新玉の年
本年もよろしくお願いいたします!
「ありがとう」
「なんの、お安い御用だ。僕たちの分ももらっているしね」
十二月、扶桑で右近からお屠蘇用の日本酒を受け取る。
お屠蘇は本来、数種類の生薬を配合した屠蘇散と呼ばれるものを、日本酒やみりんに漬け込んだ薬草酒だ。山椒、陳皮、桂皮、桔梗……。家によって調合は変わるらしい。
邪気を屠って、魂を蘇らせる、『蘇』という名の悪鬼を屠る説など色々あるらしいが、一年の健康を願ってお節を食べる前に飲むものだ。そのせいか胃腸を労る効果が多く取り入れられている気がする。
あまり美味しいものではないので、用意したのは私の造った普通の日本酒だ。気持ちだけでもと、右近に清めてもらった次第。
「年末年始は忙しいのだったな。手が空いた頃に改めて顔を出していいか?」
「大歓迎だ。年末から元旦までは祭祀で籠らねばならんし、出られたと思えば、あちこちから挨拶を受けねばならなくてね。面倒ごとを終わらせた後、ぱーっとやりたい」
右近は年の瀬からしきたりに従って予定が固められている。扶桑の万民の罪穢を祓い、国の安寧を願う儀式が連日続き、年が明けると今度は仕える者たちから家格の高い順に挨拶を受け、それが終わると御流頂戴と呼ばれる、みんなで同じ酒を飲む儀式が始まるらしい。
扶桑の国の人は全員右近の――要様の家臣か民だ。人数が多いので、要様に直接会う資格を持つ者からの挨拶で1日潰れ、会えない家臣には扇子、乾燥鮑を包んだ熨斗を配るのだそうだ。なお、身分が下になると鮑は細長く切った物になるという。
表で祭祀が行われているせいか、鬼たちは陰界で大宴会だそうだ。単に鬼たちが限界まで飲むと数日かかるオチかもしれんが。
酒呑に誘われたが、「飲んで、殺り合って、食って、交わって――」そこまで聞いて辞退した。紅梅には「それがよろしいでしょう」と言われ、紅葉には残念がられた。
酒と食い物と花を渡してこちらも年明けしばらくしたら宴会の約束。花はなんというか、殺伐としとるので私の気分的に。
来年は温泉もあるし、雰囲気的にクランのみんなと扶桑で年越しをしたいが、さてどうなるか。
☆ ☆ ☆ ☆
リアルでペテロ以外が集まって宴会。食べて飲んで、ごろごろして、年越しに『異世界』にログインする。ペテロと合流してイベントをみんなでこなし、『異世界』の年始の雰囲気を楽しむ。
途中、レオと菊姫が仮眠で、ペテロは風呂で一旦ログアウト。お茶漬はカルマたちに挨拶に。
私はロイや炎王たち、ユニちゃんにメールで年越し新年の挨拶をして、『雑貨屋』へ。
「主、御慶申し入れます」
正装とまではいかないが、いつもより服の白と金が眩しい気がするカルが出迎えてくれる。
「主、今年もよろしくお願いいたします」
ラピスとノエルが抱きついてくるのを受け止める。
『雑貨屋』に引き取った頃はおずおずとだったが、今は遠慮なく笑顔でくる。ふっくらと子どもらしい柔らかな頬、つやつやの毛並み。耳がビロードはんぺんの手触り。
「今年もよろしくな!」
「今年もよろしく」
「いい一年にしましょう、今年もよろしくね」
白い歯を見せて男らしく笑うガラハド、静かな笑顔のイーグル、カミラは笑顔のほかにキス付き。
「パルティン様共々よろしくお願いいたします」
頭を下げて改まった感じのレーノ。
「こちらこそよろしく。今年がみんなにとって良い年でありますように」
笑顔で伝えてラピスとノエルにはお年玉。お年玉の金額に迷った末、シルは給与の月額の半額にして洋服一式をそれぞれに。あとで着てくれると嬉しい。
普段より豪華な食事を食べて一緒に過ごす。カードゲームをみんなでしているうちに、ラピスとノエルがおねむに。レーノは早々に酔い水風呂に浸かって、ガラハドが陽気に酔っ払い、イーグルとカミラもいつもより陽気になる。
『雑貨屋』は忙しいし、様々な事情を抱えたメンツだが、この部屋ではゆっくりした時間が流れている。
それを眺めていると、カルがお茶を淹れてくれた。
「やはりみんな揃うといいな」
「はい、幾久しくよろしくお願いいたします」
にっこりと笑ってカルが言う。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
☆ ☆ ☆ ☆
で、朝日が昇るのに合わせてクランでもまた宴会。
「「「「「「本年もよろしくお願いします」」」」」」
クランメンツ全員で声を揃える。
場所はクランハウス、目の前には正月料理。が、その前にお屠蘇。
「いい酒!」
「菊姫、中身でてるでてる」
レオから菊姫にツッコミがはいる。
「いいお酒でし!」
すでに飲み干した杯を片手に言い直す菊姫。可愛くしても遅い。
「わはははは!」
「かー! 美味い!」
レオは弱いし、シンもすぐ絵に描いたような酔っ払いになるが、普段から酒を飲む二人。
「味どうこうの前に喉が焼けるんですけど」
「ランクは高い、ランクは高い酒なんだ」
なので多分美味しいはず。
飲まない組の私とお茶漬は日本酒に喉がやられている。酒の匂いもいい匂いというよりは臭く感じる。
「美味しいですよ」
笑顔のペテロ、こちらも飲む組。
菊姫はなんでも飲むし、笊を通り越して枠だが、強いて言うならビールとワイン。ペテロは割と強くて酔っても意識を飛ばして乱れることはほぼない、酒はビールと日本酒派。シンはビールとハイボール、すぐ酔っ払って陽気になる。時々記憶がないことも。レオはすぐ酔う。笑い上戸でごくたまに泣き上戸、そしてすぐ寝る。たぶん、酒の味はよくわかっていないのでなんでも飲む。
私とお茶漬は下戸、酒の味はよくわからない。
縁起物なので、とりあえず全員杯に一杯。本当は屠蘇用の朱塗の酒器があるようなのだが、そこまでかしこまることはないだろう。扶桑の祭祀長に浄め、寿いでもらったとはいえ、ただの日本酒だし。
屠蘇の後は、私とお茶漬は白葡萄のスパークリングジュースに切り替え。他は日本酒を消化したら好きな酒に切り替える。
「数の子でっかい! あー、逃げられるぅううう!!!」
「きゃーでし! あたちのお皿に侵入されたでし!」
「まるまる松前漬けに入れてみた」
昆布のおかげで粘りがあり、箸を滑らせているレオ。
まだ酒が回るには早いのに、すでに騒がしい。
「イカと昆布が完全に出汁、程よくしょっぱくっていいね」
ぽりぽりといい音を立てるペテロ。
「おー! 酒が進む」
「普通の出汁につけたやつとか塩漬けより、僕もこれ好き」
好評な様子で何より。
紅白交互に盛り付けた蒲鉾、わさびをつけて醤油で。うむ、ぷるんと弾力があって美味しくできている。
お煮染め、タコの柔らか煮、鯛の刺身、紅白なます、ローストビーフ、鴨の燻製、チーズを何種か、生ハムとオレンジ入りの華やかなサラダ、百合根入りの茶碗蒸し。
「焼けたぞ〜」
テーブルの上のさらに火にかけた網の上、真っ赤になった伊勢海老が並ぶ。
海老は伊勢海老を一人一匹。シンが焼いて尻尾をぶちっとやってマヨネーズをつけて食べたいと言ったので。
「お! やった! 丸ごと齧るぜ!」
さっそく手を伸ばしてくるシン。
「わはははは! 伊勢海老丸焼き!」
「ちょっと僕入るかな?」
「大丈夫、【回復】が必要になるでし」
腹具合を心配するお茶漬に菊姫が答える。
「あちいいいいいいい!!! 火傷した!!!」
「痛ぇえええええええええ!! 手、殻で切った!!!」
二垢がそれぞれ負傷した模様。
「新年早々やらかさないで!?」
菊姫の予想通り【回復】が必要になって、お茶漬が活躍。EPが無事減った模様。
「ははは」
三人のドタバタを酒を飲みながら眺めて笑うペテロ。参加してもいいんですよ? 私も眺める側だが。
こんな感じでみんなと今年も過ごすのだろうな、と思いつつ自分の分の伊勢海老を剥いてマヨネーズをつけて頬張る。
今年といわず、幾く久しくよろしくお願いします。




