第百十二話 ~正座~
短い回です(*´ω`)
<天文九年(1540年)十二月 佐渡国 羽茂郡 羽茂城 城主私室 >
北日本制覇を成し遂げ、意気揚々と羽茂城へ凱旋帰国した俺。
船には支えてきてくれた兵達と、多くの蝦夷地の特産品。隣にはアイヌの美姫ノンノと、肩には大鷹のレラ。そんな浮かれきって油断していた俺に、仕置きが待っていた。
鼻歌混じりで私室に戻った俺。その目の前に、鬼の角と野獣の牙と鋭い爪を兼ね備えたような最強生物が鎮座して待ち構えていた。
「照詮…… 座るっちゃ!」
「……え?」
「いいから、そこに座るっちゃ! 正座っ!!」
「は、はいッ!」
俺はそそくさと床に正座した。
何ということだ。
佐渡国、越後国の北部、出羽国、陸奥国、蝦夷を束ねる一大勢力の盟主であるこの俺が、まるで子どものように叱られている。実際子どもだが。
これ以上この最強生物を怒らせたら翼も生えてくるかもしれん。俺を呼び捨てにできる者は、もう環塵叔父とこれしかいない。
「鼻の下を伸ばしてっ! デレデレして! 恥ずかしいっちゃ!」
「デレデレはしてないょ……」
「してたっちゃ!」
「はい……」
してたな。
ノンノが可愛いからずっと頭をナデナデしてた。だらしない顔になってた所を見られたな。いかんいかん。君主らしく威厳を取り戻すぞ。うん。
「レン。報告が遅れて、本当に済まなかった。ノンノとの婚姻は北の抑えには欠かせないんだ。」
「報告が遅すぎるっちゃ! あとおとうやん(久保田仲馬)が蝦夷に住むのも聞いてないっちゃ!」
「予定にはあったが、大事なことで話せなかったんだ。分かってくれ。」
「それでも、文をよこすとかやり方があるっちゃ! 新しい所へ行くたびに新しい女を連れ帰ってこられたら困るっちゃ!!」
「は、はい……」
頬を膨らませて謝る俺を睨みつけるレン。惚れた弱みか、レンには頭が上がらない。そんな俺の様子を見て、護衛の弥太郎や小姓の藤丸がクスクスと笑っている。
突如、レンが目を光らせたかと思うと、俺に向かって突進してきた!
いかん、殺られる!!
……と思いきや、急ストップして俺の頭を優しく撫でてきた。
「……でも、よく帰ってきたっちゃ。いい子いい子」
「ありがとう。…… ただいま」
「おかえりだっちゃ」
向日葵のような笑顔で俺を見つめるレン。やっといつものレンに戻った。
レンだって色々と分かってくれている。俺がどんなことをしているか、何が必要か、何を捨てているか。それを全てひっくるめて、受け入れてくれている。いつも俺を案じてくれる、俺の帰る場所だ。やはり俺の正室はこれしかいない。
「怪我はないっちゃ? 病気はないっちゃ?」
「大丈夫だよ」
「あとは?」
「あと?」
じーっと俺を見つめるレン。何だろう。お土産かな?
「……でるっちゃ」
「え?」
「レンを撫でるっちゃ!!」
「あ、ああ!」
俺はノンノの十倍くらい必死にレンの髪を撫でた。「よろしかろう」というようにレンは大人しくなった。あとでアイヌの酋長ヘナウケから貰った虹色石の首飾りを贈ろう。
これ以上、事後報告で側室を増やすのは考えものだな。うん。
命が危うい。




