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876 愛と悪魔

 地球:202X年11月9日

 火星:1年6月1日


 ~紗也華の視点~


「生命神さん、光一はマズイの?」


「そうだね。紗也華さん、一種のアイデンティティクライシスなのかなぁ?」


「アイデンティティクライシス?」


「自分は何者なのか、自分の存在意義は何かを見失っているんだ。何か違和感を覚える出来事はなかったかな?」


「うーん?」


「あっ!そうよ!『ブチッ』って変な音がした気がするわ」


「ブリタニアさん、その前後で変な事を言っていなかった?」


「そうね。『私は皆の為に頑張るから大丈夫。夫が女性用の下着を着けていたら困惑もするよね?』かしら?『僕』じゃなくて『私』って言っていたから気になったのよ。何か嫌な予感もしたし」


「そう!私も光一が遠くに行っちゃうような気がしたの!」


「ブリタニアさんと紗也華さん。それだね。他に何かなかった?」


「会議の終わり頃に神のオーラが漏れていたわ。光一さんは『何だか休みたい気分だけど平気』って言っていたけど」


「ナビィちゃん、会議か……あーそういう事ね。『自分、会議に必要なのかな?役に立っているのかな?男である必要あるのかな?いっそ自分は皆の為に頑張って女性になろう』って心のどこかで思っちゃったんだろうね」


「はい?そんな事で?」


「ブリタニアさん。一度、魂が女の子になっちゃったから癖になっているんだよ。捻挫が癖になるのと同じ様なものかな?一応、脳の壊れた部分と魂は治すけども。再発するかどうかは皆、次第だよ」


「もうヒカリにしたり、女性用の下着を着せたりしたら駄目って事?」


「ブリタニアさん、そうじゃないよ。それは構わない。愛だよ愛」


「愛なら5人の妻と楽しんだりして、伝えていると思うけど?私達の愛は不十分って事?」


「ゴメン。一度、言ってみたかったんだ。でも愛の力って言うのは本当。何しろ愛のない関係なら、面倒くさくて付き合っていられないと思うから。呆れて愛想が尽きる子がいてもおかしくないと思う。そういう子は手を挙げるか、僕にメールをして。相談に乗るから」


「生命神さん!」


「ブリタニアさん、3分だけ待ってもらえる?」


「……分かったわ」


 ~3分後~


「誰もいないみたいだね」


「生命神さん、当然よ!私達はこの程度で愛想が尽きたりしないわ!」


「まぁまぁブリタニアさん。気持ちは分かるけど、生命神さんも念の為に確認しておきたかったんだと思うよ」


「まつり、私は私達の光一に対する愛を試されているようで気に入らないわ」


「ゴメン。試すような事をして悪かったよ。許してもらえると嬉しいな」


「いつもお世話になっているから許すわ。それで私達は何をすれば良いの?」


「ありがとう。治療しても目を覚ますまではヒカリのままなんだ。もしかしたら目を覚ましてもヒカリのままかもしれない。だからまずは温泉に連れて行ってほしい。身体が温まれば心も温まって効果的だと思うし……下着を着けたまま光一くんに戻ったらマズイでしょ?」


「そうね。分かったわ。誰が運ぶ?」


「ブリタニアさん、ウィンドウが運ぶわ。眠っているからお姫様抱っこをするね」


「それじゃウィンドウよろしくね」


「うん!」


「目を覚ましたら光一くんは男じゃないと駄目だという事、役に立っているという事を伝えてあげてほしい。出来れば1人ずつね。どちらか一言でも良いからお願いね」


「え?そんな事で良いの?それだけ?」


「うん。それだけ。愛のあるコメントをお願いね」


「なんだ。簡単じゃないの。私達に任せて!」


「そっか。それじゃ任せた。あーそうそう。ついでに良いかな?」


「もちろん良いわよ。何かしら?」


「前提として光一くんの精神状態が安定したら、ランジェリーショップでもどこへでも行っても問題ないよ。だけど明日は止めておいたほうが良い。ここ最近、世界中……主に主要な先進国で事件が多発しているのを知っているかな?」


「そうなの?ぼたん知っている?」


「えぇ認識しているわ。刃物や銃を使った無差別殺人事件が多発しているみたいね。日本でも光一が関わった件以外にも何件か発生しているわ。いずれも動機は殆ど同じ。『誰でも良かった。死刑になりたかった』であり、日本の警察は模倣犯だと考えているわね」


「海外も同じ動機なの?」


「ブリタニア、海外の場合はいずれも警察に射殺されているから動機は分からないわ。日本の警察とは考え方とか、やり方が異なるからね」


「そうなのね。生命神さん、それがどうかしたの?私達は神以外の攻撃は効かないし、防御結界もあるから大丈夫よ」


「実はいずれの事件も悪魔が関わっているんだ。光一くんが2つの事件に巻き込まれ、いずれの事件も悪魔が関わっていたからおかしいと思った。そこで地球の神や天使と協力して、僕は調査と悪魔狩りをしていたんだ。調査の結果、天使の多くが悪魔に汚染され、悪魔になった事が判明。ウイルスに感染するようなものだね。いやぁ~お蔭で悪魔狩りは大変だったよ。事件化しているのは氷山の一角に過ぎないよ」


「そうだったの。お疲れ様。それじゃ解決したの?」


「ブリタニアさーん。それがまだだから明日は止めておいたほうが良いって言っているんだよ。天使の多くを悪魔にした黒幕が捕まっていないんだ。それ以外は捕まえて対処したんだけどね。黒幕は多くの天使を悪魔にした事から、非常に強い力があると僕たちは考えているんだ。邪神の魂か、その欠片を取り込んでいる恐れがある」


「そうだったわね。それで居場所は分からないの?」


「東京の人の多い駅で発生した無差別殺人事件なんだけど、黒幕の悪魔が関わっているはずなのに、僕たちが凶器を確認したところいなかった。何故、黒幕の悪魔が関わっているはずかと言うと、犠牲者の魂が食べられていたから。力の弱い悪魔はそんな事しないよ。天使によると、黒幕の悪魔は気配を消してはいるものの、都内から薄っすらと気配を感じるとの事」


「だから明日は止めておけと?私達なら大丈夫よ」


「危険なんだって。非常に強い力を持つ悪魔だから、防御結界を貫通する恐れがある。邪神の魂か、その欠片を取り込んでいたら攻撃が効いてしまうという恐れもある。ぼたんさんなら分かってもらえるよね?」


「そうね。皆は止めておきましょう?私は明日、仕事をするわ」


「ぼたんさん、あなただけで出かけるつもりですね?私もついて行きますよ。ここは聖女の出番です」


「シャーロットはダメよ。私は大統領として国民の生命や財産を守る使命が……」


「あら?私は聖女として悪魔を退治するのも仕事なんですよ」


 はぁ……やれやれ。


「あなた達ね。落ち着きなさい。まずぼたん?どこの国のトップが危険を冒すのよ。危機管理能力は冬休みなのかな?シャーロットも似たようなものよ。良い?今は夫である光一を救う時よ。明日、出かけるかどうかはその後に考えましょう?」


「私とした事が夫を救うという大切な事を忘れていたわ。年下の紗也華に指摘されるとは……オバサン情けないわ」


「同じく大切な事を忘れていました。ですから、ぼたんさん。オバサンは関係ないですよ」


「いや、だから出かけないでよ」


「生命神さん、そこは光一と話し合って決めるわ。良いから光一を治療してもらえる?」


「はぁ……紗也華さん。分かったよ。まぁ僕としては犠牲者をこれ以上、増やしたくないし、悪魔をおびき寄せる囮になってくれるならありがたいという本音もあるんだけどね。しかし、友人としては外出しないでほしいとだけ伝えておく。治療なら終わったよ」


「いつの間に!?ありがとう」


「うん……はぁ。申し訳ないから本当の事を言うね」


「本当の事?」


「うん、紗也華さん。実は脳の壊れた部分は治療したんだ。だけど魂は治せなかった。前回は記憶がなかったけど、今回は記憶があったでしょ?」


「そうね。ブリタニアとの出会いも覚えていたから」


「そう。完全に魂と脳がくっついているんだ。この状態で魂を治しても無駄。目を覚ましたらまたヒカリの魂になっちゃう。だから、ヒカリの姿で目を覚ますけど、さっき言った通りに伝えてあげてほしい」


「分かったわ」


「それじゃ僕は帰るね。後はよろしく~」


 皆のお礼の言葉を聞くと、生命神さんは満足そうに頷き去って行った。

 そしてウィンドウが運び、皆で温泉に入るとヒカリは目を覚ました。


「んぅ~?……ここは温泉?」


「こうい……」


 ブリタニアが光一と言おうとしたから慌てて口を塞いで止めた。あっぶねぇ。


「ブリタニア、ここは私に任せて」


「んぅぅー!ぷふぁー。わ、分かったわ」


「ヒカリ?どこまで覚えているのかな?」


「ん?紗也華!生命神さんに眠らされたところまでかな?」


「そっか」


「どうして皆、ヒカリの事をイジメるの?酷いよ!」


「ゴメンね。ヒカリ、違うの。私達もヒカリが急に現れて混乱していたの。ヒカリはどこに住んでいるか分かる?」


「混乱していたの?えーっと私はこのマンションの上の階に住んでる!」


「それじゃ何で下着姿で現れたのかな?」


「何故か可愛くない服しかなかったから?」


「男性用の服だったんでしょ?」


「う、うん」


 意外と素直に認めてくれるのね。


「住んでいるのにおかしくない?ヒカリは何でだと思う?」


「うーん?……分かんない!」


「驚かないで聞いてね。あなた本当は男なのよ」


「ち、違うもん!紗也華、酷いんだ!も、もしも仮に私が男だったとしても良いじゃない!私、可愛い女の子だし!」


「ヒカリ、その男性の名前は光一って言うの。私達が愛する大切な夫よ。ここにいる殆どの子は双子を妊娠しているわ。大切なパパでもあるの」


「わ、私、コウイチなんて知らない!」


「それじゃ教えてあげるね。光一はとってもカッコいい男性なの。見た目は普通だけど性格がカッコいいの。男性じゃないと私達と子作り出来なくて困るなぁ。私は光一を心から愛しているの。いなくなると私も子どもも困るわ」


「し、知らない!」


「それじゃ次はブリタニア」


「紗也華、任せて。光一、あなたは色欲の神でもあるのよ?これは男じゃないと出来ないわ。それから私たちの命を助けてくれたり、恩赦を決断したりしてね。あなたは社会の役に立っているのよ?私は光一を心から愛しているわ。それじゃ次はシャーロット」


「光一さんは……」


 こうして1人ずつ光一が男じゃないと駄目だという事、役に立っているという事を伝えて行った。

 萌々香までコメントしたけど変化がなく、駄目だったのかと皆が諦めかけた時、ヒカリが泣き始めた。

 そしてヒカリが光に包まれると光一に戻った。光一も目から涙を流している。


「あれ?汗が目から出てきたなぁ。皆、ゴメン。また迷惑をかけてしまったね」


「光一のバカ!アホ!心配したんだから!でもおかえりなさい!抱きついてやる!」


「うわっ!ちょっと待った!当たってます!何がとは言わないけど柔らかいものが当たってます!」


「うるさい!当ててんのよ!」


「ブリタニアさん、そろそろ交代しましょう?それから光一さんを移動させてもらえますか?正面と背中の両方から抱きしめてあげましょう」


「シャーロット分かったわ……はい!」


「それじゃエリー行きますよ!」


「お姉ちゃん!了解しました!」


「うわっ!両方から当たってますって!マズイ噴火してマグマが出る!」


「光一、温泉の中でマグマを出すのはマナー違反よ。我慢しなさい」


「紗也華、そんなー」


 その後、全員が順番に光一に抱きついた。

 必死に下半身を抑えていたけど我慢が出来なかったようで、終わったらすぐにシャワーの所に行き噴火していた。

 私はサササッと光一に近付き後ろから抱きついた。


「光一、また女の子になりたい?」


「い、いえ。僕は男の方が良いです。はい。すみませんでした」


「よろしい」


「あー紗也華ずるーい!」


「ブリタニア、後は任せるわ。もう1回噴火させちゃって」


「良いの?ありがとう!」


「それじゃ光一、頑張ってね。愛しているわ。もう魂までヒカリになったらダメよ?」


「程々に頑張らせてもらいたいなと。僕も愛しているよ。それからその件はお陰様でもう大丈夫だと思います」


「思うじゃ困るんだけどなー。まぁ良いわ。それじゃまたねー」


「いつもありがとう」


「どういたしましてー」


 おっ!ブリタニアが来た。


「さーやか!後は任せて!」


「りょうかーい。私は去りますねっと」


「うーん?そうだ!紗也華も手伝ってよ」


「魅力的な提案だけど皆から怒られそうだから止めとく」


「私だけだとまた第一王妃だからって言われるじゃない」


「良いじゃない。事実なんだし。私も一緒だとまたあの2人かって言われるじゃない」


「良いじゃない。あなた大和王国の次期国王を生むんだから。それに今回、最も貢献したのは紗也華だから良いの」


「……そうだ!ぼたんも呼べば良いんじゃない?」


「あのね?2人共、会話こっちまで聞こえているから!私達は見ているから2人でお好きにどうぞ!私も巻き込もうとするな!」


「失礼。それじゃブリタニアさっさとやっちゃおう」


「そうね。そろそろ夕食の時間だし」


「あのー。僕、皆に見られながらとか嫌なんだけど」


「何を今更、さっき噴火していたじゃない」


「いや、ブリタニアそうなんだけどさー」


「良いから始めるわよ」


「そんなー」


 そうして私達は2回噴火させてあげた。1回だけのつもりだったけどね。まだ元気なんだもん。

 その後、温泉から出て食事を摂った。そして今は食事後の食休みの時間。

 さて、明日について話しますかね。


「光一、明日なんだけどね。どうするか考えを聞かせてもらえるかな?」


「ん?考えと言うと?」


「行くか行かないかなんだけどね。実は……」



 ~光一の視点~


 紗也華から悪魔の話を聞いた。ナニソレ怖いんだけど。


「スーッ。そうだね。ぼたん?危機管理能力はどうしたの?国民の生命を守るのは政治家の仕事でもあるけど、そうじゃないよね?治安維持は警察の仕事だよね?」


「えぇそうね。だけどそれは通常の犯罪の場合よ。悪魔……それも邪神が関わっているとなると警察ではどうしようもないわ。かと言って申し訳ないけど、神々も期待出来ない。何故なら一度、逃げられているから。事件発生後の対応となり逃げられてしまうのは仕方ないわ」


「まぁそうだね」


「私は黒幕の悪魔をラスボスだと思っているの。事件発生時に現場にいなければまた逃げられて、国民に更なる犠牲者が出かねない。私はそれを容認できない。天界の問題は天界で片付ける。私は国民の生命と財産を守る義務のある大統領であり、天界側でもあるわ。だから私、1人で行く」


「ですから、ぼたんさん。私もついていきます。ここは聖女の出番です。あなただけでラスボスを倒せますか?攻略方法を知らないでしょう?私に任せてください」


「ちょっと待った。2人の考えは理解したよ」


「それじゃ……」


「まぁぼたん、最後まで聞いて。理解したけどね。妻を守るのは夫の仕事なんですよと。だから僕だけで行くよ。攻略方法?そんなもの魔法でゴリ押しっすよ」


「はぁ……やれやれ。光一?私の話を聞いていた?私は明日、行くか行かないか考えを聞かせてって言ったの。光一が行くなら皆で行くわよ。そうよね?ブリタニア?」


「紗也華。分かっているじゃない。その通りよ。光一が行くのならどこへでも一緒に行くわ」


「いや、危険すぎるって」


「それじゃ光一は何故、行くの?」


「そりゃ僕も行きたくないけどね。石橋は叩いて渡る派なので。しかし、天界の問題は天界で片付けるというのは、その通りだなと思ったんだよ。神として僕が対応する。皆は待っていて。ブリタニア、万が一にも僕が負けたらその時は……」


「止めて!縁起でもない事を言わないで!あなたね?さっきも皆が言ったように大切な子どもがいるのよ?光一を愛する妻もいる。妻を守るのは夫の仕事だと言うのなら。夫を守るのは妻の仕事よ。私達は支え合って生きて行くの。絶対に無事生還する為に全員で行くのよ!」


「ブリタニアの言う通りね。それじゃイブ、アンケート。明日、予定通りに行くか行かないかでお願い」


「紗也華さん、了解よ」


 注文用タブレット端末にアンケートが表示された。

 僕は当然、「行く」を選択。


「…………アンケート結果が出たわ。全員が予定通りに行くね」


「光一、諦めなさい。私達は行くわ。ぼたんも良いわね?」


「はぁ……仕方ないなぁ。僕は皆を連れて行きたくないんだけどねぇ」


「私も同じくよ。まぁ攻略方法を知らないのはその通りだから助かるのだけどね」


「皆、忘れてもらっては困るわ。明日のメインクエストはランジェリーショップに行くことよ。そして光一が好みの可愛い下着を買うの!悪魔退治はサブクエストだからね!」


「紗也華、そうだったわね。忘れるところだったわ。光一はどんな下着が好みなのかな?可愛い系?きわどい系?」


「ブリタニアさん。み、皆には可愛い系が似合うと思うな~」


「どうしてさん付けなのよ?」


「余裕のなさの現れっす。はぁ僕、明日、本当に大丈夫かなぁ」


「流石は紗也華ね。『光一が好みの可愛い下着』が当たっていたわ。イブ、お店選びと警備の強化をよろしくね」


「そうでしょ?私と光一はシンクロ率100%よ!いや、72%かな?」


「ブリタニアさん、了解よ。明日の予定を決めましょう」


 そうして作戦会議が始まった。

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