883 邪神と悪魔事件への大統領記者会見
地球:202X年11月10日
火星:1年6月2日
「妹よ。ドンマイ」
「うるさいわ!あーでも。やっぱり今日は帰った方が良いと思うよ」
「なんで?」
「夜中に発作が起きたりして、起こしちゃうじゃないかと心配をしているの」
「あーそれなら安心して。明日は休む事にしたから。優紀とベータちゃんのお蔭で研究以外の仕事がなくなったからねー」
「そうなの?そんな簡単に休めるの?」
「イブさんから連絡があった時点で助教授と教授に連絡したの。そしたら教授から『お兄さんによろしくお伝えください。もし厳しい状況でしたら明日は休んでも大丈夫ですからね』と返信が来たから平気だよ」
「おい、こら。よろしく伝えんかい!」
「え?お兄さんなんていないよ?」
「コイツ~!腹立つわー!」
「何でだろうね?見た目は可愛いのに魅力を感じないわ」
「血が繋がっているから本能的なアレじゃないかー?」
「そっかな?」
「弟よ。悪いけど大統領記者会見を観ても良い?」
「良いよ。その後に今後について色々と話したい」
「りょーかい。イブー」
「分かったわ。光一さん、テレビは観られる?」
「大丈夫!」
「それじゃ再生するわ」
イブがそう言うとテレビで動画が再生された。
『只今より藤咲大統領の記者会見を行います。初めに大統領から発言がございます。それでは大統領。よろしくお願い致します』
『初めに本日、渋丘のショッピングセンターで大事件が発生しました。偶然、事件発生時、現場に私や夫である大和王国国王、王妃が居合わせました。2階におり、騒ぎを聞きつけて皆で駆けつけました。すると爆発が発生……』
今回も結構、詳しく話すんだね。
『護衛が2人、斬られて犠牲となりました。その直後、公開されている動画の通り、大統領の権限で大和王国国防軍に治安出動を要請しました。その間に多数の人々が犯人に斬られて亡くなりました。一瞬の出来事です。犯人はこちらに向かって来ましたが、夫が睡眠魔法で無力化しました』
今、思うと護衛がやられた時点で、目の前の全員に睡眠魔法をかけておけば良かった。
言い訳になるけど、一瞬の出来事だったのと、疲れで頭の回転が落ちていたな。
『その直後です。夫は別の犯人に狙撃され肺に穴が空き倒れました。夫は一時意識不明の重体となりましたが、治療は成功し幸い命を落とさずに済みました。大和王国の制圧部隊が狙撃をした犯人を制圧。しかし、この後に話す「新たな敵」により制圧部隊は全滅しました』
あの邪神のせいで全滅っていうのがな……エテルノの神として非常に悔しい。悲しい。
『大和王国の偵察チームが確認したところ、爆発により階段等が全滅。上の階にも下の階にも行けない状態。また、上の階からアサルトライフルと思われる銃声を確認。よって大和王国側は本国に援軍を要請。2階以外の状況確認と敵勢力の制圧を指示。また、怪我人等の病院への搬送も指示したとの事です』
イブ、良い仕事した。
『大和王国国防軍は援軍要請後、すぐに2階以外の犯人を制圧しました。流石です。彼女達は戦闘に慣れていますから。さて、日本刀を使った犯人と銃や爆弾を使った犯人グループは全く関わりがありません。かと言って偶然、同じ場所で同じ時間に犯行に及んだわけでもありません。先程、「この後に話す」と言った「新たな敵」が関わっています』
邪神と悪魔だな。
『日本政府がこの様な発表をするのは異例の事だと思います。しかし事実です。信じられないかもしれませんが、邪神と悪魔が事件に関わっています。悪魔は日本刀に宿っていました。これは夫が魔法で倒しました。邪神が「新たな敵」です。これを倒すために夫は事件現場に戻って来ました』
悪魔までは良かったんだけどなぁ。
『夫と妻の1人である聖女は協力して、魔法で邪神を倒しました。そして、夫は狙撃したスナイパーライフルを持った犯人を起こし、尋問をしました。主に爆弾に関する情報を聞き出す為です。夫は情報を聞き出しましたが油断しました。部下に指示を出していたところ、犯人に背中から心臓を刺されました。心臓を刺されたのは運が悪かったです。しかし、夫が聞き出した情報により爆弾は全て解除されました』
いや、本当に幸運ステータス仕事しろー!
『前回、記者会見をした時にも話しましたが、あの事件の反省で防御結界を張るアイテムを常に使用していました。しかし、邪神はまだ生きていたんです。邪神が刃物に宿っていた為、防御結界は効かなかったんです。夫は心臓を刺されながらも犯人を魔法で眠らせると同時に邪神を倒しました。相打ちです』
本当にお恥ずかしい話です。
『夫は一時意識不明の重体となりましたが、すぐに治療を受け、治療は成功。命を落とさずに済みました。しかし、まだ完全に回復していません。しばらくは基本的に横になっている必要があり、お手洗いに行くのにも1人では行けません。つい、先程も約30秒、心臓が止まり治療を受けたそうです。ですが、後遺症はなく絶対に治ると治療をした担当者から聞いています』
早く心臓が安定すると良いんだけどな。
『日本政府として事実を公表します。ここ最近、世界中……主要な先進国で事件が多発している件につきましては、天界における調査の結果。今回、夫が倒した邪神と、その部下である悪魔が関わっている事が判明しました。先日、夫が巻き込まれた2つの事件や、都内の駅で発生した無差別殺人事件もそうです。何故、事実と断言出来るのか。それは私は天界側でもあるので情報が入ってくるのです』
まぁ。生命神さんからね。
『天界で悪魔狩りが行われたと聞いています。悪魔は全て捕まえて対処したそうです。事件化しているのは氷山の一角に過ぎないのです。今回、夫が邪神を倒した事で世界中での事件の多発は落ち着くと思われます。しかしながら、模倣犯対策は必要です。よって政府の方針として、全ての都道府県警察にしばらくは警戒態勢とする事を要請します。模倣犯対策を強化してください。具体的には警察庁から都道府県警察本部へ伝えさせていただきます』
第一種警戒態勢と第二種警戒態勢はこの事か。
『国民の皆様にはしばらくの間、ご不便をおかけします。しかしながら、模倣犯対策の為です。ご理解とご協力の程、よろしくお願いいたします』
ぼたんが深々と頭を下げた。
『私達は偶然、事件現場に居合わせました。しかし、出かけていたのは買い物のついでではありますが、悪魔又は邪神による事件を防ぐ為です。「危機管理どうなってんだ!」と思われるかもしれません。しかし、事件発生時に転移魔法で事件現場から逃げず、むしろ犯人に向かって行ったのは犠牲者を出したくなかったからです』
ぼたんは悔しそうな表情をしている。
『仲の良い神からは、解決するまで出かけない方が良いと言われました。しかし、大統領としてというよりも個人的にこれ以上、犯罪による犠牲者が出ることを容認出来なかったんです!国民の生命と財産を守りたかったんです!治安維持は警察の仕事ではありますが、悪魔や邪神は天界の問題です。天界の問題は天界で片付ける。それが私達、家族の考えで出かけました』
ぼたんは涙目だ。こっちまで涙目になって来たじゃねーか!
『しかし……失礼。しかし、残念ながら多数の犠牲者を出す大事件が起きてしまいました。大和王国国防軍の素早い対応により、被害は最小限にする事が出来ました。この事に大統領としてまずは感謝申し上げます。そして、これは個人的な意見です。多数の犠牲者が出てしまった事は、非常に悔しくて、悔しくて……残念です。これは心からの言葉です。事件を防ぐ事が出来ず申し訳ありません』
ぼたんは再度、深々と頭を下げた。
『夫は心臓を刺され大量出血しました。夫はまだその影響で苦しんでいます。事件を防げず国民を守れなかった事。これ自体も非常に辛いですが、夫がまだ心臓が不安定でいる事も妻として非常に辛いです。お気付きの方もいるでしょう。私は今、セーラー服を着ています』
あっ!本当だ。
『中身がオバサンなのにキッツイと思われる方もいるでしょう。お気持ちは分かります。汚れてボロボロの服で何で来たんだと思うでしょう。これが今日、事件現場で着ていた服なんです!被害に遭われた方、犠牲者、遺族の事を思うと辛くて……この感情を忘れたくない。忘れてはいけないと思って、着替えずに敢えてこのまま来ました。ただのアピールで、国民の気持ちなんて分からないだろうと思われるかもしれません。夫は今日だけでも肺を狙撃され、心臓を刺されて死にかけたんですよ!分かりますよ!』
ぼたん……本当に申し訳ない。
『自分では何も出来ないくせに悪魔や邪神探しは私が言い出したんです。私だけで行くと。それに夫も家族も付いてきてくれた。自分のせいで夫は死にかけたと思うと……ごめんなさい。思うとですね。本当に辛いですよ。悔しいですよ。そんな愚かな私から国民の皆様にお願いです。模倣犯対策にご協力ください。職務質問や手荷物検査。イライラしないでご協力ください。お願いします』
ぼたんは深々と頭を下げた。今回は長い。
『国民の皆様には申し訳ありませんが、明日はお休みさせてください。私からは以上です」
『それではこれから皆様よりご質問をいただきます。指名を受けられました方はお近くのスタンドマイクにお進みいただきまして社名とお名前を明らかにしていただいた上でご質問をお願い致します。まず、幹事社から御質問いただきます。青薔薇テレビの石井さん、どうぞ』
いつも、うちの会社からありがとう。よく分からんがルールがあるんだろうな。
『青薔薇テレビの石井です。大統領に3点、お聞きします。確認ですが今回、2つの事件が同時に同じ場所で起きたとの認識に相違ありませんでしょうか。また、今回の事件の犯人に対して大統領は率直に、今、どのようにお感じでしょうか。また、今回の事件を受けて法改正の必要性等を含め大統領のお考えをお聞かせください。よろしくお願い致します』
『まず、2つの事件が同時に同じ場所で起きたのかとのご質問ですが、その認識に相違ありません。次に犯人に対してですが、先程も申しました通り、多数の国民が犠牲になりました。強い憤りを覚えると共に、到底許しがたい。腸が煮えくり返る思いでおります。法改正の必要性については、大統領としては現時点で特に考えておりません。しかし、立法府の方で議論があっても良いのではないか。この様に思います』
ぼたん、まだ涙目だけど頑張っているな。
『それでは、続きまして、鏑木新聞の杉谷さん、どうぞ』
『鏑木新聞の杉谷と申します。大統領にお伺い致します。世界的に多発している事件について、邪神とその部下の悪魔の仕業との事ですが、大統領は犯人に責任能力が無いとお考えでしょうか?お考えをお聞かせください。よろしくお願いします』
『いえ、私は犯人に責任能力があると考えます。邪神や悪魔は人の悪意を利用したのかもしれません。悪意を助長したのかもしれません。しかしながら、犯人は自分の意思で犯行に及んでいる。この事は「誰でも良かった。死刑になりたかった」等の自供からも明らかだと考えます。通常の事件と同様に司法によって処理されるものだと思います』
僕も同じ考えだね。
『ここからは幹事社以外の方から御質問をお受けしたいと思います。御質問を希望される方は挙手をお願い致します。こちらで指名を致しますので、マイクにお進みください。それでは、日本東都新聞の渡部さん、どうぞ』
『日本東都新聞の渡部と申します。大統領。夫である大和王国国王陛下が狙撃され、肺に穴が空いた。心臓を刺されたとおっしゃいますが事実ですか?狙撃されたり、ましてや心臓を刺されて生きているなんて考えられません。国民の同情を買い、支持率を上げると共に、ズル休みしたいだけなんじゃないですか?大統領のお考えをお聞かせください』
『夫が狙撃され肺に穴が空いたのも、心臓を刺されたのも事実です。疑うのなら警視庁に取材をされたらどうですか?今まで濁して来ましたがハッキリさせましょう。夫をいつも治療しているのは、異世界から一緒に来ている生命神さんです。夫の友人です。何もおかしな事はありません』
あっ!ぼたんがイライラしている。
『支持率を上げる為?私からすればそんな事はどうでも良いです。支持率を上げる為、夫が事件に巻き込まれたと嘘を言っていると主張をされるのなら証拠を持ってきてください。逆にこちらは夫が事件に巻き込まれた際の映像を持っています。大統領として裁判に影響するのは避けたいので出しませんが、疑惑ではなく証拠を持ってきてください。私が警視庁と何か不正をしている証拠をです!』
ぼ、ぼたん抑えて。
『ズル休み?愛する家族が死にかけて平気でいられますか?そんな人の心の無い者に国民感情が分かるはずがありませんよ!地上にも法があるように天界にも法があります。前にも言いましたが侮辱判定になると、私の意思とは関係なく地獄行きになります。ですから発言や記事には気を付けてくださいね』
ぼたん怖い。
『そ、それでは、テレビ木下の斎藤さん、どうぞ』
『テレビ木下の斎藤です。まず、大統領は模倣犯対策として、警備の強化の要請を政府方針として出されました。これはいつまで続くものなのでしょうか?また、各都道府県警察本部は要請に従うとお考えでしょうか?大統領のお考えをお伺いします』
『えー、具体的にいつまで続くかは、防犯上の観点からここでは明言いたしません。しばらくの間、国民の皆様にはご迷惑をおかけしますがご協力ください。また、要請に従うかは私には分かりません。都道府県警察本部に取材をしてはいかがでしょうか?少なくとも警視庁については、私が要請を出す前から、警戒を強化する方針であると聞いております』
あれも、ぼたん若干イライラしている。
『それでは、グーベルク・ストリートのローベルトさん、どうぞ』
『グーベルク・ストリートのローベルトです。よろしくお願いします。治安出動を自国の軍にではなく、大和王国に要請した理由をお聞かせください』
『単純な理由です。大和王国国防軍は転移魔法を使えます。その為、速やかに事件に対応できると考えました。普通の政治家なら、例え同盟国でも借りを作りたくない等とくだらない事を考えますね?私は違います。私は国民の生命と財産を守る為なら手段を選びません』
うん。ぼたんも成長したな。
『それでは、チェスター・ポストのフォルストさん、どうぞ』
『チェスター・ポストのフォルストです。よろしくお願い致します。今回、大和王国国防軍に要請しましたが、自国の国防軍は不要だとお考えでしょうか?また、アメリカとの関係をどうお考えでしょうか?お答えいただけますと幸いです』
『自国の国防軍は必要です。地域の平和と安定の為に我が国の国防軍は存在します。貢献もしています。決して無駄ではありません。アメリカとの関係については、引き続き同盟国として良好な関係を維持していきたい。このように考えております』
『それでは、挙手をいただいた方につきましては、後ほど1問メールでお送りください。後日、書面で回答させていただきます。以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。御協力ありがとうございました』
「終わったわ。光一さんどうだった?」
「ぼたんは本当に大丈夫?着替えた?」
「大丈夫よ。皆がいるわ。それから着替えたから安心して。説得は大変だったわ」
「そっか。お疲れ様。それじゃ……うっ」
発作が来た……何もして…ないよ。





