880 うなぎとあーん
地球:202X年11月10日
火星:1年6月2日
「他にも誰かいるの?」
「うん。皆、ごめんね。一時的な記憶障害の可能性があったから混乱しないようにしたかったの。黙っていてくれてありがとう」
「みんな?」
「そう。いっぱいいるわよ。座る?」
「そうだね。眠ったままだと横と天井しか見えないから」
「あー動かないでってば!良い?心臓を刺されて長い時間、心臓が止まっていた。そして大量出血。どれだけ危険な状態か分かるでしょ?」
「はい。すみません。あっ誰か分からないけど制服を着た可愛い子ありがとう」
「ウィンドウよ。見えないのに可愛い子って言うのね?」
「それからアクアオーラよ。私達も光一さんを看病するわ」
「2人もありがとう。見えなくてもオーラで分かるよ。おー徐々に見えてきた。あっイブ!」
「どうも。一晩よろしくね」
「こちらこそ」
「ゲッ!両親と弟がいる!」
あっ!お母さんが近付いて来て頭をたた……ん?なでた?
「ばかっ!あなたね?短期間で何回、死にかければ気が済むの!」
「すんません」
「それからね!『ゲッ!』ってなに?失礼でしょうが!」
「いや、恥ずかしいところを見られての『ゲッ!いたの?』だよ」
「恥ずかしいとか気にしている場合じゃないでしょう?まったく」
「光一、お母さんの言う通りだぞ。心臓を刺されたと聞いてお父さん真っ青になったぞ」
「いや、本当にごめんなさい。うっかり油断しました」
「紗也華さん、我が憎たらしい妹は精密検査をしなくて本当に良いの?」
「うん。異世界の生命神さんが必要ないって断言していたから大丈夫よ」
「おいっ!弟よ!憎たらしいとは何だね?」
「おっと。これは失礼。聞いたら前回と前々回もだけど、今回も入院費をちゃんと払ってくれているんだって?今回は1泊35万円だからね~。ありがたいね」
「「35万円!?」」
「え?そんなにするの?イブ、予算は大丈夫?」
「まったく問題ないわね」
「流石は王族ね」
「いや、僕も普段は割と質素に生きているよ?しかしまぁ。こういう場合は仕方ないよね」
「光一さんのご両親と弟さんも食事はまだですか?」
「僕はまだだけど?」
「私達もまだよ」
「それじゃここで食べて行きませんか?美味しいうな重を持ってきますよ」
「おっ?僕の妹の奢り?それなら喜んで!」
「もちろん。あー面倒ですので遠慮しないでくださいね。それじゃ行ってきます」
そう言うとイブはゲートでどこかに去って行った。
「あっ。行っちゃったわ」
「まぁまぁ、お母さん。心配かけたお詫びだと思って食べて行ってよ」
「そういう事なら遠慮なく」
「光一、そろそろ一旦、寝たほうが良いわ。皆さんも座って待っていましょう?」
「そうね。椅子を持ってくるわ」
「僕もー」
「光一さん、失礼するね」
「うん、ウィンドウちゃんありがとう。アクアオーラもね」
「嬉しいけど毎回、お礼を言わなくても良いわ」
「いやいや、ウィンドウ?感謝の言葉は大切っすよ。あー、確かに寝たら分かる。腰がヤバかった。まるで病人だな」
「いや、光一。あなた病人だからね!」
「椅子、持ってきたよ~」
「おー!そうだ。枕で……ダメだ腕が思うように動かん」
「もぉ!良いからおとなしくしていて!」
「はい。紗也華さん、すみません」
「あら?光一?胸どうしたの?前は無かったわよね」
「あっ!気付かれた?いや、お母さん実はね……」
事情を説明したら両親と弟に爆笑された。いや、笑わないでもろて。
「あっ、光一。あなた紗也華さんの胸を真似したんでしょ?だから紗也華さんが一緒にいるのね?」
「ゲッ!お母さん、なんで分かるの?」
「勘だよ。もしかして下も?それは流石にないわー!」
「下は違うと思うよ。多分」
「なんで多分なの?」
「いや、特に意識しなかったから、無意識に真似したかもしれないけど、自分では分からないから」
「そりゃ紗也華さんも心配するわけだ。ごめんなさいね。うちのバカ息子が」
「いえ、良いの。いや良くないけどね。夫と一緒にいる口実は出来たから」
「あら!良い子ね~。光一、感謝しなさいよ」
「そりゃもちろん。感謝しているよ。こんなに可愛くて夫を大切に想う子は珍しいと思うからね」
「光一、ありがとう。嬉しいわ。でも他の妻も夫を大切に想う良い子よ?」
「もちろん。ウィンドウやアクアオーラもそう。僕は妻に恵まれているよ」
「まったくもう!だったら何回も何回も死にかけるな!この大馬鹿者!」
「いや、本当におっしゃる通りです」
「……まぁまぁお母様、先程も言いました通り、息子さんは悪くありませんから」
「あっ!イブおかえりー!」
「イブさん、それとこれとは話が別」
「それでも程々にしてあげてください。はい。3人分のうな重です。テーブルに置いておきますね」
「あー!ありがとう!いただくわね」
「ありがとうございます。いただきます」
「いやぁ~お腹空いていたんだよね!イブさん僕からもありがとう!」
「はい。それじゃ再度、失礼しますね。すぐに戻ります」
そう言うとイブはゲートを戻って行った。僕と紗也華の分かな?
「ウィンドウとアクアオーラは良いの?」
「光一さん、私とアクアオーラさんの事は気にしないで。私達は遠慮しておくわ」
「分かるでしょ?光一さん」
「あーうん。それじゃまた今度ね」
2人共、もう2度と嫌だって顔をしている。
「……はい。光一さんと紗也華さん。お待たせ。光一さん、食欲はある?」
「うん。あるよー。とっても空腹なんだ」
「それは良かったわ。全員、一番お高いうな重にしたから。ささ食べて」
「それじゃ光一さん、ウィンドウとアクアオーラさんで起こすから失礼するね」
「2人共、お願いね」
僕は2人に起こしてもらい座った。
皆、それぞれ「いただきます」と言って食べ始めた。
「うわぁ~!イブ、美味そうだよ!ありがとう!」
「光一さん、喜んでもらえてよかったわ」
「……うーん。美味い!イブ、ぼたんは大丈夫?他の子も精神状態に問題ない?」
「そうね。ぼたんさんは多数の犠牲者が出た事を、心の底から非常に残念で悔しく思っているわね。だけど彼女は強いわ。大丈夫よ。他の子もショックは受けているけど、光一さんの無事を聞いて安心しているわ。特に問題ないと私は思う」
「警察は?まだ事情聴取中かな?」
「いえ、終わったわ。20時半頃、ここに来る予定よ。大丈夫。今回は事実確認だけで終わるから。私が必要な情報をメールで送ったからね」
「そうなの?それは助かるよ。ぼたんは今回も記者会見するの?」
「21時から記者会見をする予定よ」
「それは観ないとだな。壁の少し高い所にテレビがあるから、寝ながらでも観られて助かるね」
「うん。観てあげて」
「光一、さっきから箸が進んでいないけど、もしかして腕がまだツライ?」
「あーバレた?治るまで頑張ろうと思ったんだけどな」
「気付くのが遅くなってごめんね」
「あれ?『もっと早く言いなさい!』とか怒らないの?」
「気持ちは分かるから」
「それじゃここはアクアオーラがお手伝いするね。あーんして」
「いや、両親と弟の前でするのは、クッソ恥ずかしいんだけど」
「光一、気持ちは分かるけど諦めなさい」
「……はぁ。アクアオーラよろしくね」
「分かったわ。途中でウィンドウさんに代わるからね」
「了解。ウィンドウもよろしく」
「うん!任せて!」
「はい。あーん」
「……うん。アクアオーラありがとう」
「ちゃんと『あーん』って言ってよ」
「言えるかぁ!お願いだからそれだけは勘弁して」
「仕方ないわね」
「はい!そこー!3人してニヤニヤして見るんじゃないの!」
「いやぁ楽しそうだなと思ってね。うなぎ美味しいわ」
「……もぐもぐ。楽しくなーーい!こういうイベントは両親と弟がいないところでやりたかった!」
「イブさん、ありがとう。お母さん楽しいわ!」
「それは良かったです」
「全く良くなーい!」
「光一さん」
「……うん。アクアオーラありがとう」
「アクアオーラは幸せよ」
「それは良かったけど、僕は恥ずかしい」
「我が妹よ。うなぎ美味しいぞ」
「それは良かったよ」
「ところで妹よ」
「なんだね?本当の妹が欲しくなった?」
「それは欲しいけどそうじゃない」
「ではなんだね?」
「助手ちゃんと結婚させてもらえないかな?」
「…………はい?」
「だからー!助手ちゃんと結婚させてほしいの!」
「……だれ?それ?結婚したいなら僕じゃなくて相手の子に言いなよ」
「エテルノの子だから許可を求めているの!」
「あーそういう事?つか早くない?出会ってまだそんなに経っていないでしょ?」
「……お前にだけは言われたくねーよ」
「そりゃそうだ。僕は別に良いけどさ。相手の子次第だよ?無理矢理はダメ。パワハラ良くない」
「そこなんだよなー。どうすれば良いと思う?」
「僕に聞かれても知らんよ」
「ふふっ大丈夫よ。弟さんが好きなのはアルファよね?」
「えっ?イブさん、何で知っているの?」
「作戦通りよ。ベータは今のところ、職場の同僚としか思っていないわ。だけどアルファはあなたと出会う前から好きだったのよ」
「イブ~?プログラムをイジるのはなしだよー」
「違うわ。光一さん、地球に大和王国の職員……つまり、エテルノは何人いると思っている?」
「うーん?たくさん?」
「そうね。その中で弟さんの趣味に合う子を選び、結婚相手にどうかと聞いたの。その8人目がアルファよ」
「弟よ。落ち込むな。エテルノじゃなくてもな?お見合い写真だけで好きになるヤツは珍しいぞ」
「言われなくとも分かっとるわ!」
「そうですか。そんで?イブは何をしたいの?」
「ご両親も弟さんも生活の拠点を異世界に移さない?ってのが私の計画」
「どうしてかしら?」
「まだ先の話ですが、孫の成長を見たいんじゃないですか?」
「でもイブ、娯楽のない世界だからさ……」
「光一さん、これからそれを進めるんでしょ?」
「僕は助手ちゃんとなら異世界に行くよ。問題は生活費をどうするかだなぁ」
「あなた学園都市の医学部に6年間通わない?そして医師を目指さない?」
「いや、だから生活費でさえ困っているのに学費なんて……」
「我が国は大学生に生活費を支給しているし、学費も無料よ。6年間通いたくないならD-Systemコースもあるけど?」
「そうなの?そこら辺を詳しく聞かせてほしいけど、まずは助手ちゃんにプロポーズしたい」
「良いけども先に食べちゃいなさいな」
「分かった!」
「おいっ!弟よ!もっと味わって食べろ!」
「うるはい!」
「いや、うるさいじゃないからな。お母さん」
「(ペチン)光一の言う通り味わって食べなさい!良いわね!」
おい、相変わらず弟の孝次に甘いなぁ。優しく頭を叩いたよ。
「……はーい」
「言うこと聞くんかい!」
「光一さんも食べて」
「あっウィンドウちゃん、ごめん。ありがとう」
「……はい。光一さん謝らなくて良いわ。美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「良かった!」
「紗也華、どうかした?」
「少しだけ私の両親も異世界に来てくれないかなって思っただけよ」
「紗也華?」
「いやね?私の子どもの成長を見てほしいし。でも両親の人生は長くないからなって思ったらね。ちょっと寂しくなって。ごめんね。事件で色々とあってさ。人の死を意識したらさ。私の両親も事故や事件、病気で明日、亡くなっちゃうかもしれないんだって考えたら寂しくて。ツラくて」
「紗也華、こっちのベッドに来て。今の僕には抱きしめる事が出来ないかもしれないけど。僕の胸で泣いて良いよ」
「バカッ!それ私の胸じゃないのよ!」
「紗也華がツライ時にこんな姿でゴメン」
「あ、謝らなくて良いわよ」
「うん。そうそう、おいで?……よく来た…イテッ!だ、大丈夫。よし、抱きしめられた。自分やれば出来んじゃん」
ハハハ。結構、キツイ。でも妻の為に頑張らないとな。腕がいてぇ!震えるな。我慢だ!
そうして紗也華が泣き止むまで、僕は頑張った。





