まずは近場から
俺の話を聞いてやるぞーって腕を振り上げるイカリヤに、くるりと回るコウくん。
ヤドリンはカシンッと宿岩を打ち鳴らした。
そんな皆を頼もしく思いつつ、これからの予定を伝える。
「畑の管理とかもしもの事を考えて、基本的には2人はここに残ってもらいつつ、後の1人と俺とで探索に出ようと思う。
更に、3人それぞれの得意分野を活かしていければ良いなと思うので、イカリヤにはその高速泳法を活用してより遠くに行くようにしよう」
「きょっ」
「コウくんは光魔法を活用して深いところや海底洞窟があればそこの探索を中心にお願いするな」
「ぴぃっ」
「ヤドリンは、本来長距離移動には向かないんだろうけど」
「……っ」
「それ以上に防御力と安定感はピカイチだからな。
海流の激しいところやゴツゴツした岩場、後は防御に徹する必要がある魔物が居る場所を通る時は頼りにさせてくれ」
「……くぃ!!」
一瞬出番がないのかと落ち込んだヤドリンだったけど、後の言葉を聞いてがぜんやる気になったようだ。
「ちなみに、南側にはみんなの仲間が居たりするのか?」
「……」
「……」
「……」
「え、じゃあ、地理に詳しかったりは?」
「……」
「……」
「……」
俺の質問に一様に首を振るみんな。
あれ、ということは。
「もしかして、みんなって北側から来たのか?」
「くぃ」
「きょっ」
「ぴっ」
「マジか。凄いな」
そう言えば以前コウくんに連れて行ってもらった死糸花の花畑は北側だったよな。
あの時は特に気にしてなかったけど、元々そっちの出身だったから知ってたんだな。
でもそうか。
ここの北側って、今の俺だとまともに戦ったら1撃死間違いなしなくらい魔物が強かったけど、そこ出身ならみんなも相当強いんだな。
「あれ、じゃあ北側にはみんなの仲間が居たりするのか?」
「……」
「ぴ……」
「きょ、きょきょっ」
「ん?あぁ、そうか。そうだよな」
慌てた感じでイカリヤが説明してくれる。
言われてみれば哺乳類と違って魚介は群れを作ったり、親が子供を育てたりするのはごく一部だ。
残念ながらみんなはそれには該当していないから、物心ついた時から身近に同族は居なかったと。
人だったら知り合いが誰もいないって寂しいんじゃないかって思ってしまいそうだけど、一人が当たり前ならそんな気持ちになることもないか。
それに。
「今は俺達が家族だからな」
「くぃ♪」
「きょっ♪」
「ぴぃっ♪」
みんな楽しそうだからこれが正解だろう。
それにこれまで居なかったなら今からどんどん増やしていけば良いんだしな。
「よし、じゃあ早速探索に行こう。
今日はそうだな。ヤドリン、行こうか」
「くぃ」
「イカリヤとコウくんは留守を頼むな」
「きょっ」
「ぴぃ」
ふたりに見送られながら俺とヤドリンは海溝の南へと向かった。
こっちに来るのは死糸花の苗を植えに来た時以来だな。
今ではすっかり成長してキラキラと糸を伸ばしては近寄ってきた魔物を捕獲していた。
「みんなご苦労様。住み心地はどう?何か困ってる事があったら遠慮なく言ってくれよ」
キラキラッ
『大丈夫なの~』
『ここは天敵も居ないから平和~』
『近づく魔物も弱いから楽ちん~』
「そっか。じゃあ引き続きよろしく頼むな」
『頼まれたの~』
『頑張るの~』
『毒でも魔法でもどんとこいなの~』
相変わらずの賑やかさだ。
ちなみに俺とヤドリンが通ろうとすると、まるで風に靡くカーテンのように糸が流れて道を開けてくれた。
そうして海溝の外へと抜けた俺達を待っていたのは。
「……なにこれ」
「……?」
海溝内と同じ材質の岩の海底が広がっているのはまぁ良いとして、海流が穏やかだし、何より海中に泳いでる魔物がその、弱そうっていうと失礼なんだけど。
多分これ、1対1なら俺でも勝てそうだぞ。
「まさかここまで北側と違うとはな」
「……くぃ?」
ヤドリンから知ってたんじゃないの?って視線が飛んでくる。
いやまぁ、世界地図的に南の方が魔物は弱いだろうなと思ってたけど、島一つ隔てるだけでここまで違うのはゲームならではというか。
「ただまぁ、これなら探索も順調に進められそうだな」
「くぃ」
今日の所は周囲の魔物の強さの確認をしつつ、適当なところに転送門用の拠点を作って帰ろう。
そうと決まればもう少しだけ進んでみるか。
ぐいっ!!
突然万力のような力で引っ張られ、堪らず数メートル後ろへと飛ばされた。
俺の後ろに居たのはヤドリンだけなので、当然俺を引っ張ったのはヤドリンだ。
それは良いんだけど、なぜ?
と思った瞬間、海底にあった岩が口を開け、俺が居た場所に噛み付いてきた。
「魔物か!」
「くぃ」
ズガンッ、キラキラ……
驚く俺とは反対に冷静なヤドリンの一撃が岩に擬態した魔物を粉砕した。
どうやらヤドリンみたいに岩に隠れていた訳ではなく、岩そのものが魔物だったみたいだ。
「……」
振り向いたヤドリンの視線が「油断大敵」と語っていた。
うん、そうだよな。魔物なんて俺の常識の外側に居て当たり前だし、目に見えるとは限らないものな。
弱そうとは言っても俺も防御力は無いし、奇襲を受けたらアウトだ。
「ありがとう。気を引き締めるよ」
「くぃ」
「それにしてもよく分かったな。俺にはどれも同じ岩にしか見えないんだけど。
もしかして他にも居るのか?」
「くぃ。くぃ」
あそことあそこか。若干岩質が違うって言われてもな。俺は岩マイスターじゃないし。
ただ教えてもらった岩を注視すると、確かに薄っすらと違いがあるようだ。
「よし、今度は俺がやってみる。ダメだったときはサポート頼むな」
「くぃ」
さて、さっきのヤドリンが攻撃した様子からして、強度は普通の岩と大して変わらないだろう。
なら余裕だな。
俺はいつ飛び掛かられても良いように慎重に岩の魔物に近づいていく。
「……」
【岩の魔物はこちらの隙を窺っている】
とかナレーションが付きそうなくらい、動く気配が無いな。まぁそれなら。
「『開墾撃』!」
ザクッ、キラキラ……
俺の『はじまりの鍬』がスキルを纏って魔物に突き刺さった。
そしてそれが致命傷になったらしく、魔物は光になって消えていった。
鍬と農家スキルのコンボは土属性の魔物には良く効くって事だろうな。
これなら普通の『開墾』スキルでも十分かもしれない。
「よし、今日は拠点用に地面を均しつつ、岩の魔物を倒して回ろう」
「くぃ」
そうして俺とヤドリンは手当たり次第に周囲の岩を粉砕してまわった。
魔物だったのは1/4くらいだから結構多かったんだろう。
もしかしたらあいつらの縄張りだったのかもな。
後書き日記 リース編 続き
放課後に先輩にばったり会うというハプニング?があったものの、気を取り直してアルフロにログインしました。
するとほぼ同じタイミングでカイリ君もログインしてきました。
お互い学生ですから帰宅時間も近いんでしょうね。
カイリ君は今日は1人で出掛けるそうなのでお弁当を渡しておきました。
お弁当と言ってもパンに牛肉と野菜を挟んだだけの簡単なものですけど。
……今度チーズバーガーやフィレオフィッシュにも挑戦しましょう。
流石に時々ハンバーガーショップでやってる特大バーガーは作りませんが。
そうしてカイリ君を見送った後は、お菓子作りに挑戦です。
カイリ君作の小麦にカウクイーンの牛乳(なんとレア度5です)と砂糖。残念ながら卵だけが質が低いですが入手経路は確保しました。
それらを使ってまずは生地作り。
といってもゲームなのである程度は簡略化出来ます。
簡略化しない方が品質は上がりやすくなるそうですが、最初から全部やろうと思うと大変ですからね。
出来た生地を型に流し込んで寝かせている間にオーブンの準備です。
薪をセットして、種火用の草に火を付けます。
うーん、これを見てると子供の頃に見た『魔王の宅配便』を思い出しますね。
私は電気は嫌いじゃないですけど。
ただ問題はどのタイミングで生地をセットすれば良いんでしょう?
え、もっともっと盛大に燃やそう?
ランプ、大丈夫ですか?まるで溶鉱炉のような燃焼具合ですけど。
バラも、よしそこだって、本当にこのタイミングで焼き始めるんですか?
まぁリアルとゲームは違うので、もしかしたらこれが正しいのかもしれません。
し、信じますからねっ!?




