴んだ。
「ん?」
「照詮、綾を連れていけ」
思ったよりずっと深刻そうな顔をして叔父が言った。
「どうしてだ? 綾は元気だぞ?」
「…… おんしは、聡いのか疎いのか。女心が分からんやっちゃのう」
叔父さんに言われたくないよ、四十越えてまでずっと独身だったくせに。
長尾家を倒したと綾に伝えたが、綾は平気そうに「ありがとうございます」と言っていた。俺と晴景が対立することは時間の問題だったし、何も問題は……
「妙恵は、綾と会った後に『健気にも元気そうにしているが、心は今にも折れそうだ』と言っておったぞ」
「!? そうだったのか……」
「綾には心の支えが必要だっちゃ。照詮、後は分かるな?」
「ああ」
俺が綾の『他力』とならねば。
俺は奥方屋敷にいるはずの綾の元へと急いだ。
数年先まで飛ばそうと思っていましたが目の前のことが気になって仕方なく、一か月だけ進みました(*'ω'*)
ラブロマンス的なことを考えましたが、主人公は十一歳(*´Д`*)
戦国の世とは言えせめて十六~十八くらいまでは行かねば~
もう最初の年齢設定を考え直そうかと思っているくらいです。
「他力本願」については、本文にある通りです。
所詮、人間は不完全。
他力を借りて本願成就を目指すことは決して恥ずかしくもいやしくもありません。
私自身、自分だけで思い悩まず、他力にすがりながら物事を果たしていこうと思います(*´ω`)




