892 激怒するブリタニア
地球:202X年11月12日
火星:1年6月4日
~紗也華の視点~
『……やぁ。皆、聞こえるかなー?』
「光一!聞こえるわ!ブリタニアよ!」
「この大馬鹿者!2度と無茶をしないって言ったわよね!何度言ったら分かるの!」
『いやぁ~。紗也華さん?神の力の行使は問題ないと思ったんですけどね。駄目でしたね』
「ふざけんなぁ!見える!ぼたんボロボロ泣いているわよ!あなたのせいでね!謝りなさい!」
『皆さん、本当に申し訳ありません。ぼたん大丈夫?』
「バカァ!光一のバカァ!あなたどれだけ心臓が止まっていたか知ってる?」
『……さぁ?』
「約10分よ!更に生命神さんの治療も時間がかかっていたわ!あなたボロボロだったのよ!」
『そりゃ泣きますわ。申し訳ない。生命神さんもありがとうね』
『僕は良いんだけどさ。君、調子に乗っていると本当に死ぬよ?』
『あーそれはねー。うん。何となく言われる前に認識していたよ。だってさ……ゴールの光。見えなくなったから』
「光一!冗談は止めて!笑えないわ!」
『あー紗也華さん。マジのマジですね。イブ、真剣に新病棟の建設を検討した方が良いかも』
「光一さん。あなたねぇ。天界組にどう説明すれば良いのよ!皆、心が折れちゃうわよ!」
『……言わなければ良いんじゃないですかねぇ』
「そんな事が出来るわけないでしょう!」
「お父さんの大馬鹿者!私はこんな事、望んでいない!」
『あー大丈夫。一度、子どもが産める身体になれば、設定で元に戻れるから』
「そういう事を言っているんじゃないの!お父さんの事を言っているの!大馬鹿者!」
『やっぱり?でもさー。1つ言わせてよ。神が神の力を使うだけで死にかけるって、おかしいでしょ?』
『僕は今の光一くんの状態の方がおかしいと思うよ。洞窟の件やこうして会話出来ている件について』
『そんな事は知らんよ。優紀は今、クラウドに頭脳があるのかな?』
「お父さん、その通りよ」
「光一!説教をするから聞きなさい!大体、あなたねぇ……」
私は長々と説教をした。だって本当に頭にきたんだもん。
「ね、ねぇ?紗也華?もう1時間経ったわ。気持ちは分かるけどそろそろ……」
「ブリタニア!光一が反省するまで続けないと駄目よ!」
『いや、だからですね。反省しました。本当に心から申し訳なく思います」
「それじゃ言いなさい!何をどう反省したの?」
『もう2度と変な事はしません!無茶はしません!だからお許しください!』
「紗也華。落ち着いてください」
「まー彩花が言うなら仕方ない。次やったら離婚するわ!良いわね!」
『いや、離婚は勘弁してください!』
「良いわね?」
『は、はいっ!』
「それで?あなた戻って来る気はあるの?」
『今のところはね』
「ふざけんな!」
『ごめんなさい』
「アハハハハ。こーいち。寂しいでしょ?私もよ。今、そっちに行くわ」
「スリープ。はぁ……光一さん。ぼたんさんの心が折れたわよ」
『イブ、そう言われても……僕も折れそうだよ』
「はぁ……まったく困った友人だよ」
「生命神さん、本当にありがとう」
「紗也華さん良いよ。お疲れ様」
「はぁ……ありがとう」
「治療したよ」
「……ハッ!はぁはぁはぁ。本当に嫌な夢だったわ。もう光一と会えない夢」
「ぼたん?記憶は?」
「……ブリタニア。思い出したくないけど覚えている。イブに睡眠魔法をかけられたのよね」
「ぼたん。気持ちは分かるけど、発狂しないで」
「紗也華、そう言われてもキツイわ。生命神さん、何度もありがとう」
「良いよ。そんじゃバイバイ」
そう言うと生命神さんは去って行った。
「光一!お願い!私と子どもの為に必ず戻ってきて!あなたは私の顔が見える。でも私には見えないの。今の現実世界での光一の姿はヒカリだから!約束したじゃない!ゆっくりで良いから!休んでも良いから諦めないで歩いて!お願い!」
『あーぼたん。心配かけてごめんね。僕は頑張るよ。光がない?ないなら作れ!こんちくしょう!正直に言って良いかな?』
「謝らないで良いわ。なに?どうかしたの?正直に言って」
『うん、ぼたん。一瞬、会話出来るしこの状態でも良くね?って思っちまった。そうだよな。戻らないと駄目だよな』
「そうよ!戻らないと駄目!でも光一聞いて!現実世界の姿が元に戻ってもそれじゃ駄目なの!動いている光一が見たいの!元気な光一が見たいの!良いわね?」
『分かっているよ。あーイブとウィンドウとアクアオーラ。介護よろしく。迷惑かけるね』
「ウィンドウはお役に立てて光栄よ」
「アクアオーラも同じ。だから気にしないで
「私はハッキリと言うわ!本当に迷惑よ!介護じゃなくて状況の悪化がね!どうするのよ!説明するのもそうだけどね。早く戻って来ないと異世界の本国より、火星の本国の方が建国から長くなるわよ!あなた火星神でしょ!」
『あーうん。そりゃマズイっすね。そろそろクビになりそう。脳死判定されるかも』
『光一くん。労災みたいなものだし、クビにはならないよ。まぁ……生体情報モニタの件で無茶をしたのは微妙だけどね。エテルノの神としての力の行使は、仕事によるものだから仕方ないんじゃないかな?』
『生命神さん、そうなの?しかし、脳死に……』
「愚かな妹よ。脳死と植物状態は明確に異なるのだよ。脳死とは脳の全ての機能が失われた状態。二度と回復することはない。人工呼吸器等がなければ呼吸は出来ないし、心臓も止まる。植物状態は脳の中心部分が機能している。だから自分で呼吸できる事が多く、回復することもある」
『光一くんは脳に一切、異常なんてないんだけどね。心臓や精神とか魂という厄介な問題』
『あのー。僕、思ったんですけどね。エテルノの身体に魂を移せばなんとかならないですかねぇ?』
『光一くん無理だねぇ』
「おい!こら!ふざけんな!諦めんな!約束しただろうが!」
『歩くのに疲れた。少し休憩する。そうだね紗也華。約束は守りたいね。せめてボロボロの身体が治れば、チートなステータスで走るのにねー』
「光一?歩いていたの?あなた身体は大丈夫なの?」
『うん。足を引きずりながら歩いていたよ。身体は……まぁ大丈夫。ブリタニアは優しいねー。心配ありがとう』
「おいっ!こら!『ブリタニアは』ってなんだ!皆、優しいだろ!」
『おっと紗也華。そうだったね。失礼』
「紗也華。話を逸らす為に光一はわざと言ったのよ。正直に言いなさい!身体はどうなの?」
『……はぁ。右脚の感覚がないね。だから右手で壁を掴みながら歩いていたよ。左脚は痛いけど言うことを聞いてくれるから平気』
「光一もう止めて!今は休んで!身体が完全に治ってからで良いから!」
『でもブリタニア。ゴールが見えないのは精神的にキツイっすわ』
「分かるけど、今は耐えて休みなさい」
『はーい。あのー愚痴を聞いてもらっても良いですかねー?』
「良いわよ。聞くわ」
『ブリタニア、ありがとう。何で邪神を倒した功労者がですね?洞窟に閉じ込められてです。歩くという懲役刑をさせられているんですかねー?』
「光一、考え方を変えるのよ。あなたは身体を治せば走る事が出来る。ボロボロの身体で無理をして歩くと数年かかるかもしれない。でも走れば1ヶ月かもしれないわよ?」
『分かったよ。今は休むね。そしたらゴールの方から「まだ来ないんですかー?」って近付いて来るかもしれないし。あっ!そうだ!イブ。天界組はどんな感じ?今、何しているの?』
「皆に話したら精神的ダメージが大きくてね。今は癒やしを求めて全員で温泉に入っているわ」
『おー!丁度良い。皆、悪いけど通話を切るね。天界組と話をしてくる。映像を切り替えてっと。おー!心が癒やされるわー!』
「ちょっ!光一!興奮して心臓を止めないでよね!」
『へーき、へーき。紗也華さんは心配しすぎっすよ。そんじゃまたねー!』
「通話を切られたみたいね」
「ブリタニア。多分、切ったのは通話だけじゃないよ。自分の本体の耳から入る音も切っていると思う。通話の邪魔だからね」
「……紗也華さん。正解よ。私も別の身体で温泉に入っていてね。通話に参加しているから聞いてみたわ。そしたら『うん。そうだよー。だって邪魔だから』と言っていたわ」
「光一は本当に器用ね」
「そうね紗也華。皆、光一のいない今の内に色々と話し合いましょう?」
「ブリタニア、何を話し合うの?」
「ぼたん。あなたの事もそうだけど、新病棟の件とか色々とあるわ。まずは孝次さん」
「ん?なにかな?」
「光一は本当に長期戦になりそうよ。希望的観測はしない方が良いわ。あなた研究が好きなんでしょ?光一がこんな状況で心配なのは分かるけど、仕事に戻った方が良いわ。光一も心配していたけど、クビになるわよ?」
「はぁ。そうだねぇ……1ヶ月は大丈夫だと思う。駄目だったらその時に考えるよ。邪魔なのは分かるけど、1ヶ月は一緒にいさせてほしいかな。知っての通り、あまり仲が良いわけではないんだけどね。まぁそれでもさ。身内の不幸は嫌なものだよ。病院勤務経験もあって慣れているとは言え」
「分かったわ。でも私達は邪魔だと思っていないからね。そこは勘違いしないでほしいわ」
「ブリタニアさん。皆もありがとう」
「新病棟についてはどうする?」
「光一さんが聞いていないから言うけども。私は反対よ。メリットがないわ。新病棟の建設は病院側に負担をかける事にもなる。それにね。ぼたんさんのいる前で言いにくいのだけど、短期的にお金の余裕はないのよ。電力会社を傘下に入れて電気代を下げる為の借金返済等があるからね」
「……ねぇ?イブ?そもそもの話。それ光一も言っていたけど大和王国側にメリットがあるの?日本国内の電気代を値下げして得をするのは誰よ?重要なインフラを大和王国の管理下に置くのが重要だと言っていたけどね。それは人工知能による効率的な社会の実現という……言ってみればイブ。あなたの理想であり夢でしょ?」
「ブリタニアさん。得をするのはお金が回収できる銀行と、電気代値下げにより物価が下がる日本国民と日本国内にある企業だけど……ぼたんさんと大和王国の支持率が上がるわ。それに私だけでなく光一さんの夢でもあるわよ」
「支持率?日本国民の支持率が上がる事が大和王国にとって何の国益になるのよ?確かに光一の夢かもしれないわ。光一が指摘しなかったから私は黙っていたけどね。日本という国に対して甘すぎるのよ。なーに?大和王国は日本国の従属国なの?国民が半分消えた?それは日本側の問題でしょ?予算が限られているから協力してくれ?光一も甘いのよ。大和王国以外にそんな主張が通用するの?アメリカ合衆国は戦闘機等を安売りしてくれるの?甘えるな!」
あっ!ブリタニアが怒った。
「新病棟はメリットがないから反対?それは日本国にとってのメリットなのか、大和王国にとってのメリットなのか答えなさい!私は少なくとも家族が快適に一緒に過ごせるメリットがあると考えるわ。他にも考えれば大和王国にとってメリットがあるでしょう。答えなさい!あなたはどちら側なのかをね!」
「ブリタニアさん。落ち着いて。日本国民の支持率を上げておけば、何かあった時に日本国内で自由に動きやすいわ。それから私は大和王国にとってのメリットについて話をしているの。多額の費用をかける程のメリットがあると私は思えないわ」
「その言葉。そっくりそのまま返すわよ。日本国内で自由に動きやすい?いくらかかるか知らないけどね。多額の費用をかける程のメリットがあると私は思えないわ。あなた。ぼたんのいる前で言いにくいって?ぼたんは大統領だけど、あなた副大統領でしょ?全ては、ぼたんの責任みたいに言うな!紗也華!」
ゲッ!こっちに来た!
「ブリタニア何?」
「私は王族として育ったわ。隣国が借金で困っているからってね。代わりに借金返済したりしない。人道的支援は大切かもしれないけどね。電気代の値下げ等が人道的支援だと私は到底思えないわ。そこで紗也華に質問。お隣さんが借金で困っているからって、あなたは代わりに借金返済してあげるの?」
「普通しないわね。そんな事をするのはよっぽどのお金持ちか、お人好しよ」
「そうよね。前回は大和王国の特権というメリットがあったけど、今回はメリットがないと考えるわ。ウィンドウにお願いがあるの。国王代理の千代を呼んでもらえる?」
「わ、分かったわ!……すぐに来るみたい」
「ウィンドウ、ありがとう」
「……お待たせしました!ブリタニア様、お呼びでしょうか?」
「来てくれてありがとう。呼んだわ。あなたは大和王国と日本国のどちら側?」
「私は当然、大和王国側です。何かありましたか?」
「千代に質問があるの。国王に任命されて仕事をする者がよ?自分や第三者の利益を図る目的で、任務に背き、国や国営企業に財産上の損害を与えた場合は罪になるかしら?」
「お答えします。背任罪になると思われます。国営企業の場合は取締役等になっている者……簡単に言いますと会社の役員ですね。この場合は、特別背任罪になります」
「そう。それじゃ質問よ。自分や日本国大統領の支持率を上げるという利益を図る目的と、それに加え日本国民の利益を図る目的で、日本国内企業の借金を肩代わりして、大和王国の財産や国営企業の財産に損害を与えた場合はどうかしら?」
「ブリタニアさん?何が言いたいのかしら?」
「イブは黙っていなさい!千代、答えてもらえる?」
「詳細な状況が分からないので断言は出来ませんが、背任罪に問われる恐れがあります」
「そう。それじゃ千代に意見を聞きたいわ。日本の電力会社の多額の負債を肩代わり。そして電気代値下げ。これは我が国及び国営企業の利益になるかしら?私は損害だと考えるわ」
「私は利益にならないと思いますが……国王陛下のお考えだと聞いてます」
「それは違うわ。イブとぼたんの考えよ。光一も会議でメリットを疑問視していた。そして、会議の終盤で光一は精神的な問題を抱えていた。心神喪失状態と言えるでしょう。彩花?私は嘘を言っているかしら?」
「いえ、確かに疑問視していましたし、精神状態も良くありませんでした。自分は何の為にいるんだろうと思っていた程です。重症でした」
「そうよね?イブとぼたんは日本国の副大統領と大統領。そしてイブは現在、大統領代行。まぁぼたんは大統領だから良いでしょう。自国の国益が最優先よね。しかし、イブは国王補佐官でもある。千代?イブって会社役員だったりするの?」
「は、はい。会社役員です」
「日本ブルーローズテクノロジー社の会社役員?」
「そうですね。はい」
「私はイブに大和王国と日本ブルーローズテクノロジー社への背任があったと考えるわ。千代。国王代理としてイブの国王補佐官としての立場を一時的にでも解任し、大和王国と日本国の司法当局で捜査してもらえるかしら?」
「えっと……ですね」
「ブリタニアさん。落ち着いて。冷静になって」
「イブ、残念だわ。私は冷静よ」
「ブリタニア、お願いだから止めて。弾劾裁判になるわ」
「あら?ぼたん。無罪ならそういう判決になるでしょ?千代。私にはその権限がない?それならそれで良いわ。光一がよくやっているみたいに、空間投影で人々に訴えかけるから」
「ブリタニア様。我々を解任する権限は王にしかありません。現在、国王陛下は職務不能です。事前に指名がない場合、王妃の順番で王の権限を継承します。憲法によりそうなっています。理由は『エテルノは人類が構成する組織の首長となることを禁止する』です。ブリタニア様は現在、一時的に女王陛下です。ご質問があればお答えします」
「教えてくれてありがとう。それではイブ。あなたを……」
「待って!……分かったわ。話し合いましょう?」
「イブ、残念ながら遅いわ。女王としての権限で、イブを国王補佐官から解任する。千代、記者会見の準備を……」
「ブリタニア!お願い。大統領の私が悪かったの。甘えた私が悪かったの。だから、私からイブを……副大統領を奪わないで。私の心の支えなのよ。もう私のせいで失いたくないの。私に考えがあるわ。経済政策として日本政府が国債を発行するの。これまで倒産されると困るからと、国が多額の支援をしていた分が今後は必要なくなるでしょ?だから大丈夫よ」
「ぼたん。これは我が国と会社の問題よ。日本は法治国家なんでしょ?あなた個人の感情でそれを曲げるのは問題だと私は思うわ。それから、現在、ぼたんには権限がないんじゃないの?職務不能だから。よって我が国は現在、進めている全ての計画を一旦、止める。そして、我が国にメリットがあるのかを見直すわ。無罪なら無罪判決になるでしょう。判決が出るまで全ての計画を停止する」
「そんな……ブリタニア。私は心が折れそうよ。確かに現在、大統領権限は私でなくイブにあるわ。でも……そんな。あんまりよ。これから雪の季節なの。その前に工事だけでも終わらせる必要があるわ。判決が出るまで待っていられないの。それに弾劾裁判はね。処罰する為のものではないの。罷免する為のものよ。出席議員の3分の2以上が同意するだけで良いの。だから……あなた達の言い方次第で、イブはクビになる」
あっ……ぼたんが泣いちゃった。
ブリタニアは激怒しているしどうすんのよ。これ。





