【サポート特典SS】※2022/12/28公開
レティの前世であるヒメミは、俺が命懸けで守った。だが守りきれたか自信がない。肋骨の間を抜けたあの深い一撃が、もし彼女を傷つけていたら? 俺は自己満足で死ねるからいいが、彼女は違う。死んでしまえば守れたとは言えないし、もし生き残ったとしても俺の存在がトラウマになるだろう。
悪い考えなのは承知しているが、正直嬉しい。ヒメミの心の奥深くに、俺の形に傷が残れば……誰より近くにいるのと同じだった。両親でさえ触れられない奥底に俺が刻まれるなら、盾になった甲斐があったな。
新しい世界で、幼子からやり直した。ヒメミがいるかどうかも分からない世界で、年齢から探しに行くことも許されない。不安で壊れそうだった。もし同じ世界に彼女が落ちてきたとして、不安で泣いていたら? 俺を探してくれていたら?
積極的に街へ出て情報を集めた。俺と同じで外見が変わってしまった可能性を考慮し、最近性格が大きく変わった子を捜し歩く。年齢は俺より年下に限定したが、入ってくる情報に有力なものはなかった。
諦めるほど軽い感情ではない。この世界は何でも許される。いや、少し違うか。許される範囲が広かった。前世の日本では想像できないほど、金と権力が物を言う。幸いにして公爵家に生まれた。貴族最高峰の家格だ。江戸時代の将軍が平民を殺しても問題にならないのと同じ、俺が平民を殺しても騒ぎにせず片付けられる。
人殺しに興味はないが、可愛いヒメミを助けるための力は手に入れたかった。跡取りとしてしっかり勉強し、剣術を磨く。誰よりも賢く強い公爵家嫡男、この肩書きは使える。どこの世界でも同じだ。
毎日の挨拶や品行方正な態度が大事だった。日本だって、犯罪を犯しても「あの子は毎日挨拶をするいい子だったんですよ」と言われるアレだ。実際のところを何も知らなくても、表面上「大人にとってのいい子」として振舞えば、すべてが良い方へ受け取られる。
愛しいヒメミの生まれ変わりを見つけたら、絶対に妻にする。たとえ平民でも反対されないよう、両親との仲を穏やかに保った。偏った思想がバレないよう隠し、ゆったりと構えて過ごす。10歳で転生し、16歳になる頃には擬態も馴染んだ。
ほぼ毎日妄想する。ヒメミを見つけた俺は彼女を捕らえる。平民や下級貴族の娘なら、そのまま囲い込んで世間から隔離しよう。伯爵家以上の家格があれば、婚約を申し込み結婚すればいい。評判がいい公爵家嫡男との結婚を断るはずがなかった。他の公爵家より王家に近く、権力は絶大だった。
早く見つけたい。俺の手が届く範囲で、優しく飼ってあげる。他に頼れる人がいないなら、俺だけを見てくれるはず。その目が俺以外を探すなら塞いでしまおう。他の男に愛を囁く声なんて要らない。俺以外の言葉に耳を傾けないで?
ただただ過ぎていく毎日。騎士の姿で昼も夜も街をさ迷う。どこにいるんだ? 俺のヒメミ……ようやく見つけたのは、汚い裏路地だった。白く美しい足は、花柄の黒レースの靴下に覆われている。あの靴下は絹だな、どうやら高位貴族令嬢のようだ。
ガーターベルトのような紐が下着から伸びて、靴下を押さえていた。その僅かな領域に目が釘付けになる。間違いなくヒメミだ。俺の、俺だけのための美しい淑女――照れて悪態をつく姿も愛おしく、路上で襲い掛からないよう目を逸らした。
隠れて舌舐めずりをする。高位貴族なら好都合、すぐに迎えに行くからね。箱入り娘なのか、情報が入ってこなかったが、お陰で誰かに汚されずに済んだ。君は俺の物だ、レオンティーヌ。
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ヤンデレなシルが出来上がる切っ掛けですね。カクヨムの有料ユーザー様のリクエストでした。
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