879 ワンランク上の病室
地球:202X年11月10日
火星:1年6月2日
~紗也華の視点~
あっ!ウィンドウが来た。私はジェスチャーで「静かにしてね」って伝える。
ウィンドウは頷いた。良かった伝わって。
それから何分待ったか分からないけど治療が終わったみたいだ。
「ふぅ~。もう会話しても大丈夫だよ。悪かったね。静かにしていてくれてありがとう」
「こちらこそ治療してくれてありがとう。光一は?」
「心臓が再び動き出すまでに時間がかかったんだ。それで後遺症が……」
「そんな……!」
「紗也華さん、最後まで聞いて。後遺症が残るところだったけど、そっちも治療したから大丈夫」
「この後はどうすれば良い?」
「ブリタニアさん、出血量が多くてね。10分後に意識が戻るけど、今日は絶対安静で入院させて。あーいや、お手洗い程度なら行っても平気だけどね。食事は何でも良いよ。精密検査や輸血は必要ない。というかしないで。明日の朝には退院しても大丈夫だよ。良い?お手洗い以外は寝たままだからね!まぁ食事の時と少しは座っても良いけど、それだけだからね」
「一時的な記憶障害の可能性は?」
「あー。その可能性はあるけど一時的なもののはずだよ。それから入院中はヒカリでいて。お手洗いには必ず護衛も一緒に行く事。あー個室の中にまで入らなくて良いからね。今、光一くんの身体の中では僕の部下が働いているんだ。コイツが刺激に弱いタイプでね。繊細なんだ。ヒカリから光一くんに姿を戻されるとね。僕の部下がビックリして死んじゃうと思う」
「思うなの?」
「魔法で性別を変えるとか、どうやって実現しているのか僕には分からないからね。事実として心臓を刺されて長い時間、心臓が止まっていた。そして大量出血。どれだけ危険な状態か分かるでしょ?分からない事は危ないからしないで!お手洗いには護衛が肩を貸して連れて行って。出来るだけ歩かないで」
「それはそうね。本人には私から説得するわ」
「紗也華さん頼むよ。本当に。意識が戻っても身体の機能を取り戻すのに少し時間がかかるかもしれないから」
「いえ、私も一緒に光一の病室に泊まるわ。私が看病する」
「どうして紗也華が?それなら私が……」
「私じゃないとダメなの。光一の胸は私の胸と同じなのよ。自分では分からないけど下もそうじゃないのかな?だから私が看病しないと恥ずかしいの!」
「あーそういう事?あなたも大変ね。私に出来る事はある?」
「ありがとう。大丈夫」
「分かったわ」
「それじゃ私とアクアオーラさんが護衛役をするわ。病院内だから危険はないと思うし大丈夫よ。だけど念の為に2人体制にさせて」
「うーん……そうね。悪いけどお願いね」
「任せて!やっと光一さんの役に立てるわ!……あーイブお母さんに報告したら『あなた達だけじゃ心配だから私もソファーに座っている』と言うんだけど……どうする?」
「うーーん。イブなら良いかぁ」
「了解」
「決まったみたいだね。それじゃ僕は帰るよ」
私達が生命神さんに治療のお礼を言うと嬉しそうに帰って行った。
「あっ!アクアオーラも来たわね」
「うん、ブリタニアさん。話はウィンドウさんから聞いているわ」
「分かっているわ。アクアオーラ、私はどうすれば良いかな?」
「そうね。私はブリタニアさんを送ってくるから、紗也華さん待っていてもらえる?」
「良いわよ」
「それじゃアクアオーラ、お願いね」
「うん!それじゃ行くよ!」
ブリタニアとアクアオーラは去って行った。
「ウィンドウ、病院の準備はどうしようか?」
「それならイブお母さんが、事件現場にいるのとは別の身体で手続きをしているわ」
「そっか」
「ただいま~」
「あっ!おかえり!早かったわね」
「まぁ送るだけだからね」
「それもそっか」
「紗也華さん、イブお母さんが手続きを終えるまで待ってもらえる?」
「うん、ウィンドウ。もちろんよ。それじゃその間に事件現場の状況を教えてもらえるかな?」
「はい!」
~イブの視点~
ぼたんさんに状況を説明しながら、大和王国防衛省と連絡を取り合った。
警察が建物周辺の広い範囲に規制線を張ったと聞き、魔法で頑丈な外階段を造るように指示。
消防には地下1階の救助に専念してもらう事にした。
警察は事件解決の連絡を受け、SATの派遣を中止。既に現場に警視庁本部から刑事が来ているとの事。
2階の我々のいるフロアにも当然と言えば当然の事ながら、生存者が多数いる。
護衛に拡声魔法で事件解決と閉じ込められている事、慌てずその場で救助を待つように伝えてもらった。
軍にも指示を出し、各階で伝えてもらった。
流石の私も事情聴取には慣れた。時系列と詳細な報告、聞かれるであろう内容はメールに書き、防衛省経由で警視庁捜査一課に送信した。
長文になったけど、メモするよりは楽だろうからね。
国防軍が外階段を造ったようだ。消防隊員と警察が続々と入って来た。
消防隊員は外階段から安全に建物に侵入する経路を切り開くのと、建物内の状況確認の為かな?傷病者の確認や救助、建物の損傷の確認等があるだろうから。
他の階にいる軍からも報告があった。護衛や軍は武装しているけど、事前に防衛省から警視庁に、日本国大統領の要請動画を共有していたからか、トラブルにならずに済んだ。
ぼたんさんはローラの姿から元の姿に戻った。ウィンドウから光一さんの状況を聞いて皆に報告。皆、一安心。
アクアオーラも天界に向かった。そしてブリタニアさんが戻って来た。
あっ!警視庁捜査一課のいつもの2人が来たわ。
「皆さん、お疲れ様です。いつも災難ですね」
女性の刑事さんが話しかけて来た。
「いえ、多くの国民が犠牲となった事。大統領としてというより、個人的に非常に残念に思うわ。2人もお仕事お疲れ様」
「ありがとうございます。大統領、心からの言葉……ですね」
「あら?意外?まぁ特に最近は心から国民の事を想う。本当の意味での国民目線の政治家が少ないものね」
「いえ、その……大統領のお人柄は、これまでお話させていただいている中で存じてはいたのですが、我々としても重い言葉でしたので……出来る事なら魔法で時を戻したいです」
「そうね。私もそう思う。本当に悔しいわ」
「ぼたんさん」
「そうだったわね。イブ。事情聴取を始めましょう」
「それじゃ私から。皆さんお疲れのところすみません」
「いえ、今日は私がするわ。あなた鼻の下が伸びているわよ」
「えっ!?いや、そんな事は……」
「良いから。私に任せなさい」
「は、はぃ」
「ごめんなさいね。見苦しい格好で」
「いえ、大統領。お似合いですよ。これは心からの言葉です。正直、羨ましいです」
「ありがとう。あなた良い刑事さんね」
「よく言われます。私も女性ですし、護衛にどうですか?」
「あなた護衛をしたいの?」
「いえ、冗談です。私はこっちの仕事の方が合っていますから」
「そう。それじゃ私の夫は事件に巻き込まれやすい体質みたいだから、今後もよろしくね。本当は次がない事が一番だけど」
「次がない事を心から願っています。あっメールありがとうございました。副大統領のお気遣いでしょうか?」
「よく分かったわね。私よ。無事に届いたみたいで良かったわ」
「お陰様で時間短縮ができそうです。事実確認をさせてください」
「うん、お願いね」
「はい、副大統領。それでは早速ですが……」
~紗也華の視点~
「現場の方はこんな感じの状況です」
「ウィンドウ、ありがとう」
「はい!少しでもお役に立てましたか?」
「うん、少しどころかとても助かったわ」
「良かった!」
「ウィンドウさんばかりずるいわ。あっ!病室の準備ができたみたい。いつもは特別個室Bだけど、今回は特別個室Aみたいよ」
「何が違うの?」
「紗也華さん、ワンランク上の個室でベッドが2つあるみたいね。1泊約35万円。いつもの方は約20万円ね。とにかく高級ホテルみたいで広い部屋よ」
「あれ?私、ソファーか椅子で寝ようと思っていたんだけど、ベッドを用意してくれたんだ」
「当然じゃない。紗也華さん王妃なのよ?ソファーや椅子なんてダメよ!」
「そ、そう?まぁ良いや。教えてくれてありがとう。どうすれば良い?」
「もう少しだけ待って……うん、オッケー。ゲート。私とウィンドウさんで光一さんを運ぶから先に行っていて」
「分かった。2人共お願いね」
「「了解」」
私はアクアオーラのゲートをくぐった。するといつもの病室も豪華だけど、更に豪華な病室に来た。
「紗也華さん、大丈夫?」
「あっ!イブ、私は大丈夫よ。ベッドありがとうね」
「当然の事よ。今の内に着替え取って来たら?それとも1回、自分の部屋の温泉に入りに戻る?」
「着替えはアイテムボックスにあるし、今日はクリーン魔法で済ませちゃうわ」
「そう。ヒカリさんのパジャマと夜用の下着を買っておいて良かったわね。着替えはウィンドウとアクアオーラに手伝わせるわ」
「そうね。何に使うんだと言われて買ったけど、早速使う事になるとは思わなかったわ。着替えは……はぁ。お願いするか」
「あなたも大変ね」
「まぁね」
あっ!ウィンドウとアクアオーラが光一を運んで来た。担架で運んで来るとは思わなかったわ。お姫様抱っこかと思った。
まぁ病人だからあまり良くないのかな?2人で運びたかっただけかもしれないけど。
そんな事を思っていたら2人はヒカリをベッドに寝かせた。快適そうなベッドだ。
「まだ着替えさせる時間はあるかな?」
「紗也華さん、ウィンドウは大丈夫だと考えるわ。光一さんが目を覚ます前に着替えさせたいの?」
「出来ればお願いしたいな」
「分かったわ。アクアオーラさん手伝ってね」
「もちろんよ」
「イブ」
「分かっている。誰も入って来ないように見張っているわ」
「悪いわね」
「良いのよ」
私は今日、買ったヒカリの夜用の下着とパジャマを出して、クリーン魔法をかける。パジャマやっぱり可愛いな!もこもこしてる。
私も着替えちゃお。今日の夕飯は何だろうなぁ?そんな事を考えながら着替えていく。
数分後、私もヒカリも着替えが完了した。ふぅ~間に合った。
私もベッドに入ろう。
「紗也華さん、お疲れ様。お腹空いたでしょ?」
「そうね。正直、お腹ペコペコ。あんな光景を見たのに食欲があるってどうなのかな?」
「気にする事はないわ。食べた方が良い。そろそろ光一さんのご両親と弟さんが来るわ。光一さんが目を覚ましたら行ってくるわね」
「どこへ行くの?」
「内緒。今、話したら空腹に耐えられなくなると思うからね」
「そっか」
(コンコンコン)
「どうぞ」
イブが返事をした。
「失礼しまーす」
「お父さん、早く入って!失礼します」
「僕も失礼します。おー!初めて入ったけど豪華…イテッ。お母さん。何で頭叩くかなぁ」
「何であなたはそんなに気楽なの?」
「いや、兄貴なら大丈夫だって。あっ皆さん。お疲れ様。紗也華さんもどこか悪いの?」
「光一のお父さんと、お母さんに、弟さんもお疲れ様。私はどこも悪くないんだけどね。光一が心配だから一緒に泊まるの」
「皆さん。息子がご迷惑をおかけして……」
「いえ、お父様。ご連絡した通り、息子さんは悪くありません。もうすぐ意識が戻ると思いますのでソファーに座ってお待ちください」
皆、それぞれ「失礼します」と言ってソファーに座った。お父さんとお母さんは不安そうだ。
「お父さんにお母さん。大丈夫。もしかしたら一時的に記憶障害を起こすかもしれないけど、後遺症とかないから」
「紗也華さん、そうなの?だけど心臓を刺されて、しばらく心臓が止まっていたって聞いているけど」
「うん、お母さん。異世界の生命神さんがちゃんと治療をしてくれたのを私、見ていたから安心して」
「お母さん、大丈夫だって。兄貴……まぁ今は妹だけど。心配ないよ」
「そう?」
「……んぅ?」
「あっ!皆、悪いけど静かにして私に任せて」
「そうね。ウィンドウも紗也華さんに任せた方が良いと思う」
~光一の視点~
「……んぅ?」
目がぼやけている。あー。まぶたが閉じているんだ
えーっと。自分は誰で今どこにいるのかの確認が最優先事項だ。
自分は……ヒカリ?いや、光一だ。ヒカリの姿で心臓を……うっ!頭が!
「うぅっ!」
「頭が痛いの?大丈夫?」
誰の声?紗也華だ。妻の声ってのは落ち着く声だなぁ。癒やされる。
「さ…やか」
「そう。自分の名前分かる?」
「こうい……ち」
「そうよ。安心して。疲れたわよね。ゆっくりで良いからまずは落ち着いて」
深呼吸でさえ頑張らないといけないのか。やれやれだ。でも落ち着いた。
目がぁぁぁ。眩しい!
「光一!大丈夫?目が痛いの?眩しい?」
手で徐々に視界を……クッソ眩しいなぁ!
「眩しいのね?明かりを弱くした方が良い?」
「い、いや。大丈夫」
ふぅ~。徐々に慣れてきた。眩しくはないけど目の焦点が合ってない。ぼやけている。
「光一、こっち見て。そう。見えてる?」
「ごめん。もう少し待ってもらえる?ぼやけている」
「ゆっくりで大丈夫。どこまで覚えている?」
ヒカリの姿でランジェリーショップに行って……。
「事件に巻き込まれて。狙撃された……?」
「その後はどうかな?」
その後は……そうだ続きがある。
「シャーロットと一緒に邪神と戦って勝った?いや、勝ったけど、心臓をさ……うぅっ」
「ごめんっ。無理はしなくて良いわ。ゆっくりで良いの」
「だ、大丈夫。心臓を刺されて倒れた……だよね?」
「そう!流石は私の夫ね」
「でもごめん。まだ目が見えないんだ。心臓を刺されたんだからね。後遺症とかあるんでしょ?」
「身体の機能を取り戻すのに少し時間がかかっているだけよ。後遺症はないわ。嘘じゃない。本当よ」
「そっか。本当だ。徐々に見えてきた。あれ?紗也華ここどこ?」
「病院よ。いつもよりワンランク上の病室なの」
「そうなの?紗也華もベッドにいる?どこか悪いの?」
「あなたが心配だから一緒に泊まる事にしたのよ」
「あー。迷惑をかけて悪いね」
「良いの。遠くは見える?」
「う~ん。まだダメっぽい」
「それじゃ今の内に注意事項ね」
僕は紗也華が生命神さんに言われたという注意事項を聞いた。一晩この姿とかマジですか?
まぁ病院だし何も出来ないから良いんだけどさ。トイレは1人で行きたいところだ。トホホ。





