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佐渡ヶ島から始まる戦国乱世  作者: たらい舟
第八章「代替わり」

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第百三話 ~雨~

 遅筆になってきました(*´Д`*)

 少しゆとりが出てきたので、二日に一話、更新する予定です( ;∀;)! (予定です)

<天文九年(1540年)六月末 出羽国 山形盆地 長谷堂城>



 じとじとと雨が降り続く。

 山形盆地は降水量は少ないはずだが、やはり梅雨の季節か。どんよりとした雲が空にのしかかっている。

 前世ならサクランボの美味しい季節だろうが、この戦国の世にはなかった。あの甘酸っぱい佐藤錦を冷やして食べるのが好きだったが、サクランボ自体この世には存在していないかもしれない。あっても原種で品種改良されていないか。


「殿」

 前世の妄想に耽る俺を椎名則秋が呼び戻した。六尺の巨漢は常に俺のことを案じてくれる。心強い家臣だ。


「うむ。いよいよ明日か」


 伊達稙宗から指定された日は明日。羽茂本間軍の主力である歩兵三千と弓兵五百、鉄砲隊三百、雷筒隊百名がここ長谷堂城に集っている。さらに越後守護代長尾為景から派遣された柿崎和泉守(いずみのかみ)景家と中条藤資(なかじょうふじすけ)も二千の兵と共にここにいる。


 揚北衆の面々は、出羽国の寒河江軍、砂越軍、清水軍などの国人衆達と共に寒河江城で集まっている。大将は出羽国の皆から信頼されている俺の孔明こと宇佐美定満(うさみさだみつ)だ。寒河江広種(さがえひろしげ)砂越氏維(さごしうじふさ)清水義高(しみずよしたか)が脇を固めている。

 揚北衆は長尾軍、特に先陣を切った柿崎景家には幾度となく煮え湯を飲まされている。今回は同じ軍に属するとは言え、馬首を並べることは避けた方がいい。


「殿」

 山本勘助が渋い顔をして俺に話しかけてきた。


「何だ」

「長雨により、火薬が湿気っております。鉄砲は少雨であれば発射可能ですが、豪雨となれば……」

「運用はできぬか」

「はっ」

「むう」

 長野業正、上泉信綱、長谷川海之進など俺の信頼する家臣団も難しい顔をする。


「加えまして大砲ですが」

「……使えぬと申すか?」

「箱覆いを用い、板には船の防水用の『わっくす』を塗布しておりますが、鳴るか鳴らぬかは半々かと」

「ふむ……」


 やるじゃないか、伊達稙宗。六月を指定したのはまさかこの為か?

 羽茂本間軍が他国との戦力を大きくつける秘密兵器。封じられるのはかなり痛い。マスケット銃、佐渡銃、デミ・カルバリン砲などは戦国乱世の戦を優位に進める我が軍の兵器。これが使えぬとなると火力で圧倒する戦が出来ない。


 そんな中、

「ふっ、問題ない、俺が全てを粉砕する。お前たちは後から来るのだな」

 黒武者の景家がぼつりと言った。


「これ、和泉守殿! 手伝い戦とは言え此度は佐渡、いや出羽守殿が総大将じゃ。言葉を控えなされ」

 それを(たしな)める中条(なかじょう)藤資(ふじすけ)。小太りおっさんだけど越後守護代長尾為景から派遣されてきた歴戦の勇将だ。


「小僧の軍学がどれほどか分からぬ、俺は俺でやらせてもらう」

 それを意に介していない景家。こいつ力は強いけどコミュ力ないだろ。これは釘を刺しておかねばならんな。


「和泉守殿。其方の剛勇は敵味方も知る所だ、頼りにしている」

「うん?」

 意外そうに俺を見つめる景家。


「だが俺は、大事を為すには力を合わせることが肝要だと思う。一人が別の方向を向けば、それが障害となり滞る……勝手に戦をするのであれば『帰っていただきたい』」

「何っ?」

 凄む黒衣の大男。殺気が鋭い。則秋、弥太郎、上泉信綱は俺の元へ駆け寄ろうとしたほどだ。

 だが、それを制して言葉を続ける。


「和泉守殿には力を発揮してもらいたい。好き勝手に暴れる場は用意する。だが、我が羽茂本間軍はそういう軍じゃ、理解してもらいたい」

「……なるほど。弱い犬ほど群れたがると言うからな」


 ガタッ!


 流石にこれには一触即発となった。

 何だろう。わざと言っているのか? 俺の器を試す為か?


「……色々言いたいことはあるがまずは相手方をこの城で待ち受ける。勘助が縄張りした堅城じゃ、そう易々と相手方は攻めては来ぬはず。天候が回復してから伊達軍を粉砕するぞ!」

「「御意!」」


 城の中核へと向かう為には、石垣を幾重にも屈折させたジグザグとした難解な通路を進まねばならない。枡形虎口がいくつも作られ、入り込んだ敵兵は身動きが取れずに封じ込められ三方から攻撃される。細い道の側面は急勾配の坂。狙い撃ちにはもってこいだ。四方への攻撃が可能な独立櫓(どくりつやぐら)も立ち、弓や岩などで相手を攻撃する。

 北側の切岸(崖)は鋭く、とても武装して登りきれるものではない。南側も深い空堀が加えられ隙は無い。


 火器が使えぬとは言え、改修されたこの長谷堂城を力攻めするのは自殺行為だ。

 どう出る? 奥州の巨人よ。




_____________________


<天文九年(1540年)六月末 出羽国 山形盆地 長谷堂城 城主館 評定の間>



 ガタガタ、ガタガタ


 雨風のせいかやけに館が揺れる。

 

 日はとっぷりと暮れ、もう真夜中だ。

 俺は南蛮貿易で手に入れたオイルランプが灯る館の中で諸将と共に休んでいる。布団に入って休んでもいいのだが戦の最中だ、床几に座りながらの仮眠程度にするべきだ。


 俺はひたすらに明日以降の戦の方針を考えていた。

 相手の戦術、戦略をいくつも考え、その対策を練る、その対策を越える相手の策を考えさらにその備えをする。果てのない思案だ。


 次第に脳が疲れ、夜更けという頃合いもあり微睡を感じていた最中だった。



「し、失礼いたします!」

 弓隊隊長の捧正義が駆け入ってきた。

 北東の櫓を守っていたはずだ。俺は寝惚け眼(ねぼけまなこ)を擦りながら尋ねた。


「どうした?」

「て、て、敵襲で御座います!!」


 ガタッ!!


 飛び起きる諸将達。まさか攻めてきたのか!?


「何だと!?」

「攻めてきただと!? 相手の数は?」

「分かりませぬ! ただ少数ではなさそうです!」


 雨天と暗闇という悪条件の中を力押ししてくるとは!? 正気か伊達稙宗!?

 いや、むしろ火器が使えないことを好条件と見たか?


 俺は冷静に対応を考えねばならん。大将が浮足立っては全軍が混乱する。落ち着け……


「正義。相手方の主力の方角は?」

「卯(東)に御座ります!」

「正門は破られたか?」

「いえッ! 某が聞き及び確認した限りは!」

「ならば時間は稼げるな。相手方がどれほどか分からぬが予定通りの守りをすれば一万だろうが二万だろうが問題ない。正義! 東の守りへ戻れ! 『伊達軍を殲滅せよ!』と伝えて参れ!」

「御意っ!!」


「業正は南の長谷堂へ行き指揮を執れ! 則秋はもしもの奇襲に対応する為に西門へ!」

「ははっ!」

 予定通りの配置を命じる。


 雨風の音に混じり戦声が聞こえる。門を破ろうとする声、そして懸命に防ごうとする声。

 門を攻める敵を側面から攻撃する。それを牽制する者や塀をよじ登ろうとする者…… 戦場を目の当たりにしている訳ではないが十分に想像できる。大丈夫だ。百回やって百回破られていない。


「殿、相手方の動きが読めませぬ」

 上泉信綱が俺に言った。軍略にも秀でた剣聖が「読めぬ」と言った。

 変だ。


「確かに城の守りは万全だ、生半可な城攻めなど意味はない、兵を減らすだけではないか」

 落とすつもりなら視界が十二分に開けた昼に四方から攻め入る。それでも落ちぬと思うが、可能性ならそちらの方が高い。相手方にも被害を与えられる。


「牽制の為か? しかし我が軍の本陣はここだ。寒河江城には定満達がいる。他に攻め入ることはできん」

「まさか別の道から出羽国へ?」

「その可能性はあるが……」


 こちらに主力を釘付けにして、別の道から侵入。だが、守りの兵はある程度抑えに置いてあるし、たとえ伊達軍が攻め取ったとしても守り切ることができない。忍びからの情報からも「別動隊がいる」とは聞いていない。少数なら見落とすかもしれんが……


 忍び?!


「信綱! 狙いは()()かもしれぬ!」

「何ですと!?」


 ダン!

 

 言い終えるより前に襖が蹴破られた! 短刀を持った男が二、三名! 

 身を低く構えた素早い動きで俺の方へ駆け寄ってくる!


「弥太郎! 信綱!」

 俺は二人の護衛に助けを呼ぶ。腰の宗三左文字(そうさんさもんじ)を引き抜いた。


「死ねぇッ!!」

 明確な敵意を向けて近寄る刺客。刃を受ければ死ぬ!


「させぬ!」

「……」

 俺の身を守る二人。冷静に刀と脇差を構えた。これ以上ない護衛だ。

 相手方は怯んだ。ただならぬ剣圧を感じたのだろう。

 しかし時間をかけてはいられない。一斉に仕掛けてきた!


 キンッ!!


 ドサッ!

 

 瞬く間に二名が斃れ、もう一人は弥太郎に剣を持った腕を斬られた。

 だがその男は片腕が斬られた激痛を気にせずに俺へ向かってきた!!


「殿っ!!」


 倒す必要はない。俺は命を守ることに専念すればいい。

 剣聖から学んだ「鉄壁の構え」を実践した。正眼に構え相手の目を見据える。正中線を守る。胸を張る。


「ウオオォォッ!」

 刺客が手刀を突き刺してきた! 狙いは喉元か!?

 

 ガッ!!


 相手の手刀を刀で受け止めた! 名刀「宗三左文字」が刺客の拳をザクリと二つに斬った!

 だが刺客は失った腕を俺の顔目掛けて殴りかかってくる!! 刀は拳に刺さったままだ! 避け切れないっ!!



 ズバッ!!!


 

 

____________________




「殿っ!!」

「…… 大事ない」


 刺客の骸が横たわっている。殴りかかった刺客は弥太郎と剣聖が追いすがって四つに斬った。

 あのままいけば殴られて手酷い怪我をしたはずだ。助かった。


「殿っ! 申し訳ありませぬ! 殿自らに刀を使わせてしまうなど……」

「…… すま゛ない……」

「何を言うか。信綱、弥太郎、相手もかなりの手練れだった、二人でなければ俺の首と胴が離れていたかもしれん、礼を言うぞ」


 俺は二名の手を取り深く礼を伝えた。本当に危ない所だった。布団に入って寝ていたら命がなかったかもしれん。

 城攻めは牽制で、本命は俺の命だったか。本陣深くまで入り込まれるとは大失敗だ。二度とこのような者が現れぬよう警備をより厚くせねば。



______________



 夜が明けると、夜更けの雨が嘘だったように晴れ渡っていた。


 北の切岸には守衛の兵が十名、無残にも喉を引き裂かれていた。相手方の死骸は三つ。城主館にはさらに味方の兵五人と刺客二名が冷たくなっていた。その中には旗揚げからずっと付き添ってくれていた寡黙な槍隊隊長白山弥彦(はくさんやひこ)も含まれていた。昨年末に町娘と祝言を挙げたばかりだったというのに。


「弥彦……」


 刺客の死骸は八つ。皆、黒く染められた薄着と短刀のみ。北の切岸を登ってきたか。決死の覚悟で俺の暗殺を狙ったようだ。やってくれたな、伊達稙宗。


「まだ館内に潜んでいるやもしれませぬ。城改めを念入りに致しまする」

「…… 頼む」

「伊達家が密かに育てた『黒組』と呼ばれる忍者と推測いたします」

「なるほどな」


 俺は則秋と勘助の言葉に淡々と答えた。城門には相手方の兵数百の骸。門は破られたが、難解な通路と虎口により無駄に命を散らした者は数え切れない。味方の被害は十数名。なるほど、それがお前のやり方か。


「……亡くなった者を長谷堂で篤く弔ってくれ、負傷者の手当も頼む」

「はっ!!」

 

 俺は怒りが沸々と湧いてくるのを感じた。


「殿…… 準備はできております。雲の様子から、明日までは晴れが続きましょう」

「うむ、仕掛けるぞ」

「はっ!」

 奥州の忍びと言えば、有名な戦国武将伊達政宗が「黒脛巾組」を創設したと言われております。

 政宗は天正13年(1585年)11月に、人取橋の戦いで佐竹義重・蘆名盛重・岩城常隆・石川昭光・二階堂盛行・白河義親らの連合軍と戦いましたが、このときに黒脛巾組が活躍したという記述が「伊達秘鑑」にあるそうです。ただこれも真偽は定かではないので参考程度です。

 作中の「黒組」はその前身として稙宗が創設したとするものです。


 山形で有名なサクランボは、有史以前から食されてきたようです。

 原種とされるセイヨウミザクラはヨーロッパからイラン、スミミザクラはトルコ原産とされています。

 山形にサクランボが入植されたのは明治8年(1875)の事だそうです。かなり最近なんですね。日本でのサクランボ栽培は霜害、梅雨、台風被害で、なかなか成功しなかったそうです。

 ですが山形では、盆地故に梅雨や台風の被害が少なく、夏暑くなるという好条件が重なり成功したそうです。交配により、味が良い、病気に強い、長持ちするなどの品種改良が為され、佐藤錦などの銘柄が産出されたようです。


 山形では最上川の氾濫で大きな被害が報じられています。

 筆者の知人の実家も床上浸水の被害を受けたと聞きました。

 熊本などでも、大きな被害が報じられました。


 一日も早い復旧と、皆様が日常の生活に戻れるよう、お祈りしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪天候を突いての闇討ちとは奥州の巨人、侮れないねぇ・・・。 何とか返り討ちにしたけど、忠臣の一人を失ってしまった・・・。 晴天になった今、逆襲と行きまっしょい!!!
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