889 光一と紗也華の会話
地球:202X年11月11日
火星:1年6月3日
~紗也華の視点~
気がつくと真っ暗だった。身体は動くし歩けるけど、真っ暗で何も見えない。不安で心がおかしくなりそうだ。
「光一!イブー!ウィンドウ!アクアオーラ!誰か聞こえたら返事をして!お願い!真っ暗で気が狂いそうなの!」
何度も繰り返し呼びかけたけど返事がなかった。私、もう駄目かも。そう思った時だ。急に心地の良い温かさに包まれた。
『紗也華、聞こえるかな?』
「光一!聞こえるわ!私の声が聞こえるの?」
『聞こえるよ』
「バカ!何度も何度も呼びかけたんだからね!真っ暗で不安で気が狂いそうなの!」
『ごめんね。遅くなっちゃったね。もう大丈夫だよ』
光一がそう言うと遠くに光が見えた。
「光一!遠くに光が見えたわ!ここはどこなの?」
『多分だけど心の中かな?明るくなるようにイメージしてみると良いよ』
「やってみる!」
私が光一に言われた通りにイメージすると、明るくなり、一本道の洞窟の様な空間が現れた。ただし、後ろは崖だ。
恐る恐る崖を覗くと真っ暗で底が見えなかった。
『どうかな?』
「明るくなったわ!一本道の洞窟の様な空間よ。後ろは崖だけどね。崖を覗いたら真っ暗で底が見えなかったわ。危なかったわ。さっき少し歩いたのよ。後、1歩で落ちるところだったわね」
『分かるよ。僕も同じ。遠くに見える光に向かって歩いてみて。歩きながら話そう。歩ける?』
「光一もなの?分かったわ。大丈夫よ。歩くわね……ねぇ?光一?光に向かって歩いているんだけど、後ろの崖がついてくるの」
『そうだね。良い?僕の話を聞いて。歩くのに疲れたら休んで良いからね。だから絶対に諦めないで。愛しているよ紗也華。僕や家族、特に子どもがいる事を忘れないでね。僕の推測だけど後ろの崖は罠だよ。諦めさせようとしているんだ。落ちたら終わり』
「分かったわ。私も光一の事を愛している。絶対に諦めないわ。でも光一?あの光の先は死の世界だったりしない?」
『それはないと思うよ。きっと現実の世界だよ。だから一緒に頑張ろうね』
「了解よ。そうだ!文句を言わせて!光一!助けに来るのが遅いわ!もう駄目なんだと思ったじゃないの!」
『ごめんて。でも紗也華?あれは現実ではないよ。邪神が見せた夢みたいなもの。辛い思いをさせてごめんね』
「そうだったわ!邪神はどうなったの?光一、あなた大丈夫なの?」
『邪神は僕が倒したよ。完全にね。もう2度と現れないから安心して。僕は……』
「どうしたの?」
『はぁ……紗也華、良いかい?悪いのは全て邪神だ。だから自分を責めないでほしい。お願いだよ?』
「分かった。自分を責めないから正直に教えて。大丈夫なのよね?」
「ごめんね。僕は紗也華を助ける為に、心臓が完全に止まった状態で無理をした。頑張って起き上がって魔法を使い、そして喋った。『僕の妻に手を出すな』ってね。そしたらさ。見えていた光が超遠くなった。今は少し疲れたから休んでいるよ』
「そ、そんな……さっきは文句を言ってごめんなさい。私の為に無茶したのね。正直に教えてくれてありがとう。しっかし。アハハ!『僕の妻に手を出すな』って?カッコいい事を言うじゃない。ありがとう。嬉しいわ」
『うん、僕は邪神に勝ったよ』
「偉いわ!流石は私の夫!あっ!」
『ん?どうかした?』
「もしかして、私も光一も今、現実世界では意識がない?眠っている?」
『その通りだよ』
「光一!あなた私と会話するのに無理をしていない?正直に言って!」
『大丈夫だよ。何の問題もない。本当だよ』
「それなら良いんだけど……ねぇ?私、命が危険な状態なのかな?分かる?」
『分かるよ。紗也華。君は大丈夫だよ。お腹の中の子どもも無事。僕は正直、微妙だけどね。でも諦めないで頑張るよ』
「教えてくれてありがとう。良かったー。少し安心した。私はこのペースで歩いていると12時間はかかりそうだなー。光一はどう?結婚式に間に合いそう?」
『僕は……少なくとも結婚式は無理だなぁ。紗也華にお願いがあるんだけど良いかな?』
「そんな……そうだ!魔法でどうにかならない?」
『紗也華、試したけど駄目だよ。ズルは出来ないらしい。だから聞いて』
「そっか。分かったわ。何でも言って」
『ありがとう。意識が戻った時にこの記憶があればで良い。皆に僕の状態と結婚式は延期するように伝えて。それから皆には迷惑と心配をかけて申し訳ないと謝っていたとも伝えてもらえるかな?あー後、僕は必ず戻るから安心してともお願い。また心臓が止まるかもしれないけどね。大丈夫だよ』
「分かった。絶対に覚えておくわ!そして絶対に皆に伝える!だから光一は休みながらで良い。少しずつで良いから頑張って」
『ありがとう。ねぇ紗也華?僕、チョット無理してそっちに行くけど良いかな?』
「止めて!あなたに何かあったら困るから!」
『大丈夫だよ。命の心配はない。ただ、少し光が更に遠くなるかも。だけどさ。僕の心を癒やしてほしいんだ。そしたら頑張れる。抱きしめたいんだ』
「うーん。分かったわ」
『ありがとう。それから僕の姿を見ても騒がないでね』
「え?どういう事……え?」
「紗也華。来ちゃった!抱きしめても良い?あー。汚れとか血は付かないと思うから安心して」
「こ、光一。あなたボロボロじゃないの!服も身体も!どうしたの?」
「言ったでしょ?頑張って無理したんだってね」
「お願いだから!もう無茶はしないで!もう分かったから。頑張ったのね。お願い休んで!顔色も悪いわ。1ヶ月でも1年でも待つから!だからお願い!」
「ありがとう。分かった。でも時間がないんだ。抱きしめさせてよ」
「光一!愛しているわ!」
私はそう言うと光一に思いっきり抱きついた。
「おっと!急に来るねー。僕も愛しているよ。紗也華の可愛い顔を見て元気が出た」
「ありがとう。ねぇ?光一?私、やっぱりしばらくいるわ。あなたと話していたいの」
「紗也華。それは駄目だよ。皆、心配するからね」
「お願い。1日で良いわ。光一は現実世界の時間は分かる?」
「分かるよ」
「そしたら11月12日の朝9時までこの空間にいるわ!それなら良いでしょ?」
「仕方ないなー。分かったよ」
「本当は嬉しいくせに」
「まぁね。でも現実世界の会話って結構、聞こえるよ」
「そうなの?」
「うん。だからさ。現実世界に戻ったらいっぱい話しかけてよ。反応は出来ないけど傍にいてくれるだけで心強い」
「うん!分かった!」
私は時間が分からないから、どれだけの時間、こうして抱きしめあっていたのか分からない。
だけど、終わりの時間が来たみたいだ。
「紗也華、ありがとう。僕はそろそろ戻るよ。時間だ。いやぁ~。思ったよりも長い時間いられて良かった」
「そうなの?私には時間の感覚が分からないわ」
「うん。まぁ僕は世界管理システムと相性が良いらしいからね。それじゃまた会おう」
そう言うと光一は消えた。
「光一、無事?」
『大丈夫だよ。紗也華、安心して』
「良かった。それじゃ私は頑張って歩くわ!」
『了解。ごめん。少し寝かせてもらえるかな?疲れた』
「分かったわ。ゆっくりと休んでね」
「ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい」
あれからどれくらい時間が経ったかな?ゴールに到着した。光から現実世界が見える。私だ!俯瞰視点から見ている。
点滴をされているのね。まぁ寝たきり状態だから当然か。近くにはウィンドウとアクアオーラしかいない。
『うー!紗也華、おはよう。そっちはどう?』
「おはよう。私はゴールに到着したわ!あなたが寝てる間、少し心細くてね。早歩きで来ちゃった」
『おー!おめでとう!どう?何か見えるかな?』
「現実世界が見えるわ。俯瞰視点ね。今は近くにウィンドウとアクアオーラしかいないみたいよ」
『そっか。現実世界の状況を知る事が出来るのは助かる』
「あっ!ブリタニアと孝次さんが来たわ!」
『……僕も会話で確認したよ。どう会話は聞こえる?』
「私は聞こえないかも」
『そっか。生体情報モニタを使うって話になっているね?』
「なにそれ?」
『ほら。よく入院患者の隣りにある心電図とかが表示されているアレだよ』
「あー!アレね!」
『ガーン!ウィンドウはリストラになるのね』
「あっ!光一!現実世界の会話が聞こえ始めたわ!」
『おー!それは良かった!』
「……ふふっ!こう言ったら失礼だけど、ウィンドウもアクアオーラも面白いわね」
『まぁ仕方ないよ。そうプログラムされているんだから。人の役に立つ事を誇りに思うってね』
「そうね。しっかし。孝次さんはどこか光一と似ているわね。流石は兄弟」
『えー?アイツと?ナイナイ。似ていないって』
「いーえ。似ているわ」
(ピンポーン)
『誰か来たね』
「そのようね。誰かしら?」
『看護師さんみたいだね』
『……紗也華、聞こえるー?安心してね。病院のスタッフさんも含め女性しか見ていないわ』
「ブリタニア聞こえるわー!まぁ女性なら良いか。仕方ない」
『ヤバい!ヤバい!紗也華に申し訳ない!』
「えっ!?チョット!光一!?」
『ごめ…ん……イブ…身内だけ……紗也華…にわりぃわ。病院の…かた……ごめん…ね』
「光一!聞こえている?止めて!お願い!無茶はしないでって言ったでしょ!」
『光一!ブリタニアよ!疲れていると思うけど頑張って!』
「違うのブリタニア!光一はまだ駄目なの!」
『マズイ!心室細動よ!光一さん!光一さん!』
「光一!光一!お願い!止めて!私は別に良いから!」
『マズイ!マズイ!心静止!看護師長!光一さんの意思を尊重して、私達で生体情報モニタを装着するわ!ごめんなさい。後は任せて!』
「そんな……光一!聞こえているのなら返事をして!お願い!」
何度も何度も光一に呼びかけているけど返事がない。ヤバい。泣きそう。
そして、しばらく時間が経った頃。光一の心臓が動き始めたみたいだ。良かった。
「光一!ねーお願いだから返事をして!」
駄目だ。やっぱり反応がない。
生命神さんの治療もかなり時間がかかっている。あのバカ!戻ってきたら説教しないとね!
『皆、お疲れ様。後はよろしくね』
「おーい!光一、聞こえるー?」
『……紗也華、ごめん。お待たせ』
「お待たせじゃないわよ!この大馬鹿者!私は別に良かったのに!無茶はしないでって言ったでしょ!」
『いや、でも僕の気持ち的に容認出来なかったんだ』
「光一!こっちに来られる?」
『……ごめん。無理』
「私は本当の本当に心配したんだからね!怒っているんだからね!」
『心配かけてごめんなさい』
「良い?もう絶対に2度とあんな無茶はしないで!分かった?」
『……』
「返事は?」
『はい。もうしません。だから許して』
「はぁ……仕方ないわね。許すからそっちの状況を教えなさい」
『……あのーですね。怒らないで聞いてもらえますかね?』
「うっ、ふん……良いでしょう。怒らないで聞くわ」
『光がね。針の穴より小さいかも。あーそうだなー。1億2千年経っても愛して待っていてくれますかねー?』
「永遠に愛し続けるけどね。冗談を言わないで。そんなに待てるわけがないでしょうが!本当は?」
『1ヶ月以上かかるんじゃないですかねー?』
「この大馬鹿者!何やっているのよ!」
『いや、だから怒らないって約束をですね』
「限度ってものがあるわ!大体あなたはいつもね……」
私はしばらく光一に説教をした。だってさ。何やってんのお前って話でしょ?
『はい。本当におっしゃる通りです。だから社畜で身体を壊したんですよね。今後は改善しますのでどうか、どうかお許しください。駄目かな?』
「はぁ……仕方ない。この辺で許してやるか。ほらー!ぼたんが倒れそうよ」
『う、うん。とりあえず許してくれてありがとう。ぼたん駄目そうだね。重症だわ』
「お前もじゃーい!そしてお前のせいじゃーい!」
『はい。本当にスンマセン』
「ほらー!ぼたんも入院よ!どうすんのよ!」
『あのー。戻ったらぼたんに「光一が謝っていた」って伝えてもらえるかな?』
「何に対する謝罪よ!」
『多大なるご迷惑とご心配をおかけしている事に対する謝罪ですね』
「分かった。伝える」
『ありがとうございます』
「ぼたーん。光一は明後日、退院可能になる事はないわー。残念ながら杞憂よ」
『まったくだね。ぼたんも困ったものだ』
「だーかーらー!お前のせいじゃーい!」
『はい。すみません』
「それで?あなたは今、何をしているの?」
『正直、身体が超ボロボロなので休んでいますね。はい』
「確認だけど半年以内には戻れそう?」
『……さぁ?』
「おいっ!こらっ!今すぐにこっちに来なさい!ぶん殴ってやる!」
『ひぃぃ。だから行きたくても無理なんだってばー』
「来られるようになったら来なさい!良いわね!」
『……』
「い・い・わ・ね?」
『は、はいっ!』
「まったくもう」
『光一がぼたんを心配する理由が分かったわ。光一。私はブリタニアよ。手を握るわね……あなたは何も心配する必要はないわ。私達に任せて。お願いだからもう無茶はしないでね。紗也華と何を話しているのかな?紗也華に怒られていない?大丈夫?午後には皆、来るからね。私もだけど皆、あなたの事を愛しているわ』
「ブリタニア。コイツ何も心配してないから。ほら!ブリタニアにも無茶すんなって言われてんぞ!」
『いや、心配はしていますよ?本当にね。ブリタニアもすまないね。駄目な夫で申し訳ない。紗也華には怒られています』
「当然の事だわ!」
『そうだね。おーい。憎たらしい妹よ。聞こえているかー?まぁたまにはゆっくりと休めよ。その間、僕たちは美味しいものでも食べながら待っているからな。妹よ。食事が出来なくて残念だったな。匂いで我慢すると良いぞ。あーそうだ。ブリタニアさん、場所を代わってもらえるかな?』
「プークスクス。良い弟さんね!」
『コイツ!腹立つわー!』
「それで?合言葉は何?」
『……コイツー!超腹が立つ!合言葉は『光一は超頭が悪い』だってさ!フザケやがって!決めた!優紀との結婚は認めん!』
「あら?事実じゃない。それにしても私の夫は器が小さかったのね。この程度の事で結婚を認めないとか言うなんて最低」
『紗也華ー!どこが事実なの?器が小さいってね。だってさー」
「だっても何もないわ。どこが事実なのかって?もう一度、説教をしようか?」
『あっはい。すみませんでした。あっ!今ならそっちに行けそうです!』
「来なさい!って!嘘!?私の両親が来るの!?」
「紗也華ー。きーたよ」
「ひっ!こ、光一!あなた顔どころか身体中が真っ青だし。さっきよりもボロボロじゃないの!バカァ!」
「いやぁ~参ったな」
「グスンッ……ブリタニア。ごめん。こんな愚かでボロボロの夫を残して現実世界に戻れないわ」
「ゲッ!紗也華。泣かないで。抱きしめるね」
「こっちから抱きついてやるっ!グスンッ……バカバカバカバカ!」
私は光一の胸をポカポカと叩いた。ちなみに光一はヒカリではなくて、元の男の姿。
「イテテテテッ!痛いっす!」
「ぶん殴ってやろうと思ったけど……こんなボロボロの人を殴れないわ」
「いや、殴ってますー!殴ってますからー!」
「これは殴っている内に入らないの!」
「ほら。紗也華。お父さんが声をかけているよ」
「……ごめん。お父さん。確かに辛かったけど、今は大丈夫。休む必要はないの。ただ大馬鹿者に付き合っているだけよ」
「何も言えねぇ」
「お母さんもごめん。グスン。この大馬鹿者のせいなの!嫌な夢は見ていないから平気よ。お父さんもお母さんもありがとう。優しいなぁ。余計に泣けてくるわ」
『……さーやか。お母さんは紗也華の笑っている顔が見たいわ。お母さんも紗也華を愛している』
「せめて両親は安心させたいから笑顔になるわ!戻ったらこの大馬鹿者について話してあげるね!」
「いや、止めてください。紗也華のご両親に怒られてしまいます」
「ふふっ!光一は怒られなさい!あなたにはお仕置きが必要よ!」
「そんなーあっ!お胸触っても良いですかね?」
「駄目に決まっているでしょ!我慢しなさい!私の両親の前で噴火するつもり?」
「いや、しないから。というかさ。抱きしめ合っているから当たってますから!」
「うるさーい!」
私と光一はしばらくこんな感じでイチャイチャした。
午後には皆が来て、話しかけてくれたから嬉しかった。
良いなー!カツ丼もだけど、お寿司も美味しそうだったなー。





