第百二十八話 ~春日山崩し~
<天文十年(1541年)二月末 越後国 頸城郡 直江津 五智の森>
ガガーーーンッッ!!
春日山城の方角から大きな音が轟いた!
この破裂音には聞き覚えがある! デミ・カルバリン砲の発射音だ!! まさか、三分一原の戦いの後に渡したあの砲から!?
「いかん! 皆、伏せろ!!」
思わず俺は叫んだ!!
同じ高さからなら届く距離ではない!! だが、春日山城の天守から撃ったとしたら飛距離が伸びてギリギリ届くかもしれん! 直撃したらタダでは済まん!!
皆の退避行動を取ったことを確認して俺は春日山城から飛んで来るであろう空を見上げた! 弾はどこだ! どこからくる!?
「弥太郎! 信綱! 弾を見つけよ!」
「… ある゛じ……」
「殿……」
護衛の二人がいれば何からだって守ってくれるような気がする! 五〇衛門のように砲弾を斬るとか! ……さすがにそれはないか。
「…… ある゛じ」
「ん!?」
「だま、ごない……」
「え゛?!」
弥太郎からの報告だ。獣並みの動体視力を持つ者が来ないと言ったら来ないに決まってる。 ……どういうことだ!?
「殿…… あちらをご覧くだされ」
『剣聖』上泉信綱に促され、指の先が指し示す方角を見た。
「……あっ!?」
俺は間抜けな声を出した。
燃えていた。
越後長尾家の象徴とも言うべき、春日山城の天守が轟々と炎と煙を巻き上げて燃えていた!
こちらからの砲撃はまだ行っていない。つまり……
あいつら、俺が昔に譲ったヒビの入った大砲を撃って、大暴発させたか?!!
「オ、オホン。ムホン」
俺はわざとらしく咳払いをしながら、膝についた土を払った。
ようやく事態が飲み込めた。そして照れ隠しをした。
「ま、まあ、何だ。大砲はそれくらい恐ろしいということだ! 皆、相手が撃ってくるような事があれば、間違いでもいい! 俺のように右往左往していいぞ! 『注意一瞬、怪我一生』だからなっ!!」
「プッ、ププッ」
「ハ、ハハハッ! アッハッハッ!」
アハハッと本陣の皆が笑う。緊張続きで疲れていたので、一気に場が緩んだ。かなり情けない姿だったが、地震や火事でも、本当に起きる怖さよりは誤報の方が何倍も有難い。
だが、最初に笑ったのは小姓の藤丸な。覚えておくぞ。
さて、いよいよ仕上げだな。
気を引き締め直す。ここからは笑顔はいらない。あるのは硝煙の匂いと爆発音、それに愚か者を粛正する怒りの裁きのみだ。
「では、全力砲撃と参るぞ! ヤルノッ! 準備はいいか!?」
「準備デキテマス!」
「よし!! 『重量砲撃』準備!!」
「はっ!!!」
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<天文十年(1541年)二月末 越後国 頸城郡 直江津 春日山城 城下>
最後通告に出した僧侶は戻ってきた。それどころか「来るなら来い!」との話だ。春日山城の防衛に絶対の自信を持っているのだろうか。
だが、我が羽茂本間軍にとっては総火力演習のようなもんだ。演習じゃなくて本番だがな。
「これより『春日山崩し』を始めるッ!!」
「「応っ!!」」
「一番隊から四番隊までは南の曲輪! 五番から八番隊までは三の丸! 同時弾着を心がけよ!!」
「「ははっ」」
改めて春日山城を見る。
デカい、いつ見てもデカい。
広島に行った時に見た広島城のように天守閣がドーンと聳え立つ感じではない。だが、周囲の山々を巻き込み、「山ごと城」の喩えの如く山全体が一つの城として機能している。多くの門、曲輪、切岸を備えており、力攻めに対抗するのであれば二千の兵で二万の兵を退けることも容易であろう。「天下五大山城」の一つと数えられているのも当然だ。
「北側はいかがいたしましょう?」
「『艦砲射撃』で黙らせるっ! 海上で待機している新人に大旗を振って伝えよ!」
「ははっ!」
春日山城が堅固と言われるのは、地を這って進む「力攻め」への備えの為だ。当然のように砲撃への備えはまるでできていない。無防備の門や曲輪は大砲のいい的だ。
重量砲撃は、海MMOだと敵の船の速度を落とすスキルだった。だが、ここでは砲弾が打ち出す質量で相手の建築物をぶっ壊す意味で使っている。
「このくだらない戦を一刻も早く終わらせる!! いくぞ!!」
「はっ!!」
そう、くだらない。全く無駄な、無益な戦だ。
だからこそすぐに終わらせる! 流れる血は最小限でいい!
「撃ててええええええええええええっっ!!」
俺は叫んだ! 蔵田のおっさん、サチ、高梨政頼、長尾為景、様々な人々の思いを込めて! 怒りを込めて銅鑼を思いっきり叩いた!!
ジャーーン!!
銅鑼の音が鳴り響くと、呼応するように一番から八番と名付けた大砲隊による二百基の大砲が火を噴いた!!
ドオオオオオオオオン!
ドドドドオオオン!! ガガッ!
ズゴオオーーーーーーーーーン!!
凄まじい轟音!
TOT(Time On Target=同時弾着射撃)を意識した砲弾が狙いに向かって飛ぶ! 木製の門や曲輪、三の丸に次々と砲弾がぶつかる!!
曲輪はガラガラと音を立てて壊れた! 三の丸は一度は耐えたが第二斉射で粉微塵に吹き飛んだ!
「弾も火薬もあるだけ使えっ!! いくら使っても構わん!!」
火力の使い処だ! 出し惜しみしている暇はない! ここで使わねばいつ使う?!
どれもタダではないが、愚か者の末路がどうなるか世に知らしめる必要がある! 吹き飛べっ!! 忌まわしき者共よっ!!
ドドーン!
ドドドーーン!!
「冷却! 第二斉射までの時間を早めよ!」
「「ハッ!!」」
「戦録係は戦果を書き止めよ! 撃つだけでなく記録を残すことが次に役立つ!」
「「ハハッ!!」」
「すぐさま次の標的を狙えっ!! 無駄を極限まで削れ! 隙を見せるなっ!!」
ただ撃つだけでは意味がない。連射速度、命中精度、破壊力、様々なデータを集めておく。きっと大きな意味のある資料となるであろう。
春日山城へ飛び交う大量の砲弾が、長尾家三百年の歴史に終止符を打とうとしていた。
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砲撃は昼頃まで続いた。
この時に打ち込まれた砲弾は千発をゆうに越え、使われた火薬と弾薬の費用は国一つ傾くほどであった。
だが、効果は絶大であった。
春日山城の防衛拠点と呼べる拠点は砲撃を受けてほとんどが沈黙。門や曲輪はガラガラと音を立てて崩れ落ち、二度と使えないほど完膚なきまでに破壊された。
「天下五大山城」と名高い春日山城の門を砕き、曲輪を砕き、山の形を変えたこの猛烈な砲撃は「春日山崩し」と呼ばれた。「羽茂本間に逆らった者は、城ごと叩き潰される」と、その恐ろしさは日ノ本全体に広がっていくほどであった。
「佐越の戦い」は残り二話ほど。
戦後処理と、隠された秘密が暴かれます。




