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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第八章「代替わり」

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第百九話 ~覚悟~

<天文九年(1540年)十月 蝦夷(えぞ) 道南 勝山舘(かつやまだて)


 

 窮地に陥ったはずの羽茂本間出羽守照詮。しかし何故かその顔から怖れや狼狽の色が見えない! むしろ余裕すら感じる! 何だ?

 小僧は俯いていた首をゆっくりと擡げた。口角がゆるりと上がる。そしてぬらりと口を開いた。

「『()()()()()()』、のようにはいかぬぞ」

「ぬっ!?」


 ぬめっとした虚ろな声。

 『コシャマイン』を()()()()()()()()()()()? 何故だ!? 百年ほども前の話じゃぞ!? 

「そうだろう、そうだろうとも。蠣崎(かきざき)家はこうでなくてはな」


 小僧は手の平をパンパンと二つ叩いた。すると……!?


 ムクッ ムクムクッ ムクリ


 泡を吹いていたはずの兵達が起き上がった?! なぜじゃ! 熊をも殺す鳥兜(トリカブト)の毒じゃぞ!?


「そいつぁ、あっしがすりかえやしたぜ」

 影の中からゆらりと声がした。どこにでもいるような男が腕組みをしていた。何だと!? 誰だッ!

「おめぇさん方が酒の中に入れようとした薬、()()()()ヤツでしたんで、砂糖にしときやした」

「いつも鮮やかだな、白狼」

 

 昼の道南領主たちとの交渉の際、「ちょっと用足しに」と言って白狼が忍び込んだ。見た目が普通のおじさんだから油断したな。腕相撲じゃ弥太郎でも敵わないほどのムキムキおじさんだ。


「ま、そういうことだ。『お主らが騙し討ちを仕掛ける』『酒や食べ物に毒を入れる』であろうことは予測済みだ、知っていた。故に芝居を打った」

 正確には、道南の大沼公園育ちの前世の俺の記憶。加えて、有名な「シャクシャインの反乱」で和人がシャクシャインを騙し討ちにしたことを思い出し、気になったから色々調べてもらったから分かった。汚いなさすが蠣崎汚い。


「いや、あっ…… が……」

「さて…… 昼にあれだけの戦力を見せた後に、ここまでのことをやらかしたんだ。覚悟はできているな?」

「クッ! こうなれば! であえであえ!!」


 悪代官よろしく蠣崎義広は館に潜ませていたであろう兵を大声で呼んだ!


…… しかし たすけは こなかった


 代わりに馴染みある佐渡弁の声が聞こえてきた。

「おぉーい、照詮。眠っとった兵達は皆、ふん(じば)ったっちゃ!」

「ご苦労だ、仲馬おじ」

「へへっ。眠り薬はしっかり効いたみたいですぜ」

 これも白狼の手の者がやった。相手方の出方が分かったんで、もう()()つもりだった。


 二重、三重の計が破綻した蠣崎義広。あれだろ、「二の矢、三の矢」とか作戦考えて悦に入ってたろ? 俺の仕置きは甘くないぞ?

 目を白黒させ、赤くなったり青くなったりの道南の領主。


「こ、こ、こうなれば! 死なば諸共じゃっ!! 皆、やるぞッ!」

「お、応っ!!」

 飲食していない蠣崎季広(すえひろ)下国(しもぐに)何某(なにがし)ら十名ほどが、どこに隠し持っていたか刀を取り出した。念には念を入れているものだな。アイヌとの戦に明け暮れる面々だ。皆それなりに腕に覚えがあろう。

 だが、こうなればもうこちらのものだ。


「弥太郎! 信綱!! 白狼!!」

「う゛ん」

「ハッ!」

「あいよっ!」


 相手が悪すぎるな、斬り合いでこの三人と渡り合うとか。精鋭兵を百や二百は用意しないと話にならん。


「デヤァッ!!」


 斬りかかってきた道南十二館の一つを守る下国何某。だが白狼はひらりとその刃を躱すと鋭い手刀をそいつの手首に打ち込んだ!


 バシィッ!!


 下国師季は手首に折れたが如き激痛が走った! その余りの衝撃に耐えかねて刀を落としもんどりうって倒れた。


「では…… 参るッ!」


 フワッっと風を切るように駆けた『剣聖』上泉信綱。刀を構える者達の中にド真ん中に飛び込むとぐるっと回った! いや、()いだ! 


「グハッ!」

「ゴヘッ!」

「ガガッ!!」


 三人の男が文字の通り宙を舞った。峰打ちだからか。本来ならば胴が二つに斬れているはずだ。三間以上も吹っ飛んだ。


 剣聖様が打ち漏らした一人、蠣崎季広(すえひろ)は俺の方へ駆けてきた。いや、剣聖様が弥太郎に譲ったか? 

 弥太郎は俺にピタリとついて離れない。万が一に弓で狙っている者が潜んでいないとも限らない。剣聖様から剣のことだけでなく、不意打ちの可能性、想定される襲撃方法について学んでいるらしい。


 俺も一応、腰に差した名刀「宗三左文字」を構えた。これは念のためだ。もし俺が刺客と一合でも刃を交そうものなら、「役割不十分」と感じて二人は酷く落ち込んでしまう。できればそれは避けたい。


「デャアッ!!」


 大上段に構え、護衛役の弥太郎に斬りかかった蠣崎季広! それを冷静に見つめる弥太郎。

 次の瞬間! 弥太郎は超人的な速さで刺客の懐に踏み込んだ!

 

 バシッ!!


 俺の守りが届く範囲だけ弥太郎が動き斬りかかった季広の刀の柄の両拳をグッと握った。そして一気に引き倒す!


 ドンッ!!


 超人的な力で顎を地面に叩きつけた! 季広は「ぐぅ」と一声呻いて気を失ってしまった。弥太郎は凄いな。俺の護衛を十二分に果たしながら相手を易々と撃退した。恩に報いるためには武器でも領地でも与えたいが、欲しがらないからなぁ。


 白狼と剣聖様が一人、また一人と峰打ちで道南の領主達を倒していく。

 そして、最後に残ったのは……


「……はっ! ここまでじゃ!」 

 ドンと地面に尻をつけて胡坐(あぐら)をかいた蠣崎義広(よしひろ)。腕を組み「煮るなり焼くなり好きにしろ!」と言わんばかりだ。さすがに道南の領主達を束ねる盟主、肝が据わっているな。

 俺は親衛隊に命じて義広の嫡男蠣崎季広(すえひろ)以下領主達を荒縄で縛り上げさせた。さらに皆と共に義広を取り囲んだ。


「蠣崎義広。俺を汚い手で亡き者にしようとした罪。覚悟はできておろうな?」

「逃げも隠れもせん! さっさと斬れ!」


 だが、俺を騙し討ちにしようとした罪。そう易々と消せると思うな。


「すぐには殺さん、お主は役に立つ」

「……おぉ! その通りじゃ! 儂の言葉で道南の和人は皆動く! アイヌ語が分かる者を何人もやろう。捕えている慰み者のアイヌの娘を何人も…… ブベッ!!」


 俺は無性に腹が立った。部下に命じて殴らせた。


「生憎だな、アイヌの言葉が分かる者は十三湊にいた、数人ほど同行してもらっている。あと、勘違いするな。お前の最期の役割は『アイヌの人々との友好関係構築』のためだ」

「……ぬっ?」

「お前とその血縁の者達の身柄。()()()()()()()()()()()()()()()()

「な、な、なっ!!!?」


 狼狽し白髪をかき乱す老人。

「善政を()いていたのであれば生き延びよう。しかし…… どうであろうな?」

「ひぃぃ!!! やめてくれっ!! いや、殺してくれっ! 命はやる! 財産も! だから家族は! 家族は生かしてくれっ!!! 許してくれッ!」


 どうやら自分がしてきたことの自覚はあるようだ。そして許してくれ? 俺はまたぬらりと笑った。


「そう言ってまた、俺を騙すつもりだろう? その手は食わん」

「ほ、ほ、本当じゃ!!」

「一度失った信頼は取り戻すことが難しい。ましてや、騙して命を狙うような者は特に、な」

 それを聞くと観念したように項垂(うなだ)れた義広。だが、次の瞬間には俺を罵倒しだした。


「く、糞ッ! 鬼ッ! 人でなし! 恨んでやるっ! 悪霊となり、呪い殺してくれるわっ!!」

「はっ!! これは面白い」


 おかしな事を言い出すものだな。


「お前は、殺してきたアイヌの人々から呪いを受けたか?」

「なにっ!!?」

「そんな事はあるまい、人にそんな力があるのであればお前はとっくにアイヌの者達から呪い殺されているはずだ。だが、お前は生きている。何故だ?」

「あ゛っ……」

「自分にだけ特別な力があると思うなっ!!! 恥を知れっ!! 死して殺してきたアイヌの人々に詫びよッ!!」

「あっ、あっ…… ああああああああああ゛っ!!」


 絶望したように叫んだ蠣崎義広。皺と白髪がより深く濃くなった気がする。それから愚かな老人は口をポカンと開け、それきり黙ってしまった。


 その後は一族の者共も別々に分け、隅の蔵へ押し込めて厳重な監視をつけた。

 


 「時代」と言えばそれまでだが。

 蠣崎家にそうする理由はあった。必死に生き、必死過ぎるが故に騙し討ちをしたのだろう。

 だが俺は新しい風を入れる。新しい風を故郷の蝦夷に吹き入れてみせる。

「アイヌ民族:歴史と現在 -未来を共に生きるためにー」(公益財団法人アイヌ民族文化財団様)を読ませていただくと、和人がアイヌ人へどのようなことをしてきたかをうかがい知ることができます。


当時、米が穫れない北海道。アイヌ人は鮭と米を交換します。

交換比率は、「アイヌの鮭100匹と、和人の米30kg」 (1641年頃)

鮭100匹と言ったら、もの凄い量です。それを10kgの米3袋では割に合いません。


それが、1669年頃には「アイヌの鮭100匹と、和人の米10kg」(1669年頃)

ここまでされては黙っていられず、シャクシャインが立ち上がりました。


だが、シャクシャインは騙し討ちに遭い、アイヌの人々は「松前藩の言う通りにする」と誓わされます。必ず松前藩を通して和人と交易することを義務化されます。


 その他、奴隷のような扱いや作中の女への乱暴もあったようです。

 時代と言えば時代ですが、現代とは大きく隔たりがあります。本作はその辺も正していきたいと思っております。


 夏休みを生かして、別の作品も書き始めました\( 'ω')/

「信長の懐刀 ~名武将は高校生~」

https://book1.adouzi.eu.org/n5474gk/


 軽い感じの作品に仕上げたいと思っております。

 ご一読いただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 因果応報<`ヘ´>>蠣崎義広 策士策に溺れる(^^;; アイヌとの友好関係構築の為にも、捕らえた彼らには『生け贄』なってもらいましょう!! あとは史実の過酷な要求や明…
[良い点]  素晴らしい、コシャマインの仇を取っていただき、ザマア、良いねえ。これでアイヌを傘下に収め、アイヌとの正当な取引きが始まれば、アイヌ・蝦夷地は急速に発展するでしょう。  そして、オロッコ、…
[一言] 騙し討ちにしようとした蠣崎の馬鹿どもを返り討ちにしたか。 照詮にそんなあからさまな謀略は通用しないよ(笑) 蝦夷の先住民たちにどんな善政を敷くのか照詮の技量が試されますねぇ。
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