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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第八章「代替わり」

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第百八話 ~騙し討ち~

<天文九年(1540年)十月 蝦夷 道南 津軽海峡>



 函館の方かと思ったら、上ノ国の方なんだな。

 俺は蠣崎氏などが治める道南の勢力図を見て改めて意外に感じた。


 前世では函館から松前まで車で行ったことがある。サブちゃんの記念館やら横綱ウルフの記念館があったのを思い出した。海から眺める道南の陸地は森で埋め尽くされている。緑の針葉樹と赤や黄色に色づいた広葉樹で色鮮やかだ。


 俺は佐渡水軍のキャラック船十隻に兵一千を率いて蝦夷へ侵攻中だ。うまく事が運べばいいが、軍事衝突(ハード)も辞さない交渉(ネゴシエーション)になる可能性も高い。相手の出方次第だな。

 

「照詮、じゃなかった。殿、目指す勝山舘っちゅーのは近くかの?」

「仲馬おじ。今は照詮でいいぞ。勝山舘はさらに先じゃ、地図で言えば今はここで、勝山舘はここじゃ」

 俺は自作の地図に、話に聞いた勝山舘の地図の地点を指さした。伊能忠敬(いのうただたか)のいない時代、うろ覚えでも俺の地図が最も精度が高いはずだ。


「まだかかるのう。この大船のおかげで揺れはあまり感じんが、船旅は慣れてないから堪えるっちゃ」

「もうしばらくの辛抱だ」

 元々外洋向けの作りのキャラック船は少々の波など屁でもない。冬ならいざ知らず、秋の日本海くらいなら全く問題なく進むことができる。


「にしても、寒いですな」

「あっしにも、この寒さは厳しいですぜ」

「……う゛ん」

 『剣聖』上泉信綱と『狂狼の牙』白狼、『鬼小島』弥太郎も、この時期にこれほど寒いとは思わなかったろう。


「もうすぐしたら、朝方には氷が張ることもあるぞ。雪が降ることだってある。毛皮の防寒着を持ってきて正解だったろ?」

「ですな」

「おかげで仕事がし易くなりそうでさ」

「……あっだがい」 


 半袖だけで夏に来る、フリースくらいで冬の防寒対策万全とか、北海道の寒さを甘く見ている人は現代でも多い。7月や8月でもストーブを焚くことだってあるくらいだ。必要以上の防寒着があって丁度いい。


「皆、気を引き締めていこう」

 

 南部家を勘助率いる軍が征伐した今、この道南の地を治めれば北日本は全て俺の傘下に入る。安心して南下することができる。

 油断は禁物だ。信長だって本能寺で光秀に討たれた。油断や慢心は敵だ。配下の皆の力をフルに使い、北日本制覇を成し遂げてみせる。




________________________



<天文九年(1540年)十月 蝦夷 道南 上ノ国港>



「クッ!!」

 ここまでの者か!? 羽茂本間照詮!!


 道南を束ねる蠣崎義広(かきざきよしひろ)は思わず目を見開き、歯軋りをした。震えが止まらなかった。

 見たこともない百尺(約30m)を越える大船! しかもそれを十隻!? 何たる戦力じゃ! 特にあの百五十尺(約45m)にも及ぶ一番大きな船の側板は黒光りしている! 鉄か!? 鉄が張ってあるのか!? なぜ沈まない!


 続々と降りてくる羽茂本間軍。皆、黒く輝く鎧兜に鋭い長槍。長弓に加え、見たこともない鉄の筒を持った兵もいる。何だ? 危険だ! 何か分からぬが危険だ! 長年の勘がそう告げていた。


「と、殿……」

 茫然とする道南の領主達。羽茂本間軍のあまりの戦力にへなへなと倒れ込む者すらいる。


「だ、第一の矢は中止じゃ…… 第二の矢の準備を」

 老獪な領主は、そう声を振り絞るので精一杯だった。



__________________________



<天文九年(1540年)十月 蝦夷 道南 勝山舘>



 昼頃に行った蠣崎義広たち道南の国人衆達との会談は、思いのほかあっさりと進んだ。


 早々に臣従を申し出てきたので許可したら、「この地は我らに任せて」と言ってきた。予定通り「国替え」を命じたがな。既得権益、甘い汁を啜った者をそのままにしておくことは、汚職や悪政の温床をそのままにするも同義だ。幸いなことに、安東家、南部家を倒して土地は余っている。アイヌとの戦も無くなり、ここよりは穏やかに過ごせよう。一瞬「ピクッ」と義広が止まったのは見えたが、まあ穏やかに終わった、かな。


 夕刻となった。


「長旅でお疲れでしょう。歓待の宴を用意いたしましたので是非」と言われたので、勝山舘に再びやってきた。「雲丹はあるか?」と尋ねたら「勿論!」と晴れやかな答えが返ってきた。嬉しいなあ。道南や奥尻島のウニは有名だからな。俺は死ぬ前の最期の晩餐はウニの軍艦巻きと決めているんだ。

 

 俺は弥太郎、信綱と親衛隊二十数名のみの手勢で勝山舘の門をくぐった。門はバタンと閉められた。


「出羽守様! こちらで御座います!」

 勝山舘の中の広場の中心で、皺くちゃになりながら目尻を下げた蠣崎義広が俺を呼んでいる。他にも嫡男の季広もいる。信長の野望全国版の時は、その息子の慶広だったかな? 弱小だったが最北の地を生かして南下していったなぁ。もう生まれているのかな? 宴の席にいる相手方は十人ほど。皆、寸鉄も帯びていない。

 

「殿、油断なさらぬよう」

 護衛役の剣聖様は何かを感じとっているようだ。

「大丈夫だ」

 

 これだけの武力を見せられた後に、逆らうとしたら皆殺しを覚悟しての事になる。その辺は分かってるはずだ。


「道南の山海の珍味を数多く用意いたしました! 長旅の疲れを癒してくだされ! 羽茂本間出羽守照詮様の御出を祝して!」

 

 義広の合図で宴が始まった。

 見れば実に豪華な宴だった。雲丹や鮑、熊の手、鮭、地元産の酒など、これでもかというくらいのもてなしだ。


「ささ、御一献…… と言いたい所ですが、お若いので酒はお控えですかな?」

 義広は、見目美しい娘に運ばせてきた徳利を俺に注ごうとした。


「うむ、済まぬな」

「では、お供の方へ……」

「いえ、某は」

「……いら゛ん……」

 勧めを断る剣聖と弥太郎。忠義者の二人は、護衛役の時は役割を果たすことを優先するために酒は一滴も飲まない。


「まぁ、今日くらいいいではないか。舐めるくらいは」

 俺は二人に目くばせをした。


「……では、失礼して」

「……う゛ん」

 杯を頂き、コクッと少しだけ飲んだ二人。それを見た道南の諸将達は嬉しそうに頷いた。


「しかし、大変ですな。お若い身でこれほどの大身とは」

「何、大したことはない。皆が手を貸してくれる御蔭だ」

「お世継ぎもおらぬのは、残念ですな」

「まだ俺は若いからな。もう数年もすれば子作りを始められる」

「なれば、まだ女を抱いたこともないのですな……お可哀そうに」

 含みのある言葉が続いた。


 周囲を見回し、俺に付き添った二十名ほどの兵全てに酒が回ったのを確認すると、蠣崎義広はすっくと立ち上がった。


「では、我らは失礼させていただきます」

「ん? まだ宴は始まったばかりではないか?」

「いえ、もう終わりましてございます」


 すると、蠣崎義広は今までの好々爺のような表情を捨て、世の全てを憎むような恐ろしい表情へと変化した!


「どういうことだ!?」

「言葉の通りで御座います。羽茂本間照詮様は、我ら蠣崎家がどのようにしてアイヌの者共からこの地を守ったかご存知ないでしょう」


ニヤリと笑う義広。次の瞬間!


「う、うぐっ!」

「うあぁああっ!」


 バタッ バタバタッ!


 護衛の兵が口から泡を噴いて倒れていく!

 横を見れば信綱、弥太郎もいつの間にか体を突っ伏したように倒れている!


「人を信じすぎるから、で御座います。アイヌの者、タナサカシ、タリコナなどの者を倒すのは至難の業だった! ならば油断させ、祝宴を開き、騙し討ちにするまで!」

「かかったな!」

「この道南の地は、我らのモノ!」


 残るは子ども一人。如何様にもなる。舘には兵を伏せてある。逃げ道も塞いである!


「いかに力があろうとも、数が多かろうとも、頭さえ潰してしまえば黙ります」

蟻でも蜂でもアイヌでも! 我らはそうやってこの地を守ってきたのだ!


「では、宴を終えさせていただきます」

 醜い笑顔を見せた蠣崎義広。


 しかし!!

コシャマインとの戦いは、1456年頃。

道南の十二舘のうち十を落とすほどのアイヌ軍の勢いでしたが、最終的に花沢館の蠣崎氏とその客将の武田信広がコシャマインを騙して討ち取りました。


タナサカシとの戦いは、1529年頃。

タナサカシ率いるアイヌ軍は蠣崎軍を指揮していた工藤兄を戦死させ、さらに勝山館を包囲するまで侵攻しました。そこで蠣崎義広は「和議を結ぶ」と言ってタナサカシを呼び出し、賠償品を受け取りに来たタナサカシを弓で暗殺しました。


タリコナは1536年頃のアイヌの酋長。

蠣崎義広に暗殺されたタナサカシの娘婿で、和人に復讐を果たすために決起しますが、和睦を装った宴の最中に、義広に妻と共に殺されてしまいます。


1512年には、ショヤコウジ兄弟らを酒に酔わせ、宝物を差し出すふりをして斬殺。


ブレません。

清々しいくらいに騙しています。


人は、うまくいったことを続けます。故に、今回のような事は想像に難くありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 北海道へ夏とはいえTシャッのみで来るのは確かに一昔前は無謀でしたが最近の夏の北海道は異常気象で以前夏に阿寒湖畔に泊まったときは猛暑で暑くてまともにホテルに滞在出来なかったしホテルがエアコン未…
[良い点] ひ、卑怯な…とは言えないか、戦国時代だしね。 こんなことしてるからアイヌの人々と仲良くできないのかねー。なんとか友好的にできないものか…。
[一言] 物語が終わってしまった
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