表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
515/535

状況 3年後 「火星」―4

 そうして歩いていった先にあるのは……予想だにしない光景だった。


「……スミスさん?」


 思わず警戒感をにじませた声でシュシュは目の前に座る老人の名を呼んだ。

 懐から魔術の符を取り出し、防護と攻撃の準備をとる事にも余念が無い。

 チラリと後ろを見ると、ニャル中佐もメルンをしっかりと抱き締めて、いつでも駆け出せるように準備していた。


 そうせざるを得ない、異様な空間がそこには広がっていた。


 硬質の床があったのは汚い床が終わってから十メートル程。

 そこからさらに進んだ先は、白一色で先があるかも分からない異様な空間だった。


 しかもその異様さに気が付き足を止めた瞬間には、シュシュ達はその白い光に捕まるかのように引き込まれ、何も無い白い空間で椅子に座るような姿勢で佇むスミス老の前に立っていたのだ。


(なにこれ……魔法?)


『魔法ではない……バイズの家畜……その子孫よ』


 突然のスミス老の声に思わずシュシュは身体を震わせた。

 いや、声ではない。

 ゴッジ将軍のそれに似たもの……テレパシーに類する代物だ。


「あなたは……いえ、あなたが、七惑星連合最後の一つ……」


 シュシュが呻くように言うと、唐突にスミス老の姿が掻き消えた。

 かと思えば、次の瞬間にはシュシュとニャル中佐がいた白い空間が黒一色の空間へと変貌する。


「議長!」


 突然の変異にニャル中佐がシュシュに駆け寄る。

 闇の中でもなぜか視認できる自身の身体とニャル中佐、そして息子の姿を見ながら、シュシュは油断なく”光壁よここにあれ(プロテクション)”の符に魔力を込めた。


微小構造物による()現象管理()は無意味だ、バイズの家畜、その子孫よ』


 スミス老の声とともに、今度は符に込めた魔力が霧散する。

 他者の魔力に干渉するなど、七惑星連合において用いられる魔導工学理論的にあり得ない現象だ。

 

 魔法、魔術とは即ち厳密な法則と設計に基づき成立するものだ。

 M粒子と呼ばれ、異世界ではもっぱらマナと呼ばれる空間に広く存在する物質を、Mマシンと呼ばれる自己増殖型のナノマシン……即ち異世界で言う魔力を術者が操り、現象に干渉するのが魔法なのだ。


 予め符の魔導手順(プログラム)にニュウ神官長の魔導言語で記されたものに外部干渉するなど、一瞥しただけで戦車を金属等の部材にまで分解するようなものだ。


 それを……。


「それを成す存在……私をバイズの家畜と呼ぶ存在……あなた、まさか……」


「家畜の王の子孫シュシュリャリャヨイティ。お前の認識は正しい……」


 幼い、それでいて冷たい印象の少女の声が、今度は肉声として聞こえた。

 闇の向こうから。声のしたシュシュ達の正面から、ひたっ……ひたっと何か大きくて湿って硬い生き物が歩くような音がヌメる様に響く。


 そうして現れたのは巨大な蜥蜴だった。

 鼻先から尾まで4m程の、真っ黒なぬめぬめしたウロコに覆われた、四足歩行の蜥蜴。


「ライーファ……! いえ……違う。ライーファにはもはや自我は無いはず……あなたは、一体」


 エドゥディア帝国(いにしえ)の伝承に伝わる、神器の元となった七大神……即ちケイ素生命体バイズの敵対種族にして、地球連邦を牛耳るナンバーズの創造主、爬虫類知的生命体ライーファ。


 その唐突な出現に驚くシュシュだが、口にしたようにそれはあり得ない事だ。

 全てのライーファは単一生命体となり、遥か彼方の母星のある恒星系を枕に漂うのみ。

 そもそもこのように自我のあるライーファがいるならば、ナンバーズが地球にまで来る必要などそもそも無いはずなのだ。


「その通りだ。驚かそうなどと、久しぶりに好奇心に駆られたのは失策だったな」


 またもや幼女の声がしたかと思えば、瞬き程の間に巨大な蜥蜴の姿は消えていた。

 代わりにシュシュの目の前には、瘦せぎすの身体に薄汚れた白いワンピース姿の、長くボサボサの黒髪の少女が佇んでいた。


「我が情報収集により最もお前たちバイズの家畜が警戒心を抱かぬ姿だ。感謝せよ」


 下っ足らずに、尊大に言うと少女は胸を反らした。

 あっけに取られつつも、シュシュはその黒く濁ったような目に恐怖を覚えた。


「我が名は”虚無(ゼロ)”。偉大なるライーファが想像せし至高の機械。偉大なるライーファを裏切りし不敬なる存在を根絶やしにする者。そしてこの矮小なる組織七惑星連合最後の一つ……機械生命体異分子粛清体”虚無(ゼロ)”である」


 ライーファの亡霊!

 思わず脳裏に浮かんだ暴言を、シュシュは瞬時にかき消して平伏した。

 もし本当に思考が読めるならば……リスクのある事を考えていい存在では無い。

 ニャル中佐にも平伏を促そうと顔を少し上げるが、忠実なアンドロイドはなぜか呆然と立ち尽くしたままだった。


「ニャル……どうしたのニャル!」


「我が子孫にして裏切り者の模倣品……一時的に動作を止めた」


 事も無げに虚無が言った言葉は、目の前の少女の恐ろしさをありありと示していた。

 文字通り、次元が違う存在……。

 そう、違う……。

 人間とは異質な存在。


「あ、ああ……」


 シュシュは恐怖にかられつつも、下腹が疼き、太ももの内側を体液が流れるのを感じた。

 自分のどうしようもない(さが)に呆れかえると同時に、様々な伝承において神とも同一視された存在に対し欲情するのを止められない。


「よいぞ。その異常なまでの欲求こそ私が欲しかった要素だ。我が創造主の仇敵バイズの家畜にあって、我らと、家畜の子孫に無いその異常欲求こそが欲しかった。それを以って我が任務と創造主の望みを叶えよ……」


「望み……望みって……」


 呻くシュシュに、濁った目の少女が歩み寄っていく。

 眼前まで行くと、虚無はへたり込むシュシュに顔を寄せた。


「お前の血と欲求を以ってエドゥディア帝国……バイズの本拠地を手に入れよ。それこそが我が創造主の悲願。そうして得た力を以って、ライーファを裏切った者達を滅せよ。それこそが我が任務」


 黒く、どろりと濁った目をシュシュは凝視して、次いで全身を嘗めまわすように見た。

 青白くカサカサの肌。

 薄汚れた服。

 骨と皮の細い身体。

 ボサボサの黒髪。


 その裏にうごめく、上位存在としての威圧感。


「……お任せください我が主。我が全てを以って命を叶えましょう……ですが、代わりに……」


「許す」


 シュシュリャリャヨイティは言葉と同時に虚無に吸い付いた。

 彼女は歓喜していた。

 妹をあらゆる意味で超えたからだ。


 地位も、力も、そして……。

 叶わぬと思っていた望みすらも、妹同然に叶えうるだけの後ろ盾を得た。


「神とすら交われたのなら……ふふ、ふふふふふふふふふ……」


 この日、七惑星連合は機械生命体異分子粛清体の手駒として完成を見る事となり、三隻のハストゥール級とアウリン五個大隊を中核とする艦隊が出撃準備を開始した。

次回は 状況 3年後 「地球」 


更新予定は11月7日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ