869 逃亡?また事件?
地球:202X年11月7日
火星:1年5月29日
~紗也華の視点~
「こ、光一が逃げるって何でよ?誰から?」
「紗也華さん、私も分からないわ。警護担当から泣きつかれて困惑しているところよ。映像を共有してもらったけど警護担当は何も悪くないから怒れないし」
「状況を詳しく教えて!」
「映像をみた方が早いわ。少し待って」
光一、あなた一体どうしたのよ?
~光一の視点~
「……ん?」
ここはどこ?ホテル?いや、何となく病院な気がする?
「あっ!国王陛下!意識が戻られましたか!」
国王陛下……?誰の事?聞き間違いかな?うん、きっとそうだ。
「私は病院関係者に連絡して来ますね。それじゃ見張っておいてね」
「りょーかい」
見張る?えっ?私の事?
「それじゃ行ってくる。あっ!そうだ。警察の方は15時頃にいらっしゃるようです。それじゃ失礼致します!」
け、警察!?私、何かしたの?思い出せ!……駄目だ。意識を失う前を思い出せない。
というか……私、誰?名前は?…………そ、そう!ヒカリ!私はヒカリだ!大丈夫!行ける!
とにかく逃げよう!今、何時か分からないけど逃げた方が良い!警察はマズイ!今なら見張りは1人だ!行ける!
どうやって逃げる?窓だ!ここは2階かぁ。いや、何となく行ける気がする。
よし、行くぞ。3,2,1……ゴー!
「えっ!?ちょっ……!?」
見張りが何か言っていたけど知らない!無事に着地に成功!凄いぞ私!急げ!とりあえず公園か駅のお手洗いだ!そこで状況確認。
ひゃっ!?走っていたら何か光に包まれた。一度、立ち止まる。身体に異常は……うん、特にない。
はぁ、胸もないんだけどね。あれ?髪こんなに長かったっけ?いや、こんなもんだったね。
立ち止まってる場合じゃなかった!逃げないと!
しばらく走っていたら駅に到着した。駅ビルがある。そこのお手洗いを借りよう。
私は駅ビルのお手洗いに入った。個室に入り鍵をかける。ふぅ~。落ち着いた。私、ここまで走って来たけど結構、体力あるね。
あっ!逃走資金の問題が!……おっ!頭にお金が浮かんだ?まぁとりあえず2万円あれば足りるかな~?……えっ?2万円出て来た。
はっ!?こ、これか!この超能力だか魔法だか分からない能力を狙われているのか!?だから病院にいた?そして警察が来る?または、能力で何かの事件を起こした?う~ん。考えても思い出せない!
ま、まぁ。そのうち思い出せるでしょう。とりあえず大阪に逃げよう。急がないと警察が動きだすかもしれない。
ん……?服は新品の様にキレイだけど腹の部分に穴が空いている?超能力かなにかで直せないかな?う~ん!おっ!出来た!やはり何らかの機関に狙われている可能性が高い。ここからは慎重に行こう。
電車に乗った。最寄りの新幹線が止まる駅に向かっている。何曜日だろう?日の高さからして昼頃かな?結構、混んでいる。
スマホは病院に置いて来てしまったか、奪われたみたいで曜日や時間が分からない。まぁスマホを持っていると機関に居場所を特定されてしまうか。
あれ?電車のドア付近の男女2人はどうしてあんなに近いんだろう?混んでいるとは言え満員ではない。
女性はおとなしそうな10代後半から20代前半の可愛い子だ。何故か少し涙目?男の方は20代後半かな?何故だろう気になる。
数分間、観察していたら分かった。痴漢だ。カップルとかかなと思ったけど、女の子が悲しみや絶望といった表情をしている。違ったらごめんなさいをしよう!
……って!私、警察とかから逃げているんじゃん!う~ん?他に気付いている人は……いないよねぇ?いても違ったら気まずいから気付かないフリかな?
うぅ~!我慢できない!可愛い女の子は何でか知らないけど守りたい!違ったらごめんなさい。もしも痴漢なら騒いで周りを巻き込んでから、警察が来る前に逃げる!よし!これで行こう!
「すみませ~ん?」
「あっ?んだこのガキ」
ガキって。えぇ……ドン引き。そりゃ胸はないけどさ。
「あなた痴漢されてるよね?」
可愛い女の子は涙目で首を縦にブンブン振っている。
「やっぱり!……助けてくださーい!この人、痴漢でーす!」
「チッ!邪魔しやがって!」
「あっ?今、認めましたね~?」
へっ……?男がナイフを取り出した。うっそーん。逆上ってヤツ?
「どうせ警察に捕まるなら道連れだボケェ!」
「「「「「きゃぁぁぁ」」」」」
男が刃物を出した事で乗客は悲鳴を上げた。
私の事を刺すのかと思ったら、スルーして車内非常ボタンを押そうとしている女性に走って向かって行った。
隣のドアだから結構、距離がある。う~ん。あの子も可愛いなぁ……ってそんな場合じゃなかった!
「おい!そこのクズ男!襲うなら痴漢を指摘した私にしなさいよねバーカ!」
「んだとテメェ!後でやってやるつもりだったがカチンと来た!お望み通りにしてやるよ!」
男がこっちに走って戻って来た。あっヤベェ、この後の事を何も考えていなかった。
「止めてぇ~!」
可愛い女の子が私と男との間に入った。いやいや、そうはさせないよ?
私は可愛い女の子を後ろから引っ張ると、場所を入れ替わった。
(グサッ)
いったぁ~!そしてイラッ!こういう時に何か気の利いた超能力?発動しなさいよね!バカァ!
男に腹部を刺された状態で、私が怒りのままに男の腹を殴ると何故か感電した。何でよぉ!
しばらくビリビリビリビリ……と男と私は感電して痙攣。ナイフが刺さっている場所が焼けるように痛い。というか焼けてね?
私が意識を失いかけて後ろに倒れるのと、男が後ろに倒れるのは同時だった。ふっ、バカめ。道連れになったのはお前の方だぜ。
……実際にバカなのは私だし、道連れになったのも私なんだよなぁ。はぁ。私の人生もここまでか。
まぁアイツは足元に水溜りが出来ているけど、私の足元には無い。勝ったぜガハハ!そう思うと同時に意識を失った。
~紗也華の視点~
イブが流した映像を観た。そして私は光一の思考回路を意識して考えてみた。そしてある可能性に思い当たった。
「ねぇ?イブ?光一は記憶が一部、あるいは全てかもしれないけど……無いんじゃない?一時的なものかもしれないけど可能性はあるわよね?」
「記憶喪失?」
「そしてそんな状態で『見張っておいて』や『警察が来る』という言葉を聞いて、何か誤解をしてしまったのでは?だから逃げ出したんじゃないかなって思う」
「つまり、自分は見張られたり、警察が来る何かをしてしまったのではないかと?」
「イブ、その通り。生命神さん。今、来られる?」
「……お、お待たせ。ゴメン。見落としたかも」
「生命神さん、どういう事かしら?あっ怒っているわけではないわよ」
「うん、ブリタニアさん。傷口の治療や血液量の確認はしたけど、脳や魂は確認しなかったんだ。刺されただけだと甘く考えた」
「でも、悪魔の魂が短剣に宿っていたわよね?」
「紗也華さん、確かにその通り。だけど、短剣との接触は短時間だったし、悪魔の魂は破壊したから問題ないと考えたんだよ」
「悪魔が脳や魂を汚染したり、破壊する可能性は?」
「普通はあり得ない。光一くんは上級神だというのもあってね。だけど、かなり力の強い悪魔なら可能性はゼロと言えない」
「そこら辺は光一を保護してから考えましょう?光一の居場所は分からないかな?」
「それが……分からないんだ。例えるならテレビのチャンネルを光一くんから、別のチャンネルであるこの場所に切り替えた。光一くんは眠っていたからね。そしたら光一くんのチャンネルに切り替わらなくなった。それに気付いたのは光一くんが逃げたと聞いてから」
「な、何で?」
「あの……ね?ショックを受けないで聞いてほしいんだけど。光一くんの魂が見つからないんだ」
「そ、そんな……そ、そうだ!ステータスは!……はぁ。良かった。光一は少なくともまだ生きているはずよ。ステータスは共有されたままだから」
「そしたら魂に何らかの異常が生じている可能性が高いね。紗也華さんは光一くんがどこに向かうか分かる?」
「う~ん?そうだなぁ。逃げているから高速バスか新幹線に乗る?いや、光一は急いでいるはずだから新幹線ね。そして、木を隠すなら森の中理論で大阪に行くはずよ!イブ!」
「共有アイテムボックスにある現金が2万円減っているわ。そうね。恐らく紗也華さんの言う通りだと思うわ。あの場所から最短だと今は電車に乗っているはず。問題はどの電車かだけど……うん、この1本ね。スタッフを送り込んだわ」
「イブ、間に合う?」
「正直、微妙ね。最寄り駅から新幹線の駅までは3駅。約10分。電車は先程、最寄り駅を出発したところよ。つまり1駅目で電車に乗り込み約6分以内に発見しないといけないわ」
「約6分あれば楽勝でしょ?」
「そうも行かないわ。日本の警察には言えない。同盟国だけど他国で警察に通報されるような不審な動きは出来ない。姿を変えて服も変えているかもしれない。そうなると特定が難しいのよ。何かヒントがあれば良いけど」
「少し考えさせて」
~約3分後~
「スタッフが電車に乗り込んだわ。全車両に1人ずつね。結構、混んでいるみたい。確認に少し時間がかかるわ」
~約1分後~
「一通り確認したけど、光一さんはいない」
「イブ、違う電車の可能性は?」
「ブリタニアさん、それはあり得ない。人口半減で電車の本数が減っているからね」
「分かった!光一は服を変えていないはず。ジーパンとハロライブのパーカーの人物で検索して!」
「それなら1人いたと報告を受けているけど、腹部に穴が空いていなかったみたい。しかも女性だと聞いているわ。私は上は穴が空いているし、着替えると思うわよ?」
「イブ!光一なら魔法で服を直せるはず!知っていると思うけど、服の血は病院に運び込む際にクリーン魔法で私がキレイにしたわ!そして女性に姿を変えている可能性もあ……」
「紗也華さん!車内で事件が発生!当該女性は腹部を刺されて何故か感電して倒れたとの事!」
「イブ!すぐに電車を止めて!お願い!光一が死んじゃう!」
「す、すぐに電車を止めるように指示したけど、次の駅で止めるって……」
「それ後何分の話しよ!」
「や、約2分……」
「ふざけんな!」
私は思わずイブに怒鳴ってしまった。ゴメン、でも腹が立ってさ。
「はぁ……もしもし、私。大統領から国土交通大臣に命令。直ちにNR東都日本の路線記号『NK』の全列車を停車させよ!これは最優先での命令!良い?直ちによ!理由は大和王国の要人が事件に巻き込まれ生命の危機にあるから!その対応の為!以上!……はぁ。さっさと自動運転化させてイブの管理下におけば良かったわ」
「ぼたん、ありがとう」
「紗也華、当然の事よ」
「でも、ぼたん。言う通りにするかな?」
「大臣は大丈夫だわ。鉄道会社が指示に従わないなら、それ相応の対応を考える」
「……あら?思ったよりも早かったわね。電車は減速し……停車したわ」
「イブ、ブリタニアと一緒に行くわよ!」
「私はいつでも大丈夫だわ!」
「了解よ。出発!」
イブがそう言うと場面が変わった。電車の車内だ。
「この車両には大和王国と事件の関係者しかいないわ。犯人は負傷しているけど問題ないから放置で構わない」
「イブ、やっぱりそうだ!ヒカリよ!」
「紗也華、早く連れて行きましょう!」
「そうね。イブ、後は任せても良い?」
「ここは私に任せて行って!」
「ブリタニア、行くよ!」
「良いわ!」
私はブリタニアとヒカリの姿の光一と一緒に、天界のレストランに戻った。
「生命神さん!お願い!助けて!」
「うん、任せて。また悪魔が宿っている凶器だ。流石におかしい。皆、一気に抜くからキツイ子は見ないほうが良いよ。それから、この凶器は触らないでね」
「了解よ。私は耐性があるから見てる。光一は大丈夫?」
「紗也華さん、ちょっと待ってね。先に傷の方を治すから。あー。これヤバイよ。ゴメン。説明は後にするね。絶対に助けるから」
「分かった。お願いね」
「了解」
生命神さんはそう言うと、光一の傷口へと手をかざして光を注いで行く。確かに前回より長いし、生命神さんは真剣な表情。
「電話、失礼するわね……もしもし、私。大統領として国土交通大臣に指示するわ。NR東都日本の路線記号『NK』の全列車を停車させた件。運転を再開して通常の事件対応をさせて構わないわ。事件現場に副大統領がいるからよろしくと伝えておいて。対応ありがとうね。以上よ」
「ぼたん、お疲れ様」
「紗也華、ありがとう。はぁ、まったく。私の夫ってば今日は不運ね。1日に2度も事件に巻き込まれるなんて。まるで、行く先々で事件に巻き込まれるどっかの名探偵さんだわ。あー!決めた!もう決めた!明日は休む!夫がこんな状態で働けるかっての!」
「まぁそりゃそうよね。特に今回は危険な状態みたいだし」
「ねぇ、紗也華?やっぱり?……何だろう?見た目による気のせいかこの子は『ヒカリ』に似た女の子で、光一っぽくないの」
「ぼたんさん、気のせいじゃないよ。僕も正直、困惑しているんだ。この子は間違いなく神だし、魔法で姿を変えているけど光一くんで間違いない。でも……魂が女の子なんだよね」
「ちょっ!?えぇっ!?……あっ!そ、それってどこかの女の子と入れ替わっているとか?ま、まさか……光一の魂は死んだ?」
「いや、ぼたんさん。その可能性はないと思う。入れ替わっていたらこの子は神じゃないから。よっし!傷の治療は完了!」
「こ、後遺症とかは?」
「紗也華さん、大丈夫だよ。説明をするとね。凶器が刺さっていた周辺の細胞……筋肉や内臓にやけどがあり、危険な状態だった。次の駅まで待っていたら死んでいたよ。体内の損傷を治す関係で時間がかかったんだ。でも、もう大丈夫」
「とりあえずは良かったけど、まだ心配」
「うん、分かってる。でも先にこの短剣だね~。放置していても危険だからさ。これも証拠品だから破壊出来ないけど!」
生命神さんはナイフに光を注いで行く。すると……。
『ぎゃぁっ……』
「……完了!短剣に眠っていた悪魔の魂を完全に破壊したからもう大丈夫」
「うん、ナビィも確認したわ。でもアイツはザコね」
「エイドも確認した~。アイツはクソザコ~!一般の人類を悪に誘導する程度の能力しかないね~」
「流石は天使だね~。確認ありがとう。それじゃ脳と魂を診ますねー」
「ど、どうかしら?生命神さん、光一は大丈夫?」
「う~ん。ブリタニアさん、そうだね。脳の一部が損傷しているみたい。記憶障害を引き起こしている。それで自分は女の子であり『ヒカリ』だと思い込んでいるね。魂はそれに引っ張られたのかな?魂も損傷……というよりも弱っている?だから魂は引っ張られて変わってしまったんだね」
「か、変わってしまったって……な、治せないの?光一は今後、『ヒカリ』のままなの?」
「ブリタニアさん。落ち着いて聞いて……」
私はこの言葉で色々と覚悟した。光一はヒカリになってしまったんだと。
でも、私は光一がヒカリになったとしても、今後も支え合って行こうと思った。
「僕なら治せる。だけど、意識が戻った時に記憶が混乱する可能性があるんだ。つまり、意識が戻って最初の一言を聞くまでは、光一くんかもしれないし、ヒカリちゃんかもしれない」
「そ、そんな……」
ブリタニアがショックを受けている。逆に私は更に最悪を想定して覚悟していたから、光一の可能性もあると聞いて安心した。
「まるでシュレディンガーの猫ね。もしも、ヒカリの場合も治せるの?」
「うん、ぼたんさん。記憶の混乱は一時的なものだから心配ないよ」
え?大丈夫なの?
「だけど、また逃げ出されると困る。だから、ベッドに拘束しておく事をオススメするよ。どうやらヒカリちゃんは魔法を魔法だと認識していなくてね。使いこなせていないみたい。だから、少なくとも時間稼ぎにはなると思う」
「はぁ~。夫をベッドに拘束するのは気が進まないけど仕方ないわね。意識が戻るまで1時間かしら?」
「いや、ぼたんさん。今回は10分程度で大丈夫だよ」
「それじゃ悪いけどブリタニアと紗也華。お願い出来る?」
「ぼたん、了解よ。発言には気をつけるわ」
「私は問題ないけど……私で良いの?」
「思考回路が一番近い紗也華。あなたじゃないと駄目なの。ブリタニアの言うように、発言に気を付けないと混乱状態に陥るわ」
「あー、そうね。目が覚めた時に拘束されていたら……うん、気を付けないと危険ね」
「ナビィも力になれると思うわ」
「エイドも~!混乱状態に陥ったら天使の力を使う~!」
「そうね!2人共、そうなったら光一が好きな曲を歌ってあげてね」
「紗也華さん、了解よ」
「エイドもりょうかーい!」
「うん、大丈夫そうだね。それじゃ治療していくね」
生命神さんはそう言うと、光一の頭部へと手をかざして光を注いで行く。
気のせいか光一は苦しそうな表情から、穏やかな表情へと変わった。
まったく!心配かけさせやがって!目が覚めたら抱きついてやる!





